1. はじめに
佐賀市は、暮らしから発生するごみ・排水など「廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」をめざすべき将来像としたバイオマス産業都市構想を策定し、2014年11月に国からバイオマス産業都市の選定を受けたところです。
ごみ処理や排水処理のための既存施設をバイオマス活用の核施設と位置付け、構想におけるバイオマス活用プロジェクトを推進していくとともに、佐賀市が仲介役となり、市民・事業者・行政が連携を図ることで、新たなエネルギーや資源が地域内で循環するしくみを構築し、環境の保全と経済的な発展が両立するまち「バイオマス産業都市さが」の実現をめざしています。
「佐賀市バイオマス産業都市構想」では下記に示す6つの事業化プロジェクトを立案し、バイオマスを活用した産業創出・育成を推進しており、特に藻類バイオマスを活用した新しい産業の創出に取り組んでいます。
(1) 清掃工場二酸化炭素分離回収事業
清掃工場の排ガスから二酸化炭素を分離回収し、微細藻類の培養や農作物の栽培に活用することにより、産業の創出を図る。
(2) 木質バイオマス利活用事業
温泉旅館などに木質バイオマスボイラーを導入し、地域の製材所から発生する端材などの木質バイオマスを活用する。
(3) 下水浄化センターエネルギー創出事業
地域バイオマスの集約による電力自給率100%の下水処理施設の実現をめざす。
(4) 微細藻類培養によるマテリアル利用及び燃料製造事業
清掃工場で発生する二酸化炭素や下水浄化センターで発生する二酸化炭素及び下水処理水を活用した微細藻類の培養を行うなど、微細藻類関連産業の集約をめざす。
(5) 家畜排せつ物と事業系食品残さとの混合堆肥化事業
事業系食品残さと家畜排せつ物を混合し、良質の堆肥製造を行う。
(6) 事業系食品残さと有機性汚泥の混合利用事業
事業系食品残さと有機性汚泥を混合し、エネルギー利用を行う。
2. 取り組みの背景
佐賀市は、2005年10月と2007年10月の2度の市町村合併により、佐賀市内に4か所のごみ処理施設を有することとなりました。経費削減と発電電力の増加を目的として、4施設の中で唯一発電設備を備えた佐賀市清掃工場へのごみ処理機能の集約を計画しましたが、周辺自治会との合意に達したのは2012年11月であり、最初の合併から7年の歳月を要したことになります。
ごみ処理施設や下水処理施設などは、市民生活に必要不可欠な施設でありながら、どちらかというと「迷惑施設」という捉え方をされていました。市側では、そのようなイメージを何とかして変えていかなければならないとの問題意識を持ち、この間、科学的なデータなども示しながら地元の理解を促すなどの努力を続けていました。
佐賀市下水浄化センターでは海苔養殖に配慮し、下水処理をコントロールすることで、季節により、窒素やリンの値を調整する「季別運転」を行っています。また、下水汚泥の肥料化や下水処理の過程で発生する消化ガスによる発電を行ってきました。
佐賀市清掃工場では、同じく、地域振興に貢献できる施設にするための取り組みとして、余熱の温水プールへの利用や発電電力の売電などを行ったりしていましたが、電力と熱以外で、より地域に役立つ施設にしていくための取り組みとして着目したのが二酸化炭素の活用でした。
このような背景の下、佐賀市はバイオマス産業都市として、清掃工場(ごみ処理施設)や下水浄化センター(下水処理施設)を拠点とし、施設から生み出される二酸化炭素や下水処理水・脱水分離液などを活用した藻類産業の集積をめざし、「藻類によるまちづくり」に取り組みます。
【佐賀市清掃工場】 |
所在地 | 佐賀市高木瀬町長瀬2369 |
敷地面積 |
50,600m2 |
竣 工 | 2003年3月 |
ごみ処理能力 |
300t/日(100t/24h×3系列) |
燃焼設備 | 全連続ストーカ式燃焼炉 |
余熱利用設備 | 蒸気タービン発電機 出力4,500kW |
| 高温水発生装置 |
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【佐賀市下水浄化センター】 |
所在地 | 佐賀市西与賀町高太郎2667 |
敷地面積 | 90,221m2 |
竣 工 | 1978年11月 |
汚水処理能力 | 81,500m3/日 |
処理方式 | 標準活性汚泥法(4池) |
| 担体投入活性汚泥法(3池) |
排除方式 | 分流式 |
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3. 清掃工場二酸化炭素分離回収事業
(1) 事業概要
ごみ処理施設からの二酸化炭素の分離回収は前例がないものであったため、2013年度に佐賀市、株式会社東芝、荏原環境プラント株式会社、九州電力株式会社の4者で共同研究を開始しました。2013年10月に佐賀市清掃工場内に、日量10kgの二酸化炭素を分離回収する試験装置を設置し、また、2014年10月には回収した二酸化炭素で野菜を栽培する植物工場(2坪のコンテナハウス)を併設し、二酸化炭素の回収にかかるコスト評価や回収した二酸化炭素の安全性の確認を行いました。
佐賀市では、この2年間の研究成果を踏まえ、2015年度に環境省の補助を受け、実用レベルである日量10tの二酸化炭素を回収する設備の建設に着手し、2016年8月にこの設備が完成しました。回収した二酸化炭素は、佐賀市清掃工場に近接する約2haの土地に建設された株式会社アルビータの藻類培養施設へパイプラインによる供給を行っています。
アルビータは、佐賀市清掃工場から供給される二酸化炭素を活用してヘマトコッカス藻を培養し、化粧品やサプリメントなどの原料となるアスタキサンチンを抽出する事業を始められています。
植物工場と二酸化炭素分離回収試験装置 |
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佐賀市清掃工場周辺写真 |
(2) 二酸化炭素分離回収方法
二酸化炭素を含んだ清掃工場の排ガスは、スクラバー(洗浄装置)で配管を傷める成分を取り除かれた後、吸収塔に導かれます。排ガス中の二酸化炭素は吸収塔に供給されているアミン水溶液に吸収され、二酸化炭素を取り除かれた排ガスは煙突から排出されます。
一方、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液は再生熱交換器という装置を経由して再生塔へ送られます。そして、リボイラで加熱されることによって吸収されていた二酸化炭素が分離されます。分離された二酸化炭素はコンデンサーでの冷却によって水分を除去されて回収されます。二酸化炭素が分離したアミン水溶液は再生熱交換器と冷却器を介して吸収塔へと送られ、再び排ガス中の二酸化炭素を吸収します。このサイクルを繰り返すことによって排ガスに含まれている二酸化炭素を連続的に分離回収します。
(3) 二酸化炭素分離回収事業フロー
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