【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る |
地域の良好な水環境・生態系の保全・創造には子どもたちが早くから水環境・生態系に親しみ、保全活動や調査研究を行うことが重要である。かつて日本の夏は"水ガキ達"であふれ、水環境・生態系への理解を深めていった。"水ガキ達"の復活をめざして小学校高学年を対象に市民、研究者とともにITを活用した五感を使った「水辺すこやかさ調査」による水環境教育を行った。 |
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1. はじめに かつて、日本の夏は"水ガキ達"であふれていた。"水ガキ達"は、朝早くから橋から川に飛び込んだり、泳いだり、魚釣りなどの川遊びに興じていた。水ガキ達は、この川遊びを通して水辺環境や生きものに親しみ、自然の仕組みを知るとともに心身を鍛え、コミュニケーションの大切さを学びながら一歩、一歩と大人になってゆき、愛郷心を育む自然学校であった。 2. これまでの経緯 著者は、青森県に在職中、20数年間公共用水域、工場排水などの水質分析、調査研究に従事した。一方、在職中、学会活動の一環として、(公社)日本水環境学会東北支部の幹事をし、退職後も幹事として現在に至っている。
③ 小川原湖自然楽校(代表相馬孝)は、2004年に開校し、毎年、小・中学生とその保護者およそ30人を会員として募集し、小川原湖及びその周辺のラムサール条約国際登録湿地である仏沼や浮島のある根井沼を活動拠点にし、小川原湖及びその周辺の自然や文化に対する認識を深めるとともに、水環境保全に関心を持つ心を涵養する参加体験型の水環境教育を開始した。この活動の一環として、天間東小学校などの青森県南の小・中学校の水環境教育を指導しており、その功績により2010年度の「東北・水環境保全賞」をはじめとして数々の受賞をしている。 ④ (公社)日本水環境学会東北支部では、学会の社会貢献の一環として東北六県が持ち回りで、毎年、市民を対象にセミナーを開催している。2010年に青森市で開催されたセミナーでは、角田均教授(青森大学ソフト情報学部)による「三次元地図システム『デジタル青森』による環境の可視化を目指して」を講演してもらった。この「デジタル青森」は、衛星の標高データと航空写真を用いた3D GISシステムで、地図上にデータ、画像などを貼り付けることが出来ることから一般市民でも地理情報とともに視覚的に把握できるのが特徴である。著者は、一級河川である岩木川水系の公共用水域の1981年~2007年の水質データを地図上に可視化することにより岩木川水系の水質が改善されていることを明らかにし、このシステムが子どもたちの水環境教育を支援する有効なツールであることを提唱した。 このシステムを子どもたちの水環境教育に応用するため、当初、「東北・水すまし賞」の受賞校である天間東小学校との共同研究を提案したが、校長先生の異動により協力が得られず、移動先の尾駮小学校に共同研究を申し入れ、快諾を得られたのが端緒である。2012年~2014年の3年間に尾駮小学校と青森大学とITを利用した水環境教育に関する共同研究を行った。共同研究を開始した2012年度の1年間は、共同研究をどの様に進めるかという意見交換と次年度以降の計画について打合せを行った。翌2013年~2014年度の2ヶ年間は午前中に尾駮沼にて子どもたちが水辺観察を行い、午後に観察ノートと「水辺すこやかさ調査」をまとめてもらった。後日、子どもたちの調査結果を回収し、青森大学の角田均研究室で開発したマップアプリを用いて調査結果の解析と子どもたちによるマップアプリの評価を行った。尾駮小学校との共同研究終了後、2015年には天間東小学校と七戸川の源流~中流~下流の3地点において水辺すこやかさ調査を実施した。 3. 具体的な取り組み (1) 水環境健全性指標とは (2) 尾駮小学校との共同研究について
2013年7月11日に尾駮沼の調査が行われ、子どもたちは、尾駮沼の浅い所、深い所、岸部の3地点において行った。子どもたちは尾駮沼を日頃目にしているが、尾駮沼での水遊びなどはあまりしていないためか、浅い所では、子どもたちは直接水や魚介類に触れて水遊びを楽しんでいた。深い所では、環境科学技術研究所の職員の指導の下、水温や透明度を測定し、科学することを体験した。岸部では、前日、定置網を設置し、引き上げて魚介類の多さに感心し、尾駮沼の豊かな生態系を実感した。漁業協同組合は漁船を無償で提供しているが、この活動を通して自分たちの孫と同じ年齢の子どもたちと一日を過ごすことに喜びを感じていること、自分たちの子ども時代に尾駮沼で遊んだ当時を懐かしみ、尾駮沼の豊かな自然を後世に伝えることが大事であることが再認識された。また、子どもたちの科学する心を育む上で、科学技術研究所の職員の支援は重要である(写真3)。 従来、子どもたちの研究発表は紙ベースで行われている。このため研究発表が終わった後、資料が廃棄される場合が多いため、継続性がなく水環境教育の深化が図られないのが実情である。尾駮小学校との共同研究では、ITを活用して小学高学年の子どもたちが水環境に興味をもち、楽しみながら水環境の調査・研究を継続できるシステムを構築することをコンセプトとした。水辺すこやか調査は、子どもたちが五感を使い、水に手を触れたり、においを嗅いだりして水環境を総合的に評価する参加体験型の手法である。 今回、湖沼環境を五感で評価できる「五感による湖沼環境指標」を用いて島根県で実施している「宍道湖・中海の環境を五感でチェックしてみよう!」を参考に見る(水の澄み具合、ごみ、景観)、聞く(音)、嗅ぐ(におい)、生き物(鳥、魚、虫)、触れる(水の感触)の5項目を3点評価(1点~3点)により子どもたちが評価し、その結果をまとめたものである。
子どもたちによる「見やすさ、使いやすさ、面白さ」についてのアンケート調査では、いずれも項目とも高い評価が得られたことから有効なツールであることが明らかになった(写真4)。しかしながら、マップアプリが「デジタル青森」という専用のソフトがないと作動しないことから誰でも好きな時に使用できないという新たな課題が持ち上がった。このため、翌年には広く利用されているGoogle Mapを利用したインターネット対応のweb型マップアプリの開発に着手し、2014年10月2日に第2回目の調査を行った。 第2回目の調査では、子どもたちに自分が見つけた生き物や観察ノートを角田研究室のスタッフの助言・指導の下、Google Mapを利用したマップアプリに入力し、後日、その使い勝手等についての評価を行った。このインターネット対応のweb型マップアプリを利用した水環境教育では、同一画面上に地理情報とデータや画像を可視化し、視覚的に把握できること、インターネットを介して情報を共有できる、データの蓄積により水環境教育の深化が図られることから子どもたちの水環境への理解を深める上で、極めて有効である。 一方、子どもたちの水辺すこやかさ調査結果をみると、浅い所、深い所、岸部を対象とした地点別の環境評価では、生き物(鳥、魚、虫)を除いた項目は概ねほぼ同じ傾向を示した。特に、魚介類が多く漁獲された岸部の得点が最も低く、魚介類が見られなかった深い所の得点が最も高かった。この要因として、子どもたちは尾駮沼には30数種類の魚介類が生息していることを学んでいる。岸部では、魚介類が沢山漁獲されたが、種類が少なかったため得点が低く、深い所では多くの種類の魚介類がいるだろうと認識しているためと考えられた。また、年度別の環境評価では2014年度のごみと音を除いた項目では得点が低かった。この要因として、2014年度には水辺の枯死した水草のにおい、色相などに起因している。五感を使った水辺すこやかさ調査では、地点別、年度別の環境評価に差が認められたことから環境評価に有効と考えられた(図1、2)。
(3) 天間東小学校との共同研究について
2015年5月に小川原湖自然楽校の相馬孝代表に連絡し、2015年度の調査計画について聞き取りをした結果、天間東小学校など4小学校で生態系調査、天間東小学校では水質・生き物調査と絶滅危惧種探し隊を行う計画であることを知った。相馬さんより各小学校の校長先生、担当の先生方に趣旨を説明し、調査当日、同行する旨の了解を得たものである。
ここでは、天間東小学校4年生10人による2015年6月29日の調査例について述べる。当日、小川原湖自然楽校の相馬孝代表を講師に、地元の土地改良区事務所の職員が田んぼのあぜ道の草刈りをはじめとする支援活動の下、子どもたちは生き物調査を楽しんだ。子どもたちの身近には田んぼがあり、日常的に田んぼの風景を目にしているが、用水路での生き物との触れ合いがはじめての子どもも多く、希少種のトゲウオやナマズの子どもなどに興味津々として目を輝かしていたのが印象的であった。調査対象とした田んぼの所有者は、元土地改良区事務所の理事長を退任された方で、子どもたちと一緒になりながら、かつての"水ガキ"の時代を懐かしむとともにこの様な水環境を後世に残すことの大切さを子どもたちに伝えていた。また、天間東小学校では、長年に亘り田んぼの希少種・絶滅種調査を行っている。後日、かつて小学生の時に行った田んぼでの希少種・絶滅種調査が子ども連れで行われ、水環境保全の意識が世代間を通して継承されていることは心強い限りである。 今回の天間東小学校との共同研究のメインである七戸川の源流~中流~下流における水質生態系調査が2015年7月28日に5年生13人の参加で小川原湖自然楽校の相馬孝代表の指導の下に行われた。 今回、開発したインターネット対応のweb型マップアプリはGoogle Map上に調査地点毎に総合平均、自然なすがた、ゆたかな生き物、水のきれいさ、快適な水辺、地域とのつながりの6設問の結果をレーダーチャートで図示するものである。 このマップアプリの大きな特徴は、同一画面上に地理情報とデータや画像を可視化し、視覚的に把握できることである。 調査地点の緯度・経度を指定すると、調査地点毎にピンが表示され、航空写真と地図に切り替えることができる。 源流~中流~下流の総合平均(自然なすがた、ゆたかな生き物、水のきれいさ、快適な水辺、地域とのつながり)の得点が低くなることがわかる(写真7)。他の調査項目を選択すると、画面が切り替わり、下流になるにつれていずれの項目とも得点が低くなった。レーダーチャート図を非表示にし、土地利用をみると、源流は森林地帯、中流は水田と畑が広がる農村地帯、下流は七戸町市街地で、下流になるにつれて人間活動の影響を強く受けていることがわかる。 4. まとめ 地域の良好な水環境・生態系を保全・創造する上で、子どもたちが早くから水環境・生態系に親しむ、その仕組みを知り科学する心を育むことが重要である。このためには、かつて日本の夏にあふれていた"水ガキ達"を復活することが重要である。今回、小学校高学年を対象に、"水ガキ達"を卒業し、"水オヤジ達"となった市民や専門家の支援が極めて重要であること、子どもたちの水環境・生態系への理解と継続性を確保し、水環境教育を深化させるためにはITの活用が今後益々必要となることから研究者との連携が求められる。 |