2. 雪室の実証実験
(1) 雪室の特徴
「天然の冷蔵庫」とも言われる雪室には、いくつか冷蔵庫とは異なる特徴がある。
① 0℃に近い室温で、一定である。
② 湿度が高い。
③ ランニングコストがほとんどかからない。
①について、冷蔵庫の場合は数℃の範囲で室温が上がり下がり(サーモスタットにより加熱・冷却されることで、低温を維持している)を繰り返している。しかし、雪室では雪の冷熱以外にエネルギーが加わることはないため、雪室内は一定の室温を保つ。
②について、長いこと冷蔵庫に入れておいた野菜が干涸らびてしまったという経験はないだろうか。これは冷蔵庫内の湿度が低いためである。一方、雪室内は湿度が高く、野菜が干涸らびることはない。
③について、冷蔵庫は常に電気を使用するのに対し、雪室では室内の照明等に若干の電気を使用する以外、ほとんどエネルギーを使わないのである。
(2) 既存施設の活用
雪室施設を一から建設するには、数千万円のコストがかかる。そのため、協議会では既存の施設を活用して実証実験に取り組むこととした。
協議会が目を付けた施設が市内に1箇所あった。その既存施設は、築37年、鉄骨平屋建て構造の野菜加工工場兼冷凍施設で、建物内には幅18m、奥行き12m、高さ4mの-45℃冷凍保管庫がある。しかし、この冷凍庫は莫大な電気コストがかかることもあり、何年も前からただの物置きとして使われていた。
そこで協議会では、この冷凍保管庫の中に大量の雪を運び入れて雪室とし、実証実験に取り組むことにした。
雪室として活用するために重要な要素である「断熱性」については、築年数が大きい施設とはいえ、-45℃冷凍のために造られた保管庫であるため、その断熱性は十分であると考えていた。しかし、扉のパッキンの劣化による隙間や上部に複数の空気口があったため、これらを断熱材や古布等を活用してできるだけ塞ぎ、室内の密閉度を高めた。
(3) 温度測定および貯蔵品の分析
1月下旬、フォークリフトや小型ロータリー車を使って、室内に約120トンの雪を入れて雪室を完成させた。そこから実証実験は本格的に始まった。
調査した内容は2つ。まず1つは雪室内の温度測定。長く使われていなかった冷凍庫の断熱性、および密閉度を確認するため、小型温度記録計を室内の数十箇所に設置し、室温データを収集した。
4月から8月まで収集したデータをグラフ化すると、線形的に緩やかに上昇していた。このことから雪室内の温度は外気温と明確な相関があることが分かった。また、空気口周辺などで熱ロスが確認でき、そこから外気熱が侵入していることも分かった。
もう1つは貯蔵品の分析である。常温(倉庫内)、低温倉庫(12℃設定)、雪室のそれぞれで同じサンプルを貯蔵し、貯蔵場所でサンプルがどのような変化を示すか、県食品加工研究所に分析を依頼した。なお、今回の分析においては、米、そば、酒、味噌、大根、ニンジンの6品をサンプルとした。
分析の結果、そばにおいては雪室で貯蔵することで色の変化や酸化を抑える効果が確認できた。また、酒においては、雪室貯蔵によってひね香(劣化臭)の生成を抑えることも確認できた。大根やニンジンなどの野菜では、水分の損失はほとんど見られず、また糖度も上がっていた。 |