【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 勝山市では、雪を『資源』として有効活用することや雪氷熱エネルギーの利活用による地域づくり、雪を活用した産業振興について協議するため、2013年度に『勝山市雪氷熱エネルギー利用促進協議会』を立ち上げた。協議会では現在、勝山市における雪室の実用化に向けた実証実験に取り組んでいる。



「邪魔者」から「資源」に


福井県本部/勝山市職員組合 櫻井 光雄

1. はじめに

 雪氷熱エネルギーは、古くから雪室として積雪寒冷地で活用されてきた。雪氷熱エネルギーの利活用における先進地、北海道や新潟県などでは雪の冷熱を農作物等の貯蔵に活用し、出荷調整や高付加価値化につなげたり、施設の冷房に活用したりしている。
 特別豪雪地帯である勝山市においても、昭和初期までは雪室が存在し農作物等の貯蔵に活用されていた。しかし、昭和30年代頃から電気冷蔵庫が普及し始めたことで、熱資源(冷熱)としての雪の活用は衰退していった。積雪時の除排雪には毎年苦労していることもあり、次第に住民にとって雪は『邪魔』な存在となっていった。
 雪氷熱エネルギーの利活用については、2002年1月25日に「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法〈新エネ法〉(1997(平成9)年度施行)」の施行令が改正され、新エネルギーとして明確に位置づけられて以来、地球温暖化防止の側面から、また再生可能エネルギーの一翼を担うものとしても注目を集めている。
 そこで勝山市では、雪を『資源』として有効活用することや雪氷熱エネルギーの利活用による雪国にしかできない地域づくり、雪を活用した産業振興について協議するため、2013年度に『勝山市雪氷熱エネルギー利用促進協議会(以下、協議会という)』を立ち上げた。
 協議会では現在、勝山市における雪室の実用化に向けた実証実験に取り組んでいる。


2. 雪室の実証実験

(1) 雪室の特徴
 「天然の冷蔵庫」とも言われる雪室には、いくつか冷蔵庫とは異なる特徴がある。
 ① 0℃に近い室温で、一定である。
 ② 湿度が高い。
 ③ ランニングコストがほとんどかからない。
 ①について、冷蔵庫の場合は数℃の範囲で室温が上がり下がり(サーモスタットにより加熱・冷却されることで、低温を維持している)を繰り返している。しかし、雪室では雪の冷熱以外にエネルギーが加わることはないため、雪室内は一定の室温を保つ。
 ②について、長いこと冷蔵庫に入れておいた野菜が干涸らびてしまったという経験はないだろうか。これは冷蔵庫内の湿度が低いためである。一方、雪室内は湿度が高く、野菜が干涸らびることはない。
 ③について、冷蔵庫は常に電気を使用するのに対し、雪室では室内の照明等に若干の電気を使用する以外、ほとんどエネルギーを使わないのである。

(2) 既存施設の活用
 雪室施設を一から建設するには、数千万円のコストがかかる。そのため、協議会では既存の施設を活用して実証実験に取り組むこととした。
 協議会が目を付けた施設が市内に1箇所あった。その既存施設は、築37年、鉄骨平屋建て構造の野菜加工工場兼冷凍施設で、建物内には幅18m、奥行き12m、高さ4mの-45℃冷凍保管庫がある。しかし、この冷凍庫は莫大な電気コストがかかることもあり、何年も前からただの物置きとして使われていた。
 そこで協議会では、この冷凍保管庫の中に大量の雪を運び入れて雪室とし、実証実験に取り組むことにした。
 雪室として活用するために重要な要素である「断熱性」については、築年数が大きい施設とはいえ、-45℃冷凍のために造られた保管庫であるため、その断熱性は十分であると考えていた。しかし、扉のパッキンの劣化による隙間や上部に複数の空気口があったため、これらを断熱材や古布等を活用してできるだけ塞ぎ、室内の密閉度を高めた。

(3) 温度測定および貯蔵品の分析
 1月下旬、フォークリフトや小型ロータリー車を使って、室内に約120トンの雪を入れて雪室を完成させた。そこから実証実験は本格的に始まった。
 調査した内容は2つ。まず1つは雪室内の温度測定。長く使われていなかった冷凍庫の断熱性、および密閉度を確認するため、小型温度記録計を室内の数十箇所に設置し、室温データを収集した。
 4月から8月まで収集したデータをグラフ化すると、線形的に緩やかに上昇していた。このことから雪室内の温度は外気温と明確な相関があることが分かった。また、空気口周辺などで熱ロスが確認でき、そこから外気熱が侵入していることも分かった。
 もう1つは貯蔵品の分析である。常温(倉庫内)、低温倉庫(12℃設定)、雪室のそれぞれで同じサンプルを貯蔵し、貯蔵場所でサンプルがどのような変化を示すか、県食品加工研究所に分析を依頼した。なお、今回の分析においては、米、そば、酒、味噌、大根、ニンジンの6品をサンプルとした。
 分析の結果、そばにおいては雪室で貯蔵することで色の変化や酸化を抑える効果が確認できた。また、酒においては、雪室貯蔵によってひね香(劣化臭)の生成を抑えることも確認できた。大根やニンジンなどの野菜では、水分の損失はほとんど見られず、また糖度も上がっていた。


3. 実験のまとめ

 既存施設を使用した雪室の実証実験の結果をまとめると、次のことが言える。
 ① 30℃を超す暑い日でも、雪室内は5℃以下を保っていた。
 ② 空気口や出入口などには断熱補修の必要がある。
 ③ 貯蔵品の鮮度保持や劣化防止を確認できた。


4. 雪室ブランドの確立に向けて

 実証実験の結果、雪室のメリットを確認することができた。また、併せて課題も明確になった。
 今後は、雪室施設の整備や雪室貯蔵の基準づくり、販売ルートの開拓など、雪室ブランド化に向けた具体的な取り組みを行っていく必要がある。
 雪がたくさん降る地域だからこそできるこの取り組みが、勝山市において新たな産業を生み出す起爆剤となるよう、引き続き協議会で検討していきたい。住民にとって、雪は『邪魔者』ではなく『資源』なのだと認識が変わるように。