【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故以降、再生可能エネルギーへの注目が高まっています。また、近年の都市部への人口流出、少子高齢化により農村部の地域コミュニティの維持が問題となりつつあります。
 そのような時勢の中、国の地域活性化総合特別区域制度を利用し、再生可能エネルギー(地域の未利用資源)の活用、地域の活性化、持続可能な地域の形成に挑戦している取り組みについて紹介します。



再生可能エネルギーを活用した地域活性化への取り組み
~里山を活用した市民による地域再生への挑戦~

島根県本部/雲南市職員労働組合・自治研対策部

1. はじめに

 雲南市は、2004年に6町村が合併した市で、人口41,927人(2010年国勢調査)市総面積553.4km2、その内約8割を森林が占める典型的な中山間地域であり、山間部に広がる谷合の集落に多くの市民が暮らしています。かつては、良質の砂鉄や豊かな森林資源の活用により「たたら製鉄」が盛んに行われており、稲作を代表とする地域の農畜産業と融合して豊かな里山集落を築いていた地域です。
 しかし現在では、その山間部を中心に少子高齢化が進み、合併以降10年間で約5,000人の人口減、高齢化率32.9%(2010年国勢調査)と、島根県の10年後、日本の20年後を先行している状況であり、集落生活の維持について、今多くの課題に直面しています。
 これは、地域の主力産業である農林業の活力の低下や地域の雇用環境の悪化による県内都市部や県外への人口流出が進み、そこに高齢化の急速な進展も加わり、従来この地域にあった集落の活動を中心とする豊かな暮らしと里山の関係が崩れ、里山集落の活力や国土保全の機能が低下してきたことを顕著に示しています。
 そこで、こうした里山を中心とした暮らしを再興し、里山や農地が持つ本来の機能を維持・発揮するとともに、今後も持続可能な地域を実現するため、国の地域活性化総合特別区制度により「たたらの里山再生特区(中山間地域における里山を活用した市民による地域再生の挑戦)」を申請・指定を受け、日本のふるさとともいえる、中山間地域の暮らしの在り方の改善に挑戦しはじめたところです。


図1:雲南市の人口の推移   図2:雲南市の高齢化率
 


2. 市民総がかりでの地域再生への挑戦

 「たたらの里山再生特区(中山間地域における里山を活用した市民による地域再生の挑戦)」は雲南市の全域を特別区域として、中山間地域が抱える重要課題の解決を図るため、里山の未利用資源を地域・市民総がかりで最大限活用する地域力向上モデルの提案・実現を目標として、以下の3本柱による取り組みを行っています。

○森林のバイオマスエネルギー等再生可能エネルギー
事業の推進(民間企業による合同会社設立、市民参
加による木材集積、地域通貨による経済循環)
○里山放牧の推進(輸入飼料に頼らない循環型畜産)
○スパイスプロジェクトの推進
 (鳥獣被害対策も担う農商工連携による6次産業化)
○コミュニティビジネスの推進
(市民サービスの提供、たたら製鉄や農村文化を
伝える体験観光)
○サポート体制の充実
 (里山や農地を守る担い手の育成)
写真1:市民参加による
    資源収集
写真2:スパイスプロジェクト
    オロチ爪の商品化
写真3:コミュニティビジネス
    どぶろくと田舎料理
    ビジネス














 これらにより、「たたらの里山」が持つ本来の機能、未利用資源を、今一度、地域・市民総がかりで活用することで、国土保全、食糧、水、エネルギーの供給といった現代的な課題に対応し、地域内自給力を高めると共に経済的にも自立度を高め、地域・市民が総がかりで持続可能な地域づくりに挑戦していく取り組みです。
 この取り組みの柱の一つ「里山のエネルギー利用の推進」は、豊富な森林資源を原資として里山の新たな経済価値を地域・市民総がかりによるエネルギーの地産地消から生み出して行こうとするものです。

 続いて、市民・地域が主役となり森林に残され未利用となっていた間伐材などの林地残材の活用を図る「森林バイオマスエネルギー事業」について紹介します。


3. 森林バイオマスエネルギー事業について

(1) 取り組みの背景
 雲南市の総面積の約8割は山林で占められており、人工林率は約45%でその多くが戦後に植栽され伐期を迎えたものです。このように森林資源を豊富に有している一方で、森林の整備(間伐等)は一部の森林に留まり、多くの伐期・間伐期を迎えた森林が放置された状態にありました。
 そこで、2011年3月の東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故以降、再生可能エネルギーの関心が高まり、地球環境保全の観点からも化石燃料の利用を減らし温室効果ガスを削減する取り組みとして「エネルギーの地産地消」が求められる中、本市は里山の新たな経済価値を、地域・市民総がかりによるエネルギーの地産地消活動によって生み出す方針を固めました。
 これは新たな森林資源を活用した地産地消のエネルギー循環を創出し、次の効果を期待するものです。
① 化石燃料等の利用で外部に流出していた価値を地域で循環させること(経済性)
② 豊富かつ再生可能な森林資源を継続利用することで管理された森林を維持すること(持続性)
③ 市民・地域が取り組みの主体となることでの地域・集落を活性化すること(地域性)

(2) 森林バイオマスエネルギー事業とは
 市、民間企業及び市民が一体となって、地域内での経済循環を創出しながら、持続可能なバイオマスエネルギー利用に係るシステムの構築を図るのが「森林バイオマスエネルギー事業」です。
 林地残材の搬出(上流)、残材の集積・チップ等への加工(中流)、公共温浴施設等での木質チップボイラー等の設置によるエネルギー利用(下流)の新たな地域内の循環を作ることで森林(里山)を活用していく取り組みです。
 この木材利用の上・中・下流の取り組みの役割を次に説明します。

図3:雲南市森林バイオマスエネルギー事業(スキーム)
※森林バイオマスとは
 「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表し、一般に「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを指します。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。木質バイオマスは発生源によっていろいろありますが、ここでは森林からの林地残材(間伐材)を森林バイオマスと呼んでいます。




(3) 「市民参加型収集運搬システム」の構築(上流)
 本市のバイオマスエネルギー事業の特徴の一つが、市民参加による林地残材の収集・運搬等のエネルギー生産活動です。雲南市のバイオマス事業は、市内の森林が適正に管理されることによる里山の復活を目的の一つとしているため、対象とするエネルギー源である木材はあくまで市内森林由来のものとしています。そのため、木材価格の低迷や山林所有者の世代交代などで、関心はかつての時代ほど高いとは言えないものの、林地残材を活用する仕組みをつくることで、里山社会の主役である市民の経済的価値観や自然環境・景観保全に対する意識の向上を図ることが重要と考えています。
 この市民参加型収集運搬システムは、市民が雲南市内の山林(自己所有山林、市有林の一部等)から搬出した林地残材1tあたりに対し、現金2,000円と地域通貨「里山券」4,000円分(合計6,000円)が支払われる仕組みです。
 市民参画に際しては、作業を安全かつ効率的に行うことができるように、講習会を受講した市民が事業参加者となる登録制(条件:市内在住もしくは家族に山林所有者がいること。18歳以上であること。)を導入しています。システムの運営ルール、バイオマス事業の基礎知識(森林整備、林地残材の収集・拠出、木質バイオマスエネルギーの熱供給等)を講義とチェーンソーの目立て・安全講習、造材講習を通じて必要な技能を習得するための実技を行う講習会を年に4~5回程度開催しており、システム登録者数は2015年3月末現在で267人となっています。
 ストックヤード(土場)への持ち込み可能な木材には、市内の山林から拠出された木材(竹は不可)で、末口直径が10~40cm、長さが100cm~400cm、枝払いをしてツノや枝葉がついていないもの(腐敗なく1年以内に採取したもの)などの規格を設けています。林地残材の収集量は、2012年度が250t、2013年度が745t、2014年度は1,215tと年々増加しています。
 また、地域通貨「里山券」の取扱店登録は93店舗となり、2013年度には約2,944枚、2014年度は4,768枚が発行され多くが市内の各商店で利用されるなど、地域経済の活性化において一定の成果を上げています。
 こうして、これまで未利用であった林地残材をエネルギー資源として利活用することで、市民の森林への興味関心を復活させ荒廃していた森林整備を進めるきっかけとなるとともに、地域通貨の活用による地域経済の活性化に繋げていくことができる取り組みと考えています。
図4:雲南市市民参加型収集運搬システム
写真4:地域通貨「里山券」
写真5:市民講習会

(4) 合同会社グリーンパワーうんなんの設立(中流)
 森林バイオマスエネルギー事業の推進を図る上で、不安定な燃料調達や価格、メンテナンス面での課題が木質チップボイラーの普及を阻害している要因と分析しました。このため、公共施設等の熱供給需要を把握し、木質燃料の供給計画と加工流通計画を立て、計画的にエネルギー供給を行う事業体を設立する必要があると判断しました。
 そこで、森林資源の搬出からチップ加工・運搬、ボイラー運営という熱供給までの一連の流れを一体的に行う事業体の設立を官民一体となって進め、2012年6月に市内企業等7社の出資により、「合同会社グリーンパワーうんなん」が設立されました。
 「合同会社グリーンパワーうんなん」は、市内の森林組合や林業会社、木材運搬・チップボイラーの製造販売・チップ加工業を行う建設会社等で構成され、各々の専門分野の経験、人材、機材等を活かし、一連の作業ができる会社として市内の公共施設に安定した熱供給を行うための事業体であり、森林バイオマスエネルギー事業を循環させていくための軸となるものと考えています。「市民参加型収集運搬システム」運営についても、市の委託を受け木材の受入、里山券の発行等を、また公共施設のチップボイラーへの燃料供給を実施しています。

(5) 森林バイオマスのエネルギー利用について(下流)
 市内の森林資源をエネルギー利用することは、既に存在する化石燃料・電力等の代替として市内でのエネルギー自給を行うことであり、地域外へ依存から地域内での新たな循環を生み出すという効果があります。
 雲南市の森林バイオマスエネルギー事業では、公共施設(福祉施設、温浴施設等)への木質チップボイラーの整備を進めており、2014年度末までに3基のボイラーが稼働を開始しています。他の方法としてはペレット、薪等が挙げられますが、市内にペレット製造施設がないこと、自動的な燃料供給が可能であることなどの点を勘案してチップを選択しています。
 今後は、継続して公共施設等へチップボイラーを整備するとともに、農林業施設など新たな利用先でのエネルギー利用の推進もしたいと考えています。これまでに導入したチップボイラーではスギ・ヒノキのチップを中心として利用しており、一方で市民参加型収集運搬システムでは広葉樹の木材も集まってきていることから、今後は薪による事業展開も必要と考えています。
写真6:木質チップボイラー(満壽の湯)

(6) 今後の課題
 今後の課題としては、供給先となる木質チップボイラーをさらに整備することによる林地残材の需要の増大に対して安定的に林地残材の供給を行うこと、チップボイラーの性能が十分に発揮できるよう良質のチップ製造を継続していくこと、収集された林地残材をチップ燃料として利用するだけではなく薪に加工し販売するなど付加価値を付けて流通させることで、地域経済のさらなる活性化を図ることなどが挙げられます。
 また、市民参加型収集運搬システムでは、現在、市民1人1人の活動として取り組まれている事例が多いですが、より安全で効率の良い安定した供給システムとしていくためにも、地域コミュニティである地域自主組織への呼びかけやシステム登録者のグループ化などにより、さらに地域・市民総がかりでこの取り組みを実践していくことが必要です。その実現ができれば、市内全域での森林整備、地域活性化、すなわち里山再生の取り組みとして「森林バイオマスエネルギー事業」が成功したといえるでしょう。


4. まとめ

 現在、全国各地で原子力発電所の再稼働への議論が高まっています。先般、島根県でも島根原発第1号機の廃止が決定されたところであり、その廃炉について20~30年かかるとも言われ、放射性廃棄物の処理方法も定まっていない等、改めて多くの課題を投げかけられました。エネルギー需要もさらに高まる中、再生可能エネルギー等へのエネルギー政策の転換はますます求められています。
 また、雲南市の人口減少はこれから急速に進展し、2025年には高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)が40%を超えることが推計されています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。
 今後の地域コミュニティの維持に危機感を感じる中、第2次雲南市総合計画(2015年度~2024年度)では「人口の社会増」への挑戦を第一目標に挙げ、2015年2月に本市外3市(三重県伊賀市、同名張市、兵庫県朝来市)の呼びかけにより発足した「小規模多機能自治推進ネットワーク会議」でも、地元中心とした新たな生活コミュニティの形成が検討されているところです。
 紹介した「森林バイオマスエネルギー事業」は、エネルギー政策の転換、地域コミュニティの維持等、今起きている課題への解決策を秘めた事業です。
 この事業への取り組みにより、地域のエネルギー自給率が向上するとともに、エネルギーの地産地消により地域外へ流出していた資金を地域内に留めることで、地域の資源と経済の循環を生み出し、森林所有者をはじめとした地域住民や自治会、企業等、様々な人材の参画により、地域活性化へ向けての新たなアイデア、新たな取り組みが生まれる可能性も秘めています。
 この事業を通して、地域の課題と可能性を皆が共有し、地域の活力を再生しようとする中山間地域のコミュニティが再構築されることが、人口減少を迎えるこれからの地域の活性化のカギとなるかもしれません。
 今、雲南市では今年度の新庁舎の完成に併せ、旧町単位で置かれていた総合センター(支所)の大規模な縮小が検討されており、合併以降で最も大きな住民サービスの転換期を迎えています。
 地域と行政との距離がますます離れていくことが懸念される中、労働組合としてもこのバイオマスエネルギー事業を地域コミュニティ再生、地域活性化に向けての一つの例として、新たな中山間地域の課題解決の糸口を模索していきたいと考えます。




※このレポートは、「雲南市森林バイオマスエネルギー事業」に係る各種資料の内容を基に編集したものです。