【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 山口市職員労働組合現業評議会では、これまで食と環境フェスティバルを5回開催しており、第1回から4回までは、自分達の業務内容を市民にアピールし直営の必要性を理解してもらうために実施してきました。第5回目は食育行政、環境行政の推進を目的とし、市民の方と楽しみながら学べる場を作り、直接触れ合いながら指導・啓発を行い、また絆作りにも繋がったと考えられるイベントの報告です。



山口市の食と環境を楽しく学ぼう
―― 第5回食と環境フェスティバル ――

山口県本部/山口市職員労働組合 木村 雅俊

1. はじめに

(1) 各現業職場の紹介
 山口市は山口県の中央部に位置し、人口は19万人程度の自治体です。2005年10月1日に1市4町の合併により新「山口市」が誕生し、更に2010年1月16日に1町と合併しました。
 自治労山口県本部山口市職員労働組合現業評議会は、山口市職員労働組合1,253人の組合員の内、166人で組織されており、清掃部会(廃棄物収集・運搬業務)、清掃工場部会(可燃ごみ焼却施設)、環境センター部会(し尿処理施設)、保育園給食部会(保育園調理業務)、学校給食部会(学校給食調理業務)で構成されています。
 平成の大合併以前から旧山口市の現業職場においては民間委託等の提案が示されており、これらの業務を安易に民間委託することは食育やごみ減量化の推進に影響し、最終的には地域住民への公共サービスの質が低下してくることから、各職場で行ってきた活性化運動と併せて強く反対してきましたが、合理化攻撃に歯止めをかけることはできませんでした。

(2) 第1回から4回までの『食と環境フェスティバル』
 そのような状況の中、現業全体で新たな運動の展開を図っていくとともに組合執行部も一緒になって市民を巻き込んだ闘争をしてみては? という意見が出されました。また、現業職場の業務内容が市民に認知されていないという現状もあり、アピールの場として『食と環境フェスティバル』を開催することにしました。
 1市4町の合併前の2004年に第1回目を開催し、2005年、合併後の2006年、2009年に第4回目を開催しています。これまでは、現業職場の業務内容を一般市民に紹介することにより、山口市行政に対する理解を深めてもらうとともに、職員の意識高揚と職場の活性化を図ることを目的としていました。具体的な内容としては、市内の小・中学校の体育館を使用して、普段子どもたちが食べている「安心・安全」な学校給食の人気メニューをフェスティバルのメインイベントとして提供し、また保育園のおやつ試食、各部会の展示(現業活性化の取り組みを含めた業務内容等)により、参加された市民へ直営の重要性・必要性をアピールしてきました。

(3) 現業活性化の取り組み
 その結果、市民に現業職場の業務内容の理解が深まったことはもとより、現業職員の意識改革と活性化運動にも繋がり、企画・立案の段階から政策提起が出来るようにもなりました。
 給食調理員については、授業や保護者に向けて食品の安全性、栄養、食習慣などの情報の収集と提供をするのはもちろんのこと、地域に対しても子育て支援センターなどで子育て世代に向けた食育講座の実施や、民間事業者や生産者との交流とネットワーク作り等、多岐にわたって取り組んでいます。清掃職場では啓発指導事務を確立し市のごみ問題に携わっていることや、市内の小学校4年生を対象に社会科の授業の一環で、廃棄物処理場の施設見学や学校に出向いての出前講座等を実施し、環境教育にも寄与しています。

(4) 現業職場を取り巻く環境
 市民アピール行動や職場活性化の取り組み等を繰り広げてきたことにより、①民間委託提案が一時凍結となった職場、②官民の住み分けをしたことで民間化推進実行計画に終止符を打った職場、③生涯賃金水準の維持を基本とした賃金表の切り替えなど、現業職場に一定の整理がつき、2015年4月より新規採用が開始されました。


2. 第5回食と環境フェスティバル立ち上げまでの経緯

(1) 執行委員からの要望
 第1回から4回までの『食と環境フェスティバル』を一つの契機として、前述のように現業職場において一定の整理等をつけることができましたが、より一層市民に現業職場の必要性を浸透させる為に、再度、食と環境フェスティバルを開催しないか? という意見が執行委員から出され、それぞれの部会に持ち帰り検討してみました。

(2) 清掃関連の見解
 山口市におけるごみの排出状況として、未だ可燃ごみの中に多くの資源物が混載され清掃工場に搬入されており、また、資源物(缶・ビンなど)についての分別意識はあるものの、間違った出し方が見受けられることから、市民一人ひとりが日常生活の中での生活環境や分別のルールに対して関心と理解を深める為、他に学ぶ場が必要ではないか? という声がありました。

(3) 給食調理員の見解
 子どもたちの健康な心身を育むためには、健全な食生活は欠かせないものであり、社会状況の変化や価値観の多様化等に伴い、子どもたちの食習慣の乱れや健康への影響がみられる中で、これまでも、学校・保育園では、発達段階に応じた食育に取り組んできた。今後も広く山口市として食に関して学習できる機会が必要ではないか? また、山口市の農産物や旬の食材について理解してもらい地産地消を推進していけないか? という声がありました。

(4) 実行委員会の立ち上げ
 それぞれの職場の意見を踏まえ、第5回目は、組合目線の市民アピールは胸の奥にしまい、あくまで行政としての視点で食と環境フェスティバルを開催していくことが決定し、実行委員会を立ち上げました。
 実行委員会の役員は、学校給食部会1人と清掃部会1人の2人が事務局となり、各部会より数人と組合執行部から2人、また現業・公企統一闘争の趣旨を踏まえ公企2人も加えた合計16人で構成しました。今回は、発達段階に応じた食育・地産地消の推進や正しいごみの分別などについて学ぶ場を提供することで、少しでも食や環境について関心を持っていただき、山口市の教育・福祉の発展につなげていくことを目的として開催することになり、約半年後となる2016年5月21日(土)のフェスティバルに向けて準備に取り掛かりました。

(5) 多くの障壁
① 会場の選定
 このフェスティバルの実施にあたっては、学校給食試食会を行う為、体育館、給食調理場が使用できる小・中学校が必須であり、また、車で来られる来客対応を踏まえ、駐車場としてグラウンドが使用できることも条件として会場を探す必要がありました。
 まず、インフルエンザやノロウイルスが流行する時期はさけて開催日を絞り、体育館の使用許可を得るため各地域交流センターに問い合わせ、また学校給食調理員を通じて小・中学校を手当たり次第にあたりました。しかし、体育館とグラウンドは定期利用団体が優先である等、すでに一般の予約が入っていることが多々あり、場所の選定は困難を極めました。そんな中、中学校のテスト週間は学校によって日程にずれがあることを聞き、すぐに条件を満たす中学校の候補を絞り込み、企画書を持って校長先生にお願いに伺ったところ、趣旨をご理解いただき会場が決定しました。

② 学校給食試食会参加者募集
宣伝に使用したポスター。
学校給食試食会をQRコードで
申し込めるようにしました
 学校給食試食会は第1部200食、第2部200食の合計で400食を予定し、(ア)幼稚園、保育園、小学校、地域交流センターにポスターとチラシの配布、(イ)友人・知人を通じて周知、(ウ)地域情報誌を活用した宣伝などを行い、試食の参加者を募りました。しかし、応募数が予想以上に少なく、より多くの市民に参加してもらうために再度宣伝することになり、市内のスーパー、開催地区の運動会や地域のイベントなどでポスターを貼ってもらうと同時にチラシを配布しました。それにより、結果的には合計で312人の応募がありました。
③ 学校給食試食及び、保育園おやつのメニューの変更
 当初の企画では、学校給食試食メニューとして「ごはん、手作りふりかけ、チキンチキンごぼう、やかましい汁、春野菜の和えもの、牛乳」、保育園おやつについては「ミルク葛餅」を予定していました。
 しかし、業務以外で給食やおやつを作るには保健所に「臨時食品営業届出書」を申請し厳しい審査が行われます。学校給食試食メニューからは「春野菜の和えもの」が調理工程で問題となりました。普段の給食では、和えものやサラダ等の野菜は加熱調理後、冷却して和えて提供しており、それと同じ工程なので問題ないと考えていましたが、フェスティバルでの提供は冷却の工程に許可が下りず、急きょ加熱したままの「春野菜のソテー」に変更することになりました。
 保育園のおやつ「ミルク葛餅」も同様に、工程で冷却することがあり、自然に冷めるのであれば問題はなかったのですが、数をたくさん作ることから時間がない為、これも急きょ「利休まんじゅう」に変更しました。
 このような障壁を乗り越えて、無事に当日を迎えることができました。


3. 第5回食と環境フェスティバル開催

 当日は天候にも恵まれ、給食試食会に応募いただいた方以外にも、県内他市町の現業職場で働く仲間や市の関係部局、また、ポスターやチラシを見て来られた市民の方など想定より多くの来場があり、体育館内は盛況となりました。
 フェスティバルのメインである学校給食試食会だけではなく、全てのコーナーを周ってもらい、少しでも食や環境に関心を持っていただくため、正解すれば地産地消の推進やリサイクルに関する「景品」が当たるスタンプラリー形式でクイズを出題しました。

(1) 学校給食試食会
学校給食試食会の様子
 学校給食試食会は、山口市の給食で大人気の「チキンチキンごぼう」をはじめとした給食を提供し、また、学校給食のレシピを配布したことで、少しでも栄養バランスの重要性や地場産の食材を使ったメニューについて考えてもらい、日常生活の中で実践に繋げてもらえるよう努めました。
 試食した市民の方から「給食おいしかったです。日頃、時間に追われて適当に作ってしまいますが、改めて食の大切さを考えるいい勉強になりました」などの声もいただきました。

(2) 保育園のおやつ試食
 保育園で人気メニューのおやつを展示し、そのレシピを置いて配布しました。また、その中の利休まんじゅうを試食として提供し、試食された来場者より「毎日手作りなのですか?」「販売していませんか?」などの声もいただきました。おやつを食べながら保護者同士も子ども達も食事に関する会話が生まれるなど、和やかな試食の場となり、家庭でも食について考えてもらえる機会を提供できたのではないかと思います。

(3) 各部会の展示
 給食調理員が行っている食育活動や清掃事務所のごみ減量化に関する業務内容、また普段見ることのできない清掃工場と環境センターの施設の内部や処理されるまでの工程等を紹介し説明しました。
 
職 場 内 容 詳 細
学校給食 ・正しい箸の持ち方と箸の使い方マナー違反を説明
・豆つかみをゲーム形式で体験
・正しい配膳の仕方を説明
・食材に関するクイズ
・食育の推進に貢献
・地産地消の推進に貢献
・市民との絆作り
保育園給食 ・食育、行事食、アレルギー対応などを紹介
・食育の推進に貢献
・地産地消の推進に貢献
・市民との絆作り
清掃事務所 ・3Rの説明
・環境学習の内容を説明
・ペットボトルとカプセルでけんだまを作り、市民と触れ合う
・分別○×クイズ
・パッカー車のペーパークラフトの配布
・パッカー車の塗り絵
・パッカー車の乗車体験
・ごみの減量化に繋がるよう関心を深めてもらう
・分別意識に加え、正しい分別の仕方を理解してもらう
・市民との絆作り
清掃工場 ・可燃ごみを燃やして発生する蒸気を利用して電気を発電していることを説明
・焼却炉に使用しているレンガと火格子の実物の展示
・可燃ごみを掴むクレーンの実物大の絵を展示
・清掃工場の炉を傷めない為にも、違反ごみなどが混ざって搬入されていることを理解してもらう
・市民との絆作り
環境センター ・し尿処理などの工程を説明
・し尿、浄化槽汚泥、油脂汚泥、し渣、残渣の実物を容器に入れ展示
・ごみや砂などの違反物が含まれていることがあり機械の故障の原因になる為、指導・啓発
・市民との絆作り
上下水道局(公企) ・着ぐるみ「めぐるちゃん」と写真撮影 ・市民との絆作り
災害関連 ・近年に発生した山口市における豪雨災害において、各職場で実施してきた内容を紹介
・熊本地震災害義援金募金箱を設置
・防災への意識を高めてもらうきっかけ作り

   
展示及クイズコーナーでは、「食育」「環境問題対策」などを楽しんで学んでいただきました。
災害時に炊き出しを行ったことをパネルで説明


4. 今後について

(1) アンケートの内容(一部抜粋)
 フェスティバル開催の反省と今後の参考とするために、来場者のみなさんに世帯単位でアンケートを配布し、記入をお願いしました。以下に、その一部を抜粋し掲載します。
1 これからもこのようなイベントがあれば参加したいと思いますか?
   ①はい(96)  ②いいえ(0)  ③どちらともいえない(3)
2 来場者の感想
 ・小さな子どもでも遊べる工夫があり、子ども達も喜んでいました。
 ・大変よく考えられていて感動しました。よくご苦労が分かりました。
 ・少し身近に感じられるようになりました。
 ・スタッフの皆様が子どもに親しみやすく話してくださり、雰囲気にすぐなじむことができました。次回も楽しみにしています。
 ・普段知ることの出来ない色々なことが展示してあって勉強になりました。
 ・知っているつもりで分かっていなかったこともあり、勉強になりました。
 ・違う仕事でも共同でフェスティバルを開催できる連帯感はすばらしいと思いました。
 ・給食は栄養バランスが整っていて、とてもおいしかったです。
 ・子ども達に人気のチキンチキンごぼうの試食ができてよかったです。おいしくいただきました。家でも作ってみようと思います。また展示を通していろいろな知識をつけることができました。ありがとうございました。
 ・給食をお世話されている皆様には毎日児童の成長のために栄養バランスを考え、味を工夫されている調理方法に心をつくされていると思います。感謝いたします。また、清掃業務の皆様にも市民の衛生環境を保つため日々ご苦労され、ありがとうございます。
 ・分別の難しさにびっくりしました。リサイクルおもちゃで子どもが楽しんでいました。ありがとうございました。
 ・ごみ問題のことをもっと知ってもらうことが重要。PRを広める必要があると思います。
 ・3歳になったばかりの娘も楽しんでいました。普通は触ることの出来ないパッカー車に乗れてよかったです。

(2) フェスティバルの定期的な開催をめざして
 フェスティバルに参加された市民の方々より、「とても楽しかった」「各コーナーの展示を見て、勉強になりました」「とてもいいイベントなのでまた開催してほしい」等の声も聞きました。
 これまでのフェスティバルは社会情勢を鑑みて開催してきましたが、今後は直接市民の方々から聞いた声やアンケートの結果も踏まえ、定期的に開催することをめざしたいと思います。


5. まとめ

 近年、現業評議会における組合主催の学習会等に参加する一般組合員の人数は年々減少傾向にありましたが、今回のフェスティバルにスタッフとして関わった現業組合員は過半数に近い74人でした。また、組合執行部や公企執行部とも共同で職種も超えて開催したことにより、団結強化・意識改革にも繋がったと思われます。
 また、実行委員として直接携わった16人は、責任の重さをはじめ、考え抜く力や組合員をまとめる力など多くの面でスキルアップできたと感じます。
 このフェスティバルを通じて、市民の方に山口市の食と環境について少なからず関心を持っていただけたことやそれぞれの職場に対する要望なども聞いて、今後の市民サービスを向上させていくための企画・立案を考えるきっかけにもなりました。
 これからは、職場ごとに関わっている地域のイベント等にも現業全体で積極的に参加していき市民との絆を深め、次回の開催の際には市民からの意見も取り入れ企画も向上させて楽しみながら、山口市の食と環境をより良くしていけるようなフェスティバルに向け取り組んでいきたいと考えています。