2. 由布市の環境の現況と課題
市街地や集落地域は市域の2割ほどで、残りは森林などの自然地域と田園で占められています。広葉樹林など自然林が比較的残っており、豊かな生物相が存在していますが、その生息地となる野山・里山の保全が課題です。農林業などの従事者の高齢化も進んでおり、農地の保全や森林の適切な管理のためにも、後継者の確保が必要です。
また、由布岳や黒岳など1,000m級の山々が連なっており、これらの山々を源とする河川が大分川を形成し、市内を横断しています。大分川水系の川は、生活用水、農林水産業や発電などの産業用水として人々の暮らしを支えており、市の人々にとっては身近な川となっています。大分川は、環境基準からみると比較的きれいな河川に区分されていますが、住民からは河川の魚が減った、泡が見られるなどの声も聞かれ、河川水質の調査や水質の再生・保全が課題となっています。
市内全域に分布する温泉は、日々の暮らしをはじめとして、観光や保養にも活用されており、由布市の重要な環境資源ともいえます。しかし、温泉排水による河川水質への影響が指摘されているほか、近年では温泉の水温低下や温泉の湧出量減少を懸念する声があり、地下水も含めた水環境の調査・研究をする必要性が出てきています。
以上のように、豊富な自然がある反面、様々な問題もありますが、中でも市民の関心が高いのが水環境に関することです。次では、水に関する課題や取り組みについて、詳しく取り上げていきたいと思います。
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資料(土地利用図):6回、7回自然環境保全基礎調査、環境省、地形図をもとに作成
資料(地目別面積):大分県統計年鑑、大分県
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3. 由布市の水環境の現状と課題
水は全ての命の源であり、私たち人間の生活にとっても当然欠かせないものです。由布市では、暮らしの様々な場面で必要な水が大分川水系の河川、湧水等から賄われていますが、その大分川水系について、近年市民から意見が寄せられています。昔に比べて魚やホタルが減った、泡が発生しているなど、河川水質の悪化を懸念する声が多いものの、原因がわからないため、調査・研究を行っていく必要があります。
一方で、数値として結果が出ており、対策が必要なものもあります。市の行っている河川水質調査では、大腸菌群については、環境基準を満たしておらず、合併浄化槽の普及など排水対策が必要となっています。また、大分県温泉調査研究会の調査によると、湯布院地域に位置する金鱗湖の総塩分量は、日本の平均的な河川水の2倍以上に高く、温泉排水の影響が指摘されています。
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資料:「平成26年版 環境白書」、大分県 大分川水系河川の水質(大腸菌群数)の推移 |
今後の市の施策としては、河川の水量、汚濁負荷の流入状況、生物の生息・生育環境など、多面的な調査・研究を行い、大分川水系の現状を把握することを優先的な課題としています。その上で、水環境のあるべき姿について、市民ともイメージを共有し、具体的な河川環境整備につなげていきたいと考えています。市だけでは取り組めない部分については、学識経験者等との連携や、国・県の協力も仰ぎつつ、適切な対応を行っていく予定です。
また、このような取り組みをするにあたっては、市民等や事業者自身が、水環境への関心を高め、積極的に保全・再生活動に取り組むことが必要です。最近では、水辺と触れ合う機会が減ったことにより、水環境への関心が一層薄くなっていることが考えられます。そのためには、大人から子どもまで、様々な人々が水辺と親しむことができる親水場の整備や、環境学習の機会も必要になってくるものと考えています。
4. 水環境に関する取り組み
(1) 市行政としての取り組み
市では、合併後の新たな由布市の環境施策の方向性を定めるものとして2013年3月に環境基本条例を策定しました。条例の中では、水・森・温泉や環境教育・学習、生物多様性保全や、人と自然の豊かなふれあいなど、今後施策の中で重視していきたい項目について重点的に定めています。
また、その環境基本条例に基づき、2013年度から2015年度にかけては環境基本計画の策定に取り組んでいるところです。2015年度末に策定予定の計画の中では「市民・事業者・交流者(注1)・市が一体となった環境の保全・再生・創造(注2)」を重視しています。
具体的な施策については、川ゾーン、森・里山・牧野ゾーン、農地ゾーン、暮らしのゾーンなど、ゾーンごとに定めた環境目標に従って定める予定です。縦割りになりがちだった施策を、ゾーンごとにまとめることで、より施策の目的を明確にし、また必要な部分では連携して取り組みを行うことをめざしています。ゾーンに分けられないような、環境教育や、市民の意識向上、省エネ・リサイクルの推進などについても目標を定めており、どの施策についても、それぞれの主体が取り組めることに取り組み、市は可能な範囲でそれを支援していくという方針を示す予定です。
(2) 住民が主体となった取り組み
住民が主体となった取り組みの例として、「豊かな水環境創出ゆふいん会議」の設立が挙げられます。「まずは源流域から河川環境をよくしていこう」という思いの下、湯布院地域の住民が主体となり、2014年度に設立されました。この会議は、自治会、商工会、観光協会、教育関係団体、漁協等で構成され、官学とも連携しています。
会議では、先進事例として、高知県四万十川での取り組みを視察しました。四万十川では、四万十川財団という団体が中心となり、四万十川リバーマスターという制度など、市町村を超えた取り組みが行われています。四万十川リバーマスターは、上流から下流まで流域で暮らす様々な人々が、川遊びのポイントやルール・危険な場所を教える、環境保全のアドバイスをするなど、自分の取り組める形で川の保全に取り組むという制度です。この仕組みは、自治会、商工会、観光協会、教育関係団体、漁協、地元で活動する市民など様々な人が参画しやすいものであり、今後の参考になるものと思われます。
今後、会議ではワークショップなどを通しながら、「大分川水系がどのような川であってほしいか」というイメージを作り上げる予定です。そのイメージを行政とも共有・連携しつつ、イメージ通りの河川にするために市民としてできることに取り組んでいく予定です。市民だけでは実践できない河川整備や、河川環境の調査については、官学とも連携して行っていくことを予定しています。
その一環として、2015年8月には大分川源流リバーウォーキング大会を実施しました。川辺の風景や自然を楽しみながら、新たに散策道として整備された土手を歩くことで、今後の河川整備や水環境を考える機会となりました。
(3) 事業者・市民等・市が一体となった取り組み
事業者・市民等・市が一体となった取り組みの例として、「大分川河川環境学習会」を2012年から継続して開催しています。市内で活動している公益財団法人人材育成ゆふいん財団が主催となり、市内で環境保全活動を行っている市民や大分川漁業協同組合、大分県中部保健所由布保健部、大分県大分土木事務所、環境省くじゅう自然保護官事務所、由布市環境課など、様々な主体が参加・協力する形で行っています。
学習会では、大分川水系の数地点を学習場所とし、小学校4~6年生を対象に実施しました。川で遊び、水生生物や植物の観察など、自然と親しみながら学ぶことで、環境に関する興味・関心を高め、環境保全意識を持った大人になってもらうことをめざしています。
2014年度の学習会では、水質について学ぶことを一つのテーマとし、学習会のたびに水質パックによる水質調査を体験しました。現地で汲んだ水や、家庭からもってきた水、洗剤やしょうゆを混ぜた水などを使用し、自分の目で調査結果を確かめることで、水質汚染の原因について学ぶことができました。また、湯布院地域の金鱗湖で開催した学習会では、外来種の脅威をテーマとしました。外来魚によって在来種が棲み家を追われているという問題について学んだ後に、外来魚駆除をかねたティラピア釣りにチャレンジしました。
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水質パック調査の様子 | 釣りの様子 |
(4) 由布市職労としての取り組み
由布市職労は、これまで環境に対する取り組みとして、地球温暖化の防止や環境ホルモンの抑制など地球環境の保全や、地域の自然環境保護を念頭に置き、省資源・省エネルギーやリサイクルなど様々な環境保護対策を推進してきました。
具体的には、水質汚染防止については、自治体関連職場での合成洗剤の使用停止を推進し、安全な石鹸に切り替えるよう努めるなどの取り組みを行っています。また、例年「クリーン作戦」として市内のごみ拾いを実施しており、地域美化・ポイ捨て対策に尽力しています。
今後の取り組みとしては、地域の活動としてリバーウォークやごみ拾いが開催された時には、職員組合としても参加をするなど、地域の環境保全活動と一体となった活動を検討していきます。
5. おわりに
環境汚染は、地域に例外のない問題であるといえます。比較的豊かな自然の残る由布市でも、森林や河川の様子は徐々に変化しています。
市行政は、環境基本計画を作成し、様々な環境施策を行うこととしています。しかし、環境問題やその対策は、人の意識によるところが多分であり、住んでいる人も訪れる人も、大人から子どもまでみんながこの豊かな自然を守っていこうと意識し、行動することが不可欠です。由布市職労としても、積極的に市や地域の取り組みに連携していく予定です。
また、意識を向上するためには、知識の蓄積が不可欠です。自治研が、活動の目的の一つでもあろう知識の蓄積に供する場として、さらに発展するように日々の研究を続けていきたいと考えています。
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