【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第3分科会 石巻に虹を架けよう~被災地の今を見る、知る、触れる、考える~

 東日本大震災から5年が経過し、熊本地震が発生するなどの状況を踏まえ、災害時の自治体職員のメンタルケアについて振り返りました。メンタルケアはセルフケアと環境調整で予防が可能なことから、震災後の取り組みから今後を考えたいと思います。



東日本大震災後の職員メンタルケアへの取り組み
急性期の支援から今後を考える

宮城県本部/気仙沼市職員労働組合 鈴木由佳理

1. はじめに(気仙沼市の概要・被災状況)

【位置】
 気仙沼市は、宮城県の北東端に位置し、東は太平洋に面し、南は宮城県本吉郡南三陸町、西は岩手県一関市及び宮城県登米市、北は岩手県陸前高田市に接しています。
【地勢】

 
 

 気仙沼市は、北上山系の支脈に囲まれ、そこから流れ出る大川や津谷川などが西から東に向かって流れ、太平洋に注いでいます。
 太平洋に面した沿岸域は、半島や複雑な入り江など、変化に富んだリアス式海岸を形成し、気仙沼湾は、湾口に大島を抱き、四季静穏な天然の良港となっています。
 このリアス式海岸特有の海岸美により、三陸復興国立公園及び海域公園、並びに南三陸金華山国定公園の指定を受けています。
 市の総面積は332.44平方キロメートルで、宮城県内では7番目(2013年10月1日現在)の広さです。
【人口】
 2016年5月末日の住民基本台帳人口は、66,248人(男32,241人、女34,007人)で、旧気仙沼市が49,468人(男24,031人、女25,437人)、旧唐桑町が6,562人(男3,202人、女3,360人)、旧本吉町が10,218人(男5,008人、女5,210人)となっています。また、世帯数は26,316世帯で、旧気仙沼市が20,405世帯、旧唐桑町が2,320世帯、旧本吉町が3,591世帯となっています。
【震災の概要】
■地震名称:東北地方太平洋沖地震
■発生日時:2011年3月11日(金)午後2時46分
■震源:北緯38度06.2分、東経142度51.6分、深さ24km
■マグニチュード:9.0
■各地の震度:(気象庁発表)
 ・気仙沼市赤岩  6弱
 ・気仙沼市笹が陣 5強
 ・気仙沼市本吉町 5強
【被害の状況】2016年2月29日現在
■人的被害:1,359人(内訳:直接死1,031人、関連死108人、行方不明者220人)
 ※ 1,359人は、宮城県発表の「東日本大震災における被害等状況」の本市の死者(直接死・関連死)1,214人・行方不明者220人のうち、本市に住民登録を有していない方75人を差し引いた人数
■住宅被災棟数:15,815棟(2014年3月31日現在)
■被災世帯数:9,500世帯(2013年4月27日現在・推計)

 

津波到達直後の市職員による救命活動
 
水没した町(本吉総合支所屋上からの風景)

【市職員の状況】

 

 勤務地であった本吉総合支所内での状況です。
 大規模停電に対応する自家発電が作動し、一度の停電もなく支所機能が維持されました。
 本庁舎との連絡・交通網が完全に遮断された中、本吉地域災害対策本部と消防・警察・自衛隊が連携しました。


2. 地域住民・市職員のメンタルケア

 災害直後72時間以内では、搬送者のトリアージ、救命・救護と共にご遺族へのケアが始まりました。保健福祉課がフェーズに沿った災害時地域保健活動を担いました。
 余震も続く中での急性ストレス反応(ASD)については体調不良者が続出しましたが、平時の保健活動から得ていた地域での人材把握で、職場に行けなくなった看護職を避難所でのボランティアとして声掛けし出来る限り対応しました。
 しかし、大震災から一週間近く経過し、PTSDを訴える職員や上司から保健師への相談が出始めました。不眠・食欲不振や拒食・混乱等や身体反応(脱力感・過覚醒・動悸等)の相談を受ける中、住民への配慮と同様に、市民の方々に長期的に適切に対応するためにも、職員へのメンタルケア対応は不可欠だと判断しました。
 「災害時地域精神保健医療活動の方針」でも、個別的な対応(ハイリスク)と集団としての対応(ポピュレーション)が挙げられています。しかし、早急な対応が必要であっても、不眠不休で災害対応する市職員の現状では、平時の数倍となっている外来を受診することは極めて困難でした。従って、方針を根拠に支所内管理職会議に提案させていただき、3月27日から本市に支援に入った「福岡県こころのケアチーム」には、住民の対応を終えた夕方の時間を使い、週1回職員のケアにも当たっていただきました。以降、山梨県・長野県の支援にも同様の対応をいただきました。

「こころのケアチーム」による支援者支援内容(3/27~7/31)
<職員メンタル相談 18回>
 ・医師の診察 31人(うち投薬 6人)
 ・保健師面接 6人(傾聴)
 *8月には再開する医療機関も多くなり、休暇を取っての適切な受診になっております。支援いただいた「こころのケアチーム」には、症状のある市民(避難所・自宅は問わず)への個別対応と、全避難所での災害時の心のケアについて心理教育を行うとともに、支所管内の支援者(市職員・消防署員・民生委員)の相談や心理教育(ミニ講話)を行っていただきました。
<職員向けメンタルヘルスミニ講話 3回>
 ・本吉支所   7人
 ・本吉消防署  10人
 ・民生委員   30人
 下記の「こころのケアつなげ票」は、メンタル相談時に使用したつなげ票です。

 

 つなげ票は災害救助法での支援終了の9月末まで使用し、福岡県⇒山梨県⇒奈良県と繋がりました。
 また、山梨県の日下部記念病院には、単独支援を継続いただきました。
 「こころのケアつなげ票」は、T-MAT、各県医療支援チーム、こころのケアチーム、本市の自治体病院、各県保健師支援チーム、支所内の管理職が共有し対応が迅速に行えるように、地域精神保健担当保健師に集約されました。
 今回の報告にあたり、当時「職員メンタルケア相談」を受けた職員や、対応した医師にインタビューした結果は以下のとおりでした。

職員より
・多くの職員が被災した。自分だけではないので心の内は職場では話せなかった。第3者であり、専門家であったので安心して聴いていただけた。心に詰まった思いを共感してもらえ感謝している。
・管理職として自分が部下の話を聞く立場だが、当時は混乱していた。今思うと、自分が一番聴いてほしかったのだと思う。自分が必要だと感じたので、部下にも勧めた。
医師より
・相談やアウトリーチを被災地の担当者に組み立てていただけたので、動くことが出来た。
・最初の支援で入った以降も、継続して支援する意志を決めた。被災地の市民や職員は、同じ支援者が継続して入ることが負担にならないと病院として判断した。地域によっては病院に支援に入ることも選択肢としてあると振り返って考える。
 上記の経過があり、支所管内だけではなく、気仙沼市職員を対象とした取り組みが必要と判断しました。以下は気仙沼市職員労働組合としてのメンタルケアへの取り組みです。

3. 職員労働組合としてのメンタルケアへの取り組み

2011年12月4日 こころの健康づくり講演会

 

 地元の精神科医を講師に招き、大災害時に起きる心の反応と疾病との違い、被災した市民や職員への接し方等についてお話しいただきました。
 講演会後はグループワークに医師が参加し、出席者が抱える悩みや質問に丁寧に答えていただきました。

 

2014年10月4日 労働講座「災害復興期のメンタルケア」

 

 職員研修でもメンタルヘルスを学ぶ機会が多くなっていましたが、復興期に向けてより具体的な「セルフケア」を学びました。
 講師は市保健師でしたが、SPR(サイコロジカル・リカバリー・スキル)を利用し普段から行えるエッセンスを受講しました。
*SPR:1991年アメリカで起きた9.11テロ以降に作成された災害中長期のスキル


4. まとめ

 2011年7月から、精神疾患は、がん、糖尿病、脳卒中、心臓病とともに国民の「五大疾病」のひとつに位置づけられました。実際、精神疾患の患者数は五大疾病の中で最も多く、なかでも「うつ病患者数」が断トツで増加し、この9年間で2.4倍になりました。
 2015年12月には、労働安全衛生法の一部を改正する法律により、職場でのストレスチェックと面接指導の実施等を義務付ける制度が創設されました。しかし、重要なのは、発病を防ぐことや、悪化を食い止めることだと考えます。
 東日本大震災後に職員メンタル相談を受けた職員で、その後病気休暇に移行した職員はいませんでした。職場全体で「ひとりで抱えない」「適切な対応につなげる」「声をかける」ことが、予防と悪化の阻止につながったと思います。
 自身が健康的な生活習慣を努力し、日頃から声を掛け合う職場があり、ライフワークバランスのとれた働き方が出来るよう、今後も単組で考えてまいります。