【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第3分科会 石巻に虹を架けよう~被災地の今を見る、知る、触れる、考える~

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から5年3か月が経過した。震災当時、自治体支援やボランティアなど、様々な支援が展開されたが、時が経つとややもすれば震災を忘れがちになる。東日本大震災の教訓を活かし、想定される自然災害に対応していくことは、私たちの使命でもある。この間に県本部が取り組んだ復興支援について報告し、労組としての今後の課題を考える。



災害時における労働組合の役割


愛知県本部/稲沢市職員労働組合 市川  貢

1. 東日本大震災の概要

 2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード(以下、Mとする)9.0の地震が発生し、宮城県栗原市で震度7、宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか、東日本を中心に北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱から震度1を観測した。また、この地震に伴い、広範囲において非常に高い津波や液状化現象を観測した。各地の津波の高さは、福島県相馬市で9.3m以上、岩手県宮古市で8.5m以上、同県大船渡市で8.0m以上、宮城県石巻市鮎川で7.6m以上などが観測されたほか、宮城県女川漁港で14.8mの津波痕跡も確認されている。また、遡上高(陸地の斜面を駆け上った津波の高さ)では、国内観測史上最大となる40.5mが観測された。岩手県、宮城県、福島県の3県では、海沿いの集落が軒並み水没したのをはじめ、仙台平野などの平野部では海岸線から数kmもの内陸にわたる広範囲が水没、河川沿岸では遡上した津波によりかなり内陸に入ったところまで没した。国土地理院の分析によると、津波により浸水した範囲は、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の6県62市町村で561km2の面積に及んだ。

 

津波に襲われた町

  堤防を乗り越える津波


2. 県本部の取り組み

(1) 連合・自治労に結集
 自治労は2011年4月10日から震災復興支援活動に取り組んだ。県本部は岩手・宮城・福島で行政支援や避難所運営の業務、安置所の受付などに携わり、8週間にわたって各単組が交代で支援活動を続けた。また、5月17日から10日間、連合の震災救援ボランティアに参加し、岩手県大槌町で被災地域の家屋や側溝、用水路の泥だしや畑の整地などに携わった。
 自治労の行政支援と連合ボランティアに愛知県本部から延べ57人の組合員が参加し、様々な支援活動に汗を流した。

 

地図に書き込む支援者

  側溝の泥だしの様子


(2) 「被災地を忘れない」取り組み学習会

事前学習会の様子

 2015年9月25日、「『被災地を忘れない』取り組み~被災地の教訓を活かして~」を10月23日からの「震災復興ボランティアおよび現地視察学習会」の事前学習会として開催し、18単組59人が参加した。福島県本部書記長(当時)の今野泰さんを講師に招き、被災直後の状況や自治体職員の現状について講演を受けた。今野さんは精神的ショックを原因とする原発関連死が震災の直接的な被害の死者数を超えていることや、メンタルヘルスなどによる中堅層の離職で、若手職員への負担が大きくなっている現状を説明した。「労働組合の役割は、地域を懸命に守る組合員を守ることだ」と強調した。また、被災直後の様子を振り返り、「原発周辺地域では自衛隊や警察が逃げ出すなか、住民を守ったのは自治体職員だった」と述べ、その後展開された自治労の支援活動について「行政の求める支援に完結型で対応できるのは自治労の強みだ」と語った。


(3) 復興ボランティアおよび視察学習会

学習会の様子

 2015年10月23~25日、被災地を忘れない取り組みの一環として「震災復興ボランティアおよび現地視察学習会」に取り組んだ。青年層組合員を中心に20人が参加し、南相馬市でのボランティア活動やいわき市内の様子を視察するとともに、現地青年部長を講師に学習会に取り組んだ。学習会では、福島県の避難状況と働く仲間の実態や声について講演を受けた。当時の被災状況についても話され、防災課以外の職員はマニュアルが配られているものの災害時の初動体制は管理職も十分把握しておらず、することがわからずに対応できなかったり、管理職が帰宅命令を出すところもあるなど十分に備えができていなかったことが報告された。福島原発の影響については、「原発の被害から逃げるために職員が残らず避難したため軋轢が生まれ、職場に戻っても人間関係が悪化し退職する仲間が増えるなどの問題点が出ている。賃金・労働条件は市によって異なる対応がなされており、超過勤務手当を全額支給する市もあれば、代休での対応や深夜勤務時間以外は支払い、深夜時間は代休で対応するなど大きな差がみられた。また、除染費として市に予算が多くついているものの、現在の職員数を維持したまま除染課へ一部職員を配属し、補充していないため人員が減っているなどの問題点がある」と指摘した。
 最後に南相馬市の小高区や浪江町の様子が動画で紹介され、ゴーストタウンと化した街の様子や、まったく手つかずとなり家屋の復興が進んでいない状況が上映された。中村部長は「被災した時のことを自分に置き換えて考えて欲しい。身近な問題として周りに福島の現状や、まだ収束していない実態を広めて欲しい」と述べた。

保管された放射性物質汚染廃棄物

 2日目は、南相馬市へ移動してボランティア活動に取り組んだ。道中の高速道路からは、福島第一原発事故による放射性物質汚染廃棄物が保管されているのが見えた。黒や緑色のフレコンパック、養生シートに覆われたものが所狭しと保管されており、今後の処分のあり方に不安と疑問を抱かされた。また、事故後立入り禁止となってから4年半が経過した地域では、ゴーストタウンと化した街の姿があった。農地には草が生え、生活感のない家が並んでいる。夜には街頭の灯りだけが光り、家の灯りはなかった。ボランティアセンターに到着すると大勢のボランティアが会議室から溢れるように並んでいた。それぞれのグループの作業場所や注意事項、放射線量などの報告を受け、私たちは20人の参加者と地元のボランティア3人とチームを組んだ。早速、貸し切ったバスで作業場所へ移動した。作業場所はボランティアセンターから車で5分程度のところで、民家の裏山に森林組合が伐採した樹木が無造作に山の斜面に広がっていた。私たちの作業は、伐採された樹木をフレコンパックに入れることだった。チェーンソーで細かく切ったり、斜面を駆け上がり次々とフレコンパックに入れていった。慣れない作業に疲れがやってくるため、30分の作業、15分の休憩を繰り返し作業を続けた。時間の関係上、すべての伐採樹木を片づけることができず悔いが残ったが、次のボランティアに作業を託した。

 

ボランティアセンターが設置された就業改善センター

  ボランティアセンター
に設置された線量計

ボランティア作業の様子

 3日目は、いわき市内を視察し、震災当時の様子や復興の状況について、いわき市職労の仲間から説明を受けた。震災当時「がれき置き場」となったグラウンドや津波に襲われた海岸沿いを中心に、新たな防潮堤建設や宅地造成の状況を視察した。また、近くには復興住宅が建設されたが、被災後の生活が一定落ち着いたなかで、地元に戻る住民は少なく、復興住宅は空きがでていた。

 

新たな防潮堤建設の様子

  建設された復興住宅


3. 今後の労働組合の役割と課題

(1) 災害時における職員の労働条件のあり方
 東日本大震災を経験した被災自治体では、災害時のマニュアルが策定されていても全職員が把握できていないことや、マニュアルがあっても災害時には経験と判断が必要なことが明らかにされている。そうした中、災害発生以降必死に住民を守り、復旧・復興にむけた職員の存在を忘れてはいけない。復旧・復興にむけた業務では、毎日が時間外勤務となり、自宅にも帰れず職場で泊まり込むことが当たり前だった。それが、地域住民を守るという使命感だけでそうした状況を生んだのだ。私たちは地域住民を守るためにも、大規模災害時の職員の労働条件はどうあるべきか、事前に労使で協議し、協定などを結ぶことは極めて重要である。

(2) 公共サービスの民営化の課題
 この間、現業職場を中心とした公共対人部門の民営化が進められてきた。これまでの災害の経験をみれば、民間では困難な事態でも自治体直営職場が大きな役割を果してきた。日常的に作業に携わる職員が存在しなければ、対応の判断や応援要請の対応もできない。自然災害に伴う様々な課題は、行政が責任を持って対応しなければならず、コスト比較による安易な民間委託や直営部門の縮小は、さらに課題を難しくしかねない。私たち労働組合には、災害時を想定した課題に対応していくことが求められている。

(3) 労働組合の役割
 第一に、全国ネットワークを活かした支援である。東日本大震災においても、自治体職員による業務支援や全国から多くの仲間が支援に取り組んだ。これまでの経験を活かし、自治労組織として、また地連・県本部単位での支援となったことや単組においても継続した支援が続けられていることは重要な役割である。
 第二に、自然災害時の役割である。自然災害時には、自治体職員が率先して業務を進めることが求められる一方で、労働組合の役割も重要である。平時から災害時を想定した人員確保や公共対人部門の役割は重要である。災害時に備えての人員確保は災害時の課題を労使で確認したうえで、退職補充や正規職員の確保などに取り組まなければならない。
 第三に、変わらぬ労働組合の役割である。労働組合は、災害時であっても組合員とその家族を守ることが使命である。安否確認や避難先、組合員の働き方など状況把握や援助対応について単組・県本部として確立が必要である。また、災害対策本部などと連携し、情報の共有をはかるために労働組合役員を災害対策本部などに配置することも必要である。労働組合は、上部団体などからの支援など、組織としての威力を発揮し、国への財政支援要請など、労働組合としての役割を十分に果たし、労使一体となって災害に対応しなければならない。