【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第3分科会 石巻に虹を架けよう ~被災地の今を見る、知る、触れる、考える~

 東日本大震災から5年が経過し、被災地で復興が進む中、一方では、震災の記憶の風化が懸念されています。大きな被害をもたらすとともに、自治体の防災意識を再確認することとなった東日本大震災を風化させることなく、次の世代に伝え続ける必要があります。自治体労働者、そこにはたらく労働組合の一員として、震災の風化にストップをかけるとともに、震災復興に向け被災地支援の取り組みを続ける必要があります。



「松江かりんとう」で震災復興
―― 山陰から被災地支援を ――

島根県本部/松江市職員ユニオン 門脇 伸介

1. 松江市職員ユニオンの現状

(1) 労働組合として何ができるか
 東日本大震災から5年が経過し、被災地の復興支援が進行する中、時間の経過とともにメディアでの報道が減少するなど震災の記憶の風化が懸念されています。
 松江市においては、震災直後から支援職員を派遣するほか、労働組合としても自治労を通じて支援ボランティアに参加し、震災復興の一端を担ってきました。陸前高田市の派遣職員からは定期的に"たより"が届き、被災地の現状やまだまだ数多くの復興を成し遂げなければならない状況など、依然として支援を必要としていることが伝えられます。
 そういった状況において、自治体労働組合である松江市職員ユニオンとしても、被災地支援のために何ができるのかを改めて考えなければなりません。

(2) 松江市職員ユニオンの地域貢献活動
 これまで松江市職員ユニオンは、第33回愛知自治研において自治研賞を受賞した「八雲むらプロジェクト」を筆頭に、地域に密着した地域貢献を運動方針に掲げて取り組みを進めてきました。地方創生が謳われる中、地域を元気にするために地域活動に積極的に関わることが、今、自治体職員に求められており、今年度も組合員の人材育成の観点から、地域貢献活動を大きな運動の柱として取り組んでいます。
 一方で、松江市職員ユニオンでは1980年代初頭から福利厚生事業「MCD運営委員会」(以下「MCD事業」)を設置し、福利厚生の一環で、組合員の豊かでゆとりある生活の保障と地元店舗の活性化による地域貢献を目的とし、地元店舗と協賛したクレジット事業を展開してきました。
 事業をスタートした当初は、労働組合のクレジット事業として全国的にも新しい取り組みとして注目を集め、多くの組合員の利用により事業の充実が図られていました。しかし、ここ近年、経済情勢の変化や組合員のニーズの変化に伴い、MCD事業のマンネリ化や協賛店舗の減少など、組合員そして地元店舗にとって十分満足のいく事業が展開できていない状況が続いています。
 松江市職員ユニオンが取り組む地域貢献活動としての「八雲むらプロジェクト」や「MCD事業」を継続しながら、さらにインパクトのある新しい取り組みを始められるかが、現在の課題となっています。


2. 震災復興の思いが詰まった「松江かりんとう」

(1) 宮城県女川町から鳥取県伯耆町へ
 2016年4月、松江市行政が「まつえ農水商工連携事業」の一環として取り組んだ、松江市の特産品を材料に使用した「松江かりんとう」の制作が実現しました。
 この「松江かりんとう」は、東日本大震災により女川町で被災され、鳥取県伯耆町に生活拠点を移された夢食研(株)阿部社長が手掛ける「かりんとう加工」技術を用いて制作された「ご当地かりんとう」です。阿部社長は、震災で被災され、それまで経営してきた工場が津波の被害にあいました。その後、がれきの中から「かりんとう」の生地を練るミキサーを発見され修理し、「もう一度事業をやりたい」と知人を頼り鳥取県伯耆町に移り住み、鳥取の特産品を中心に「かりんとう」制作を再開されました。現在は、かりんとうのほか、パンや加工食品、食堂経営なども始められました。
 また、夢食研(株)では、女川町での経営の頃から障がい者の方を積極的に雇用するなど、地域に密着した経営をしてこられました。今、鳥取県伯耆町でも障がい者の方を雇用され、地域に密着した経営をされるとともに、三陸沖産の食材を使用するなど、震災復興、被災地支援の思いを胸に食品加工を手掛けておられます。

(2) 震災復興の願いを込めた「松江かりんとう」
 2016年3月、阿部社長の存在を知った松江市の農水商工連携コーディネーターが、松江市の特産品を使ったご当地かりんとうの制作を依頼し、阿部社長が承諾されたことから「まつえ農水商工連携事業」として「松江かりんとう」の制作がスタートしました。
 この「松江かりんとう」は、松江市の特産品を手軽に味わえるよう夢食研(株)と地元生産者との共同開発で制作したもので、"しじみ""のどぐろ""とびうお""あじ""せいご""わかめ""西条柿""いちじく"の全8種類の食材を練りこんだオリジナルの"ご当地かりんとう"です。
 夢食研(株)阿部社長が手掛ける"かりんとう"は、"おから"をベースにして様々な食材を練りこみ作られるもので、とても健康的で、"かりんとう"でありながら、まるでクッキーのような歯ごたえのある独特な風味のとてもおいしい"かりんとう"です。松江市行政も「松江かりんとう」の販売が"巡り巡って被災地支援につながれば"と願っており、松江市から震災復興の思いを詰め込んだオリジナル"かりんとう"が、この度、完成しました。


3. 松江市職員ユニオン福利厚生事業「MCD事業」

(1) 快適な生活のために事業発足
 松江市職員ユニオンは、組合員のゆとりある豊かな生活の確保のために福利厚生事業の充実に取り組んできました。そのような中、80年代初頭に「MCD事業」と銘打って松江市職員ユニオン独自のクレジット事業をスタートしました。組合員に対してクレジットカードを発行し、地元指定店でカードを提示すると一定の割引で買い物ができるという仕組みが「MCD事業」の大きな特徴です。
 「MCD事業」は組合員への福利厚生のほか、もう一つの目的は、地域に密着した取り組みとして、地元指定店での買い物をとおして地元商店の賑わいや地域の活性化に寄与するという狙いがあります。

(2) これまでの取り組み
 MCD事業は、大きく二つの具体的な取り組みがあります。ひとつは、クレジット事業で全組合員にクレジットカードを発行し、地元指定店でMCDクレジットカードを提示すると商品が割引額で購入できます。さらに、累積ポイントが付与され、ある程度ポイントが貯まると指定店で利用可能な商品券と交換できる仕組みとなっています。
 もう一方は、1年を通して季節的に需要の高い商品を組合員へ割安価格で斡旋販売するなど、多くの手法で組合員への還元事業を進めてきました。例えば、年末年始に地元商店やスーパーが閉店することから、事前に商品を仕入れ、年末の休日に市役所の一角で大々的に物資斡旋販売を実施したり、メーデーなどのイベントで地域食材を用いた飲食店を出店したりと組合員への還元の取り組みを続けてきました。とりわけ、労働組合としての地域貢献も主眼に置きながら、組合員への還元と同時に地域への還元にも努めてきました。


4. 労働組合から被災地支援を

(1) 震災復興を風化させないために
 今年度、地域貢献を運動方針に掲げている中、松江市職員ユニオンとして被災地支援の取り組みをスタートするにあたり、具体的に何ができるかの検討を進めました。そのような中、松江市が「まつえ農水商工連携事業」として「松江かりんとう」を制作したことが伝わり、実際に松江市の担当部署から商品の紹介を受けました。是非、労働組合として何か貢献できないかと検討を進め、阿部社長そして松江市の担当者と意見交換を重ねました。意見交換により、まずは、この震災復興の思いが詰まった「松江かりんとう」を多くの方に知ってもらうことが重要であると判断しました。その手段として、これまで地域貢献として物資斡旋販売を行ってきたMCD事業の一環として組合員へ販売することを企画しました。
 MCD事業として販売価格を設定し、全組合員が目を通す情報誌を作成して取り組みをスタートしました。まずは、情報誌の作成にあたって、通常の物資斡旋販売時のレイアウトを変更し、「松江かりんとう」が制作された経緯や阿部社長の思いを掲載することで、組合員への関心を引くことに心がけました。さらに、販売価格についても、より多くの組合員に購入してもらうため、通常価格から安価に価格を設定しました。
 情報誌を配布し斡旋販売をスタートしてすぐに組合員から反響をいただき、多くの組合員へ「松江かりんとう」を販売することができました。ある組合員からは、「松江かりんとう」を購入することが、少しでも被災地の支援につながることを願っているといった反応があり、今回の斡旋販売が少しでも震災復興の一助になり得たのかなと思っています。

(2) 次の世代へ、「継続」を
 松江市職員ユニオンが運動方針に掲げている通り、自治体労働組合として地域に貢献することが使命であることから、今回、被災地支援につながる取り組みを始めました。この「松江かりんとう」の取り組みにより、少しでも多くの組合員が震災復興への思いを感じ取り、被災地支援への意識を醸成することを願っています。
 震災から5年が経過し、震災からの復興はまだまだ続きます。被災地から遠く離れた山陰から、被災地支援のために何ができるかを常に考えることも労働組合として必要です。このような運動を継続し、次の世代へ伝えることを松江市職員ユニオンの運動の一つとして取り組みます。