2. 有事の際にはどうするのか?
今回、アンケート調査で、自分たちが働いている自治体の「原子力防災計画(概要版)」を読んだことがあるか確認しました。その結果を見ると、原子力防災訓練に参加したことがある職員は読んだことがあると回答する割合が高く、参加したことのない職員はほとんど読んだことがないという現状が見えてきました(表1)。
これは、いざ事故が起こった際には「自分たちが住民の避難行動を誘導していかなくてはならない。」ということが理事者側にも職員側にも浸透しきっていないことが考えられます。職員側には「自分たちは事故の時に防災担当が出す指示に従って行動すればいい。」という意識が、理事者側には「防災計画を示しているのだから、あらためて指導しなくてもわかっているだろう。」という意識が、それぞれにあるのではないかと思われます。
表1 原子力防災訓練の参加と防災計画の確認の状況
原子力防災訓練に参加したことがある | 34人 |
| 原子力防災計画を読んだことがある | 29人 |
原子力防災計画を読んだことがない |
5人 |
原子力防災訓練に参加したことがない | 41人 |
| 原子力防災計画を読んだことがある |
8人 |
原子力防災計画を読んだことがない | 33人 |
原子力防災訓練にこれまで参加したことないが今年から担当になった |
2人 |
| 原子力防災計画を読んだことがある |
0人 |
原子力防災計画を読んだことがない |
2人 |
自治体が作成する原子力防災計画には、有事の際、職員が何をするべきかが示されています。たしかに、職員にとっては、通常業務が多岐にわたり、複雑化及び多忙化し、計画書を熟読する時間がないという状況にあります。しかし、防災計画に職員の役割が記載されていることからも、原子力防災について、『具体的に自分たちが何をするべきか?』ということを、各市町村の原子力防災担当部署に確認し、日頃から有事に備える気構えも必要かと思います。
表2は、福島第一原発事故のような過酷事象が発生した際に、「職員は何をしたらいいか認識しているか?」という観点についてです。
これを見ると、防災計画を読んだことがない、訓練に参加したことがない、研修を受講したことがないという職員は、過酷事象が発生した際には、「何をしたらいいかわからない。」と多く答えているのがわかります。逆をいえば、職員が何らかの形で、原子力防災に関わることにより、職員の中の『何をしていいかわからない』をいう不安を取り除く一助になると考えられます。
そういった点からも、理事者側には『原子力防災ではどのようなことが重要なのか?』ということを職員にしらせる、広げる取り組みとして、研修会の開催や、できるだけ多くの職員に防災訓練に参加してもらえる体制の構築等について、検討してもらうことも必要ではないかと思われます。
表2 原子力防災への関わりと何をしたらいいかわからない職員の相関
過酷事象が発生した際、何をしたらいいかわからない | 35人 |
| 防災計画 | 読んだことがある | 11人 |
読んだことがない | 25人 |
防災訓練 | 参加したことがある |
8人 |
参加したことがない | 27人 |
今年から担当になった |
1人 |
研 修 | 受講したことがある |
1人 |
受講したことがない | 35人 |
3. 原子力に対する知識の強化の必要性
「原子力発電所は、放射線を発生させる危険なもの」ということは、職員の中で認識されているものと思います。そのため、原子力防災作業の際、自分や、家族の安全に対する不安感というものがついて回り、住民の安全確保という観点がおろそかになるおそれがあります。もちろん、自分や家族が大事だということはわかりますが、職員がそのためだけに行動したり、知識が希薄であると、住民の避難行動に支障が出てしまいます。それを回避するためにも原子力防災、被ばく防御に関する適切な知識を職員が学習していく必要があります。
表3 職員が感じている過酷事象発生時に不安な事項(上位5項目)
順位 | 不安に思う事項 | 人数 |
1 | 家族の安全、安否確認 | 50人 |
2 | 自分自身の被ばくのおそれ | 46人 |
3 | 住民の混乱(パニック) | 42人 |
4 | 何をしていいかわからない(決まっていない・マニュアル等がない) | 36人 |
住民に対し説明できるだけの知識がない | 36人 |
上記の表3は今回のアンケートにおいて、福島第一原発事故のような過酷事象が発生した際に不安に思うことを集計した結果、上位5項目にあげられたものを記載しています。ここで示されるとおり、家族、自分が上位になり、住民に関しては3番目になっています。
ここからさらに原子力防災研修と被ばく防御研修の受講状況別に比較したものが、表4になります。この表を見ると、研修によって不安が全て解消されるわけではないものの、上位項目の3番目以降にある住民避難に関する不安の解消につながっていることから、これらの研修は原子力防災上、有効であると言えるでしょう。
当然、放射性物質は危険なものですので、自分や家族に関する不安は消えないものの、正しい知識を身につけることにより、自分や家族の身を守ることができるようになるだけではなく、住民の避難をスムーズに行っていくことができるようにもなると思われますので、自治体当局に研修会の開催を求めていくことも重要になってきます。
表4 研修受講状況と職員の不安の相関
原子力防災(被ばく防御除く)研修を受けたことがある人の総数 | 20人 |
原子力防災(被ばく防御除く)研修を受けたことがない人の総数 | 57人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある人の総数 | 18人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない人の総数 | 59人 |
「家族の安全、安否確認」について不安がある | 50人 |
| 原子力防災研修を受けたことがある | 13人 |
原子力防災研修を受けたことがない | 37人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある | 12人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない | 38人 |
「自分自身の被ばくのおそれ」について不安がある | 46人 |
| 原子力防災研修を受けたことがある | 13人 |
原子力防災研修を受けたことがない | 33人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある | 11人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない | 35人 |
「住民の混乱(パニック)」について不安がある | 42人 |
| 原子力防災研修を受けたことがある |
9人 |
原子力防災研修を受けたことがない | 33人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある |
7人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない | 35人 |
「何をしていいかわからない」ことについて不安がある | 35人 |
| 原子力防災研修を受けたことがある |
1人 |
原子力防災研修を受けたことがない | 35人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある |
1人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない | 35人 |
「住民に説明するだけの知識がない」ことについて不安がある | 36人 |
| 原子力防災研修を受けたことがある |
3人 |
原子力防災研修を受けたことがない | 33人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがある |
4人 |
被ばく防御に関する研修を受けたことがない | 32人 |
4. まとめ
今回、アンケート調査の結果を分析した結果、自治体も職員の側も、原子力防災について、どこか他人事と思っている感覚があるのではないかという状況が見えてきました。原子力発電所の事故は起こらないに越したことはありませんが、いざ、何かあったときに住民の安全を確保することが自治体、職員に求められているものです。
後志地方本部としては、自治体には「職員教育の強化」、職員には「防災業務の主役は自分たち」という意識を持つようにすることを求めていきたいと思います。
最後に今回のアンケート調査にご協力いただいた9単組・総支部77人の皆さんに厚くお礼を申しあげます。ありがとうございました。
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