【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 2011年3月11日発生の東日本大震災に起因する福島第一原発事故から5年が経過し、原発から30km圏内の自治体で地域防災計画(原子力災害対策編)の策定が義務づけられました。そこで実際に防災業務に従事する自治体職員にアンケート調査を行い、原子力防災への向き合い方について提言します。



原子力防災に対する自治体と職員の関わり


北海道本部/後志地方本部・自治研推進委員会

1. 道内唯一の原子力発電所所在地方本部として……

 後志地方本部は道内唯一の原子力発電所である「北海道電力泊原子力発電所」を有する後志総合振興局管内の単組・総支部で組織する地方本部になります。
 管内には沿岸地域での水産業、内陸地域での畑作、稲作、酪農、ニセコ地域と小樽周辺を中心とした観光業等、バラエティに富んでおり、「後志は北海道の縮図」と評されることもあります。
 そうした自然豊かな地域に立地しているのが「北海道電力泊原子力発電所」です。


泊原子力発電所 遠景
 

 2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、原子力発電所から概ね、半径30km圏内の自治体は、地域防災計画(原子力災害対策編)の策定を義務づけられています。


泊原子力発電所から30km圏内図


 後志管内の町村の大半はこの30km圏内に包含されるため、各町村において、防災計画が策定されています。
 そして、年に1度、国、道も含めて、「原子力防災訓練」を行いながら、住民の安全確保の実現ができる体制を確認しています。
 そこで後志地方本部としては、実際の防災作業に従事することになる自治体職員の防災計画に関する認知度等をアンケートにより調査し、地域住民の安全確保を更に強固にするためにはどうあるべきかを検討することとしました。(依頼数:23単組総支部×10人程度、回答数:9単組総支部77人)。

 

2. 有事の際にはどうするのか?

 今回、アンケート調査で、自分たちが働いている自治体の「原子力防災計画(概要版)」を読んだことがあるか確認しました。その結果を見ると、原子力防災訓練に参加したことがある職員は読んだことがあると回答する割合が高く、参加したことのない職員はほとんど読んだことがないという現状が見えてきました(表1)。
 これは、いざ事故が起こった際には「自分たちが住民の避難行動を誘導していかなくてはならない。」ということが理事者側にも職員側にも浸透しきっていないことが考えられます。職員側には「自分たちは事故の時に防災担当が出す指示に従って行動すればいい。」という意識が、理事者側には「防災計画を示しているのだから、あらためて指導しなくてもわかっているだろう。」という意識が、それぞれにあるのではないかと思われます。

表1 原子力防災訓練の参加と防災計画の確認の状況

原子力防災訓練に参加したことがある34人
 原子力防災計画を読んだことがある29人
原子力防災計画を読んだことがない 5人
原子力防災訓練に参加したことがない41人
 原子力防災計画を読んだことがある 8人
原子力防災計画を読んだことがない33人
原子力防災訓練にこれまで参加したことないが今年から担当になった 2人
 原子力防災計画を読んだことがある 0人
原子力防災計画を読んだことがない 2人

 自治体が作成する原子力防災計画には、有事の際、職員が何をするべきかが示されています。たしかに、職員にとっては、通常業務が多岐にわたり、複雑化及び多忙化し、計画書を熟読する時間がないという状況にあります。しかし、防災計画に職員の役割が記載されていることからも、原子力防災について、『具体的に自分たちが何をするべきか?』ということを、各市町村の原子力防災担当部署に確認し、日頃から有事に備える気構えも必要かと思います。
 表2は、福島第一原発事故のような過酷事象が発生した際に、「職員は何をしたらいいか認識しているか?」という観点についてです。
 これを見ると、防災計画を読んだことがない、訓練に参加したことがない、研修を受講したことがないという職員は、過酷事象が発生した際には、「何をしたらいいかわからない。」と多く答えているのがわかります。逆をいえば、職員が何らかの形で、原子力防災に関わることにより、職員の中の『何をしていいかわからない』をいう不安を取り除く一助になると考えられます。
 そういった点からも、理事者側には『原子力防災ではどのようなことが重要なのか?』ということを職員にしらせる、広げる取り組みとして、研修会の開催や、できるだけ多くの職員に防災訓練に参加してもらえる体制の構築等について、検討してもらうことも必要ではないかと思われます。

表2 原子力防災への関わりと何をしたらいいかわからない職員の相関

過酷事象が発生した際、何をしたらいいかわからない35人
 防災計画読んだことがある11人
読んだことがない25人
防災訓練参加したことがある 8人
参加したことがない27人
今年から担当になった 1人
研  修受講したことがある 1人
受講したことがない35人

3. 原子力に対する知識の強化の必要性

 「原子力発電所は、放射線を発生させる危険なもの」ということは、職員の中で認識されているものと思います。そのため、原子力防災作業の際、自分や、家族の安全に対する不安感というものがついて回り、住民の安全確保という観点がおろそかになるおそれがあります。もちろん、自分や家族が大事だということはわかりますが、職員がそのためだけに行動したり、知識が希薄であると、住民の避難行動に支障が出てしまいます。それを回避するためにも原子力防災、被ばく防御に関する適切な知識を職員が学習していく必要があります。

表3 職員が感じている過酷事象発生時に不安な事項(上位5項目)

順位不安に思う事項人数
家族の安全、安否確認50人
自分自身の被ばくのおそれ46人
住民の混乱(パニック)42人
何をしていいかわからない(決まっていない・マニュアル等がない)36人
住民に対し説明できるだけの知識がない36人

 上記の表3は今回のアンケートにおいて、福島第一原発事故のような過酷事象が発生した際に不安に思うことを集計した結果、上位5項目にあげられたものを記載しています。ここで示されるとおり、家族、自分が上位になり、住民に関しては3番目になっています。
 ここからさらに原子力防災研修と被ばく防御研修の受講状況別に比較したものが、表4になります。この表を見ると、研修によって不安が全て解消されるわけではないものの、上位項目の3番目以降にある住民避難に関する不安の解消につながっていることから、これらの研修は原子力防災上、有効であると言えるでしょう。
 当然、放射性物質は危険なものですので、自分や家族に関する不安は消えないものの、正しい知識を身につけることにより、自分や家族の身を守ることができるようになるだけではなく、住民の避難をスムーズに行っていくことができるようにもなると思われますので、自治体当局に研修会の開催を求めていくことも重要になってきます。

表4 研修受講状況と職員の不安の相関

原子力防災(被ばく防御除く)研修を受けたことがある人の総数20人
原子力防災(被ばく防御除く)研修を受けたことがない人の総数57人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある人の総数18人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない人の総数59人
「家族の安全、安否確認」について不安がある50人
 原子力防災研修を受けたことがある13人
原子力防災研修を受けたことがない37人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある12人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない38人
「自分自身の被ばくのおそれ」について不安がある46人
 原子力防災研修を受けたことがある13人
原子力防災研修を受けたことがない33人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある11人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない35人
「住民の混乱(パニック)」について不安がある42人
 原子力防災研修を受けたことがある 9人
原子力防災研修を受けたことがない33人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある 7人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない35人
「何をしていいかわからない」ことについて不安がある35人
 原子力防災研修を受けたことがある 1人
原子力防災研修を受けたことがない35人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある 1人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない35人
「住民に説明するだけの知識がない」ことについて不安がある36人
 原子力防災研修を受けたことがある 3人
原子力防災研修を受けたことがない33人
被ばく防御に関する研修を受けたことがある 4人
被ばく防御に関する研修を受けたことがない32人

4. まとめ

 今回、アンケート調査の結果を分析した結果、自治体も職員の側も、原子力防災について、どこか他人事と思っている感覚があるのではないかという状況が見えてきました。原子力発電所の事故は起こらないに越したことはありませんが、いざ、何かあったときに住民の安全を確保することが自治体、職員に求められているものです。
 後志地方本部としては、自治体には「職員教育の強化」、職員には「防災業務の主役は自分たち」という意識を持つようにすることを求めていきたいと思います。
 最後に今回のアンケート調査にご協力いただいた9単組・総支部77人の皆さんに厚くお礼を申しあげます。ありがとうございました。