【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 2015年9月、茨城県西部の常総市では市内を流れる鬼怒川の決壊により、鬼怒川と小貝川に挟まれた広範囲が水没し、甚大な被害となりました。いまだに常総市を中心に心のケアは引き続き行われています。2016年4月には熊本県を中心に最大震度7を記録する東日本大震災に次ぐ大きな地震災害が起こりました。長期間にわたる余震と大雨の二次災害が発生し、復興に向けての足踏みとなっている状況があります。
 私は常総市水害時に、県内唯一の精神科単科の県立病院看護師として、また当時、県障害福祉課に駐在職員として赴任していた関係から、常総市役所で日赤こころのケア班と共に災害支援に携わりました。熊本地震では県からの要請により茨城県DPATとして、災害支援活動に参加した経験から、その報告と県立病院で働く自治体労働者に求められる役割や見えてきた課題などを報告します。



災害時精神保健活動における県立病院の役割を考える
―― 関東・東北豪雨及び熊本地震での
災害支援活動を通して ――

茨城県本部/茨城県病院局職員労働組合・茨城県立こころの医療センター支部 倉橋 憲一

1. DPATについて

 DPATとは、大規模な自然災害、事件や事故が発生した際、各都道府県などから派遣される精神医療チームのことであり、正式名称は災害派遣精神医療チームという。
 厚生労働省によって定められたDPATは、都道府県および政令指定都市によって組織され、精神科医師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理技術者、業務調整役等で構成されるチームで、災害が起こった場合は、災害時精神保健医療情報支援システム(DMHISS(ディーミス))で情報共有を図りながら、被災地域の都道府県が設けた災害対策本部や災害医療本部の指揮のもとで活動する。
 DPATは、被災地での交通事情やライフライン等あらゆる障害を想定して、通信手段、宿泊、日常生活面等で自立した組織であり、被災地のニーズによっては、児童精神科医、薬剤師、保健師、などが派遣される場合もある。1チームの活動期間は1週間を基準とし、必要があれば数か月に及び派遣し長期的なこころのケアにも対応する。
 東日本大震災では、不安や恐怖による強烈なストレスのためにPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ状態に陥る被災者が多く、全国の自治体や医療機関からこころのケアチームが派遣された。しかし、事前に災害に関する研修や訓練を受けた組織ではなかったため、現場での活動にさまざまな課題を残した。このような経験から厚生労働省が活動要領を定め、全国的に統一して運用を始めたのがDPATである。非常時の活動のほか、災害派遣医療についての専門知識や技能を習得する研修などが行われる。

2. 県立こころの医療センターの概要

茨城県立こころの医療センター

 「茨城県立こころの医療センター」は、1950年に設置された茨城県立内原精神病院を母体に1960年、現在地に開設した「茨城県立友部病院」から2011年4月に名称変更。
 開設当初から、精神科医療の県内の基幹病院として、統合失調症などの精神障害者に対し診断治療から社会復帰までの一貫した医療を提供。精神科救急医療、児童思春期の精神疾患、アルコール・薬物依存症に対する専門医療を行うとともに医療観察法に基づく指定入院患者及び指定通院患者の受入れも行っている。また、民間精神科医療機関等との連携により、身近な地域での精神科受診や身体合併症への対応及び先進医療機器の共同利用など、県全体の精神科医療の質の向上や、精神科医療の実習・研修病院としても、県内看護学校や医師臨床研修の協力病院として医療従事者の養成と医療水準の向上に努めている。
① 病床数:許可537床 運用288床 計7個病棟
② 職員数:全体296人 看護師177人(2016年4月1日現在)
③ 1日平均外来患者数:293.0人(2016年度)
  1日平均入院患者数:234.0人(2016年度)


3. 常総市「関東・東北豪雨災害」でのこころの医療センターの活動

 茨城県保健福祉部障害福祉課より依頼があり、筑波大学と協同で「こころのケアチーム」を立ち上げた。経過は以下の通り。


常総市の被害の様子


 
茨城県つくば保健所に設置された活動拠点本部

9月10日

発災

  11日

県に常総市からこころのケアチームの派遣要請

  12日

県より「こころのケアチーム」への協力要請

  13日

つくば保健所に活動本部設置。
「こころのケアチーム」の各避難所の巡回活動を実施

  18日

常総市役所内「日赤こころのケアチーム」と合同で活動本部を設置
避難所巡回、支援者支援を継続

10月13日

活動本部解散 以後11月26日まで(週1回)夜間巡回を実施

 

(1) こころのケアチーム活動実績
 9月13日~10月13日(筑波大学等含む全体の活動実績)
 派遣チーム数:30チーム  診察人数:127人 医師:12人 看護師:15人 
 精神保健福祉士:12人

(2) 活動内容
○9月14日~17日 
 つくば保健所内にJMAT現地対策本部と合同で活動本部設置
 ・8:00活動本部集合。朝のミーティング(情報収集、活動内容検討)
 ・避難所の担当保健師からニーズを確認し診察が必要な方へ介入
 ・避難者への声掛けや傾聴から診察等必要な方へ支援
 ・16:00活動終了後、夕のミーティング(活動及び今後のニーズの報告、報告書作成)
○9月18日~10月13日 
 常総市役所議会棟内に日赤こころのケアチームと合同で活動本部を設置
 ・日赤チームは支援者支援を担当。県こころのケアチームは引き続き避難所巡回を担当
 ・活動前に市役所内で避難所情報。常総保健所で保健師ミーティングに参加後に活動
 ・活動本部では、市役所内の精神保健担当課より情報収集
 ・10月13日には、周辺医療機関の回復や保健師の派遣等の充実があり活動本部解散
○10月22日~11月26日
 ・常総こころの相談(夜間相談)10月22日~11月27日
 ・常総市の依頼により筑波大学精神医学グループと共に、避難者の多い避難所の夜間巡回を医師と看護師で週1回実施
 ・水海道あすなろの里 毎週木曜18:30~19:30 相談件数:25人
 ・石下総合体育館 毎週金曜19:00~20:00 相談件数:7人
  医師:5人 看護師:5人

4. 熊本地震での県立こころの医療センターの活動内容

熊本県精神保健センターに設置された活動拠点本部

 4月14日夜間に発災。16日にDPAT事務局より各都道府県に派遣依頼が入った。
 4月18日茨城県障害福祉課より当院へ派遣要請が入る。4月から筑波大学災害支援チームの先生方が配置になっていることもあり派遣できると承諾され、災害支援活動に派遣されることになった。経過は以下の通り。


(1) 準備から茨城出発まで

4月18日

茨城県障害福祉課より熊本地震への災害派遣要請

18~19日

・派遣スタッフ及び派遣チーム構成
・東日本大震災、常総市水害等災害時に活動経験のあるスタッフを派遣隊員として選定
・こころの医療センターでは2チーム作成。第1班と第3班を担当した(第2班は筑波大学で担当)
・こころの医療センター総務課は活動に必要とされる物品準備。薬剤課は必要薬品を準備。看護局は今後継続されることを予想し院内で災害時支援研修を実施
・派遣隊員は上記の準備に同行。不足分は筑波大学で借用

  20日

・11:00支援物品を運ぶ陸路と空路に分かれ茨城を出発

(2) 現地活動内容
○21日~25日

21日~23日

・熊本県精神保健センターに設置されている活動拠点本部に到着の報告
・活動拠点本部の役割を任命され、本部活動を実施
・陸路チームも到着と同時に活動開始

24日

・西原地区へ避難所支援活動実施

25日

・活動拠点本部活動

活動拠点本部活動とは、
・割り当てられた活動地域に各県から派遣されるDPATを割振り、活動に支障がないよう情報収集、情報発信する。
・各チームの活動報告からニーズを把握し翌日の派遣計画等を立案
・当日の活動報告をまとめ調整本部に報告(調整本部は熊本県災害対策本部に設置)

○5月3日~7日

5月2日

熊本到着 他県DPATより引継ぎ

3日~7日

各地域避難所巡回及び自宅訪問 総巡回件数36件うち自宅訪問2件
個票【カルテ】作成21件

避難所巡回での支援とは
 各避難所では朝のミーティング後、担当保健師同行で依頼のある避難者の対応をする。相談で終わることもあるが診察となり処方することもある。継続支援が必要となれば引継ぐ。
 また、その場で入院対応が必要となることもある。
自宅訪問
 避難されていた方が自宅へ戻ってしまうことや元々避難されない方もいる。他の支援チームからの紹介で訪問することもある。

○発災から約2ヵ月後の6月17日時点
 延べ1,000隊以上が活動。巡回した避難所数2,580か所、約900件の相談のうち438人(48.7%)が急性ストレス反応への対応。


5. こころの医療センターの役割と課題

○全国の精神科病院は9割が民間病院という現実から、県立唯一の精神科単科の病院として、県内の精神科医療の中心的な役割を担うとされており、茨城県病院事業中期計画の中にも災害医療について以下のように述べられています。
〈課題等〉
・被災地への支援や精神病院入院患者の処遇や心のケアなど、災害発生時における医療支援活動が円滑に行われるよう、人材育成と関係機関との連携体制の強化を図る必要がある。
〈取り組み〉
・災害医療専門研修への職員派遣(2017年度までに10人)
・県保健福祉部や筑波大学附属病院、県内精神科病院との連携強化
(非常時における各機関の役割分担や初動態勢についてルールづくりの検討等)
○DPAT活動は東日本大震災を契機に立ち上がった活動です。平時から訓練やシミュレーションを積み重ねることが、医療に携わる私達に課せられた役割だと強く感じています。また、DPAT体制整備の中で、被災者支援と、もう一方で支援者支援の整備が急務となっていますが、茨城DPATとして、必要性があることは講演や発表されていますが、確立しているとは言えない現状です。しかし、一部のこころのケアチームが支援者支援の取り組みを開始しています。
 こころの医療センターでも、県からの依頼もありDPAT体制整備に向けて動き出したところです。国や県の主催するDPAT研修会への参加を通して、病院内での学習会などを開催し、職員への啓蒙活動も意識していきたい。また、精神科病院だけでなく、消防、地域支援者、そして各自治体の災害対策本部との連携、情報共有が不可欠になります。今後は防災訓練や災害時訓練等への参加も含めて、体制整備に取り組む必要があると思います。

6. まとめ・今後の課題

○常総市の水害、熊本地震、東日本大震災でも、災害時はいつも被災者、避難者のために支援体制の中心は自治体の職員となります。その中では「支援者でもあるが被災者でもある」というケースも多々ありました。東日本大震災被災地のメンタルヘルス対策として、2014年6月に自治労が被災3県自治体職員を対象に実施した、「第2回こころとからだの健康調査」の報告にもあるように、長期にわたる支援では支援する側がかなり追い込まれた状況になり、うつ病やPTSDを患ったという例もあります。
○常総市水害では支援者支援(自治体職員等)として、小さな「お知らせ」を職員間で手渡す形で、ハンドマッサージ、フットマッサージ等を開設・通知していました。利用された方は「休んじゃ悪いと思う」「みんな頑張ってるのに……」とごく少数でした。利用後は「来てよかった」「思いを話せてすっきりした」と話していました。支援を継続するためには、職員も意識的に休息を取ることも必要とされると思います。それは決して悪いことではなく、より良い支援に繋がることと言えます。
 私たち病院局労組こころの医療センター支部は、精神医療に携わる一方、自治体病院で働く職員でもあり、同じ自治労の仲間たちの思いを共有できる役割があると思います。被災者のみならず、支援者側のケアにも目を向けた取り組みや情報などを発信する責務もあると感じています。
 最後に、災害支援活動を円滑に行うためには、平常時において現実的で緊迫度の高い防災訓練を定期的に実施していくことは言うまでもありませんが、自治体職員が常日頃から自己の精神衛生に向き合い、また、各自治体が組織として、支援者としての役割を明確に意識した体制づくりを求めていかなければなりません。