【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 近年、南海トラフ地震が30年以内に60~70%の確率で発生すると言われています。防災体制を整える上で、「公助」よりも、自分の身は自分で守る「自助」、隣近所の方と助け合う「共助」が重要であることは阪神・淡路大震災、東日本大震災の時にも証明されています。本レポートは、「自助・共助」の力を伸ばすための協働による防災意識啓発のあり方について提言するものです。



「協働」による防災意識啓発のあり方について


愛知県本部/小牧市職員組合 長屋 孔之

1. 南海トラフ地震の発生予測とその被害想定について

 近年、海溝型地震として東海地震・東南海地震・南海地震が同時発生する「南海トラフ地震」の発生が危惧されており、文部科学省の地震調査研究推進本部の調査結果によると、マグニチュード8から9クラスの地震発生確率が、30年以内に60~70%程度と示されています。
 愛知県が、2014年5月に公表した「愛知県東海地震・東南海地震・南海地震等被害予測調査」において、「過去地震最大モデル」と「理論上最大想定モデル」の2パターンで被害量の想定結果を公表しています。
 「過去地震最大モデル」は過去に発生した地震で規模が大きいものを重ね合わせたもので、愛知県内で建物被害(全壊)は約94,000棟、人的被害(死者数)は約6,400人を想定しています。
 「理論上最大想定モデル」は1000年に1度あるいはそれ以上に発生頻度の低いものですが、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波の発生を予想したもので、愛知県内で建物被害(全壊)は約382,000棟、人的被害(死者数)は約29,000人と、甚大な被害が発生する可能性があります。そのことを踏まえ、早急に防災対策を進める必要があります。


2. 自助・共助による防災対策の重要性について

 地震に限らず、あらゆる災害に対する防災対策を進める上で、「自助・共助・公助」の3つの柱が重要です。
 「自助」は自分の身は自分で守る、「共助」は地域みんなで協力しあいながらお互いに助け合う、「公助」は行政ができる備えや支援のことを表しています。
 内閣府の2014年に発表した防災白書によると、1995年1月に発生し6,400人以上の死者を出した阪神・淡路大震災においては、倒壊した家屋の中から救助され生き延びることができた方の約8割が、家族や近所にお住まいの方によって救助されており、消防、警察及び自衛隊によって救出された方は約2割であるという調査結果があります。(図表:阪神・淡路大震災における救助の主体と救出者数(内閣府HPより抜粋))
 また、2011年3月に発生した東日本大震災においては、釜石市の小中学生が適切な避難行動をとることにより、大規模な津波災害から全校児童の9割以上が生存することができました。このことは「釜石の奇跡」と呼ばれ、津波災害から身を守るための教訓となっています。
 これらのことを踏まえても、「公助」だけでなく、「自助・共助」が非常に重要であることがわかると思います。


3. 現状の地震災害に対する備えについて

 地震災害に対する現状について、2014年に小牧市が実施した防災アンケート調査結果によると、内閣府が一週間程度の備蓄食料品などの備蓄を推奨していますが、一週間程度以上の備蓄ができている世帯は約15%程度です。家具の転倒防止、窓ガラス飛散防止フィルムなど地震対策を行っている世帯は約11%と、「自助」による防災対策はまだ十分であるとはいえません。
 また、何らかの地域活動に参加している世帯が約37%で、近所づきあいがあいさつをする程度あるいはほとんどない世帯が約43%と、地域の活動に参加しない世帯も増えてきており、地域のつながりが希薄化しています。
 このままでは地域みんなで助け合う「共助」の効果が、実際の災害時でどこまで生かせるかわかりません。


4. 小牧市の防災意識啓発について

① 総合防災訓練
 ⇒市主導でシナリオに沿った劇場型訓練を実施。
② 消火訓練、地震体験車、防災資機材の取扱いなどの基礎訓練
 ⇒各自主防災会で実施する訓練会で、消防職員や危機管理課職員による説明や機器取扱訓練を実施。
③ 市の防災体制の講演
 ⇒各ボランティア団体等が実施する研修会などで職員が市の防災体制について講演を実施。 など
 いずれも職員が主導で実施するあるいは参加者が見るだけ聞くだけのものになってしまっています。訓練方法や内容の見直しなどは別途進めているところですが、行政の力だけでの防災意識啓発には限界があります。
 また、各自主防災会の基礎訓練についても、毎年同じことをやってきており、マンネリ化してきているといった声もあります。「自助・共助」の意識を向上させるには、何か新しい取り組みを行う必要が出てきました。

5. 協働による防災意識啓発について

 これらの問題点を踏まえ、小牧市は市のボランティア団体である「小牧防災リーダー会」と協働で2013年から「防災・減災教育支援事業」を行っています。この事業は、小牧市と小牧防災リーダー会が協働の理念に基づく委託契約を締結し、小中学校や自主防災会、地域の団体などを対象に、住民が主役となって考える実践型の講座を実施するものです。
① 避難所運営ゲーム(HUG)
 避難者をカードに見立てて、紙に置き換えた体育館や教室などの学校施設においてどのように配置していくか、どのように問題を解決していくかということを具体的に検討することで、実際の避難所運営を体験することができるゲームです。


【実際のHUGの様子Ⅰ】
 実際に避難してくる方のカードのサイズは、体育館などの避難所で1人あたりのスペースとされている2㎡(1m×2m)を縮小したものとなっています。


【実際のHUGの様子Ⅱ】
 そのカードには避難者の方の困りごとやルールなどが記載されており、その要望をどのようにして解決していくかを議論することになります。

 

② 災害図上訓練(DIG)
 参加者が実際にお住まいになっている地域の地図を使用して、グループごとで災害の危険箇所の確認を行ったり安全な場所や避難所を探してみたりしながら、災害に対するスローガンを決めていただきます。


【実際のDIGの様子Ⅰ】
 地図上に想定した災害が起こった際に、どのような危険があるか議論しています。
 メイン道路をオレンジ色で塗ったり、危険そうな箇所を赤色で塗ったりと色分けを行い、視覚的に自分たちの地域がどのような特性を持っているのか把握します。


【実際のDIGの様子Ⅱ】
 それらのことを踏まえ、グループごとで行える対策や行動を話し合い、グループが災害に備えてできることや災害が起こったらどうするかなどのスローガンを決め、グループ発表を行います。


③ 家具固定講座
 地震災害時に家具が転倒することによるケガを未然に防ぐため、食器棚やタンスなどを壁に固定する方法をお教えします。

【実際の家具固定講座の様子】
 講義形式のものだけでなく、実際にインパクトドライバーなどを使用して、L字フックの止め方やポイントをお教えします。


 この他にも講座はあり、地域の実情や要望によって柔軟に対応しています。
 講座は、年20回の開催を目標にしており、2015年度は目標の回数を上回る24回の実績があり、延べ1,500人以上の方が講座を受講されました。これは前年度に比べて約500人程度多い受講人数となります。
 また、小牧市は「小牧市防災ガイドブック」という冊子を作成し、2016年4月に全戸配布しました。この冊子は、内水氾濫による浸水想定区域や地震による震度予測や被害想定、災害に対する備えの啓発、避難所の明示などをしているものです。
 せっかくこのような冊子を作成しましたので、もっと市民の皆さんに知っていただき活用してもらうため、講座を開催する折にこの「小牧市防災ガイドブック」を積極的にPRしていくように小牧防災リーダー会に依頼をしました。
 行政の力だけでの防災意識の啓発活動には限界があり、民間のボランティア団体の力を借りながらこのような講座やPR活動を進めていくことは、双方にとってメリットがあり、協働の理想的な形の一つと言えます。


6. 課 題

① リーダーシップを発揮する役員の方に頼りきりであること。
② 受講できる講座数の限界。
③ 若い子育て世代を十分に巻き込みきれていないこと。
④ 小牧防災リーダー会の会員数の伸び悩み。
⑤ 短期間で劇的に効果のあるものではないこと。

7. まとめ

 行政と民間が手を取り合ってこれらの活動を実践していくことで、行政の負担を軽減しつつ民間のノウハウによる効果的な講座・PRを実施することが可能となります。そうすることで、防災対策の現状と課題が把握でき、市民が自分の身は自分で守るという「自助」の意識付けによる防災意識の向上に繋げていきます。
 また、地域の防災訓練を変えるきっかけに繋がり、地域の交流を深め、地域の輪を広げていくこと、いざというときはご近所の力を借りてお互いに助け合うという「共助」の力を伸ばしていくことをめざして、災害に強い小牧市をめざしていきます。