【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 離島(尾道市百島町)における「大規模災害時の緊急防災対応」について~2012年に島民のひとりが声をあげ、島内に自主防災会を結成、島内の防災意識の向上を図るなか、救護活動や救援物資の迅速な対応が可能であるヘリポートの建設が喫緊の課題となった。このヘリポート建設に至る島民・行政・アートベース百島など地元住民の思いが形となった「協働のまちづくりによる防災対策」の経過と今後の対応について。



尾道市百島町における防災対策について


広島県本部/尾道市職員労働組合 村上  力

1. はじめに

 尾道市百島町は、人口500人程の瀬戸内海に浮かぶ離島です。島と本土を結ぶ航路は1航路のみであり、フェリーと高速船が交互に運行されている状況です。そのため、緊急を要する場合は救急艇で搬送することになりますが、大規模災害時に岸壁等が被災した場合などは使用できないことが懸念されていました。
 そんな中、2012年に島民のひとりが声をあげ、島内に自主防災会(以下、「防災会」という。)を結成しました。結成後は、離島という観点から火災時の備えのためにも初期消火が大事であることから、火災訓練なども開催し島内の防災意識の向上に努めました。
 島内の防災意識が徐々に高まる中、防災会でも大規模災害時の対応に必要な施設が必要であることが議論されるようになり、救護活動や救援物資の迅速な対応が可能であるヘリポートの建設が喫緊の課題となりました。


2. 課題解決の取り組み

 以前、ヘリポート建設の機運が高まった際に適地として選定していた場所がありましたが、東日本大震災後の自然エネルギーへの急激な政策転換により、太陽光パネルが設置され、現在は使用できない状況になっています。
 また、林野火災時に一時的に使用した旧百島中学校のグランドでは、グランド南西に位置する民家へのダウンウォッシュの影響が大きかったため、適地にならないことも判明しました。
 そんな状況を受け、2013年8月から防災会で適地の選定を開始し2014年3月には島民所有の耕作放棄地を選定しました。その後、地権者への説明・同意書への承諾を得るなどの手続きを行いました。土地については、防災と地権者との間で20年間の無償貸与の覚書を結ぶこととし、維持管理についても防災会で行うこととしました。同月内には尾道市消防局から広島県防災航空センターに対し、ヘリポートの適地候補があることを伝達し、同年7月には広島県防災航空センターによる現地調査を行い、実際に使用可能かどうかの判定を行いました。
 判定では離着陸可能であるが、耕作放棄地であったため周辺の雑草除去や木の伐採をする必要があるとの助言を受けました。

 
ヘリポート選定地(耕作放棄地)   防災会による伐採等の作業完了状況
         
 
防災会による伐採等の作業状況   2014年11月開催の防災訓練

 それを受け、同月中には防災会のメンバーで木の伐採等の作業を終了しました。
 また、伐採等終了後には尾道市消防局から広島県消防保安課に対しヘリコプター離着陸適地場所に申請を行いました。同年10月、再度防災会による伐採等の作業を行いより広い場所を整備しました。同年11月には申請が受理され、ヘリコプター離着陸場所の適地となりました。その後、広島県防災ヘリコプターと防災会による防災訓練も実施しました。


3. 施設整備後の再課題への取り組み

 2014年11月に行った防災訓練により新たな課題も発見しました。その課題は、ヘリコプター離着陸場所が以前田んぼだったため、防災訓練時にヘリコプターの重量に耐えきれず地面が大きく凹んだことです。また、防災会も高齢者が多く今後の維持管理について不安もあることから、行政に対しコンクリート舗装によるヘリポートの建設を要望しました。
 尾道市も防災会からの意見を踏まえ、迅速な対応を行いました。2015年3月には吹き流し等を設置し、ヘリコプターが安全に運航できる体制を構築しました。同年6月には、尾道市も地権者と使用賃貸契約を締結し、地権者の固定資産税の減免措置や当該地の農地転用申請を行いました。
 そして、ついに待望の工事が2015年10月から開始しました。工事にあたっては島民等の意見も反映し、百島の景観にも配慮するため、離着陸周辺に芝を張ることとしました。また、その通路部分にも「百島」という名称を塗装することとし、デザインについては「アートベース百島」のご協力をいただくこととなりました。
 芝の設置については、防災会・小学生・アートベース百島や行政から70人を超える方がボランティアで参加しました。設置方法は、ヘリコプターのダウンウォッシュに対応するため、芝1枚(30㎝×30㎝四方)に対し4本の木串で固定を行いました。約3時間の作業で約400m2(約4,400枚)の芝を張ることができ、念願のヘリポートが完成しました。

 
多くの島民による芝張り状況①    小学生や先生による芝張り状況②
         
島民・行政・アートベース百島の人たちによって完成した百島ヘリポート(全景)


4. おわりに

 百島ヘリポートは、島民、行政、アートベース百島など多くの人びとの手によって2015年12月11日に完成しました。同年12月13日には、お披露目を兼ね島民・防災会・防災機関の関係者約340人の出席のもと2015年度百島防災訓練が開催されました。県内にある3機の防災ヘリコプター(消防・警察・海上保安庁)が参加する大規模なものとなりました。
 最後に、これら一連の取り組みは、行政主体ではなく地元住民の思いが形となった良い例ではないでしょうか。今後とも、協働のまちづくりによる防災対策が多くの地区で実施されるように、行政もアンテナを立て住民の思いに応える姿勢が必要であると思います。

 
2015年度百島防災訓練(開会式)   2015年度百島防災訓練(炊出訓練)
         
 
2015年度百島防災訓練(着陸状況)   2015年度百島防災訓練(搬送状況)