【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第4分科会 安全な場所・逃げる場所ってどこなの? ~防災を知ろう~

 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)」の報告書から原子力防災にかかる主な課題を抽出し、自治労島根県本部・地方自治研究会がこの間行った島根県や関係自治体、医療・介護施設関係者への聞き取り調査、2014年6月7日関係者を交え開催した「原子力防災を考える講演会」の取り組みなどを踏まえ、「島根県における原子力防災の現状と課題」を整理した。



島根県における原子力防災の現状と課題


島根県本部/地方自治研究会

【ポイント】
○福島第一原発事故を受け、シビアアクシデント対策が必須化されるとともに、原子力災害時の国・地方自治体、事業者等の役割分担が明確化された。県庁所在地に原発が立地し、30キロ圏域に約40万人が居住する島根県において、大規模複合災害に対応する組織や人材、体制整備が急務となっている。
○「原子力災害対策指針」において、広域避難を想定した避難の枠組みが明確化され、適切な避難の前提として緊急時モニタリングが位置づけられた。的確な情報把握やそれに基づく住民への適切な情報提供などが図られるのか。その運用も含めた対応強化が必要である。
○県やPAZ・UPZ各市では、防災・避難計画が策定されているが、病院・介護施設等の計画策定は遅れている。また、実効性確保には多くの課題があり、今後実践的な防災訓練の実施などを踏まえ、法令・計画・マニュアルの検証や見直しに積極的に取り組む必要がある。
○安倍政権は、「原発再稼動と防災・避難計画は法的に別」と位置づけ、原発再稼働に前のめりだが、納得できるものではない。政府及び県・関係市の再稼働の是非判断に当たっては、万全の防災・避難対策が図られることが大前提であることを訴える。

はじめに

① 3・11福島第一原発事故から3年余り。周辺30キロ超に松江市・出雲市を合わせたほどの広大な避難区域が設定され、今なお13万人もの方々が故郷に帰れない状況が続いている。今回の事故で放出されたセシウム137は、ヒロシマ型原爆168個分。避難者の帰還には長い年月が必要と考えられる。
② 福島事故は、大量生産・大量消費の20世紀型社会・経済のありように深い反省を迫っており、従来国とともに原子力政策を推進してきた福島県議会は一転、県内の原発すべてを廃炉とする「脱原発」方針を決議している。
③ 一方、安倍政権は2014年4月、原子力を「重要なベースロード電源」と位置づけるエネルギー基本計画を閣議決定。「世界最高水準の新規制基準をクリアし、地元合意の得られた原発は再稼働させる」としており、民主党政権時の「2030年代『原発ゼロ』」との方針は大きく方向転換された。
④ 現在全国48基の全原発が停止中だが、原子力事業者は、相次いで原子力規制委員会に適合性審査を申請し、再稼働に向けた動きが進みつつある。今後、政府のエネルギー政策の方向性や新規制基準の妥当性の検証とともに「地元合意」及びその前提となる「防災・避難対策」が大きなポイントとなる。
⑤ 原発サイト内には、使用済み核燃料など大量の放射性物質が現に存在しており、再稼働の有無にかかわらず、潜在的な危険性を常に内包している。オンサイトの安全・防災対策は事業者の責務である一方、万が一の際のオフサイトの防災・避難対策は、政府及び地方自治体の責務とされた。取り分け、住民の生命・財産に直接責任を負う地方自治体の責任は極めて大きい。
⑥ 島根県及び「緊急防護措置準備区域(UPZ)」内の松江市・安来市・雲南市・出雲市では、国が示した「防災基本計画」「原子力災害対策指針」等を踏まえ、「地域防災計画」「避難計画」を策定したが、果たしてどの程度実効性あるものとなっているのだろうか!?
⑦ 本稿では、「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)」の報告書から原子力防災にかかる主な課題を抽出。自治労島根県本部・地方自治研究会がこの間行った島根県や関係自治体、医療・介護施設関係者への聞き取り調査、2014年6月7日関係者を交え開催した「原子力防災を考える講演会」の取り組みなどを踏まえ、「島根県における原子力防災の現状と課題」を整理した。

1. 防災体制の整備

(1) 防災対策における役割分担の明確化
 国会事故調は、福島第一原発事故を踏まえ、安全確保や防災対策における事業者、国・地方自治体、政治等の役割分担の明確化を求めた。新たに策定された「原子力災害対策指針」では、オンサイト(発電所内)の運転・管理における安全確保や防災対策は第一義的に原子力事業者に任せ、放射性物質放出に伴うオフサイト(発電所外)の対応措置は、政府や地方自治体が中心となり実施することが明記された。

防災・避難対策は、政府及び地方自治体の責任とされたことで、政府及び地方自治体は、「再稼働の是非」を決める際の重要な判断要素となる防災・避難対策を自らの責任で確保する必要に迫られることとなった。
 しかし、政府はこの点、「防災・避難対策は再稼働の要件ではなく、法的には別問題」と責任を放棄する立場をとっている。

(2) 危機管理能力・専門能力の向上
 国会事故調は、政府及び地方自治体の職員が平常時から緊急時を見据えた「危機意識」を持つこと、訓練によって「危機管理能力」を培うこと、緊急時に即応できる「専門家の配置や教育・訓練」を急ぐことを求めた。2012年9月、独立した第三者機関である原子力規制委員会が発足し、その事務局には、環境省の外局として原子力規制庁が置かれた。

⇒島根県は福島事故後の2011年8月、「原子力安全対策室」を「課」に昇格させるとともに、新たに「避難対策室」を設置。現在は、課全体で事故前の2倍以上の人員体制になっている。松江市では新たに「原子力安全対策課」を設置。「緊急防護措置準備区域(UPZ)」内各市でも危機管理セクションの人員・体制の拡充が図られつつあるが、特に専門性を持った職員確保などの課題を抱えている。

(3) 実効性ある安全協定の締結と運用

⇒島根県と立地する松江市は、かねてから中国電力と原子炉設置変更許可申請の「事前了解」等を盛り込んだ「安全協定」を締結している。一方、福島原発事故を受け、UPZとなった安来市・雲南市・出雲市も同様の協定締結を中国電力に求めているが、事前了解・立ち入り検査・措置要求の3点がない「情報連絡協定」にとどまっている。全国的にも、防護区域拡大に伴う「安全協定」締結は進んでいないが、3市は引き続き松江市と同様の協定締結を求めており、さらに実効性ある協定とすることが必要である。

(4) 大規模複合災害への備え
① 政府・地方自治体には従来、地震・津波と原子力災害の同時発生という複合災害に備えた防災体制がなく、福島第一原発事故では、モニタリングポストの倒壊や電源喪失、通信途絶などにより、必要な情報が入手できない状態であった。
② 国会事故調は、災害時連絡回線として、衛星通信システム、市町村防災行政無線・J-ARERTなど多様な通信回線間の相互乗り入れや共有化、非常用電源設備の耐震性確保、通信途絶時を想定した重要通信の確保、被災状況をヘリコプターや固定カメラ等で収集し、迅速かつ的確に原子力災害対策本部に伝送する画像伝送システムの構築などを指摘している。

⇒島根原発におけるモニタリングポストからのデータ伝達については、自立電源確保やデータ送信の二重化(防災無線・FOMA)などハード面の備えは強化されつつある。現実の運用でどう効果を発揮できるのか、防災訓練の積み上げなどで検証していく必要がある。

(5) オフサイトセンターの機能確保
 オフサイトセンターは、放射線防護対策がとられておらず、地震により非常用発電機が故障、福島第一原発から5kmの避難区域で孤立し燃料や食料確保が困難となり、撤退を余儀なくされた。この反省を踏まえ、センターを原子力サイトから5km以上30km未満に設置する距離基準がガイドラインで定められ、放射線防護対策を行うこととされた。

⇒原子力災害時に現地対策本部が置かれるオフサイトセンター及び防災拠点となる島根県庁は、島根原発から8.5キロに位置。この代替えとして、原発の西28キロに位置する出雲合庁が指定され、2013年度オフサイトセンターとともに放射線防護対策工事が終了。2014年度、県庁の防護対策が行われる予定となっている。

2. 防護措置の実効性確保

(1) 避難のための基準明確化
① 福島原発事故では、電源喪失により「緊急時対策支援システム(ERSS)」の放出源情報が得られず、確実性の低い「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」による予測計算は避難指示に役立たなかった。国会事故調は、あらかじめ決められた避難基準に基づき、迅速かつ確実な住民の避難・退避が可能となる防護対策の構築を求めた。

② 「原子力災害対策指針」では、原子力災害対策重点区域として、(ア)新たに5キロ圏域を目安とする「予防的防護措置準備区域(PAZ)」、(イ)30キロ圏域を目安とする「緊急防護措置準備区域(UPZ)」が明示された。なお、「プルーム通過時の被ばく防護措置区域(PPA)」の導入が検討されている。
③ 緊急事態区分として、(ア)災害時要援護者等の避難等の防護措置の準備を開始する「警戒事態」(震度6弱以上の地震、大津波警報発令等)、(イ)PAZ内の全ての住民等を対象とした避難等の予防的防護措置を準備する「施設敷地緊急事態」(全交流電源喪失30分以上、原発境界付近の放射線量5μSv以上検出等)、(ウ)PAZ内の全ての住民等を対象に避難や安定ヨウ素剤の服用等の予防的防護措置を講じる「全面緊急事態」(全交流電源喪失1時間以上、原発境界付近の放射線量5μSv以上検出(10分又は2地点以上)等)が定められた。
④ 防護措置の実施を判断する基準である運用上の介入レベル(OIL)は、(ア)避難等を実施するOIL1が500μSv/h(日換算12mSv)、(イ)生産物の摂取を制限し1週間以内に一時移転するOIL2が20μSv/h(日換算0.48mSv)とされた。

【参考】世界各国の避難基準レベル(※屋内退避)
米国10~50mSv(※10mSv)※24時間被ばく線量
英国30~300mSv(※3~30mSv)※24時間被ばく線量
フランス50mSv(※10mSv)※24時間被ばく線量
ドイツ100mSv(※10mSv)※1週間被ばく線量

⇒防護措置の実施を判断する運用上の介入レベル(OIL)は、世界各国の基準レベルとほぼ同等である。しかし、福島事故を機に、低線量被ばくの影響について懸念が広がっており、OILレベルが適切かどうかについては、今後さらに科学的知見の蓄積が必要である。

<事故の状況と避難指示等>

〈放射性物質の放出前〉
 ○ 警戒事態(EAL1)施設敷地緊急事態要避難者の避難準備等
 ○ 施設敷地緊急事態施設敷地緊急事態要避難者の避難等
   (EAL2)
 ○ 全面緊急事態PAZ内の住民避難、UPZ内の屋内退避
   (EAL3)プラントの状況悪化 ⇒ UPZ内の段階的避難

〈放射性物質放出後の避難〉
 緊急時モニタリングの結果に基づいて避難
 ○ OIL1 数時間内に区域を特定し、避難を実施
  (500μSv/h)
 ○ OIL2 1日内を目途に区域を特定し、1週間程度内に一時移転を実施
  ( 20μSv/h)


⇒避難対象となるUPZ内には、島根県で約40万人、鳥取県では約7万人が居住している。県内の学校施設等では10万人程度しか収容できないため、残る約30万人については、広島・岡山県各市町村への避難を想定。UPZ内の松江・安来・雲南・出雲各市では、公民館区毎の広域避難先のマッチングを既に終了し、各戸配布のパンフレット等を作成して住民広報をスタートさせている。

(2) 原子力災害特有の広域避難への備え
① 地方自治体は、「地域防災計画(原子力災害対策編)」「避難計画」を策定する必要があるが、避難が県境をまたがる場合等の移動手段の確保やマッチングなど、地方自治体のみでは解決困難な場合もあり、国の積極的な関与が必要となる。
② 島根県が5月末に発表した原子力災害時の避難時間推計では、47万人(18万2千世帯※鳥取県民含む)が30キロ圏外に避難するには、PAZを優先する「段階的避難」で27時間50分、「一斉避難」で21時間45分かかると推計された。
③ 島根県では、病院や社会福祉施設、学校、保育所などの避難計画の作成マニュアルをつくり、計画づくりを支援している。

<原子力災害時の避難時間推計>

〈目的〉
 ○ 広域避難計画の実効性を高めるため、国や関係自治体と課題を検討
 ○ この検討を行う際の参考とするために実施
〈主な推計条件〉
 ○ 対象人口 470,745人(世帯数:約18万2千世帯)
 ○ 車両台数 約18万9千台(自家用車:約188,500台、バス:450台)
〈避難時間〉
 ○ 段階的避難 27時間50分(移動時間の平均:5時間20分)
 ○ 一斉避難 21時間45分(移動時間の平均:16時間00分)
〈今後の対応〉
 ○ 長時間継続する渋滞箇所の緩和策の検討
 ○ 冷静な行動の大切さについての周知、住民理解の促進

⇒県及び松江・安来・雲南・出雲各市全てが「地域防災計画(原子力災害対策編)」「避難計画」を策定済みだが、住民参加の防災訓練の実施を含め、実効性の検証・向上を図る必要がある。

⇒6月7日の「原子力防災を考える講演会」において環境経済研究所の上岡直見代表は、「準備時間、除染・スクリーニング時間、避難確認時間などが考慮されておらず、災害時の混乱を考えるとさらに時間を要する」「段階的避難や自動車の乗り合わせは疑問」「早く逃げることが重要なのではなく、いかに被曝しないのかが重要」「1週間100mSvの被ばくを許容する国の基準は問題」「行政は、適切な情報提供(5W1H)に努めることが必要だが、専門知識の面で心もとない」などの課題を指摘している。

(3) 緊急時モニタリング体制の整備
① 福島原発事故では、モニタリングポストのほとんどが地震・津波の影響で使用不能となり、初動段階のモニタリングデータは得られなかった。国会事故調は、放射性物質の飛散状況を予測し、被災拡大を抑制するための解析ツール及び原子力災害対策重点区域の広域化に伴う緊急時モニタリングの体制整備を求めている。
② 緊急時モニタリングは、「原子力災害対策指針」において、国が統括しデータ収集と公表を行うこと、原発立地地域に緊急時モニタリングセンター(国、地方自治体、原子力事業者、関係指定公共機関の要員で構成)の体制を準備すること、地方自治体はあらかじめ緊急時モニタリング計画を作成すること、モニタリング設備や機器整備に当たっては、自然災害への頑強性に配慮すること、緊急時においては、国は緊急時モニタリング計画を参照し、直ちに緊急時モニタリング実施計画を策定すること、が規定された。

⇒島根では、福島事故以来、それまでの固定局11局体制を24局体制とし、可搬用ポスト11基の常設配備により合計35か所で観測を行い、県のホームページ等でリアルタイムの公表を行っている。警戒事態にはさらに18地点で観測するともに、事故の状況に応じ、県が保有する35基の可搬ポストを追加する予定。現在、このモニタリングに基づく避難基準を定めるべく国と協議中

<緊急時モニタリング体制>
モニタリングポスト配置計画(初動)
平常時:35カ所、警戒事態:+18カ所、(進展に応じて:+35カ所)

(4) 自力避難困難者の避難支援
① 「地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(県分)」では、病院や社会福祉施設の管理者は、避難経路、避難時における医療の維持方法等をまとめた避難計画を作成すること、県は国の協力の下、医師会等と連携し、入院患者の移転先の調整方法をあらかじめ定めること、原子力災害時に、県内の医療機関では定員に対処できない場合、県は関係周辺都道府県及び国に対し、受け入れを要請することなどを規定している。

⇒島根県のUPZ内には、27の病院、280の入所系社会福祉施設があり、病床数・入所定員は、併せて約1万4,800にのぼる。この内避難計画を策定済みなのは、病院24箇所、社会福祉施設141箇所にとどまっている(病院:2014年7月現在、社会福祉施設:2014年4月現在)。
各施設の避難計画は、電気・水道・ガス・交通などのライフラインが健全に確保されていることが前提であり、複合災害時の停電・通行止めなどが考慮されていないこと、玄関口から先の入院患者や入所者の搬送手段(救急車やストレッチャー、福祉車両など)の確保が行政の対応とされ具体化していないことなど、実効性確保には多くの疑問が残っている

⇒病院・社会福祉施設の入院患者等の移転先については、「施設毎の事前調整は困難(島根県)」とされ、受け入れ可能施設の確保や受け入れ手続きの調整等が進められつつある。

② 島根県の見解(2014年7月18日回答)
 病院の入院患者の受け入れ先は、患者の症状や病態を考慮して個別に選定されるもの。
 UPZ外の県内医療機関及び県外の医療機関における受け入れについては、総論的な理解を得ている状況であり、具体的な調整方法についても、県外医療機関との調整体制について合意している。今後、より円滑な受入れ調整を可能とするため、受入可能地域の拡大や受入調整手続きの詳細の確認などを行うこととしている。
 社会福祉施設については、一次避難先となる広域福祉避難所は既に確保済み。避難が長期化した場合の二次避難先は、避難先施設の受け入れ人数が限られることから、入所者や家族などの意向をききながら避難先を選定する。従って、前もって二次避難先を施設ごとに選定するのは困難であり、現在受入可能な社会福祉施設等を確保する仕組みづくりを行っている。

避難行動要支援者については、災害対策基本法により2014年4月1日から名簿の作成が各市町村に義務づけられ、現在各市町村で作成に向けて取り組みつつあるところだが、制度の過渡期であり、依然個人情報の取り扱いの壁に直面し十分ではない。なお、作成までの間は、既存の災害時要援護者名簿などで対応することになる。

(5) 病院・介護施設等の放射能防護対策
 「原子力災害対策指針」では、避難が遅れた住民や病院・介護施設等で早期の避難が困難な住民が一時退避できる施設となるよう、病院、介護施設、学校、公民館等に気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくべきとの規定が設けられた。政府は、2012年度及び2013年度補正予算で原子力災害対策施設等整備費補助金を設け、原子力防災対策区域内の要援護施設及び公共施設(公民館、病院や学校の体育館)での対策を支援している。

⇒島根県では、2012年度補正予算でPAZ内の鹿島病院・あとむ苑・東部島根福祉センター・ゆうなぎ苑で放射線防護対策(国費100%)を実施。2013年度補正予算では10キロ圏域内16施設で計画しているが、最も入院患者の多い松江赤十字病院の対応は現段階未定。「指針」が想定している公民館、学校等での対応は現状行われていない

病院・社会福祉施設の避難計画の作成(島根県広域避難計画抜粋)
避難計画作成の目的
 原子力災害時に、入院患者及び社会福祉施設入所者等が安全かつ円滑に避難できるよう、各社会福祉施設、病院が、災害時等に必要な対応をあらかじめ定める避難計画を策定する。
避難計画作成ガイドラインの作成
 各病院、社会福祉施設で避難計画の作成が進むよう、島根県で「避難計画作成ガイドライン」を作成し、支援している。
病院・社会福祉施設の放射線防護対策の実施
 安全に屋内退避ができるよう、放射性物質を建物内に流入させないための対策を実施
(2013年度:4施設、2014年度:16施設を計画)

(6) 安定ヨウ素剤の予防服用体制の整備
① 「原子力災害対策指針」で、安定ヨウ素剤の予防服用体制が明確にされた。PAZ内においては、地方自治体は医師による説明の下、安定ヨウ素剤を事前配布すること、全面緊急事態に至った時点で、原子力災害対策本部または地方自治体は直ちに避難と安定ヨウ素剤の服用指示を出すこと、住民はその指示に従い安定ヨウ素剤を服用することが規定された。
② 安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児とその保護者等は、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない「施設敷地緊急事態」において優先的に避難すること、などが規定された。
③ PAZ外においては、地方自治体は、緊急時に備え安定ヨウ素剤を備蓄すること、全面緊急事態に至った後に、原子力施設の状況や空間放射線量率等に応じて、避難や屋内退避等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について、原子力規制委員会が必要性を判断し、原子力災害対策本部または地方自治体が指示を出すこと、などが規定された。

⇒安定ヨウ素剤の服用については、説明する医師や薬剤師の確保、医療機関での配布手続き、期限切れ薬剤の更新、年齢に応じた服用量や転入・転出時の扱いなど配布方法や配布後の管理が課題であり、現在関係市や医療機関、医師会、住民代表等が参加した「ヨウ素剤配布検討委員会」を島根県が設置しており、今年度中の配布開始をめざし検討中

<安定ヨウ素剤の配布>

〈安定ヨウ素剤の配布〉
 ○ PAZ事前に各戸配布
 ○ PAZ外避難に併せて服用ができる体制を整備、特定の地域等において地方公共団体が事前配布が必要とする場合は、事前配布が可能
〈島根県の対応〉
 ○ 保管数量丸薬:769,000錠、散薬:8,100g
 ○ 「安定ヨウ素剤の配布・服用に関する検討委員会」を設置し、具体的な対応方針を検討
 (検討内容)① 事前配布の範囲、対象者の決定
 ② 配布に関与する医師や薬剤師の確保
 ③ 医療機関での配布方法
 ④ 配布後の管理

(7) 実践的な防災訓練の実施
① 従来の原子力防災訓練においては、シビアアクシデントや複合災害が想定されておらず、福島原発事故では、過去の防災訓練の経験が福島原発事故で役立ったと述べる地方自治体関係者や住民は皆無に近かった。このため、国会事故調は、PAZや20キロ圏、30キロ圏の避難区域を想定した防災訓練を行い住民に周知徹底すること、避難区域に病院や介護施設が存在することを前提とした訓練を行うこと、安定ヨウ素剤の服用について、訓練等を通じ緊急時の不手際が発生しないようにすること、などを求めている。
② 防災基本計画では、国、地方自治体、原子力事業者の訓練に当たっては、大規模な自然災害等との複合災害や重大事故等原子力緊急事態を具体的に想定した詳細なシナリオに基づくよう規定された。

⇒島根県は、一部ではあるが住民参加の防災訓練をこれまで取り入れてきており、この点は評価できる。しかし、あらかじめ想定された事故の範囲や風向き・風速などのマニュアルどおりに進展・収束する机上訓練の域を出ず、実効性の担保がない点が厳しく指摘されてきている。今後、福島原発事故の反省を踏まえ、シビアアクシデントの進展に即したシナリオや現実の気象条件、様々な時間帯設定などによる実践的な訓練を行いながら課題をあぶり出し、その一つ一つに対応することで実効性を高めていくしかないと考えられる。

終わりに

① 福島原発事故後クローズアップされた原子力防災・避難体制の構築は、ようやく一歩を踏み出したばかりである。国レベルでは、原子力規制委員会の緊急時対応能力の向上、大規模複合災害に対応可能な組織整備等多くの課題が残されている他、「原子力災害対策指針」についても、OIL設定のあり方等、なお検討すべき課題があると考えられる。
② 政府の原子力災害対策マニュアルは、継続的な改定・改善の途中段階である。
 また、そもそも原子力防災・避難について、最終責任者たるべき政府が、その姿勢を明確にしていない。この現状で、原発立地地域における地域防災計画(原子力災害対策編)や避難計画が策定されたとしても、適切な住民避難を保証できる状況にはない。
③ 避難の実効性を高めるためには、実際に近い形で地域住民が参加した避難訓練を繰り返し、関連する法令、計画、マニュアル等の整合性や実現可能性を検証することが必要である。
④ また、これらの防護対策は、法令上原発再稼働の要件とはされていないが、IAEA(国際原子力機関)が提唱する深層防護の第5層に当たるものであり、事故が発生した場合に放出される放射線の影響を緩和し、公衆に健康障害が生じることを回避する上で最後の対応手段となる重要なものである。
⑤ 全国12原子力発電所の19基について、原子力規制庁の新規制基準への適合性確認申請が行われており、この内、九州電力川内原発の適合性確認が終了する運びとなった。今後原発再稼働の動きが加速されると見込まれるが、政府及び地方自治体が再稼働の是非を最終的に判断するに当たっては、その大前提として、万全の防災・避難対策が必要であることを指摘し、結びとしたい。