【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 前橋市では、2014年2月25日、市民を無料招待した映画「魔女の宅急便」の特別試写会を実施した。このレポートでは、試写会を行った経緯と、試写会がもたらした効果について検証したい。



映像から考える効果

群馬県本部/前橋市役所職員労働組合・マジョタクPJ
高瀬 大輔・徳野 裕一・茂木  勇・飯塚 弘一

魔女の宅急便の概要

 魔女の宅急便はいわずと知れた角野栄子原作の児童文学で、1985年発表された。1989年にスタジオジブリの宮崎駿監督によってアニメ映画化されたことで有名なため、宮崎監督のオリジナルと思われがちだが、実はそうではない。作品の内容としては、主人公の魔女「キキ」の成長が描かれていて、合計6作の長編小説である。


映画「魔女の宅急便」

 一方、映画「魔女の宅急便」は、2014年3月1日から東映の配給により281スクリーンで全国ロードショーされた。主演は小芝風花で、宮沢りえや浅野忠信、尾野真知子などが脇を固めている。宮崎駿監督のアニメが有名なだけに、アニメの実写化と思われがちだが、あくまで原作の実写化である。監督は、ホラー映画の「呪怨」で名高い清水崇監督で、香川県小豆島が主なロケ地として撮影が行われた。映画の興行としては、初週2日間興行収入1億2,766万円で動員ランキング3位。同時期に「土竜の唄」、公開の後半では「アナと雪の女王」などの話題作が上映された中では、健闘した作品だといえる。この作品の清水崇監督が実は前橋出身であるのだが、そのことを知る人は少なかった。


清水崇監督の略歴

・1972年7月27日前橋市生まれ
・群馬県立中央高校卒、近畿大学中退
・同じく前橋市出身の小栗康平監督作品の「眠る男」で映画製作の世界へ
・1998年テレビ「学校の怪談G」の中の2作品でドラマ監督デビュー
・2001年「富江re-birth」で映画監督デビュー
・2003年「呪怨」公開
・2004年「The Grudge」で2週連続全米興行成績第1位(日本人初)


作品と前橋市との関わり

 2013年11月、若手組合員で構成する任意団体から「地元出身の清水監督を呼んで講演などで話を聞いてみたい」との意見が出た。監督にアポイントメントをとると、「自分はただ映画を作っている人間であるだけなので、講演をするなどという偉そうなことはできない。特別郷土愛があるわけでもない。しかし、今度映画『魔女の宅急便』が上映予定なので、それとリンクさせ、上映会などとセットにできたら面白いと思うし、それなら自分としても納得できる」との回答であった。


映画館・配給会社との交渉

○映画館との交渉
 清水監督の意向を受け、今回のメンバー4人で前橋の映画館であるユナイテッド・シネマ前橋に出向き、映画館と交渉を行った。支配人は、映画「魔女の宅急便」は上映予定であるが、配給された作品を上映する以外の権限はない。配給元と交渉してほしいとの回答であり、配給会社である東映の群馬の営業担当者を紹介された。なお、この時点では任意活動なので4人は有給休暇を取得し活動していた。
○配給会社との交渉1
 ユナイテッド・シネマ前橋からの情報により、東映と交渉を行った。映画と監督をリンクさせるとなると、試写会や先行上映会という形があるが、現在大都市とロケ地以外で試写会をする予定はなく、前橋市で開催する予定は全くない。企画書を提出してもらえれば検討はするとの回答であった。


企画書の概要

 配給会社とその後交渉するにあたり、下記のとおり企画書を定め、東映に対して提出した。
・試写会の場所:ユナイテッド・シネマ前橋
・実施規模:150人程度のスクリーンを確保し、公募をかける。市民限定で100人程度(無料)。その残りを監督・配給会社・市関係者等に割り振る
・実施期日:3月1日の公開日より前
・イベント:監督のトークイベントを実施


前橋市の協力

 試写会・トークイベントの開催を模索する中で、前橋市のシティプロモーションとなること、公益性の高さから市の公務としての活動を認められる。それによって、正式に前橋市の魔女の宅急便上映プロジェクトとなる。これによって、実施にかかる費用も、PJメンバーの所属する部署の既存予算から支出可能となった。また、周知方法として広報紙や市ホームページ、SNSが利用可能になったことも大きいといえる。


映画館・配給会社との交渉2

○配給会社との交渉2
 2014年1月、配給会社の東映に出向き、交渉により、特別試写会として、2月25日にユナイテッド・シネマ前橋で実施することを決定。監督のトークイベントも行う。試写会としては全国で最後であり、異例とのことであった。費用負担について前橋市は会場費を負担。その他上映にかかる費用は配給会社負担とすること、メディア発表については、1月31日にそれぞれで情報を解禁とするとの内容であった。


情報の解禁

 1月31日発行の「広報まえばし2月1日号」に特別試写会の募集記事を掲載。合わせて前橋市ホームページ・フェイスブック、市政記者へ前橋市として情報提供を行った。複数社から問い合わせあり。後日、記事が掲載されることとなる。


応募の状況

 応募は往復はがきでの抽選という形態をとった。募集を行った結果、50組100人の定員に対して497通の申し込みがあった(倍率は9.94倍)。東映によると倍率としては、全国の試写会の中でもかなりの高倍率であったという。


当日の運営

 マジョタクPJ4人とメンバーの所属部署の職員数人、前橋フィルムコミッション職員、組合員有志、「まえばしやる気の木プロジェクト」という学生を中心としや若者団、東映から担当2人、映画館の職員1人。司会はFM群馬市川まどかアナウンサーに委託という形態とした。


試写会の実施

 東映やユナイテッド・シネマ前橋によれば、通常試写会に当選したものの、全員が来場するケースはまれだという。だが、今回の来場率は100%であった。前橋はロケ地ではなく、今回の試写会の前は市内で注目度の高い作品ではなかった。しかしその後、テレビ、ラジオ、新聞等多くのメディアに取り上げられたことで、注目が集まり、また前橋市出身の清水崇監督の知名度も上がり、前橋市のイメージ戦略としても効果を上げたと考えられる。コンテンツを見極め、メディアと上手につきあうことで、効果を最大限発揮できることがわかった。


前橋での興行の効果

 同年3月10日付けで高崎前橋経済新聞が伝えているとおり、初週では興行1位をおさめる。その後の興行への効果については上映館のユナイテッド・シネマ前橋、配給元の東映ともに館ごとの興行実績は非公表なため詳細は不明。しかし、東映担当者の話として「相当にいい数字」であったことから、直接的な経済効果も相当に見込まれる。


試写会の実施による効果

 試写会を実施したことによって、多くのメディアに取り上げられ、前橋のプロモーションとしての効果があったと思われる。主な掲載メディアは以下のとおり。

2/26 上毛新聞、読売新聞
2/27 朝日新聞
2/28 朝日ぐんま、毎日新聞
3/3 東京新聞

その他取材メディア
群馬テレビ、エフエムぐんま、まえばしシティエフエム、J-com群馬

 その後、無償の貸し付けにより、衣装展・パネル展の実施がされることとなった。そのことによる新たなメディアへの露出は以下のとおり。

3/26 高崎前橋経済新聞
3/27 読売新聞
3/28 上毛新聞
 
 さらに、これを機会として、読売新聞紙上で「レンゲツツジ」の連載(日曜日月1回)が開始。

4/27 読売新聞連載「レンゲツツジ」開始


パブリシティとしてのプロモーション効果

 以上のメディアへの露出を、新聞やテレビへの広告掲載・放送とした場合としての費用を計算し、経済効果として算出する。

魔女の宅急便特別試写会宣伝効果算定
報道機関金 額広告料金根拠
群馬テレビ\600,000番組制作14分60万
FMぐんま\94,500番組制作4分間47,250
読売新聞\970,2001段161,700
朝日新聞\145,2001段1センチ4,400
毎日新聞\254,000シェアから1段1センチ2,800円と想定
上毛新聞\270,0001段1センチ6,000
東京新聞\150,000シェアから1段1センチ2,000円と想定
朝日ぐんま\36,7502段の4分の1の料金
合計\2,520,650

 上記の計算から、およそ直接的な効果だけで250万円程度の効果があったと推計できる。


映像(映画)の効果をどう捉えるか

 以上見てきたとおり、今回のイベントは費用対効果の高いものであった。しかし、問題点はそれが単発的なイベントであることである。短期的な経済効果を狙う形であれば、ロケ地巡りなどとして観光に活用することである(みなかみ町の「暗殺教室」ロケ地巡りなど)。しかし効果は短期的で、「北の国から」の記念館でさえ、本年度に閉館することを考えると、長期的な効果を得ることは難しい。
 一方、経済活動よりも文化活動としての効果を重視することも可能だ。中之条町の伊参スタジオ映画祭は、「眠る男」のロケ地をきっかけとして始まり、今年で16回目。それでも映画祭としての継続そのものが課題であるし、商業ベースに乗っているわけでもないので、費用については常に課題になるであろう。
 県内の映像分野で一番成功しているケースが高崎であろう。元々「メーヴェー」という映画の自主上映グループから始まった高崎映画祭は今年30回で、継続性があり、ある程度商業ベースに乗れていて、「セーラー服と機関銃」などフィルムコミッションとの連携もあり相乗効果が出ている。しかし、逆に高崎だからできることでもあり、ほかの自治体がまねできるものではない。


今後の展開

 継続性、費用の面をふまえると、手作り感のある小規模映像イベントと商業ベースのバランス、フィルムコミッションなどのロケ地活動のバランスをとることが必要であろう。
 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭は、高崎映画祭以上に商業ベースではあるが、それらのバランスがとれたイベントといえる。今後の展望としては、全面前橋ロケ「少年の詩」という映画をどのように扱うかでかわってくるものと思われる。