【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

福知山市の市民協働 新たな地域運営の仕組み
―― 小規模多機能自治「地域協議会制度」への挑戦 ――

京都府本部/福知山市役所職員労働組合 芦田 直也

1. 序章

 本市は2006年1月1日に1市3町合併(旧福知山市、三和町、夜久野町、大江町)した人口8万人の都市である。
 京都市神戸市まで60キロ、大阪まで70キロの地点にあり、鉄道のまちとして、また高速道路や国道9号線など交通の要衝として国内有数の内陸型工業団地である長田野工業団地や、6つの特色ある高校、そして今年4月に開学した北近畿唯一の4年制大学である福知山公立大が立地するなど、近畿一円から人物の集積のある地方都市として、現在まで栄えてきた。
 しかし、全国的な傾向でもある多様化する市民ニーズ、人口減少社会、少子高齢化、厳しい財政状況、複雑化する地域課題への対応が求められる中、本市としても平成の大合併以降、新たな福知山市として、改めて地域のあり方について議論し構築していくということから2009年度から市民協働まちづくり事業を開始し、新たな地域運営の仕組みの構築に取り組んできた。
 今回は、まだ道半ばではあるが、その新たな制度へのチャレンジと、大学との連携の中で得た市民協働のあり方について報告する。


2. 小規模多機能自治

 小規模多機能自治については、平成の合併における時代の流れの中で、集落単位、主に小学校区単位での住民自治の仕組みとして提唱され、近隣では兵庫県朝来市や丹波市、三重県名張市などが中心となって取り組まれてきた制度である。
 本市においても、合併後の地域のあり方を模索する中で、この制度について2009年度から、当時龍谷大学教授であり、現福知山公立大の富野副学長にご教授いただきながら市民協働により検討を進めてきたものである。
 本市では地域協議会という名称で市民と行政と大学による検討組織、市民協働推進会議が3年に渡り検討し、提言したものであるが、全国的な傾向である小学校ではなく、旧町単位とも重なる中学校区単位でのものである。
 さらに、理論だけでなく、実践も同時に検証するという提案から、旧町単位である旧三和町をモデル地域として地域から声を上げていただき、三和地域協議会の設立へと展開しているところである。


3. 市民協働推進会議

 では、その提言に至るまでの取り組みを紹介する。
 2009年度、2010度で市民公募による研修会検討会を実施し、その参加者や、市内の各種団体(自治会、公民館 など)から、ファシリテーター研修会を開催し、その参加者などを中心に選出した。
 この会は、市民ファシリテーターによるグループワークを中心にしたもので、市若手職員8人も参加し三重県名張市への視察などを含め3年にわたり、打合せ会議も含め全124回もの議論を行い、最終的に市民協働シンポジウムを開催し提言書にまとめられた。
 取り組みの中には、委員だけの議論に留まらず、この内容を広く市民全般に聞いていくことと、広めていくことをしていきたいということで、市内で活動されている団体から意見を聞くため、委員から聞いてみたい団体をピックアップ(18団体)し、委員自らがヒアリングを実施し、この中から、基本となった「人権尊重・男女平等」「情報共有」「リーダー・人材の育成」というキーワードの抽出を行なっている。
 また、その意見も参考に、これまでの議論内容を、今度は各地域での市民意見を聞くということで、地域公民館(旧中学校区)単位9ヶ所(中央公民館のみ2回)で意見交換会を実施するにあたり、地域からの参加人員が少ないことも想定して、各地域の地域づくりに関わっている方々、自治会長、民生児童委員、PTA、消防団、公民館から一人づつ地域から選出いただき、委員との意見交換を行ない、それを来場された市民の方が聞くという、フィッシュボール形式で実施し、地域ごとの市民協働への特性(周辺部の方がまちづくり参加へ意識が高い傾向にある など)、などについてについて議論を重ねた。
 さらに、ここまでまとめたものなどを再度市民のみなさんに投げかけたいという推進会議の意見により、大学との連携で、新たな市民意見交換会の手法ということで、無作為抽出による市民100人による「未来を描く! 福知山100人ミーティング」を開催した。
 これは、市民ファシリテーターだけでなく、委員も運営、進行を行い、推進会議での意見も参考に示しながら、「こどもたちに残したい福知山」について様々な、活発な意見交換を行ない、参加者から、こんな話し合いの機会が市にとって重要だという意見を多くいただき、継続開催につなげていくこととなったところである。
 しかし、この100人ミーティング開催において、直前にあの8/15の花火大会事故が起こった。
 大変痛ましい事故であり、市の開催事業も次々と中止の決定が下りる中、100人ミーティングについても中止してはどうかという意見が出た。
 しかし、推進会議の、こんな時だからこそ、福知山に残していきたいものという議論が必要なのではないかという、思いで開催を決定した。
 そして、100人ミーティングも大成功に終わり、いよいよ集大成ともいうべき、市民協働シンポジウムを9月29日(日)に開催するのを残すのみとなった。
 これまでお世話になってきた富野先生から市民協働について意見をいただき、これまでの活動、自治基本条例案、地域協議会制度案の発表、そして、市内外の市民協働実践者によるパネルディスカッションという大変盛りだくさんの内容である。
 その直前、ここでも、福知山市にとって大きな災厄が訪れたのである。
 9月15~16日にかけて、台風18号による大江地域、遷橋地域など1,000件近くに及ぶ浸水被害、道路、農作物など大きな被害を受けた。
 花火大会事故に続き、推進会議において、開催の是非を図ったが、なかなか結論が出ず、一定延期も止む無しと決定されようとしたが、やはりここでも、やっぱりこんなときだからこそ、地域づくりの重要性を培うためにも開催しようということで、実施した。
 結果、来場者数は伸びなかったが、今後の地域づくりにおいて、非常に大きな示唆となったものと考えている。


4. 未来を描く!福知山100人ミーティング(第2回)

 100人ミーティングについては、その後も継続的に実施を行っているが、2014年には前年度に続き、新たな市民議論手法として、定着化に向け100人ミーティングの実施に向け、大学間連携により検討を進めていた。
 今回は、市の最上位計画である総合計画策定と合わせて実施すべく、「福知山ら しさって」をテーマに、8月29~30日に実施することとした。
 昨年度同様に龍谷大、成美大により実施する方向で検討した。
 今年こそ順調に、という思いの中、しかし、昨年度以上の災厄に見舞われることとなってしまった。
 8月16日に堀地区を始め市街地や昨年同様、大江地区など4,000件以上の浸水被害など大きな痛手となった。
 今回は、行政機能の停止状態となり、実施することは適わず、延期を決定した。
 しかし、この時、運営を行なう先生や学生のみなさんもボランティアに参加いただくとともに学生のみなさんで、災害に関するグループワークを実施し、普段からコミュニケーションの取れている自治会ほど復旧が早かったことや、お母さんの災害に関するネットワーク化により普段にはない活動に結びつくことなど、新たな福知山らしい協働のあり方のヒントを多くいただいた。
 後日、10月に1日間ではあったが、60人あまりの参加を得て開催することが出来た。
 この大学間連携では、世界で最も大きな組織であるOECDから、福知山をモデルに選んでいただき、研究の対象をしていただいていることなども特筆すべきことといえる。
 私自身も、2014年秋に大学との共同発表と言う形で、パリのOECD本部での国際会議において、100人ミーティングの事例発表を行う機会を与えていただいたが、大学連携での取り組みについて世界から本市が注目されている証左ではないかと考えるところである。


5. 地域計画策定交付金 ~三和地域での取り組み~

 さて、ここから、地域協議会制度に向けての取り組みに入っていく。
 推進会議での意見を基に、地域づくり組織の設置に向けて、モデルとなる地域の公募に入っていたが、応募がない状況にあった。
 そこで、推進会議の会長が一念発起され、三和地域の自治会長会会長という役職とも連動しながら、地域づくり組織設置に向けて地域での検討が始まったのである。
 初めは、自治会長会での投げかけを行なったが、自治会長会での取り組みではなく、地元有志の検討から始めるということで、6人の委員を選出され、2013年10月より計画策定に向けて議論が始まった。
 委員の数を順次拡大しながら、ここでも30回近くの議論やグループワークを重ね、地域計画を策定された。


6. 地域計画策定・地域提案交付金 ~三和・夜久野・大江地域で~

 三和での計画策定から、夜久野地域、大江地域でも議論が始まり、地域協議会の設立に向け取り組まれ、地域自治の拠点として検討いただいた。
 ■2015年3月28日 三和地域協議会設立総会(2015年4月1日発足)
 ■2015年7月14日 夜久野みらいまちづくり協議会設立総会
 ■2016年3月21日 大江まちづくり住民協議会設立総会


7. 本市での今後の取り組み

 昨年度策定した総合計画の発展版である「未来創造 福知山」や「福知山市まち・ひと・しごと・あんしん創生総合戦略」の策定の中でも、人口減少・少子高齢化といった課題を克服し、「新たな価値の創造」や、人口ビジョンでの2040年に78,300人をめざすためには、これまで培ってきた本市の魅力あふれる資源を大切にすることも重要だが、これをさらに磨きをかけ、活かしていくことが必要であると記述してきた。
 そのためには、これまでの行政主導の価値観や手法を大胆に変革し、市民との協働による新たな仕組みづくりや意識変革が必要であり、行政・市民双方の人材育成をはじめ、新たな取り組みを行うべく検討を重ねてきたところである。
 その中でも今回の地域協議会制度は、「未来創造 福知山」の根幹でもある市民協働を推進するための最重要政策と位置づけている。
 多様化する市民ニーズ、人口減少社会、少子高齢化、厳しい財政状況、複雑化する地域課題を克服するには、これまでどおりの行政と地域の関係性だけでは、解決し得ないものが多く現れてきている現状があり、職員、市民双方が共に力を合わせることが必須である。
 この仕組みは、単なる住民組織の立上げというものではなく、今後の市政のあり方、地域のあり方を左右する重要なものであるという認識のもと、全職員がその効果、意義を理解し、推進していく必要がある。
 また「未来創造 福知山」の中でも住民主体の地域協議会制度の推進として、成果指標にも全市展開する、として5年後に9ヶ所で設置すると掲げているが、これはこれまでの行政の仕組み、縦割りによるそれぞれの部署での取り組みを越えた、全市一丸となった取り組みを進めないと成功し得ないものであり、正に意識改革、新たな価値の創造へとつながるものである。
 地域協議会は当該区域の住民をはじめ、自治会、公民館、農区、消防、社協、企業、学校等の法人、ボランティアなどの市民活動団体等、地域社会を構成する多様なまちづくりの担い手が参加・協議・活動するための組織・体制であり、現在のところ中学校区での展開を図っている。
 その中でも特に自治会や公民館といった重要な地域運営を担っている既存の組織、取り組みを尊重しつつも役割、機能の見直しを住民合意の元図っていくことや、様々な形での行政の伴走型の支援の構築を行っていく必要がある。
 現在の各地域協議会においては、部会を形成し定例的に会議を開催され、それぞれ特徴的な取り組みを始めており、職員が出席する機会を設けつつ、協議会と行政の協働が本格的にスタートをきっている。
 これまで、行政が決めたものを市民のみなさんに説明して納得してもらうという構図であったが、地域協議会は大前提として、自分達が決め、自分達が行動するという原則を堅持するためにも、市民主体による話し合いによって決定していくプロセスが大切であり、それこそが市民協働の核となるものである。
 よく、地域協議会を設立、というと新たな団体を立ち上げて、新たな取り組みをしなければいけない、という風に思われがちなところがあるが、地域活動は、今地域でやっておられる取り組みは、現在もこれからも地域にとって非常に重要な取り組みであり、今後も継続して行っていくための仕組みづくり・仕掛けづくりであるということを徹底していくことが重要である。


8. 行政との関係性

 最後に新たな地域運営における行政との関係性についての考え方の一例を示す。

 これは、大学間連携の中で、地域運営と行政の効率化についての議論から出たものである。
 行政の効率化において、民営化が議論されるが、民への委任の際、表の左は、民間企業等への委任の場合、市民の消費者化が懸念されるというものである。
 右は地域協議会など地域運営への委任により、主体化、住民の主権についての意識が生まれ、これまでの行政依存からの脱却につながる可能性を示唆さたものである。
 福知山市の地方創生においても、今ある地域資源を使って、自分たちがどう付加価値をつけて磨きをかけることが出来るかが議論に上がっていたが、その際にも主体化がポイントであったように、私達に何が出来るか、自立(自治体ぶら下がりからの脱却)主権者を消費者にする民主主義との関係性もこの仕組み、制度の中では検討していく必要があると考える。
 まだまだ道半ばではあるが、福知山公立大が誕生し、新たな大学連携ともリンクしながら壮大なチャレンジとしてこれからも取り組んで行きたい。