【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 西海市労働者協議会は、2005年、西彼地区労の発展的解消による長崎地区労との統合によって、西海市地域で反戦・平和・地域運動に取り組む拠点にしようということで発足しました。長崎地区労では校区単位の勤労協活動を活性化しようと取り組んでいますが、市単位で、反戦・平和運動、政策要求、市議会対策などを重点に取り組んでいます。毎年、8月には「戦争と原爆展」を開催し、地域住民に平和を訴えています。



西海市における「まちづくり」
―― 労働者協議会の取り組みを通して ――

長崎県本部/自治労長崎県職員連合労働組合 生越 義幸

1. 西海市労働者協議会とは

 長崎県においては、いわゆる「平成の大合併」が当時の金子原二郎長崎県知事によって全国のどこよりも推進され、自治体数は79市町村より23市町になりました。
 旧西彼杵郡は、野母崎町・三和町・香焼町・伊王島町・高島町・多良見町・長与町・時津町・琴海町・外海町・大瀬戸町・西彼町・西海町・大島町・崎戸町の15町で構成されていました。市町合併により、野母崎町・三和町・香焼町・伊王島町・高島町が長崎市に、多良見町は諫早市に吸収合併されました。そして、西彼杵郡は時津町・長与町の2町になり、西海市が大瀬戸町・西彼町・西海町・大島町・崎戸町の5町の対等合併で誕生しました。
 旧西彼杵地区労働組合会議では、各町単位で勤労協活動に取り組んでいました。西海市の誕生に伴い、組合員の減少、構成組織の支部再編等により西彼杵地区労働組合会議を維持することが困難になることが予想されたことから、西彼杵地区労働組合会議の発展的解消による長崎地区労働組合会議との統合という道が選択されました。
 2005年、西海市における反戦・平和・地域運動の拠点が必要だという思い、「地域運動の灯を消さない」という思いが結集して、西海市労働者協議会が発足しました。構成人員は約400人、自治労(西海市職員組合、長崎県職員連合労働組合)、長崎県教職員組合、退職教職員協議会で構成されています。
 西海市労働者協議会は、独自メーデー、戦争と原爆展の開催(毎年8月9日前後で)、「9の日反戦ニュース」の発行(毎月1回)等も取り組んできています。

2. 西海市における「まちづくり」

(1) まち・ひと・しごと総合戦略の策定
 「地方版総合戦略」の策定に関わって、政府の方針「まち・ひと・しごと創生を実行する上では、住民、NPO、関係団体や民間事業者等の参加・協力が重要であることから、地方版総合戦略の策定に当たっては、例えば、住民代表や産業界・行政機関・大学・金融機関・労働団体(産官学金労)で構成する推進組織で審議するなど、広く関係者の意見が反映されるようにすることが重要である」を受け、2015年4月28日に西海市労働者協議会が労働団体委員として有識者会議委員に委嘱され、議長(筆者)が委員として参画することにしました。有識者会議の委員は当初20人で、内訳は学識経験者2人・産業界4人(商工会・観光協会・企業)・金融機関3人・労働団体1人・言論(マスコミ)2人・市民8人(内、公募委員3人)でした。最終的には23人で、産業界が6人に(農業団体・水産団体)労働団体が2人に(労働行政)増えました。
 第1回会議は5月18日に行われました。まず西海市人口ビジョン等が説明され、①国立社会保障・人口問題研究所の2040年における西海市の人口推計は18,812人である、②転出者の75%が30代以下であり、主な理由は転職・進学である。しかし、約8割が住みやすかったと答えている、③合計特殊出生率は2.17人と高い、ということを確認しました。次に意見交換を行い、私は「今まで過疎地域振興特別措置法や離島半島振興法等による人口減少対策等が行われてきたにもかかわらず、人口減少に歯止めがかかっていない。過去の施策のどこが良くなかったのか、きちんと総括と検証をしないと二の舞になるのではないか。また、拠点都市のような選択と集中が、西海市という一つの市の中で行われると、地域が切り捨てられる。それでいいのか、合併10年の検証とあわせて議論すべきだ。市役所職員は合理化のため、メンタル不調に陥るなどギリギリの状態だ。市役所が元気でないと、いい施策は出てこないのではないか」と意見表明しました。
 7月27日の第2回会議では、事前に行われた「将来人口に関する意向調査」に基づき西海市人口ビジョンを以下のとおりまとめました。

<将来の人口展望>
 人口減少対策を講じることによる西海市独自の将来人口推計を行い、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)による人口推計と比較した政策効果を示す。
(1) 目標人口(現在人口 28,912人)
   2060年に約30,000人を目指し、約17,800人の施策効果を見込む
   ※ 社人研推計 12,235人 → 市独自推計30,066人
(2) 合計特殊出生率
   2025年までに2.5を目指し、0.98ポイントの施策効果を見込む
   ※ 社人研推計 1.52 → 市独自推計 2.50
(3) 高齢化率
   2060年22.2%を目指し、24.2%の施策効果を見込む
   ※ 社人研推計 46.4% → 市独自推計 22.2%

 その後、第3回会議(9月4日)、第4回会議(9月24日)と意見交換を行い、「西海市まち・ひと・しごと総合戦略」がまとまりました。田中隆一市長は「いかに市民を巻き込むかが重要である。巻き込まないと『絵に描いた餅』になる。西海市をオンリーワンにしたい」と決意表明しました。民間コンサルティングに丸投げしたものではない独自の総合戦略ができたと思います。今後、PDCAサイクルを確立して検証会議に積極的に参画していくことが重要です。

(2) 政策要求
 より良い地域づくりのために地域に根ざした働く者の要求を吸い上げ、西海市に対し政策要求に取り組んでいます。とりまとめた「政策要求書」は2015年12月18日に西海市に提出し、市長は「よく理解できる。総合戦略は子どもたちがこれ以上減少しないよう取り組む」と回答しました。その後、2月9日に文書回答があり、3月30日に市長と会談を行いました。回答内容は一定評価のできるものであり、回答をもとに具体について教育委員会折衝を行うなど、取り組みが定着してきました。さらに、工夫した取り組みを強化しなければなりません。

政策・制度要求に対する回答書(抜粋)

1. 勤労者の立場に立った市政及び地方財政確立に関すること
(1) 現場でのノウハウが充分に発揮できる職員体制の整備及び人員の確保に努め、公共サービス基本法の主旨に基づき地域を支える公共サービスを充実させること。
<回答> 職員体制の整備及び人員の確保については、事務事業の見直しや民間委託、非正規職員の配置も含めコスト削減の検討を十分行った上で、市民サービスに支障が無いよう適切に対応してまいります。
(2) 市民(住民)自治を中心に据えた「自治基本条例」を制定するとともに、行政の諸政策について市民提案制度を導入すること。
<回答> 市民からの市政に関する提案を広く聴取するため、西海市市政提案箱設置事業を実施し、市政への市民参加を促すとともに市政に対する建設的な提案を積極的に市の施策に反映させることで市民協働のまちづくりの推進に資することを目的とした西海市市政提案箱設置事業実施要綱を制定しており、本事業の成果を踏まえ、「自治基本条例」の制定につきましては、必要があれば検討してまいります。
(3) ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた施策の推進を図ること。
<回答> 西海市の働きやすさ、住みよさのバランスが取れたまちづくりのため、要求の趣旨を踏まえた施策を推進してまいります。
(5) まち・ひと・しごと創生にかかる財源については、社会保障や環境対策など、中長期に地域の雇用確保が見込まれる分野に充当すること。
<回答> 平成27年10月に平成31年度までの目標値を定めた「西海市まち・ひと・しごと総合戦略」に沿って、事業を推進してまいります。
(8) 市民の生活に欠かすことのできない公共交通と生活路線を維持・確保すること。
<回答> 公共交通路線の維持及び確保については、これまでも関係機関との連携を図りながら取り組んできており、今後も引き続き努めてまいります。
(9) 住民が安心して暮らすことができる公共サービスの質の確保と、労働者の公正な労働条件確保のため、「公契約条例」を制定すること。
<回答> 西海市では、公共工事を発注する場合、最新の労務単価を採用するなどして適正な積算を行っています。また、ダンピング受注によって労働者の待遇が損なわれることがないよう最低制限価格の設定を行っています。「公契約条例」の制定は、市公共サービス関連労働者の状況等を踏まえ、必要があれば検討してまいります。
2. 平和行政及び人権政策に関すること
(1) 平和行政の基本を日本国憲法、「自由と平和のまち宣言」とし、教育予算を含む平和関連予算を拡充すること。また、住民の生命・財産を守るため、「戦争ができる国づくり」を許さない立場で行政を進めること。
<回答> 西海市は、平和な社会の実現を願って平成17年10月7日の「西海市自由と平和のまち宣言」を行い、その中で、被爆県長崎の一員として、地球上から戦争や紛争がなくなり全ての人々が自由と平和を享受できる世界の実現に努めることを誓いました。今後もこの宣言の趣旨を生かして、様々な平和祈念事業を推進していく中で、平和の尊さを市民に周知するとともに、平和なまちづくりを進めるために弛み無い努力を続けていきたいと考えております。
(3) 「平和推進基本条例」を制定し、平和政策の展開と具体的実施体制の整備を進めること。
<回答> 先進自治体の取り組みを研究してまいりたいと考えております。
(5) 住民の命と暮らしを守るため、脱原発・クリーンエネルギー政策を推進すること。
<回答> 脱原発については、全国の首長等で組織する「脱原発を目指す首長会議」の会員でもあります。全国の仲間とともに脱原発に向け多方面へ働きかけることに継続して努めてまいります。クリーンエネルギー政策についても、平成22年に策定しました「西海市地球温暖化防止対策地域推進計画」にそって、その実行に引き続き努めてまいります。
(6) 子ども権利条約を具体化し、「子どもの最善の利益」を実現するため、「子どもの権利条例」を制定すること。
<回答> 児童に関する措置を行う上で当該児童の最善の利益を最優先させることは、児童に関わる全ての機関の普遍的価値観であると認識しており、今後とも、児童福祉施策に留まらず本市における行政運営全般において、子どもの権利条約の趣旨を尊重し、児童の最善の利益の実現に努めてまいります。
(7) 市民の重要な個人情報が不正取得されることを防止するため、戸籍・住民票を第三者が取得した場合に本人に通知する制度(登録型の本人通知制度)を導入すること。
<回答> 現在、長崎県戸籍住民基本台帳事務協議会が中心になり実施や内容についての検討が行われているところです。県内同時に実施することで抑止力が生まれ、また内容を統一することで通知の漏れや不備を防ぐことができると思っております。
     今後の協議会からの連絡や各市町の動向を見ながら実施してまいりたいと考えています。
3. 教育に関すること
(2) 義務教育の実質無償化を実現するため、保護者負担金の実態を把握し、その縮減に必要な財源措置を行うとともに、教育予算の増額に努めること。
<回答> 関係機関と協議し、実質無償化を実現できるように努力してまいります。
(3) 「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」や「学校図書館整備5か年計画」等に基づく地方交付税措置について教育予算に充当し、その整備を図ること。
<回答> 教育予算の確保に向け努力してまいります。
(4) 生活保護基準引き下げに伴い、セーフティーネットとしての就学援助制度の改悪を行わないこと。
<回答> 本市では、平成26年度から生活保護の基準額の1.3倍以下を認定基準としており、現在まで引き下げに伴う影響は出ておりません。今後も生活保護基準見直しにより影響が出ないよう、就学援助制度の拡充と条件整備など、一層推進するよう努力してまいります。
(7) 学校における安全の確保について国と自治体の責任を明確にした「学校安全対策基本法」の制定を進めること。また、地域と一体となった学校防災組織の担当者として学校用務員を位置づけること。
<回答> 「学校安全対策基本法」については、重要な法案であると考えております。地域との連携強化を考慮した学校防災組織を編成するに当たっては、学校用務員の重要性を認識し、その位置付けは必要に応じ検討してまいります。