【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」 |
「県民中心の県政」を推進するに当たって、現場で課題を見つけ、そして現場から解決のためのヒントを得るという現場主義が重要である。本報告は、観光面から見た管内の別府市等の現状をフィールドワーク等も行い調査・研究し、その中から特に我々が課題と考えたテーマについて解決策を提案する。 |
|
1. はじめに
「県民中心の県政」を推進するに当たって、現場で課題を見つけ、そして現場から解決のためのヒントを得るという現場主義が重要となる。現場で課題を見つけるためには、その地域をより深く知り、その地域に愛着を持つことが大切と考え、その方法として管内の別府市の主要産業である観光という視点から現場での課題やその解決策を研究していきたいと考えた。また、現場の情報とともに時代が急速にそして大きく変わっていくなかで、幅広い情報収集や数字からの分析が大切となるが、観光の研究においては全国的な施策等やデータから考える必要があることから、この面においても有効な研究と考えている。 |
2. 観光をとりまく環境
観光業は他の分野への経済波及効果が大きく裾野が広いため、国も成長産業の一つと位置づけており、東京五輪が開催される2020(平成32)年までに訪日客を年間2千万人に増やす目標を掲げている。 |
3. 現状と課題
大分県は人口10万人当りのホテル・旅館施設数は1,038.8で、全国4位となっており、観光産業への従事者も多いという特徴がある(月刊 事業構想2014年10月号)。
別府市の観光動態要覧では、毎年、宿泊客数や消費単価等をまとめているが、2013(平成25)年においては、宿泊客約2,143千人で1人当たり消費単価が25,496円となっており、日帰り客約5,850千人で消費単価が7,791円に比べて格段に消費が大きいことがわかる。しかし、日帰り客数は増加傾向であるのに比べて、宿泊客数は1976(昭和51)年のピークから減少傾向が続いている状況にある(2009年別府市観光動態要覧)。 そこで、この消費単価の大きい宿泊客を増やす施策として、我々が注目したのが従来から旅行市場のけん引役を担ってきた女性である。㈱JTB総合研究所の調べによると、女性が旅行の決定権を持つ割合が高いという結果が出ており、その女性においても旅行頻度へ職業が影響している状況となっている。このことから政府の成長戦略に掲げられる女性の活用が益々進み、その働く女性が旅行市場を活性化させるという可能性は大いに期待できることだと考えられる(JTB総合研究所 News Relese 2014.1号)。 |
4. 女性観光客の誘客における現状と課題分析
2003(平成15)年に実施した別府観光調査結果では、男性のグループ旅行は1.4%に対し、女性のグループ旅行は12.1%と約10倍高くなっているものの、夫婦旅行31.4%、子連れの家族旅行16.4%、子どもを含まない親子親戚との家族旅行15.0%と、6割程度が家族単位の旅行形態であり、男女混合の友人・グループ旅行も8.9%と1割程度の状況である。この結果から、全体的には女性を含んだ旅行形態がほとんどと考えられるものの、一人旅行は1.4%と極めて低く、女性に限定した場合、さらにこの数値は低くなる状況にある。 |
5. 施策提案
以上のような既往の研究や今回の取材から見えてきた課題を整理すると、以下の3点に集約できると考えられる。
観光圏内限定旅行業者代理業制度とは、観光圏内宿泊業者が宿泊者の旅行について、旅行業者代理業を営むことができるものであり、旅行業法上の必置資格である旅行業務取扱管理者に代えて、一定の研修を修了した者を選任することができることとなっている。 この特例を活用することで、旅行者(一人旅女子)にとって旅館のフロントで着地型旅行を気軽に申し込むことが可能となり、旅行満足度の向上につながる。また旅館にとっては新たなサービスの提供が可能となり、旅館の魅力アップ、集客力の向上、リピーターの確保につながると考えられる。 また、旅館側から旅行業者に対し、旅行者(一人旅女子)ニーズにマッチした旅行プランを提案することが可能となり、また旅行業者にとっても着地型旅行商品の販路拡大につながる。なお、別府市内には別府市観光協会など国内旅行を取り扱う第2種、第3種登録の旅行業者が10社ある。 (その他今後検討するべき施策) 以上が今回我々の提案する施策であるが、その他にも今後以下のような施策を検討していく必要があると考えた。 施策:『ウィークデイ・女子旅・プロモーション』事業 旅館の平日の稼働率を上げる取り組みとして、土日が休みでない女性就労者(サービス業従事者、医療従事者)をターゲットに売り込みをかける。 施策:『「かんなわ女子みやげ」開発プロジェクト』事業 鉄輪女将の会等と協働で、女性が好む美(アート・デザイン)と融合した「鉄輪でしか買えない」「おしゃれ」「かわいい」をポイントに女性が買いたくなる鉄輪限定のお土産を開発する。 施策:『鉄輪の森運動』事業 日頃のストレスから解放され、精神的な安定やリラックス感を与えてくれる植物(緑)の力を活用し、癒しの環境を街全体に作りあげるため、道路や宿泊施設の敷地内などに、植栽を行い、鉄輪地区全体を癒しの森にする。 施策:『極めろ! 鉄輪温泉道』事業 女性一人客の受け入れを行う旅館組合を組織し、一人旅女性宿泊客にはアメニティとしておんせん県桶『桶マップ』をプレゼント。さらに、浴衣姿に桶持参であれば、この旅館組合加盟の宿であればどこでも200円で入浴できる。 施策:『平日路地裏散歩の開催』事業 現在、月1回しか開催していない鉄輪路地裏散歩の毎日行える体制を構築するため、一人女性客を受け入れる宿の従業員を案内ガイドとして養成し、平日、休日問わず常時開催する。 施策:『女子好み&地元人間マップ』事業 カフェや雑貨店、スイーツ情報など、女性が好む情報地域マップを作成する。さらに、お店の人や「この家に行けばこの人に会えるかも」という期待感を醸造するような情報も記載し、地域の人との触れ合いも演出する。 |
6. まとめ 今回我々はデータからの分析や実際に旅館への宿泊取材等を通して、鉄輪地区の旅館活性化に繋がる施策提案を行ったが、このように実際に地域に入り込み課題を見つけるということは通常業務においては困難であると思われる。今後、自治研を利用して、データ分析や地域の課題を見つける取り組みを継続的に行っていくことができれば、結果としてみんなに喜ばれる仕事につながっていくのではないかと思われる。この研究をきっかけとして、今後の研究活動が活性化することに期待したいと考えている。 |
7. おわりに この研究を行うにあたり、業務多忙にもかかわらず、対応いただいた旅館の関係者の方々に心から感謝を申し上げる。また、地域政策スクール講師の嶋田先生や2014年度地域政策スクールの観光班の方々からは貴重な情報をいただき、みなさんに感謝を申し上げる。 |
(参考文献) |