【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」 |
竹田市においては、「目標がなければチャンスが見えない、ビジョンがなければ決断ができない」を合言葉に、「地域力」「人間力」「経営力」「行政力」を結集した近未来的な政策展開がなされている。本レポートにおいては、「農村回帰宣言」をした竹田市が、観光地のあり方について、旅行者の需要のみを重視するのではなく、受入地の環境・文化に配慮し、旅行者と受入側の人々が対等で公正な関係が築き、持続可能な交流をめざすことを目的としたフェアツーリズムという新たな取り組みについて報告する。 |
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1. 竹田市の概要 竹田市は、大分県の南西部に位置し、総面積は477.67km2で、その69.2%が山林原野で占められています。西側は熊本県、南側は宮崎県に接しており、九州のほぼ中央に位置しています。周囲をくじゅう連山、阿蘇外輪山、祖母傾連山など九州を代表する山々に囲まれた中山間地で、大分県一の流路延長を持つ大野川の源流を有しています。1日に数万トンの湧出量を誇る湧水群が点在し、水と緑があふれる自然豊かな地域を形成しています。 2. 竹田市新生ビジョンにおける農村回帰とは 2005年4月の新・竹田市誕生から4年が経過した2009年4月、首長選挙が行われ、竹田市新生ビジョンを政策に掲げる首長が誕生しました。この竹田市新生ビジョンとは、従来の自治体が進めてきた政策とは全く異なり「目標がなければチャンスが見えない、ビジョンがなければ決断ができない。」を合言葉とし、これからの市政運営を推進していくものでした。 3. 「フェアツーリズム」の理念をもつ「グリーン・ツーリズム」の実践 「農村回帰」の目的を達成するための取り組みの一つに、竹田市が以前から推進しているグリーン・ツーリズム(注3)があります(竹田市合併前、合併直後の取り組みについては、2010年11月に愛知県名古屋市で開催された第33回地方自治研究全国大会第8分科会地方再生とまちづくりで発表したレポート「竹田市におけるグリーン・ツーリズムの取り組みとその方向性について~農村回帰宣言市がめざす、官民協働・農商連携の農村づくり~」をご覧ください。)。その受け入れ母体として存在するのが、2009年4月24日に設立された農家民宿を営む農業者で構成されている「来ちょくれ竹田研究会」です。現在の会員数は27人であり決して大型の修学旅行などを受け入れることができる団体ではありませんが、設立6年が経過した現在でもその取り組みの姿勢は変わらず、会員さんは歳はとったものの前にも増して首長との意見交換会や勉強会、地域資源を活用した料理の講習会への積極的な参加など個々のスキルアップによるおもてなし向上にむけ非常に意欲的に頑張ってくれています。最近では災害発生時等における避難者の受け入れについて竹田市との防災協定を締結する動きも見えてきました。 4. 海外観光誘客の具体的なコンテンツの一例 竹田市では、2012年2月に九州オルレの第1期コースとして、奥豊後コースを開設しました。「オルレ」とは、韓国・済州島から始まったもので、もともとは済州島の方言で「通りから家に通じる狭い路地」という意味があります。自然豊かな済州島で、トレッキングを楽しむ人が徐々に増加し、「オルレ」はトレッキングコースの総称として呼ばれるようになったものです。九州オルレは、済州オルレの姉妹版として位置づけられ、自分のペースでゆっくりコースを楽しみながら九州の四季の美しい風景を五感で感じていただき、九州の魅力を再発見してもらうことを目的として整備されました。九州オルレ奥豊後コースは、九州オルレコースの中で唯一2市(竹田市と豊後大野市)にまたがり整備されています。コースは、田園風景や農村集落を眺めながら進み、竹田市に入ると9万年前に起こった阿蘇山の噴火により形成された柱状節理やあの瀧廉太郎が作曲した「荒城の月」のモチーフになった難攻不落と言われた国指定史跡岡城跡、竹田の城下町や竹田温泉花水月で構成され全11.8kmになっています。心地よい高低差が韓国から訪れたお客様から大変人気があり、九州内全16コース(2015年10月20日現在)中でも一二を争うコースです。最近では、国内における認知度もあがってきており訪問客は年々増加傾向にあるものの、将来的には九州内に30コースのオルレコースが整備される予定であることから資源の磨き上げを含めたコース整備や情報発信、農家民宿とコラボした商品造成などに力をいれていかなくてはならないと考えています。 5. 地方創生時代をむかえて 全国いたるところで地方創生のフレーズを聞かない日はありませんが、竹田市においても「竹田市TOP総合戦略」を策定しました。国の基本目標を踏まえ、①地域産業の経営力を高め、しごとを創出する。②地域力を活かして農村回帰の流れを加速させる。③ひとを大事にし、人間力を育む。④コンパクトシティの構築と集落機能を高める。といった4項目の基本目標が設定されました。国内外からの観光誘客戦略は②に該当するものとされています。特にこれから需要が増加するであろうインバウンド対策として、竹田市においては交流の質的向上への第1歩として2015年4月1日に国際交流案内所を設置しました。総務省の地域おこし協力隊事業(注6)等を活用し韓国語、中国語、スペイン語、英語、ドイツ語が話せる人財の確保を行い対応にあたっています。しかしこれはまだまだおもてなしの第1歩に過ぎません。Wi-Fi環境の充実や免税店の拡大、宿泊施設の多言語対応、2次交通網の整備など問題は山積していますが、「内に豊かに、外に名高く」を基本理念とし、心が通う、感動がある、そしてその地域に住む人が生きがいとして感じられる交流をめざし取り組んでいきたいと考えています。 |
(参考文献等) |