【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」 |
本レポートでは、臼杵市における地域特産魚を活かした地域振興について、カマガリ(標準和名クログチ)を活かした取り組みについて報告する。漁協や漁業者、行政と連携して取り組んだ結果、市民をも巻き込んだPR活動が行われ、知名度向上が図られた。取り組みから2年経った現在でも、臼杵市の特産魚として定着している。 |
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1. はじめに
大分県臼杵市は、九州の東岸で大分県の南東部に位置し、豊後水道北部の臼杵湾に面しており、水産業が盛んな地域である(図1)。豊後水道及び臼杵湾は、内海水と黒潮分枝流が混合する生産性の高い好漁場であり、釣り漁業、はえ縄漁業、刺し網漁業、中型まき網漁業、船びき漁業、小型機船底びき網漁業、小型定置網漁業、磯突漁業、海士漁業、たこつぼ漁業などの沿岸漁業だけでなく、リアス式海岸の地形を生かした養殖業も盛んでブリ等の魚類養殖、真珠養殖などが行われている(注1)。特にタチウオ釣り漁業が全国的に有名であり、生産量は大分県下で最も多く、1995年に設立した共同出荷組合による出荷が継続されており、漁獲されたタチウオのほとんどが福岡魚市場に出荷されている。この共同出荷の取り組みは2002年に第41回農林水産祭において天皇杯を受賞しており、地域の誇りでもある。
2014年度における自主レポートでは臼杵市における観光資源としての水産物について、臼杵産のタチウオに注目し、タチウオの地産地消の取り組みについて報告した。2015年度の本レポートにおいては臼杵市における地域特産魚であるカマガリ(標準和名クログチ)に焦点を当て、臼杵市における地域特産魚を活かした地域振興の取り組みについて紹介する。 |
2. 地域特産魚カマガリによる地域振興(注3)
カマガリとは「ご飯を釜ごと借りて食べなくてはならないほど美味しい魚」ということから名付けられた魚で、標準和名はクログチといい、ニベ科の仲間である(図2)。昔は東シナ海でもよく漁獲されていたが、今はほとんど見られないため、東シナ海ではいわば「幻の魚」と言われている(注4)。
しかし、市外では馴染みがないことから、その知名度は低く、また、見た目もあまり良くないことから、特に夏場は値がつきにくく、比較的安い魚として位置づけられていた。 このように知名度が低く、値段も安いカマガリではあるが、関西の寿司店など県外の一部では高く評価されている。実際に刺身や寿司などで食べてみると鯛にも負けない本当に美味しい魚であり、まさに「地域の宝」である。このカマガリをより多くの方に知ってもらうことが出来れば、この魚を評価してもらえる。ひいては魚価の向上、漁業者の所得向上に繋げたいとの思いから、「地域の宝」であるカマガリの美味しさを広めていくための取り組みとして、大分県漁協臼杵支店(以下、漁協)が2014年1月から、大分県中部振興局の補助金を活用して、「臼杵特産カマガリの新商品開発事業」を行い、魚市場に隣接する海鮮食堂うすきで提供する海鮮丼「カマガリ炙り丼」(図3)やカマガリを活かした加工品である「カマガリみりん干し」「カマガリフィレ」の開発を行った。
臼杵市内でのPRとしては、2014年5月にオープンした臼杵市観光交流プラザのオープニングイベントや臼杵市にある酒造会社の4社合同の酒蔵開きのイベントにおいて、カマガリ加工品販売を行った。知名度の低いカマガリに特化したPRは珍しく、地元テレビ局の報道番組での特集や地元の新聞に取り上げていただくなど、県内において、大きな反響を呼んだ。 このような中で、水産振興の機運が高まり、2014年7月には臼杵市の水産物のブランド化と消費拡大、漁業者の所得向上をめざす「うすき海のほんまもん漁業推進協議会(会長 中野五郎臼杵市長)」が設立された。この協議会は臼杵市や臼杵市議会、漁協や市料飲店組合、市観光情報協会など多様な組織により構成されており、現在では、協議会が主体となり、カマガリのPRに取り組んでいる。 「うすき海のほんまもん漁業推進協議会」ではカマガリの知名度をさらに高めるために、カマガリのフライを挟んだフィッシュバーガー「カマガリバーガー」を開発し、県内有数のフードイベントであるOBS大分放送主催の第6回おおいたB級グルメNo.1決定戦(2014年9月13~15日)に出場し、参加14店舗中第3位になることができた。この様子は大きく報道され、地域でも大きな話題となった(図5)。
このB級グルメNo.1決定戦が契機となり、臼杵市内のパン屋でカマガリバーガーの販売が常時行われることとなった。また、うすき竹宵や地域商店街の祭りなど市内各地で開催されるイベントにおいて、地域の人たちがカマガリバーガーを作って販売したい、カマガリをPRしたいと声を上げるまでになった。当初は漁協・市・県で行っていた取り組みに、地域の様々な方々が加わるようになった。 これらの官民一体となったPRが実を結び、知名度向上が図られ、大分市内においてもスーパーで普通に見かける魚となった。また、中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律の規定に基づく地域産業資源(地域資源)に、2015年3月「カマガリ」が新規登録された。今後、臼杵市において、カマガリを利用した事業活動において、本登録は非常に有意義であると思われる。 取り組みから2年経った現在でも、カマガリバーガーの販売は継続され、市内のグルメイベント、例えば2016年5月に開催されたうすき食フェスにおいてもカマガリバーガーが販売されている。このことから、臼杵市のB級グルメとして確実に定着したものと思われる。カマガリの魚価についても向上しており、漁業者の所得向上にも繋がっている。
たとえ知名度が低くとも、地域に古くから根付いてきたカマガリという、地域の宝を活かした本取り組みは地域の水産振興における一つの成功事例であると思われる。行政や漁協のみならず、市民までが一体となって参加したPR活動がその成功の要因であると考える。 また、カマガリがきっかけとなり、地域特産魚を活かして地域振興を行っていこうという機運が高まり、2014年度のレポートで紹介したタチウオを用いた「臼杵たち重」、次に紹介するレースケ(クロアナゴ)を地域飲食店で提供するなど数々の取り組みがなされている。 |
参考文献 |