【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 「走性」とは、生物が「外界の刺激に反応し、動く性質あるいは運動」の意(諸辞典による)である。アベノミクスでひろがる地域格差を取り繕う意図ではじまった「地方創生」は、地方自治体を否応なしに創生踊りへ駆り立てている。国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にもとづいて、2014年度の国家補正予算、15年度の同当初予算に創生関連予算が組み込まれ、今や地方自治体も右へならえで地域の創生施策に慌ただしく取り組んでいる状況だ。「地方創生」が、集権型の単なる追従志向に終わるのか、分権型の自発志向へと展開するのか、これからはまさに地方自治体の「走性」が試されるところである。
 このような中で本稿は、15年度の予算編成期における県内自治体の取り組み状況を調査、簡潔に取りまとめると共に、今後の論議に資するため、若干の問題提起をさせていただくものである。



「地方創生」で試される地方の「走性」
―― 地方創生(まち・ひと・しごと)に関する調査から ――

大分県本部/大分県地方自治研究センター・理事 福田 正直

1. 地方創生(まち・ひと・しごと)に関する調査について

(1) 調査の目的
 安倍政権の「地方創生」戦略推進を見据え、県内各自治体における15年度の施策及び当初予算編成段階で、とりあえずどのような対応がされたかを把握するために調査を行った。

(2) 調査の対象
 県及び17市町(姫島村をのぞく)

(3) 調査時点
 2015年5月

(4) 調査項目
 別紙調査表の通り下記の項目
① 創生本部の名称、設置日
② 担当課の名称、機構図及び配置人数
③ 総合戦略(5ヵ年計画)の策定時期、手順(審議会など)
④ 2015年度の事業・予算額など
⑤ その他

(5) 調査結果の補足・整理について
① 記入内容の不明な点や不十分な点については、記入者に問い合わせ、補足・整理した。
② 金額については、○○千円に統一した。
③ 記入内容で別紙の通りとあるものについては、別紙から主なものを抽出した。
④ 事業・予算額について、記入金額と実際の事業費と食い違うもの(プレミアム商品券事業)がある。所定様式による国への報告金額との差である。
  例えば中津市の場合、次の通り

  調査表の記入金額 94,420千円(国の交付金のみ)
  実際の市の予算額 174,420千円 
  *事業費内訳
   商品券プレミアム分 160,000千円 
    (発行元額 800,000千円×20%)
   商品券発行経費分 14,420千円 
  *財源内訳
   国からの交付金 95,420千円 
   県からの交付金 79,000千円 
    (プレミアム分の半額相当分)

⑤ その他欄については、中津市、杵築市が国の人材支援制度を受け入れているので、補足記入した。
⑥ 手書き記入の分については、活字にした。

(6) 目玉のプレミアム商品券~新たな消費喚起率は?
 創生策の当面の目玉はプレミアム商品券である。県内では18市町村全てで総額約130億円の商品券が発行される。これまで国の経済対策の一環として消費喚起を狙ったものは、1999年の「地域振興券」や09年の「定額給付金」がある。しかしいずれも新たな消費喚起率は、30%程度にとどまったとみられている。市町村では、地元商店で消費されるようさまざまに工夫を凝らしているが、勤労者の可処分所得が全体的に増えていない中、これまで同様一過性の消費刺激にとどまり、新たな消費増はさほど期待できないであろう。
 以下、各自治体の調査表及び地方創生人口ビジョン・総合戦略一覧

2. 地方創生(まち・ひと・しごと)に関する調査について

(1) 安倍政権、「地方創生」推進へ
① 骨太方針2014(14.6.24)
  人口急減、超高齢化、人口一億人キープ、東京一極集中是正、地域再生
② 推進体制
  *まち、ひと、しごと創生本部設置(14.9.12 石破地方創生相)
  *    〃    創生会議設置(14.9.19)
  *    〃    創生法成立(14.11.21)
  *    〃    創生長期ビジョン(14.12.27 閣議決定)
  *    〃    創生総合戦略(   〃   )

(2) 「地方創生」をかかげた背景
① 「消滅都市論」ショック
  *『中央公論』(14.6)増田論文「消滅可能性都市896全リスト」
  *若年女性(20~39歳)が5割以下に減少(2010~40年の間)
  *人口再生産力の低下と大都市への人口流出
  *1万人以下の市町村523に(消滅市町村)
② 息切れ気味のアベノミクスにテコ入れ
  *ローカルアベノミクス~財政出動
③ 2015統一地方選対策
  *地域衰退の不満をそらす

(3) 「地域再生」の焼き直しか
① 地域再生策の経過
  *2003年 地域再生本部設置(小泉内閣、地域再生相)
  *2005年 地域再生法(改正を重ね施行中、14.11改正)
   小泉構造改革で衰退した地域への処方箋
    地域経済の活性化、地域雇用の創出、地域活力の再生、自治体の地域再生計画の認定、交付金等の特別措置
② 地域再生法と地方創生法の同時進行
  *事業の棲み分けをするのか、創生法に一本化するのか

(4) 創生法、長期ビジョン、総合戦略、予算
① 創生法(資料参照)
  *生活安心の地域社会、多様な人材の確保、地域の就業機会の確保
② 長期ビジョン(資料参照)
  *東京一極集中の是正、若い世代の就労、結婚、子育て希望の実現、地域の特性に即した地域課題の解決
③ 総合戦略(資料参照)
  *地方における雇用の創出、地方への新しい人の流れをつくる、若い世代の結婚・出産・子育て希望の実現、安心な暮らしを守る時代にあった地域づくり、地域と地域の連携
  *地方創生特区の指定
  *都道府県、市町村も総合戦略(5ヵ年)の策定、地方創生本部の設置
④ 15年度予算
  *14年度補正予算で地方創生先行予算として5,783億円
  *地方創生関連事業費1兆3,991億円
   創生事業費1兆円(ただし5千億円は既存の事業費の振替)
  *地方の本格的予算措置はおおむね16年度以降

(5) 自治体は新たな広域連携へ
① 選択と集中、集約とネットワーク化
  *定住自立圏、地方中枢拠点都市、コンパクトシティなど
② 連携と事務の代執行
  *小規模町村
③ 連携中枢都市圈の推進
  *地方中枢拠点都市(総務省)、高次地方都市連合(国交省)、都市雇用圏(経産省)の統合

(6) 地方(地域)衰退の要因は何か
① 経済成長至上主義がもたらした東京一極集中
  *ヒト・モノ・カネ・シゴト~地方から東京へ
② 「国土の均衡ある発展」に失敗した国土計画
  *一全総(全国総合開発計画 1962~ 池田内閣)
   拠点開発構想、新産都
  *二全総(新全国総合開発計画 1969~ 佐藤内閣)
   大規模プロジェクト構想
  *三全総(第三次全国総合開発計画 1977~ 福田内閣)
   定住構想、テクノポリス
  *四全総(第四次全国総合開発計画 1987~ 中曽根内閣)
   多極分散型、リゾート構想
  *五全総(第五次全国総合開発計画 1998~ 橋本内閣)
   多極型国土軸
  *国土形成計画法(全総廃止 2005 小泉内閣)
  *国土形成計画(2008~ 福田内閣)
   開発中心型から広域ブロック別の、多様で自主的な国土構造の構築
③ 対症療法に終始の地方(地域)対策
  *過疎対策法(1970~ 佐藤内閣)
  *ふるさと創生1億円事業(1989年~ 竹下内閣)
  *地域再生法(2005~ 小泉内閣)
  *地方創生法(2014~ 安倍内閣)
④ 衰退の経済的要因
  *市場経済のグローバル化、大企業のリストラ、海外移転、進出企業の閉鎖、規制緩和(シャッター通り、農林漁業の衰退)
⑤ 衰退の社会的要因
  *人口減少、高齢化、若者の流出、生活基盤(雇用、教育、医療、交通など)の悪化、市町村合併

(7) 地域を甦らせるために
① まやかしの「消滅都市論」の克服
  *人口減少で集落の消滅は有り得るとしても、自治体は消滅しない
  *「平成の大合併」でこそ多くの自治体が消滅した
  *福島原発事故による自治体消滅の可能性も
② 経済成長市場主義からの脱却を
  *ヒト・モノ・カネ・シゴトの流れを変える
③ 分権的地方創生の推進を
  *自治体の自発的志向にもとづく創生策を
  *選択と集中~周辺地域切り捨ての危険性
  *自治体の広域化、効率化よりも公共サービスの狭域化と充実を
   地域自治、コミュニティ自治の構築
  *"向都離村"から"離都向村"ヘ