【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 鹿児島県と沖縄県との中間に位置する鹿児島県奄美市。亜熱帯海洋性の気候ですが、今年、115年ぶりの「雪」を観測。100年に一度しか雪の降らない奄美市と海のない岩手県花巻市は2,000キロを隔て、20年を超える自治研交流事業を続けています。お互いの地域で生活や文化に触れ、感動を共有し人を繋ぐこの交流について、そのはじまりから東日本大震災、復興支援を経て、現在に至るまでを報告します。



奄美・花巻自治研交流事業の取り組みについて
―― 子どもたちに感動を 感動の数だけ人生を豊かにする ――

鹿児島県本部/奄美市職員労働組合・書記長 川元 宗徳

1. はじめに

(1) 奄美市職員労働組合について
 2015年8月1日現在、正規職員数684人(消防含)、組合員数529人で組合加入率は100%です。
 2006年(平成18年)3月20日に旧名瀬市、旧笠利町、旧住用村、1市1町1村が合併し「奄美市」が誕生。旧単組も同年5月1日に「奄美市職員労働組合」として統合しました。単組のスローガンは「愛と笑いと団結を 地域に必要とされる組合へ」。奄美・花巻交流事業は、旧名瀬市職員労働組合での事業スタートとなります。

(2) 花巻市職員労働組合について
 2016年4月1日現在、正規職員数746人、組合員数672人で加入率は99.7%です。
 2006年(平成18年)1月1日に旧花巻市、大迫町、石鳥谷町、東和町、1市3町が合併し、「花巻市」が誕生。現在の単組の課題は「合併時の賃金格差が解消していない」「組合活動に参加する組合員が固定化している」等となっています。

2. 交流事業

(1) はじまり
 この交流事業のはじまりは、1992年から1993年の旧名瀬市職労委員長、書記長、自治研担当が単組間の交流事業を模索。その中で「雪が見られない奄美と海が見られない単組」との交流ができないものかとの話を自治労中央本部に出向していた鹿児島県本部の鹿倉氏(当時社会福祉評議会議長)に打診。この趣旨に賛同していただいた花巻市の役員を紹介してもらいました。
 その後、1994年から『子どもたちに感動を 感動の数だけ人生を豊かにする』を合言葉にスタートしました。お互い毎年交互に訪問し、2,000キロを隔てた単組間交流は現在も続いています。

(2) 単組間交流事業計画
 趣旨:自治労ネットワークを活用し、海のない町と雪の降らない町の交流を図り組合間の自己研修の場として、子どもたちに、それぞれの季節を満喫してもらう。
① 冬季交流(1月又は春休み):奄美市職労が花巻市を訪問し、雪国の生活・文化と接し花巻市職労と交流を深める。
② 夏季交流(7月~8月):花巻市職労が奄美市(奄美大島)を訪れ、海水浴をはじめ奄美の夏を体験し、奄美市職労との交流を深める。
③ 対象者:職員と職員の家族
④ 受け入れ体制:両市職労が宿泊と日程、交流事業などを手配。
⑤ 経費:交通費・宿泊費は個人負担、諸経費は組合が負担。
⑥ 募集人員:毎年 20~30人

3. 最近の交流事業

(1) 夏季交流(花巻⇒奄美 2014年9月20日~23日)
 花巻市職労から大人14人、小学生3人が来島しました。奄美市職労側のテーマは「着地型観光(観光客の受け入れ先が地元ならではのプログラムを企画し、参加者が現地集合、現地解散をする新しい観光の形態。従来の発地型観光と比べて地域の振興につながると期待されている)」として、奄美市のお隣、大和村国直集落で企画しました。

「着地型観光」花巻市職労御一行様 奄美探訪ツアー2014行程

【1日目】
 奄美空港(14:20着-15:00発)⇒奄美博物館(16:10着-17:10発)⇒国直集落(17:30着)⇒歓迎バーベキュー交流会(18:00)⇒野生生物ナイトツアー(20:00)

奄美空港迎え① 奄美空港迎え② 奄美博物館① 奄美博物館②

 1日目は、空港で出迎え後、奄美博物館に行き、学芸員(組合員)の高梨先生に奄美の歴史や文化をレクチャーしていただきながら、初めて来られる方にも肩の力を抜いてもらうため、奄美市職労の体制、委員長の習性までジョークを交えながら説明。そこから、国直集落への移動となりました。

歓迎交流会 野生生物ナイトツアー説明

 国直集落移動後、宿泊する2件の民宿に荷物を置き、集落の公民館で歓迎交流会、地元国直集落の区長からの歓迎のあいさつもあり、黒糖焼酎で盛り上がりました。大人がお酒で盛り上がるなか、子どもたちは、着地型観光のオプションのひとつ、野生生物ナイトツアー(車で林道)へ。帰ってきた子どもたちから「アマミノクロウサギを見た」「イシカワガエルの写真を撮った」との声もあり、地元の人でもめったに見ることができない生物を岩手の子どもたちに見せることができた感動をいただき1日目を終了。

【2日目】
 宮古崎ウォーキング(10:00)⇒昼食(地元の食材等を利用したシマ料理)(12:00)⇒自由行動(釣り・海水浴・ウニ割り・追い込み漁・獲った魚をさばいて夕食準備)(13:00)⇒夕食交流会(18:30)

宮古崎からの眺望 宮古崎ウォーキング① 宮古崎ウォーキング② 宮古崎ウォーキング③

 2日目は、参加者全員の「宮古崎ウォーキング」、集落からおよそ2キロ離れた眺めの良い高台「宮古崎」では、運が良ければ、ホエールウォッチング・イルカウォッチングができます。地元ガイドの案内で出発、昨晩のアルコールを抜くことが主な目的です。

昼食の様子① 昼食の様子② 地元食材を生かした昼食

 ウォーキングから戻ってきたら、集落の公民館で国直集落の地元婦人会の方に、本当の奄美のシマ料理を作っていただきました。赤飯にお吸い物2つ、地豆(ピーナッツ)豆腐、島ならではの野菜、スモモのゼリーなど、彩り鮮やかな料理が並びました。

ウニ割り① ウニ割り② ウニ割り③
追い込み漁① 追い込み漁② 漁の成果
魚をさばいて夕食準備 仕掛けた網で獲れたイセエビ 地元の方が獲った魚

 昼食後は、自由行動で子どもたちは海水浴、釣り、ウニ割り、追い込み漁、獲った魚をさばいて夕食準備等で楽しんでいただきました。
 写真のウニは、シラヒゲウニという種類で、地元婦人会の方が獲ってきたウニを浜辺で割って、それを食べながら(おいしいという評判でした)手伝うといったものです。
 追い込み漁には3人の方が参加。国直集落の受け入れも初めての試みで事前にシュノーケル、足ヒレのつけ方をレクチャーせず、ぶっつけ本番で漁へ。台風の影響で波の「うねり」もあって、参加者それぞれ途中で水中メガネが外れたり、足ヒレが取れたり、逆に「人間が追い込まれた漁」となりました。
 魚をさばいて夕食準備は、「追い込み漁」は不調であったので、地元の方が獲ったイセエビ・イシガキダイ・ハリセンボン(奄美の方言で「アバス」高級食材)・タコ・海ブドウを足して準備をしました。

地魚刺身盛 国直集落から余興 奄美市職・国直集落コラボ

 2日目の夜は、以前、奄美市職労から花巻ツアーに参加したメンバーを交えての交流会。昼間獲った魚のお刺身、イセエビのみそ汁、ウニもご飯にかけ放題、イノシシの焼き肉など、奄美のシマ唄「国直米姉御節(くんにょりよねあごぶし)」ならぬ「国直やりすぎ節」の夜となりました。

【3日目】
 フリープラン(8:00~16:00)⇒さよならパーティー(18:30~)

自転車ツーリング 団結ガンバロー① 団結ガンバロー②

 3日目はフリープランで奄美市職労のベテランガイドたちが個別に対応。自転車ツーリング、奄美パーク、焼酎工場見学などを案内した後、さよならパーティーを開催。「団結ガンバロー」で締めくくられました。

【最終日】
 おみやげ買い物(10:00~12:00)昼食「鶏飯」(12:00~)⇒奄美空港(15:10発)⇒花巻市(22:00着)

【補足】今回の受け入れでは、奄美群島内の自治体、関係団体からなる「奄美満喫ツアー実行委員」のイベント・コンベンション開催助成金(奄美大島で開催され、島外から多くの参加者が見込まれるイベントや大会・会議・協議会・コンクール等の企画を推進するために、予算の範囲内でコンベンション主催者に助成金を交付:島外からの参加者の延べ人数が20人泊ある大会で当実行委員会会長が適当と認めたものが助成対象)から宿泊費、バス支援事業(奄美満喫ツアー実行委員会が認定する団体旅行に対し、バス等ツアーへ助成金を交付:①奄美大島内の貸切バス・タクシー事業者の所有するバス(ジャンボタクシー含む)を利用、②奄美大島内において1泊以上宿泊する団体であること。又は、名瀬港又は古仁屋港に寄港し奄美大島を周遊するオプショナルツアーの団体、③利用者が奄美群島外からの団体が助成対象)から貸切バスの助成をいただいており、経費の節減に努めています。

(2) 冬季交流(奄美⇒花巻 2015年2月7日~10日)
 奄美市職労から大人23人、小学生4人が花巻の地へ。奄美市職労のテーマは「雪・スキー・温泉(奄美には温泉がない)・歴史」。今回はバニラ・エア(LCC格安航空会社)が奄美⇔成田に就航し割安(運賃:奄美⇔成田間1万5百円)で雪国に行ける旅で、組合員に周知。参加も出足は遅かったのですが、徐々に増えて最終的にはお断りした方も。

「雪・スキー・温泉・歴史」奄美市職雪国体験ツアー2015行程

【1日目】
 奄美空港(11:35発)⇒成田空港(13:35発-14:20発)⇒東京駅(新幹線)(15:32着-16:56発)⇒新花巻駅(19:41着-20:00発)⇒宿泊チェックイン(20:30着-20:50発)⇒歓迎会(21:00~)

バニラ・エア 東北新幹線

 1日目はほとんど移動。奄美市から花巻市まで、飛行機、新幹線で9時間くらいかかりました。着いた日はあまり雪がつもっていない状況でした。

【2日目】
 小岩井農場雪まつり班(7:30~)・スキー班(8:30~)⇒大沢温泉(17:00~)⇒夕食交流会

スキー班① スキー班②

 2日目は鉛温泉スキー場コースと小岩井農場雪まつりコースに分かれました。この日も雪は降らず、小雨模様の天気でした。子ども大人含め12人にほとんどマンツーマンで花巻市職労のみなさんが付いて手厚い指導(奄美の追い込み漁とは違って)をしていただきました。おかげで子どもたちのスキーの上達は早く、リフトに乗ってさっそうと滑る姿が見られました。後は温泉入り放題。

【3日目】
 平泉(中尊寺)コース・猊鼻渓川下りコース・ワカサギ釣りコース・スキーコース⇒さよならパーティー

猊鼻渓① 猊鼻渓② さよならパーティー

 3日目は、世界遺産「中尊寺金色堂」コース、岩洞湖ワカサギ釣りコース、猊鼻渓(げいびけい)川下りコース、またスキーコースの4つのコースに分かれました。この日から、天候も冬模様。いいのか悪いのか、雪もちらつき始めました。夜は、さよならパーティーが催され、フラダンスなどの余興で盛り上がり、長いように思われた日程もあっという間に過ぎていきました。

【最終日】
 新花巻駅(7:00着-7:28発)⇒東京駅(10:16着-10:25発)⇒羽田空港(11:15着-12:10発)⇒奄美空港
 新花巻駅(7:00着-8:16発)⇒東京駅(10:56着-11:20発)⇒羽田空港(12:10着-13:55発)⇒鹿児島空港(15:55発-16:40着)⇒奄美空港
 最終日は昨晩の楽しいお酒でぐったりした中、旅館のロビーに朝6時集合。旅館の外に目をやると、そこは一面の銀世界。花巻市職労の方に聞くと、「災害クラスの雪ですね」と話していました。最後の最後で「岩手花巻の本当の冬」を体感。
 駅に向かう途中、あちらこちらで雪かきをする姿が見受けられ、こんな過酷な状況で生活すると、忍耐・根性がたくましくなるのかなと感じたところでした。新花巻駅では、横断幕を持ってたくさんの方々が見送りに来られていました。中には出勤途中で見送りに来られる方も。来年の夏、奄美での再会を約束し、それぞれ帰路へ。旅程の中では、大きなトラブルもなく、無事家路につきました。

4. 今後の課題

(1) 参加者の循環と企画の循環
 ⇒ベテラン参加者ばかりだと、もっと変わった企画を考えなければ面白くない。
 ⇒参加初心者には定番をみてほしい。
 人的交流・子どもに感動を与えることがメインだが、交流が長く続くと、ベテランの参加者、参加初心者が入り混じると、どちらにもいいものを体験してもらいたいとなって、行程を企画することに苦慮する。

(2) 晩婚化・少子化
 ⇒主役である子どもの参加が減少
 「子どもたちに感動を 感動の数だけ人生を豊かにする」ということでの交流事業スタートであったが、子どもの参加が年々減少しており、組合員の晩婚化・少子化も進んでいる。

5. 交流事業と東日本大震災

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、奄美市職労からも自治労ボランティアとして、宮城県石巻市への避難所支援として6人が参加し、保健師業務として1人が参加、連合ボランティアとしても、岩手県内沿岸部市町村復興支援として2人が参加することになりました。
 奄美市職労としても2010年10月20日、未曾有の豪雨災害を受け、自治労をはじめ、全国の仲間から物的・人的・金銭的支援を受け、その絆は一生忘れ得ぬものとなりました。我々はそのご恩へ最大の感謝をするとともに、復旧・復興への道筋も立てられない東日本各被災地の現状を目の当たりにした今こそ、我々が支援できることを早急に取り組むべきとの考えから、活動場所については、岩手県本部花巻市職労と長年のつながりがあり、支援を継続している岩手県宮古市を支援場所と決定し、闘争基金特別会計から予算をねん出し、花巻市職労と協同で単組独自支援を行いました。
 支援場所は、岩手県宮古市内各被災地で宮古市災害ボランティアセンター(宮古市社会福祉協議会)を通した復興支援ボランティアで第1グループ5人(2011年7月7日~11日)、第2グループ5人(2011年7月14日~18日)の奄美市職労から計10人が参加し、花巻市職労と協同で側溝等の泥・瓦礫撤去、個人宅の片付け、引越しの手伝い、物資の運搬などを行いました。
 この支援に入った奄美市職労も以前からの花巻市職労との交流があり、そのうえでメディアでは伝えられない地方自治体職員の現状に触れ、災害時の自治体の判断や広域的な防災計画など、支援する中で地方自治の研究(学習)ができたのではないかと思います。

6. まとめ

 この交流事業は、奄美市職労の活動方針の中でも、年間の闘争サイクルと並ぶ重要な活動のひとつとして位置付けています。それぞれの地域を訪れることで、自治体、組合活動の状況を知り、仕事や労働運動にアクセントが生まれ、やる気、モチベーションの向上に繋がっていきます。また、そこに住む住民の生活や文化、人情に触れ、さらに宿泊やお土産を購入していただくことで少しでも地域の経済への貢献ができるものと思います。人が人を呼び、この交流事業以外でも奄美を訪れる方が増えていくことも狙いのひとつです。
 花巻市は震災や豪雪、奄美市は台風や豪雨、災害時にも助け合い、励まし合っていける仲間が遠く離れた地にいます。心の結びつきに距離は関係ありません。この事業を続けてきた先輩方に感謝をするとともに、これからもこの交流を続け、後輩に残していくことが大事だと考えております。