【要請レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~ |
2014年3月に出された島根県商工会連合会が調査した島根県商勢圏調査によると、邑南町の地元購買率は37.4%で、言い換えると地域外へ6割以上が流出しているという衝撃的な結果が示されました。広島圏域に近い邑南町において、都市部への消費の流出が年々増加傾向にあり、商業者にとって大きな課題となっていることが浮き彫りになりました。本レポートでは地域内消費の減少という地域課題を共通の問題ととらえ、商工会との業務連携により労働組合が今できる事を提案し、現在取り組んでいる活動を報告します。 |
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1. はじめに 邑南町は、人口11,300人、世帯数5,000世帯、高齢化率42%程度で少子高齢化の一途をたどっています。主要道路沿いに商店が点在し、大規模店舗は少なく、従来から地元主導の共同店舗、JA店舗が地域の大店舗として存在しています。しかし、ここ数年はホームセンターやコンビニの出店により競争は激化しており、町全体として小売・卸売業の販売額は90億円を多少上回りますが、個人商店の売り上げは大きく減少しているのが現状です。消費者の購買傾向としては、地域外への購買力流出が急速に進んでいます。この近隣商圏への流出(地元購買率の低下)と併せ、少子化、生産年齢人口の流出、高齢者減少により、「お金を使わない」「投資しない」「資産未活用」といったデフレスパイラルが止まりません。歯止めのかからない商業(産業)の衰退に私たち邑南町職員連合労働組合が、地域に根ざした協働の取り組みを開始したことについて報告します。 |
2. 商工会の取り組み (1) 邑南町の産業の実態 図① (2) 新しい「買い物ポイントカードシステム」の導入 消費者の傾向としては、車の運転が可能な世代の地域外への購買力流出の急激な進行による地域購買率の減少、少子高齢化による就業者世代の減少に伴う購買単価の縮小、高齢者などの買い物不便者の買い控えなど、個店の売り上げ減少に拍車がかかっています。 こうした状況の中、地元購買率の減少を抑え、町内事業者の売り上げを伸ばすためには町内事業者が一体となって取り組み、消費者の購買意欲を刺激するメリットや、利便性を有することができる事業展開が必要とされてきました。2008年から町内の事業所で広く利用が可能な「邑南町商工会商品券」を発行し、エコポイント対応も可能にしたことから、商品券の利用高が伸び、地元消費拡大に寄与しています。 この効果を更にアップさせる方策として、2011年度に旧町村単位でそれぞれ利用していたポイントカードを「おおなんさくらカード」(以下「さくらカード」)として統合し、買い物に対するポイント付与のほか、様々な場所・機会において利用可能な町民の共有カードとして地域内消費の促進を図る新システムを導入しました。新たに導入したポイントカードシステム「さくらカード」は単に購買力の増加だけを狙ったものではなく、地元の社会貢献活動の取り組みとして「エクボポイント」も計画していました。これは、エコ活動、カルチャー教室、ボランティア活動などの社会貢献活動への参加時にもポイントを付与するという画期的なサービスです。しかし、新システム導入以来、このサービスは実施されておらず「さくらカード」は従来の買い物ポイントカードとしての運用にとどまっているのが現状です。 (3) 買い物ポイントカード「さくらカード」システムの概要 (4) 新システム「エクボポイント」の現状と課題 |
3. 労働組合からの業務連携の提案 (1) 社会貢献活動推進での協働 社会貢献活動は、私たち労働組合も清掃活動や福祉施設訪問などの活動を行っており、共通の目的となっています。まちづくりは住民自治が根底にあり、町民は自ら自分たちの町のことを考え行動しています。すなわち商工会は地域経済の課題を考え、「さくらカードシステム」の導入を通じて地域内消費の拡大を図り、さらに社会貢献活動という本来の役割でない部分に対しても参画しようと計画しています。 そこで、私たち労働組合は共通の目的を達成するために業務連携の可能性を見いだし、商工会に提案したところ両者の見解が一致し、2015年5月26日「おおなんカード会と邑南町職員連合労働組合との業務連携に関する協定書」を締結することに至りました。この業務連携により、具体的には、労働組合が行うボランティア活動などの社会貢献活動に対して、エクボポイントを付与する取り組みを行うこととしました。 協定書を締結したことにより、おおなんカード会と労働組合双方で「協働」という形を明確にすることができ、ボランティア活動などの社会貢献活動について地域住民も含め連携、協力して取り組みを実施するきっかけになりました。 労働組合が、地域(商工会)が担えない部分を補うことで地域(商工会)が計画していた活動が完成形に近づき、地域(商工会)の課題を解決する糸口になると私たちは期待しています。組合員が地域に根ざし、地元を積極的に利用することを組合から提案し、商工会は労働組合という組織の協力を得ることで大きな取り組みに発展できる可能性を見出すことができると考えています。
(2) エクボポイント付与制度の活用による可能性の広がり 例えば、150ポイント(ペットボトル1本相当)を付与するとして、200人の組合員が参加すれば、30,000円が買い物ポイントとして地域内へ還元されます。組合員のさくらカード保有率は事業実施前までは約64%でしたが、この取り組みについて組合員への周知と理解を求める活動を徹底した結果、着実に浸透が図られ、2016年3月時点で75%まで保有率を引き上げることができました。この取り組みを開始して半年間で44,250ポイントを付与することができており、2016年も組合のボランティア活動に参加した組合員に対してポイントの付与を継続しています。ボランティア活動の場が広がれば、活動を通じて組合員自身の自己啓発、地域貢献への意識も高まり、労働組合の課題でもある「組合離れ」を防ぐ取り組みにも繋がり、参加率の向上にもなると期待しています。そして、小さい規模ではありますが、地域内消費(地域内還元)を拡大する取り組みの一助となっていると確信しています。 |
4. 労働組合の活動状況と課題 (1) ボランティア活動の現状 実際には組合員も一住民として集落や自治会などの活動に参加し、地元地域の役員を1人で何役も担っています。それと同時に「最近は集落の集まりに職員が出なくなった」という町民の声があるのも事実であり、組合員(自治体職員)自身の地域(集落)への考え方も様々です。ボランティア活動という身近に地域に関われる機会を生かし、地域のニーズ(課題)を見い出すことも地方(住民)自治に繋がる要素となります。現在組合執行部では、地域に根ざした活動(ボランティア活動)を労働組合としてどう取り組むかを考えながら、このボランティア活動を拡充させ、エクボポイント付与(地域内消費)の拡大をめざし、地域と協働できる活動(さくらカードシステムの活用)の企画立案を進めています。
(2) 他団体との連携で活動を発展 邑南町社会福祉協議会では、「共助」の中核的な組織として「邑南町災害ボランティアセンター」を設置し、迅速かつ円滑に支援できる体制を立ち上げ、労働組合からも災害ボランティアとして9人が参加しました。協議会では、ボランティア団体支援(助成)事業も実施しており、協議会と17のボランティア団体との相互の協力関係も確立しています。 また、毎年11月の第2土曜日を「邑南町ボランティアの日」と定め、それぞれの地域で環境美化活動を中心としたボランティア活動を実施し、昨年は、地区社協、公民館、ライオンズクラブ、スポーツ少年団、一般住民約450人が参加しています。 その他にも障がいのある方への必要な配慮を理解し、温かい地域社会をめざした「あいサポート運動」を推進し、銀行などの各種団体も業務の一環として受講しています。 私たち組合員も日ごろの業務の中で様々な町民と接しており、障がい、認知などの理解を深め、柔軟に対応できるようにしなくてはなりません。高齢化に伴い、ボランティアの担い手も高齢化しています。邑南町社会福祉協議会がコーディネーターの役割を担い、労働組合と連携を図りながら社会貢献できる場を広げていきたいと考えています。 |
5. 今後の取り組み
「さくらカードシステム」を労働組合に導入することにより、商工会が抱えている課題(エクボポイントシステムの運用)については一定の成果を得ることができ、停滞していた事業を動かす契機となりました。今回の取り組みにより労働組合、商工会双方が、地域貢献活動(地域内消費拡大、ボランティア活動の充実)への参画を、より拡大することができました。商工会において、この事業を地域全体にどう広げていくのか、今後の展開を期待しているところです。そして我々労働組合としては、今後はボランティア活動(地域福祉)だけではなく、文化・教養の分野でも活用できるツールを検討することによって、組合活動の拡充や組織拡大にも発展できる可能性を見出すことをめざしてさらに研究を進めています。
これから、私たち組合員1人ひとりが「地元購買率の低下」という地域課題を地域と共にどう考え、どう解決していくのかを組合全体で共有し、組合という大きな組織でどう取り組めるのかを模索、実践していくことが重要です。 大きな成果は期待できませんが、小さな課題「エクボポイント付与事業の停滞」を解決することで、地域外に消費が向いている傾向を、わずかでも地域内に向けさせる活動を、邑南町職員連合労働組合は継続して取り組みます。今後、「ポイント付与」という取り組みを発展させていけば大きな成果に繋がることが期待できると信じて、今できることから始めています。 |