1. 経 過 (1) 北海道「農」ネットワーク及び青少年自立支援センタービバハウスについて
① 北海道「農」ネットワーク
1998年12月10日に、自治労全北海道庁労働組合連合会(以下、「全道庁」という)農業改良普及センター連絡会議の有志が中心となり、自治労北海道本部、「全道庁」並びに北海道農民連盟(以下、「農連」という)の賛同を得て、旭川市で設立。自治労(自治体農政=現場)、「農連」(生産者)をつなぐ「農政研究ネットワーク」として、政策提言を行っている。住民が北海道で生きていくための地域づくりも含めて、担当する部門を超えた自治労組合員等の参加を希求し、北海道農業の確立に向けた政策研究、農村地域問題や環境保全型農業の実践など道民運動に取り組んでいる。
代表は、長谷川豊氏。道内各地の農業高校で教鞭をとっていた時期から、農村と福祉の結びつきや農村の持つ教育力に着目。教職を退いた後に農業塾「風のがっこう」を設立し、農業後継者の育成、社会教育の推進、循環型の農業の振興による環境保全、高齢者、障害者の就業を支援する活動などを展開。子どもの健全育成等に寄与することを目的に勤労観、職業観の他、農業の必要性を認識してもらうため、食料、安心・安全、環境などのキーワードに農業体験等の活動を精力的に行っている。モンゴル国バヤンホンゴル県における農業自給体制の実現をめざす農業指導者の育成事業、落葉・木片・家畜糞尿・海産物の廃棄物を混合し好気性生物を利用した団粒構造の土づくりを促進する有機肥料の開発、東日本大震災後には被災地にて家畜糞尿を利用した生物浄化技術を駆使し、塩害農地の復旧、津波による海水汚泥被害を受けた施設の消臭等を行っている。
北海道「農」ネットワーク(以下、「農ネット」という)においては、非農業者に農業への関心(作る喜び、安全安心でおいしい農産物とはどんなものか等)を啓発するため2013年度から連続講座「はじめて作る野菜教室」を開講した。
② 青少年自立支援センタービバハウス(ホームページ http://www.viva-house.net/)
代表は、安達俊子氏。北星学園余市高等学校の教師として、夫である安達尚男氏とともに2000年に青少年自立支援センター「ビバハウス」(以下、「ビバハウス」という)を設立。厚生労働省委託実施事業「若者自立塾」、基金訓練合宿型自立プログラム、求職者支援制度等の公的支援(2013年3月で終了)等を活用し運営。20~40歳代の無業者、軽度発達障害者、精神障害者等を含む全国から希望する若者を受け入れ、主として農業を中心としたグループワーク等を通じて、社会(生活保護を受給しながらの社会参加や就労先は多岐にわたる。)に送り返す活動を行っている。
利用者の大半は、親子間の確執によるケースである。「若者の苦しみを理解できない」と彼らが一方的に思っている両親(特に母親)に対する暴力を伴う事が多い。「ビバハウス」は、家庭内暴力で家族とは暮らせない、行き先の無い若者のための、病院でもなく、また単なる学校でもない、ある種の「転地療養」の場として機能してきた。
2013年2月当時は、財務省の思惑を受けとめた台詞で蓮舫氏を有名にした行政刷新会議における「事業仕分け」において、厚生労働省の委託実施事業「若者自立塾」は事業効果が少ないとの評価で廃止されたため、2013年4月以降の見通しを模索していたところであった。
(2) きっかけ
① 両者の出会い
2013年2月、旭川市内で「農ネット」の講演会があり、その帰路において長谷川代表の提唱する「農業・農村の教育力を生かした地域農業や福祉の担い手を育てる手法」を展開するに当たって、「北海道は、全国の1/4の耕地面積を持ち、全国の農業生産量の約1割を占め、カロリーベースで約2割の食料生産を担う日本の食料基地である。東京や大阪からは遠隔地に位置しているにもかかわらず、北海道産の農産品は高いシェアを占める。また、農水産品を加工する食料品製造業も多く、製造業における売上げの約8割を中小企業が占め、地域の雇用の場としても重要な産業となっている。しかし北海道も農家戸数は減少が続き、65歳以上の比率は増加傾向にあり、近年は3割を超えて推移している。そこで、若者・無業者・障がい者にも農業に協力してもらいたいと考えている。農業を始めたい希望者(農業の素人)はたくさんいる。耕作放棄地もたくさんある。問題は希望者と熟練農業者との調整役となる教え手(一定程度、農業技術を習得した担い手)が不足している。そこを何とかしたいと思っている。」との話があった。
そこで「人間教育」(コミュニケーション)に力点を置いた取り組みを実践している「ビバハウス」を紹介し、両者が自治労北海道本部にて会談を行い、北海道の農業、就労、自立支援について意見交換し、共同事業を行うこととなった。そして、実施に当たり自治労北海道本部へ協力依頼があった。
② 労働組合の協力
依頼内容は、農業で雇用の受け皿づくりなど、道・国へ政策提言もあり、連合北海道総合政策局長へ相談し、連合北海道の協力を得ることとなった。
③ めざす農業形態は都市近郊の小規模有機農業
農業の大規模化が宣伝されているが、世界の潮流の実態は農業の大規模化ではない。小規模農業が主流である。日本もかならずその方向になる。もともと日本のプロの専業農家の「匠の技」は世界の諸外国と比べて「小規模」だからこそ技術研鑽が進んだ。
札幌市内には、農業(小規模)を本格的にやりたいという希望者の需要がある(頻繁に相談者が長谷川代表のもとを訪ねてくる)。そのため、札幌近郊で農業を希望している者を育成しようと構想を立てていた。
しかし、農業専業では成り立たないので、長期的に農業経営できるように別の収入源もある兼業農家として経営していく必要がある(消費者との連携、先払い収穫物分配、栽培援助型など)。農業(小規模)を本格的にやりたいという希望者は単身での研修者がほとんどである。研修者の中には将来、農業をするにしても、どんな農家になって、どうゆう将来展望を描いていいか(人生観を)思いつかない者もいる。農業技術と共に人間教育を実施する必要性がある。また、一人や家族だけでは継続は難しいので、退職者・若者・無業者・障がい者などの参加によるユニットによる農業を推進したい。札幌市内にも遊休農地があふれているので、そのようなところの活用を考える。
なお、欧州議会の研究(2016年3月)によれば、「公的政策の観点からして、小規模経営はむしろ推奨すべきもの」との見解がある。
④ 共同事業構想(「年寄り・若者元気村」づくり/生きる喜びを実感できる社会へ)
医療の高度化や、さまざまの要因で高齢期を迎えている日本社会のお年寄りたちは、現在本当に幸せな毎日を過ごしているだろうか。極端に言えば、その内実は寿命が伸びた分だけ悲惨としかいえないような状況を呈してはいないだろうか。
「長寿」が本人にとっても、家族にとっても、そしてその社会にとっても心から歓迎される条件を作り出すこと。この最大の難題に挑戦したい。お年寄りの皆さんに生きていることの喜びを実感できる「場」を作ることから始めたい。
全国から「ビバハウス」に受け入れた若者たち数百人がそれぞれの地域に帰り、すでに就労したり、引き続き挑戦しているが、余市町内の各職場で、余市町民として就労している若者も10人をくだらない。この中には、老人福祉施設の事務局長に就任し、重責を果たしている卒業生もいる。これまでの生活で少しづつ力をつけてきた若者たちにも、お年寄りの皆さんの願いに応じたお手伝いをしてもらうことが夢である。
まずは、「ビバハウス」としても最近特に頻繁になってきた卒業生のSOSに応え、また社会全般の困難を持つ若者の受け入れの状況悪化に対応するために「ビバハウス」農業塾を開設する。「ビバハウス」から約15分の「ビバ・モンガク農場」(約7ヘクタール)を活用し、およそ3~4年の就労支援実習過程で有機農業技術を習得し、法人や企業が行う農業への就職や希望する者には自営農民への道を切り開く構想である。
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