【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 函館市において急速に進行する高齢化や、将来推計人口が2040年には約17万人となる見通し(国立社会保障・人口問題研究所、日本創成会議:増田レポート)もある中で、市役所がどの様な役割を担い、どの様な行政サービスを提供していく必要があるのか、函館市職労の組合員を対象にアンケート調査を実施し、回答や意見をもとにその実践方法の手がかりを探るものである。



少子高齢・人口減少社会における市役所の役割
―― アンケート調査から手がかりを探る ――

北海道本部/函館市役所職員労働組合 外﨑 洋亮

1. 調査概要

① 調査期間 2016年6月13日~6月24日
② 配 布 数 1,455人
③ 回 収 数 1,043人
④ 回 収 率 71.68%
⑤ 調査内容 (次の2.に記載のとおり)


2. 各調査項目結果

① 回答者の性別(F1)
 ・男性組合員684人(65.58%)、女性組合員350人(33.56%)、無記入9人(0.86%)の合計1,043人の組合員(71.68%)からアンケート調査へ回答をいただいた。
② 回答者の年代(F2)
 ・10代が5人(0.48%)、20代が145人(13.90%)、30代が153人(14.67%)、40代が395人(37.87%)、50代が281人(26.94%)、60代以上が55人(5.27%)、無記入9人(0.86%)と、回答者は40代と50代で半分以上をしめた。
③ 少子高齢化が進行する中で函館市への将来の不安(Q1)
 ・「おおいに不安がある」が484人(46.40%)、「ある程度不安がある」が463人(44.39%)となり、9割以上の組合員が不安があると回答した。
 ・一方で、「あまり不安はない」が70人(6.71%)、「まったく不安はない」が15人(1.44%)となり、不安を感じていない組合員が若干名いることがわかった。
 ・無記入は11人(1.05%)で判断不能。
④ 「まちづくり」に対する関心(Q2)
 ・「おおいにある」が144人(13.81%)、「ある程度ある」が635人(60.88%)となり、約7.5割の組合員がまちづくりに関心があると回答した。
 ・一方で、「あまりない」が221人(21.19%)、「全くない」が33人(3.16%)となり、約2.5割の組合員がまちづくりに関心がない結果となった。
 ・無記入は10人(0.96%)で判断不能。
⑤ 少子高齢化に対応するまちづくりの連携先(Q3)
 ・「市民」が290人(27.80%)、「NPO・NGO」が70人(6.71%)、「企業」が355人(34.04%)、「大学」が94人(9.01%)、「国・北海道」が166人(15.92%)、「その他」が26人(2.49%)となり、「企業」と回答した組合員が最も多かった。
 ・その他の中には、数人が「全て」と回答したほか、まちづくり企業やデベロッパー(開発業者)との連携や教育機関との連携などの意見もあった。 
⑥ まちづくりに関する少子高齢化の課題(Q4-1)
 ・「ある」が941人(90.22%)、「なし」が74人(7.09%)となり、9割の組合員が課題があると回答した。
 ・無記入は28人(2.68%)で判断不能。
⑦ まちづくりに関する少子高齢化の具体的な課題(回答2つまで)(Q4-2)
 ・(Q4-1)で「課題がある」と回答した941人のうち、「不十分な子育て環境」が320人、「医療・介護・福祉サービスの不足」が250人、「空き家の増加」が119人、「高齢者の孤立化」が182人、「社会保障費の増加」が257人、「学校の減少や教育力の低下」が151人、「雇用機会の減少」が438人、「相互扶助の衰退」が93人となり、「雇用機会の減少」が最も多く、次いで、「不十分な子育て環境」の順となった。
 ・その他の中には、数人が「全て」と回答したほか、労働人口の低下や経済活動の停滞、流入人口増加の施策などの意見もあった。
⑧ どの様な点を重視してまちづくりを進めてほしいか(回答2つまで)(Q4-3)
 ・(Q4-1)で「課題がある」と回答した941人のうち、「医療・介護・福祉サービスの充実」が258人、「子育て・教育環境の充実」が412人、「高齢者の見守り支援」が92人、「観光振興による交流人口の増加」が65人、「商業施設や機能の充実」が138人、「企業誘致や移住対策の強化」が320人、「空き家対策など住環境の整備」が87人、「安定的に働ける環境の整備」が464人となり、「安定的に働ける環境の整備」が最も多く、次いで「子育て・教育環境の充実」の順となった。
 ・この結果は、⑦まちづくりに関する少子高齢化の具体的な課題で最も多かった「雇用機会の減少」と次の「不十分な子育て環境」とリンクする結果となった。
⑨ 出生率が低下している理由(回答2つまで)(Q5)
 ・「保育園の不足など、子育てしながら働ける環境が整っていない」が179人、「育児休暇など、子育てと両立できる職場環境が十分に整っていない」が258人、「結婚しない人が増えているため」が445人、「男性の育児参加が足りないため」が31人、「景気低迷などにより、経済的に苦しい人が多くなったため」が703人、「核家族化などにより、育児を助けてくれる人がいないため」が192人となり、「景気低迷などにより、経済的に苦しい人が多くなったため」が最も多く、次いで「結婚しない人が増えているため」の順となった。
 ・また、その他として、「安定的な就労環境が整っていない」、「働く場所が少なく、結婚適齢期の若者が都会等へ出て行く」など、最も回答が多かった「景気低迷などにより、経済的に苦しい人が多くなったため」とリンクする意見も多かった。さらに、「家庭をもつメリットがない」、「一人で不自由しない」など、個人としての価値観やライフスタイルの変化に加え、「全国的に子育てに関心が少ない」、「結婚しても将来に希望をもてず子どもをもたない夫婦が増えている」など、出産や子育てに対する状況・価値観の変化をあげる組合員も多かった。
⑩ 人口減少を食い止める、増加させるために有効な手段(回答2つまで)(Q6)
 ・「女性や高齢者にとって働きやすい職場環境の整備」が371人、「地域経済を活性化し、就業機会を増やす」が772人、「観光振興による交流人口の増加」が141人、「医療・介護や福祉などのサービスの充実」が209人、「年金等の社会保障にかかる費用負担の軽減」が194人、「地域のまつりやイベントの開催などによる地域の活性化」が109人となり、「地域経済を活性化し、就業機会を増やす」が最も多く、次いで「女性や高齢者にとって働きやすい職場環境の整備」の順となり、いずれも「働き先の確保、働き方の整備」といった労働環境・労働条件の整備に関連するものが上位をしめた。
 ・また、その他として、「高度な教育環境の創設による学ばせやすい街」や「大学までの学費の無償化など、子育てに必要な経費負担の軽減」など、教育環境、子育て支援に関する意見も多くあがった。
 ・ごく僅かな意見として、「そんなものはない」との意見もあげられた。
⑪ 函館市にこれからも住みつづけたいか(Q7-1)
 ・「住みつづけたい」が544人(52.16%)、「当面の間は住みつづけたい」が390人(37.39%)となり、9割の組合員が函館市に「住みつづけたい」と回答した。
 ・一方で、「他の市町村に転出したい」が53人(5.08%)、「他の市町村に転出する予定」が13人(1.25%)となり、若干名ではあるが、他の市町村への転出希望や転出予定の組合員がいることがわかった。
 ・無記入は43人(4.12%)で判断不能。
⑫ 函館市に住みつづけたい主な理由(回答2つまで)(Q7-2)
 ・(Q7-1)で「住みつづけたい」、「当面の間は住みつづけたい」と回答した934人のうち、「購入した持ち家がある」が444人、「自然環境が良い」が238人、「医療施設が充実」が35人、「高齢になっても暮らしやすい」が41人、「飲食店・娯楽施設などが充実」が23人、「住み慣れている」が665人、「行政サービス(保健・福祉・教育など)が良い」が6人となり、「住み慣れている」が最も多く、次いで「購入した持ち家がある」の順となった。
 ・その他、「子どもが就学中」や「愛着がある」、「知らない町へ転出する不安」をあげる組合員もみられた。
⑬ 他の市町村へ転出したい・する予定の主な理由(回答2つまで)(Q7-3)
 ・(Q7-1)で「他の市町村に転出したい」、「他の市町村に転出する予定」と回答した66人のうち、「進学・転校など」が8人、「就職・転職・退職など」が36人、「結婚のため」が4人、「子育てや子どもの教育のため」が17人、「家族・親族などの介護・看護のため」が23人、「住宅の取得」が15人、「行政サービス(保健・福祉・教育など)が悪い」が33人となり、「就職・転職・退職など」が最も多く、次に、「行政サービス(保健・福祉・教育など)が悪い」の順となった。このことから、退職を機に函館市を離れようと考えている組合員や、行政サービスを理由に他町への転出を考えている組合員が少なからずいることが推察される。
 ・その他、「函館市の先行き不安」や「住環境の悪さ」をあげる組合員もみられた。
⑭ 少子高齢化が進行する中、どの様な街にしていくことが大切か(Q8)
 ・「高齢者が住みやすい」が56人(5.37%)、「子育て世代が住みやすい」が288人(27.61%)、「若者が住みやすい」が288人(27.61%)、「多世代が住みやすい」が368人(35.28%)となり、「多世代が住みやすい」が最も多く、「子育て世代が住みやすい」と「若者が住みやすい」が同数となった。
 ・無記入は31人(2.97%)となり判断不能。
⑮ 自由記入欄(Q9)
 ・道南の先頭に立ち、各自治体との連携を深め、道南全体として少子高齢化への対策を考えていくべき。
 ・「食い止める」「改善させる」という視点の施策は無理。少子高齢・人口減少はこのまま止まらないから、身の丈に合った行政施策と展開へシフトすべき。
 ・函館市がめざす長期、短期のビジョンをはっきりさせること。
 ・成長した子どもが流出しないよう教育(大学)の充実、経済振興が必要。
 ・大型ショッピングモールの建設。
 ・現役世代(特に若年層)の雇用や賃金に係わる施策を充実させ、経済的に不安を抱かずに子どもを産み育てられる環境を構築すべき。
 ・若者の雇用が安定しないと結婚、子育てに結びつかない。子育てしやすい環境を整えることは高齢者にとっても住みやすい環境への第一歩となるはず。
 ・恵まれた気候や食文化を最大限にPRし、高度な教育や特異な分野の教育機関の誘致を勧め、世界的な教育都市をめざす。
 ・街の豊かさではなく、個人の幸福感の豊かさをめざすべき。
 ・国際観光都市をうたっているわりに観光施設が中途半端。もっと観光地らしくするべき。
 ・函館市職員の保守的思考が強い。業務に向かう姿勢をもっとポジティブに。


3. 調査結果から推察されること

・函館市は、公立はこだて未来大学や北海道教育大学函館校をはじめとする高等教育機関や各種専修学校などが数多く存在する都市として知られているが、特に、函館市において若年層の安定した就労環境が整っていないために、学校卒業後、そのまま函館市に就職できない状況や、結婚適齢期の若者が他都市へ流出してしまう現状があるのではないか。組合員からも少子高齢化の課題として、「雇用機会の減少」が最も多くあげられ、今後のまちづくりの視点として、「安定的に働ける環境の整備」が最も多く選択された。
・安定した就労環境がないことは、将来へ希望が持てず、結婚や子育てに結びついていかない、そこにライフスタイルの変化や、結婚・出産などへの価値観の変化なども相まって、ますます結婚しない(できない)人、子どもを持たない(持てない)家庭などが増えている現状へ結びついているのではないか。
・安定した就労環境をどの様に整えていくか。相当数の組合員が企業誘致や観光産業の振興による雇用の確保をあげている。この部分は、組合員の中でも様々な議論があると思われるが、本アンケート調査から、「経済的に不安を抱かず、子どもを産み・育てられる環境を整える」ための効果的な施策が必要ではないか? ということが大方の意見として読み取れ、結婚→出産→子育て支援→人口流出防止のための経済振興施策を「点」ではなく「線」で実施する必要性が浮かび上がってきた。
・また、組合員からは、函館市の姿勢として、道南の先頭に立って各自治体と連携しながら道南全体で施策を展開するべきとの意見もあった。さらに、今後のまちづくりの連携先として「企業」と回答した組合員が多数いたが、その中には、街づくり企業やデベロッパーとの連携をあげた組合員もいた。いずれにせよ、少子高齢・人口減少がこのまま加速度的に進んでいけば、自治体単体での安定的な行政サービスの提供が行き詰まる可能性もあり、将来にわたる行政サービスの質の確保・提供という観点からも重要な意見と捉えることができる。

4. むすびに

 今回のアンケート調査により、先述のとおり少子高齢・人口減少が加速度的に進んでいる当市の今後のまちづくりについて、組合員が感じているいくつかの問題点・課題点が認識できた。
 これら課題に対し、職員組合として市政運営へ積極的に関わるとともに、単組としての独自運動を継続して展開していく必要がある。このためには、本テーマを継続的な研究テーマとして位置づけ、今後は、地域住民の認識や望んでいる施策なども確認する必要があることから、引き続き、当自治研推進委員会を中心に取り組みを進めていく。