【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

合併がもたらした自治体および住民への公共サービス
~地域の将来を見据えて~

福島県本部/自治研推進委員会・第一専門部会

1. はじめに

 行財政改革を中心とし、公共サービスは住民ニーズに沿っているか、また、合意形成が図られているかなど、部会員の職場での意見や住民からの要望、行政の改善点など多くの意見などを基に進めてきました。
 なかでも、平成の大合併を行った自治体の現状について、財政面や公共サービスの水準などアンケートを実施し現地調査を行いながら一つのテーマとしてまとめていくこととしました。財政面はもとより、本庁・支所間での格差、地域間での不公平・不満はないか、役所と住民との信頼感などさまざまな課題について回答をいただき、今後の自治体の在り方に何らかの提言ができればと思います。

2. 集約結果の概要

 アンケートは平成の大合併を行った自治体労組に依頼することとして、13単組と昭和の大合併を行ったいわき市を対象としました。提出されたアンケートを基に部会で検証を行い、三班で南相馬市・伊達市・会津若松市・南会津町での現地調査を行い、より詳しく掘り下げた内容の聞き取りを行いました。とくに、伊達市においては、当初9町での合併問題協議会が開催されて以降、最終的には住民判断・9町ではまとまらないなどを理由に合併協議会を離脱する自治体があり、最終的に5町での合併になる特徴的な課題もありました。

(1) 市町村合併した理由・端緒となった事柄は何か
 平成の合併においては「市町村の合併の特例等に関する法律」の制定に伴い、各自治体において「財政難の現状、地方分権の推進、少子・高齢社会への対応、住民サービスを維持・向上させる有効な手段である」など、各自治体の認識によって行われてきた経過が報告されています。
 なお、昭和の合併を行ったいわき市においては、新産業都市の指定をめざした「新産業都市建設促進法」に基づくものでした。

(2) 合併を選択し、当初の目的が達成されましたか?
① 財政面について
 合併特例債の活用などもあり、ほぼ財政難は回避できたとの回答が多く報告されています。このようななかで、人件費削減として職員や議員定数の削減や財政規律の設定など共通して報告され、このことが後に災害時における対応に不利となることとなっています。ほかに、地方債の抑制などの中長期的な行財政計画を進め、現在は実質公債比率が改善傾向にあるとの回答もありました。

 
合併特例債により整備された近代的な
南相馬市立中央図書館
  図書館内に設けられたゆとりあるカフェコーナー

② 住民サービスについて
 吸収合併の自治体にとっては、旧町村が支所となり行政経営の効率化との観点から職員の削減、業務の本庁集約などが報告されています。
 この結果、旧町村の住民は本庁まで足を運んでの手続きなど不便になったとの声も聞こえます。また、本庁へ予算・権限が集中することにより、支所独自に対応できないなどの問題が挙げられています。
 さらには、公共料金・手数料・税額が高めに設定され、合併による負担が増加していることも一方で報告がありこのようなことから、住民サービスは低下していると思われます。
 メリット面では、本庁の駐車場が狭く不便なため、支所に出向くことで手続きや検診などでは混雑が緩和されていること、保育所の選択が広くなったなどがあります。

 
駐車場が手狭な状況の会津若松市本庁舎   駐車場に余裕の見られる河東支所(旧河東町役場)

③ 少子高齢化・人口減少について
 合併による要因とは言い切れませんが、全体的に歯止めがかからないとの回答が多く占めています。
 従来から、通勤・通学圏、商業圏が中心部に集中しており、旧町村での職場の減少や農村部での働き手の減少、小・中学校の統合などを要因として人口減少や地域間での偏りが進んでいます。また、核家族化が進行し高齢化にも拍車がかかっています。
 特に南相馬市では、合併時7万2千人ほどの人口が、東日本大震災及び福島第一原発事故以降、人口減少が加速し、毎年1千人ペースで減少しており、2015年度は6万2千人になっています。
④ 職員・組織について
 合併以前から、退職者不補充など財政的な問題から職員が削減されるなかで合併が行われ、組織の見直し・人員適正化計画に基づく新規採用の抑制が行われました。
 この結果、職員は減少しましたが組織数は増加しているとの結果が出ています。一方、支所では、3課から2課へ縮小されているとの回答が多く、これに伴い職員も削減されており、本庁と支所間での連携が取れない、また、支所で完結すべき業務を本庁へまわすなど不具合も生じているとの報告もあります。効率化は図られましたが、住民サービスの低下と職員への負担が増加していることは明らかになりました。

(3) 合併を行ったことにより、合併前と比べて不公平感や不満等はありましたか?
① 地域バランス
 支所での予算・人員の削減や広域な人事異動により、地元出身の職員が少なくなり、「地域を知る職員を増やしてほしい」との声が出されているとの回答がありました。このことから、旧町村の特色ある伝統行事などができなくなっており、寂れてきている現状があります。イベントや行事を開催するにしても、予算や人員が少なく手を引かざるを得ない状況が浮き彫りとなり、合併による地域の活性化・伝統が継承されない状況となっています。
② 住民間での不公平感や不満
 相談窓口としての機能が低下し、役所との距離が遠くなったとの声が出されているとの回答があるように、旧町村単位での手続きが本庁へ移り住民負担が増加しています。このことから、住民からは数少ない地元の職員に対して苦情はきつく言ってくるが、顔がわからない職員に対してはものも言わないなど、職員間でも負担が違うなどの問題も生じています。
 旧地域での歴史や文化の違いなど、住民意識は中々変わることがなく「仲良くなれても一つになれない」との声が出されているようです。


住民と直接対応する窓口業務が中心の総合支所

③ 本庁と支所のバランス
 本庁に予算と権限・職員が集約され、支所で完結すべき業務ができず本庁への負担が増加している傾向にあります。このことにより、本庁職員の残業が慢性的になってきているなどの回答が出されています。職員の中では、本庁は「きつく」支所を含む出先は「らく」といった意識があり、定年を間近にする職員の異動希望者が増えているなどの意見がだされる自治体もありました。
 一方では、合併の枠組みについて当初異議を唱える動きもありましたが、10年を経過し不公平感や不満は聞こえてこない、支所職員の段階的削減に併せ、業務も縮小してきたためバランスは取れているとの回答もあります。
④ 職員間での不公平感や不満
 多くの回答があったのは、合併時の給与格差についてです。給与水準を高い町に合わせたが、合併後の賃金調整が現在でも完全に行われていない自治体があります。
 また、昇任・昇格においても、合併の形式によって、出身市町村で差があるとの回答も出されています。
 業務面では、新しい業務に対応できるかとの不安の声も聞かれましたが、十分に対応し不満は聞こえない、10年経過しこれまでの人事異動により職場の仲間という意識が形成されてきたなどがありますが、本庁と支所での業務量・質の違いや全体的な人員削減による業務量増加に不満の声も出されています。
⑤ 合理化された施設・サービス
 支所機能のサービス低下は言うまでもなく、保育所・幼稚園の統廃合、幼保一体化、小中学校の統廃合、文化・スポーツ施設の振興公社委託、指定管理者の導入などが報告されています。
 特に、これまでも民間委託が進められてきた病院や給食センター、学校用務職などの現業職場の委託化が加速しています。このことは合併にかかわらず、少子化がどの地域でも起こっていることなどが要因と考えられます。

(4) 合併により生じている課題や合併したことによって生まれた新たな取り組み
 財政的な理由による合併は、自治体としての合理化・機能の整理縮小ばかりが表面化していますが、結果として良い効果があるとは思えないとの回答が多くを占めました。
 旧市町村職員間での仕事の進め方・考え方の違いなどからのコミュニケーション不足が組織力の低下につながっているとの報告もあります。
 住民サービスの面では、交通弱者への対応として新たにコミュニティバスの運行が行われる自治体がある一方、首長が変わったことによりバスが廃止となった自治体もあります。
 南会津町では、旧4町村にそれぞれスキー場を持ちイベントを行ってきたが、職員数の減少により負担が増すことによって、今後イベントの集約が必要ではないかなどの考え方が示されています。

南会津町、会津高原たかつえスキー場(旧舘岩村)
 での友好都市との交流イベント
都会にはない雄大な自然を満喫

3. まとめ

 合併によって、職員・議員の定数削減による人件費抑制、業務・施設の外部委託などにより、自治体としては、財政課題はある程度改善されたかのように見えます。しかし、住民や職員の目から見るとさまざまなマイナス面が挙げられました。
 とりわけ、職員の削減は、住民サービスを提供する職員、それを受ける住民、双方にとって負担が強いられています。
 さらに、予算の減少により、地域の行事なども減少しつつあり独自性が薄れています。また、地元での職も減少しているように思われます。このようなことから、若者を中心に都市部への人口集中や限界集落を生み出しています。結果として過疎化・地域の高齢化につながり、地域間の格差として表れており、合併前のことを懐かしく思うとの声も聞かれています。
 地域の人口減少があっても、生活を維持するには水道あるいは道路の維持管理・除雪など多くのサービスを提供することには変わりがなく、今後このような地域・集落を維持していくのか、また、集約・効率化を図るのかなど町としても方向性が定まっていないとの意見も出されました。
 今回の調査結果で、行政サービスの低下が明らかになったことから、あらためて自治体の在り方について、住民福祉の増進や行財政基盤の充実・強化など住民目線での行政サービスを考えていくことが必要です。