【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

市町村合併に伴う職員削減と震災対応への影響


福島県本部/自治労南相馬市職員労働組合 中野 直良・鴨志田貴之

1. はじめに

 福島県南相馬市は、2006年1月1日に旧小高町、旧鹿島町、旧原町市の3市町が合併して誕生した。合併時の人口は74,251人、世帯数23,441世帯、面積は398.5平方キロメートルである。
 合併の目的は他の市町村合併と同様に、職員数の削減を含む行財政改革により、人口・税収減少社会にあっても持続可能な行政運営をめざすこと、合併特例債を活用した住民サービスの維持向上である。
 本稿では、市町村合併により、職員数が適正化計画に比して実際にどのように変化し、そのことが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故後の職員の状況に、どのような影響をもたらしたかを中心に検証していきたい。

2. 合併までのあゆみ

 職員数の削減状況を取り上げる前に、あえて合併に至る数年間に職員がどのような状況下で合併に関する業務にあたったかに目を向けていただきたい。
[南相馬市誕生までのあゆみ]
 2003年9月 任意合併協議会設置(飯舘村、鹿島町、原町市)
       ※小高町は浪江町との法定協議会設置済みのため参加せず
 2003年12月 小高町が浪江町の法定協議会を解消
 2004年1月 3市町村任意協議会に小高町が加入
 2004年2月 4市町村合併法定協議会設置
 2004年11月 飯舘村が合併協を離脱
 2004年12月 全ての協定項目協議終了
 2005年2月 合併協定調印
 2005年8月 総務大臣公示
 2005年12月 合併協議会解散
 2006年1月 南相馬市誕生、市長選挙
 着目いただきたいのは、初めから小高町、鹿島町、原町市の3市町で合併に向けて協議していたわけではなく、小高町の加入、飯舘村の離脱等、紆余曲折を経て3市町合併に至ったということである。
 合併に際しては、全ての事務事業、財産、条例等を、新市ではどのように取扱うか決めなければならず、その作業量は膨大なものがあったが、町村の加入、離脱があるたびに協議のやり直しや資料の作り直しが求められた。当然、通常業務をこなしながらである。
 合併直前にあっては12月補正予算編成、合併前のそれぞれの市町の決算資料の作成、合併後3月までの暫定予算の編成、4月からの当初予算の編成、各種の契約名義変更等、職員は連日夜中までかかっても終わらないほどの業務を抱え、合併を前に肉体的にも精神的にも疲弊しきった状況にあった。

3. 職員数適正化計画

 合併に伴う行財政改革の大きな柱として、職員数適正化計画がある。職員のうち、総務企画等の管理部門に属する職員は、合併によって統合削減が可能であり、2006年4月に医療職を除き717人いた職員を、10年間で182人(約25%)削減しても行政サービスには支障がないという説明のもと導入された。
 削減に際しては、新規採用者数を退職者数の4割に抑制し、不補充となる6割の職員数を削減する積算となっている。例えば、2009年度の削減計画数である18人は、30人の定年退職者に対し、採用を12人に留めることにより導かれる数値である。

[南相馬市職員数適正化計画] ※医療職を除く

   

年 度

職員数

削減数
(対前年)

削減数
(累計)

2006

717

2007

712

 5

 5

2008

698

14

19

2009

680

18

37

2010

665

15

52

2011

648

17

69

 

 

年 度

職員数

削減数
(対前年)

削減数
(累計)

2012

624

24

 93

2013

607

17

110

2014

596

11

121

2015

568

28

149

2016

535

33

182

4. 合併による管理部門の強化と行政機構の複雑化

 次に、合併直後の管理部門の課所室の一覧をご覧いただきたい。

[合併直後の管理部門課所室]

本 庁

小高区役所

鹿島区役所

原町区役所

総務部
 秘書広報課
 人事行政課
 財務課
 税務管理課

(担当理事所管)
 地域振興課
 税務課

(担当理事所管)
 地域振興グループ
 税務グループ

(担当理事所管)
 地域振興課
 税務課

企画部
 政策経営課
 重点事業推進室
 自治振興課
 情報政策課

 

 

 

 ご覧のように、旧市町単位に区役所制を採用し、それぞれに管理部門があり、さらにその統括部門として本庁の管理部門が置かれている。
 また、本庁企画部の重点事業推進室と自治振興課は名実ともに合併後に新たに設けられた課室であり、適正化計画の前提条件である管理部門の人員削減が可能な機構組織とは言い難い。なお上記は、行政委員会や公営企業を除いているが、教育委員会にも区役所と本庁それぞれに管理部門が配置されていた。
 加えて、行政機構の複雑化について言及すれば、合併後、庁内ワークグループや第三者による各種審議会、評価委員会、地域協議会等が新たに設置され、事業を進めるためには様々な場所で説明や諮問をすることが求められ、行政機構は合併前と比較して格段に複雑化した。それら手続きに要する時間や労力は膨大なものがあり、行政のスリム化とは真逆の方向性であったと考えざるを得ない。
 無論、それら審議会等の存在が適正な行政経営に必要なものであるという主張を否定はしないが、ここで言いたいことは、職員数を減らすためには行政機構や手続きをより簡潔にし、事務事業自体を整理効率化する必要があるが、それら当たり前のことが、どちらも実現されなかったということである。

5. 早期退職者の増加と職員数適正化計画の前倒し

 前述したとおり、職員は合併に係る膨大な事務で、心身ともに疲弊していた。また、合併により整理された事務事業はほぼ無いのに対し、新規事業は年々増えていった。
 さらには、職員数削減の前提であった管理部門のスリム化がなされなかったことにより、職員数削減のツケは現場の職員を徐々に減らしていき、職員の業務負担は限界を大きく超えた状況にあった。
 「その結果……」と結論付けることは乱暴であるが、事実として、職員数適正化計画で想定していなかった早期退職が相次ぐこととなった。

[震災前までの退職者数内訳] ※医療職を除く

   

年 度

退職者数
(実績)

うち
定年退職

うち
早期退職

2006

 21

 6

15

2007

 28

16

12

2008

 34

22

12

 

年 度

退職者数
(実績)

うち
定年退職

うち
早期退職

2009

 43

20

23

2010

 19

 7

12

145

71

74

 震災までの5年間で定年退職者71人に対し、早期退職者は定年退職者を上回る74人である。あまりにも多すぎる早期退職者を見込んでの新規採用は行われないので、必然的に職員数適正化計画は前倒しで進行し、2010年度までに55人を削減する計画に対し、実際は87人の削減実績となった。その差32人は部が丸々ひとつなくなったに等しい。

6. 東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故

 このような状況下において、2011年3月11日に東日本大震災が、間をおかずして東京電力福島第一原子力発電所事故が発生した。
 震災による死者は2016年1月20日現在で1,121人(うち震災関連死485人)、津波や地震による住宅被害は5,195世帯、小高区と原町区の一部では5年以上経過した現在も避難指示継続中という、未曽有の大災害である。
 地震と津波だけでも、被災者の対応や復旧復興業務には膨大な業務量と長い年月を要したであろうが、原発事故に起因して職員に求められる業務量はそれらを遥かに凌駕している。
 職員の業務負担は類を見ないほどに増加し、現実問題としてメンタル疾患や体調不良を訴える職員や、早期退職の選択をせざるを得ない職員が増加した。

[震災後の退職者数内訳] ※医療職を除く

年 度

退職者数
(実績)

定年退職

早期退職

2011

 76

36

40

2012

 35

15

20

2013

 28

 9

19

2014

 19

14

 5

158

74

84

 災害に「たら、れば」は禁物であろうし、原発事故の影響が非常に大きいことも理解したうえで、敢えて言わせてもらえれば、震災前の時点で既に職員数は限界を超えて削減されており、言い換えれば震災等に対応する余力が極限まで削がれた状態で震災等に直面したということである。
 このことと震災後の職員への業務負担の増大、早期退職者の増加が、全く無関係であるとは言えないのではないだろうか。
 あの日突然32人足りなかったということではない。合併後5年以上にわたって足りない状態がずっと続いてきたということの重大さ、そしてそれが震災後に職員が置かれている現状に繋がっているということを考える必要がある。

7. 結びに

 震災後の南相馬市では、復旧復興に対応するため、他自治体からの派遣職員、任期付き職員の採用、さらには職員定数の増員見直しや採用の拡大等によりこの難局を乗り切ろうとしている。
 時計を巻き戻すことができない以上、これまで論じてきたことを後ろ向きな結論に着地させるつもりは毛頭ないので、次のように提案させていただきまとめとしたい。
・市町村合併による職員数適正化計画には、計画を達成するに足る行政機構のスリム化、事務事業の整理効率化が伴わなければならない。
・早期退職者を適宜補充しなければ、職員の業務量増大につながり、そのことがさらなる早期退職者増加を招く。
・地方自治の現場に必要な職員数は地方自治により決めるべきで、国の干渉を受けるべきではない。