【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~ |
群馬県が魅力度の都道府県ランキングで下位に低迷している理由について、他の主要指標から探ってみると、観光というキーワードが見えてきた。そこで、群馬への観光意欲度をアップさせるため、都道府県ランキングの上位である石川県の金沢市で、観光施設の入込客数調査を行った。調査結果から、群馬県中心部で町並み・景観の魅力素を重視した観光施設の充実等の提案を行った。 |
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1. はじめに 2014年6月に、本県(群馬県)の「富岡製糸場と絹産業遺産群」が日本で18番目の世界遺産として登録された。文化遺産としては、2013年の富士山(山梨県、静岡県)に次いで14番目である。群馬県は、日本の中心である首都「東京」から距離的にも近い場所に位置し、温泉ランキングでは全国でナンバー1とも言われる草津温泉を有している。そうした他の都道府県にはない特色や魅力を数多く有しているにもかかわらず、毎年新聞等で報道される民間調査会社(ブランド総合研究所)が発表している都道府県の魅力度調査のランキングでは、群馬県は毎年下位に位置付けられている。2014年10月に発表された2014年魅力度調査では、47都道府県中46位という結果であった。調査を始めてからの群馬県の順位変動を見ても、2010年に最高位の41位に位置しているが、2009年から6年間の平均順位にすると44.5位と、開始以来ずっと40位以下を推移している。 |
2. 魅力度調査から見えてくるもの 魅力度について考えるために、ブランド総合研究所が都道府県の調査の中で行った魅力度以外の5つの主要な指標について、そのランキング結果を抽出した。5つの指標とは、認知度、情報接触度、居住意欲度、観光意欲度、産品購入意欲度(総合)である。右図は、群馬県とお隣りの長野県の主要指標におけるランキングを比較したものである。長野県は2014年の魅力度ランキングでも上位(9位)であり、6つの指標すべてで群馬県より上位にランクしていた。その都道府県ランキングについて、統計的な分析を試みた。魅力度を含めた6つの指標について相関係数(Spearmanの順位相関)を求め、その順位にどのくらい類似性があるかを調べてみた。数式から導き出される相関係数は、-1から1の間の値をとり、その絶対値が1に近いほど相関が強いことを表している。計算結果を表-1に示した。この結果、「魅力度」と最も相関が強かったのは、相関係数が0.938の「観光意欲度」であった。つまり、魅力度と観光意欲度には正の強い相関があり、順位が非常に似かよっていることが明らかとなった。このことから、両者は回答者の中で同じイメージとしてとらえられていることが示唆されたのである。 |
3. 観光地の魅力とは何か 観光地の魅力とは、いったい何だろうか。田村(2012)は、観光地の魅力を決める2つの要因を「観光地への距離」と「アメニティ」と述べている。距離が短ければその観光地の魅力が増し、距離が遠くなると魅力が低下する。一方アメニティとは、観光客の観点から見て観光地を楽しくまた快適にする場所としての特徴、と定義している。そのアメニティの素となっているものを魅力素と呼び、自然、歴史・伝統、商業施設等16に分類している。さらに、この魅力素を4種の因子に整理して、第1の因子を「歴史遺産」、魅力素が町並み・景観、名所・旧跡、歴史・伝統、工芸・工業品、第2の因子を「グリーン」、魅力素が土産物、気候・風土、自然、農水畜産物、温泉、第3の因子を「アーバン」、魅力素が宿泊施設、美術館・博物館、商業施設、娯楽施設、第4の因子を「郷土文化」、魅力素がご当地料理、イベント・祭り、郷土芸能とした。 |
4. 石川県金沢市の魅力について 今年(2016年)の3月26日に北海道新幹線が、新青森駅と北海道の新函館北斗駅間で開業したというニュースはまだ耳新しいが、1年と数ヶ月前に北陸新幹線が金沢駅まで開通し、新聞やテレビ等では石川県の魅力を伝える記事・番組が目についた。東京方面からのアクセスが格段によくなったことで、これまでの関西方面からの観光客に加え、首都圏からの集客も期待できる。石川県は、毎年ブランド総合研究所が行っている都道府県ランキングの、魅力度ランキングでは第11位(2014年)であり、トップ10にこそ入っていないが、本県と異なり上位都道府県の常連と言える。観光庁が発表する宿泊統計調査で、都道府県ごとの観光客シェアのデータを多いものから並べ、田村(2012)は47都道府県を全国型、地域型、近隣型の3タイプの観光地階層に分類している。全国型は、千葉県、北海道、沖縄県、東京都、京都府で、群馬県は石川県とともに地域型の20県の一つに含まれている。同じタイプに分類されていることから、観光戦略の方向性を考える上で参考になると思われる。さらに、石川県内の市町村の全国における魅力度ランキングを見てみると、金沢市が9位で、次いで輪島市が79位、その後は加賀市92位、能登町165位と続いている。つまり、石川県内の市町村魅力度という点で金沢市は群を抜いており、石川県の魅力は金沢市が牽引している部分が大きいと言える。そこで、今回石川県金沢市の魅力について調査し、群馬県に生かせるヒントを探ってみた。
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5. 群馬県の魅力をアップさせるために 今回の金沢での調査を経て、群馬県のランキングをアップさせるヒントがいくつか見えてきた。まずは、県の中心部である前橋市と高崎市の魅力をアップさせるということである。先に述べたとおり、石川県の魅力は金沢市の魅力に負うところが大きい。群馬県は、前橋が県庁所在地であるものの、歴史的な経緯もあって両市がライバルとして切磋琢磨しながら並んで発展を遂げてきた。しかし、このことで1つ1つの町として見た場合に、観光的な魅力も半減していると感じる面もある。相対的に前橋・高崎に魅力が乏しいことで、県外から群馬を訪れる観光客がそのまま世界遺産として登録された富岡製糸場がある富岡市や、日本一の温泉地とも言われる草津温泉をめざして流れていくというプラスの面もあるが、全体としては群馬の魅力が膨らんでいないと感じる。まずは、前橋・高崎から県外に魅力を発信することが必要と考えられる。
前橋でも、一例であるが写真のようなマップ(「前橋市文化財めぐり」)が市教育委員会から発行されている。JR前橋駅から国道17号の前橋渋川バイパスまでのエリアにある文化財を紹介したものである。このマップがどのくらい周知されているかはわからないが、興味深い見所がいくつも紹介されている。文化財すべてを徒歩で見て歩くのは骨が折れる距離であるが、バスや自転車を利用した観光には手頃なコースと思われた。 2点めとして、「町並み・景観」という魅力素を掘り起こすことを提案したい。金沢市内で行った調査では、「農水畜産物」の魅力素が最も入込客指数が高かったが、群馬産の農水畜産物を食材としたご当地料理やお土産物は、すき焼き、上州太田やきそばをはじめ、焼きまんじゅう、峠の釜めしなどなど数えればかなり充実してきている。そこで、「町並み・景観」に配慮した取り組みに注目した。歴史的な美しい町並みを保存するため、伝統的建造物群保存地区制度に基づいた伝建地区として、現在全国で100地区以上が指定を受けている。石川県では、金沢市内の4地区を含め計8地区が指定を受けているが、群馬県内では桐生市桐生新町と中之条町六合赤岩の2地だけで、残念ながら前橋・高崎に指定地区はない。しかし、例えば先ほど触れた前橋の文化財は古い時代に建造されたものが残っているわけで、魅力素で言うと「歴史・伝統」に含まれるが、こうしたものが一定のエリアにいくつも残っている状態は貴重な「景観」と言って良いであろう。 3点めとして、金沢市の町づくりに関する取り組みがあげられる。北陸新幹線を降りて金沢駅のロータリーに向かうと、目に入る景色が非常に落ち着いていることに気づく。市の条例に基づいて金沢市屋外広告物審査会が機能し、広告等によって景観を壊さないよう守られているためである。金沢市では、これまでに「金沢市伝統環境保存条例」を全国に先がけてつくったり、そのほか「金沢市こまちなみ保存条例」、「金沢の歴史的文化資産である寺社等の風景の保全に関する条例」、「金沢市における美しい沿道景観の形成に関する条例」など景観関連の条例を制定してきた。前橋・高崎でも、あるいは群馬県としても、魅力ある施設を整備・充実させることと並行して、保存のために同様の取り組みが進められることの必要性を感じた。 |
6. おわりに 今日、社会・経済構造の変化や人口減少などにより地方がしだいに元気を失い、地方創生が日本全体で取り組まなければいけない喫緊の大きな課題となっている。そうした中で観光振興は対策の重要な柱となっており、すべての都道府県が観光振興計画などに基づいて取り組みを行っている。群馬県でも「はばたけ群馬観光プラン」を策定するなど、民間の観光業界とともに県自らも力を入れて取り組んでいる。しかし、他の都道府県でも観光集客を増やすために創意工夫を施し、自分たちの魅力を必死にPRする中で、群馬県の魅力度をアップさせることは決して簡単なことではない。近年、富岡製糸場と絹産業遺産群が世界遺産に登録されたり、ぐんまちゃんがゆるキャラグランプリで優勝したり、NHKの大河ドラマなどで群馬に縁のある歴史上の人物が取り上げられるなど観光の契機となる追い風が吹いている、と感じる。こうした好機を捉えて、群馬県の魅力を全国に向けさらに発信し、一過性でなく継続的に魅力を浸透させていければ、と期待している。 |
参考文献 |