【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 富士市と雫石町は、過去の事故を契機として交流を育んできた。富士市と雫石町の友好都市提携を経て、自治労に属する両組合も2014年11月に友好組合提携を締結した。以来、互いの特産品の物販を斡旋や学校給食についての情報提供など、両組合の友好に向けて取り組んできた。今後、両自治体の特性を活かし、地方自治に活かすため、定期的な研修事業を企画している。



交流と友好と研修をめざして
―― 複数の自治体による交流研修事業―

静岡県本部/富士市職員組合

1. はじめに


  友好組合締結式

 静岡県富士市と岩手県雫石町は、過去の事故を契機にして深いつながりを持ち、2013年には正式に友好都市として提携しました。夏には子どもを中心とした交流イベントが催されています。
 職員間では、互いに自治労加盟組合であることもあり、同年に友好組合の提携を行っています。
 激甚災害にも指定された2013年の豪雨災害の折には、富士市から救援職員を派遣し、雫石町の復興のために2年半の勤務を行っています。
 しかし、両都市間の距離が比較的離れていることもあり、交流はあまり活発ではありません。

2. これまで

(1) 富士市名物ようかんパン

  富士市名物ようかんパン
 
割ってみた

 富士市では知らない人がいない市民の味、『ようかんパン』を雫石町の人たちは知りませんでした。
 豪雨災害の復旧のために派遣された災害復旧職員さん(以下、職員さん)は、富士市の『ようかんパン』を雫石町の人たちが知らないことに驚きました。
 『あんなに美味しいものを知らないなんて、なんと不幸な人たちだろう』と思ったかどうかはわかりませんが、派遣された職員さんは毎日お月様を見るたびに富士市の『ようかんパン』を食べたいなあと思っていました。
 どうしても我慢できなくなった職員さんは、富士市から『ようかんパン』を取り寄せることにしました。
 実際に取り寄せると、雫石町の人たちはおどろきました。『その黒いものはなんだい?』『この黒いのは、ようかんだよ。パンを守っているのさ』という会話があったかどうかも分かりませんが、職員さんが一人で食べている『ようかんパン』を、雫石町の人たちも食べてみたいと思いました。
 『ようかんパン』はとても貴重なものでも、高価なものでもなかったので、職員さんは取り寄せることにしました。
 雫石町に、はじめて『ようかんパン』が持ち込まれたのです。
 その後、雫石町の人たちは『ようかんパン』を喜んで食べました。
 富士市と雫石町が少し近くなりました。
 雫石町の人たちが追加で注文したかどうかは、わかっていません。

 

(2) 雫石名物の菜種油『菜の雫』

  雫石町の菜種油 菜の雫

 雫石町では、地域資源の有効利用による資源循環型社会の構築をめざし、2007年度より「しずくいし・菜のテクノロジープロジェクト」を立ち上げ、取り組んでいます。雫石町内の転作田を使って、菜の花を栽培し、春には多くの観光客の皆さまに楽しんでいただいております。花が咲き終わった後には菜種を収穫。その後、乾燥調整作業を実施して、秋には雫石町福祉作業所「かしわの郷」にある搾油施設にて、搾油作業を開始します。
 富士市の人たちは、菜種油が大好きです。
 雫石町から取り寄せることにしました。
 富士市と雫石町が仲良しだったので、毎年富士市の職員組合は職員さんたちから注文を募り、発注します。
 これは毎年続いています。富士市の人たちは、菜種油が大好きなのです。


(3) 美味しい小学校給食で有名な富士市の『サイダーかん』

 富士市は、静岡県東部にある、小学校の給食が美味しいまちです。中学校の給食がまずいわけではありませんが、中学生は給食が美味しくてもあまり喜んでくれないので、小学校の給食が美味しいまちで知られています。
 富士市の給食が美味しいのには秘密があります。
 デザートに、『サイダーかん』が出るのです。
 作り方はとても簡単です。
【材料】
 水400cc・粉寒天12g・砂糖100g・メロンシロップ大さじ2杯・サイダー350ml
【つくり方】
 ① 鍋に粉寒天・水を入れて、焦がさないようによく煮て溶かす
 ② 寒天が溶けたら砂糖を入れて煮る
 ③ 砂糖が溶けたら火をとめ、メロンシロップを混ぜる
 ④ 深目の平らな容器の中を水で濡らし、溶かした寒天液を入れる
 ⑤ 寒天液を50℃ぐらいまで冷ましたら、水温程度のサイダーを入れて、へらで固まる寸前まで上下に混ぜる
 ⑥ 冷蔵庫で冷やして、完成
 富士市の学校給食で大人気の「サイダーかん」。サイダーのシュワシュワ感がたまらない「サイダーかん」は、富士市の学校給食のオリジナルメニューです。(富士市公式ウェブサイトより)


  富士市の学校給食ではおなじみのサイダーかん

 災害復旧のためにまだ雫石町にいる富士市の職員さん(以下、職員さん)は考えました。
 『サイダーかんが出ない給食は、きっとすごくしゅわしゅわしていないに違いない』
 そこで、職員さんは雫石町の児童たちにしゅわしゅわしてもらいたいと思い、雫石町の給食調理員に、サイダーかんの作り方を教えました。富士市のウェブサイトでは作り方を公開しているのです。
 雫石町の給食調理員は、サイダーかんを上手に作れませんでした。そこで、職員さんは富士市から富士市の調理員を呼び、雫石町の調理員にサイダーかんの作り方を教えました。
 これで、雫石町の児童たちがしゅわしゅわすると思いました。
 富士市の学校給食を作っているマダム的な皆さんが雫石町を訪れたのは、2015年7月30日のことでした。
 それから、2015年9月1日雫石町の学校給食でオリジナルゼリーが出ました。
 きっと、サイダーかんだと思います。
 それ以降、そのメニューは雫石町の学校給食から消えてしまいました。
 雫石町の児童は、少しだけしゅわしゅわしました。


3. これから

(1) これまでの反省
 富士市と雫石町の間での友好都市提携を受け、職員組合間でも友好組合の締結をしました。しかし、友好組合といっても、具体的になにをしようか、ということまで煮詰めてこなかったという問題がありました。
 実際に、雫石町まで行ったことがある組合員は少なく、定期的に通っている職員はもっと少ないので、お互いにどうしていいかわからない、というのが実状だと思います。
 ようかんパンは、販売を企画したときはとても好評で、多くの注文を得られましたが、企画としては一回で終わってしまったようです。
 雫石町は給食のメニューをたまたま公開してくれているので見ることができましたが、サイダーかんと思われるメニューは、それほど多くありません。
 理由については、ようかんパンは富士市内の民間事業者が営利目的で販売しているもので、組合としては継続する意義があまり見出せないということがあります。
 サイダーかんについては、雫石町の給食メニューをつぶさに見れば、毎日のように果物がデザートについています。雫石町はとても農業が盛んな土地で、地産地消をめざすのはある意味では当然のことといえます。
 富士市から購入を持ちかけた雫石町の商品の取り寄せ、斡旋については継続していますが、毎回注文があることから、雫石町の商品の良さがわかります。
 これらのことから、友好組合を締結し、これから活動していくためには、お互いの情報が不足していることが課題として挙げられます。
 中部地域に属し、太平洋に面した工業を軸に発展をめざした富士市と、東北地域に属し、周囲を山に囲まれ農業が盛んな雫石町では、過去数十年だけを振り返っても、育んできた文化に差異が生じることは当然といえます。
 この文化の違いを有効に活用することが、友好組合の締結をした意義となるように努力したいと思います。

(2) 新たな展開
 富士市と雫石町は、それぞれに違う強みを持ちながら、人口の減少や少子高齢化など、またはそれに付随する共通の課題もあります。
 課題に対してはそれぞれの都市で実状を踏まえた対応をしており、また全国の多くの都市で同様の課題を抱えていることと思いますが、全く異なる背景を持った都市の取り組みを知ることで、視野を広げ、政策立案能力の向上を促すことが期待できます。
 また、課題ごとに最新の取り組みを行う自治体を訪れることも有意義ですが、一つの自治体のことを多角的に分析することで、施策の成果を有機的に連動させて検討する能力が培われる、かもしれません。
 そこで、定期的な交流研修を行い、個々の研修成果を積み重ねることで、政策提言をする職員の助けになることを期待して、本事業を行うこととしました。

(3) 事業の詳細
 雫石町は町として先進地視察の受入に取り組んでおり、富士市は行政効率の向上と成果を求めて毎年多くの視察を行っています。
 そこで、富士市職員組合としても、両市の利益を考え、組合員から雫石町への視察希望を募り、雫石町と調整の上、先進地視察を行うことにしました。
 内容は行政全般に渡るものとし、毎年継続してその成果を積み上げることにより、富士市の行政的な課題を多角的に検証することが可能となることをめざします。
 もちろん、両自治体がより友好的になることも目的です。

(4) 今後のスケジュール

4. まとめ

 『友好組合となったものの、このままではただの思い出になりそうだな』 という不安を払拭する意味も含めて本レポートを作成しました。事業を継続することが、両自治体にとって有益であることを願います。