【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 平成の市町村合併により拡大した行政区域において、「公平な行政サービスの提供」をするための支所・公民館の活用、「地域コミュニティの今後のあり方」について検討した内容を報告します。



行政サービスと地域コミュニティー


島根県本部/松江市職員ユニオン・本庁支部

 2005年3月の松江市と八束郡7町村(東出雲町を除く)の新設合併に続き、2015年8月に松江市に東出雲町が編入合併し、松江市の「平成の合併」は完結した。
 これに伴い、人口15.3万人→約20.6万人(約1.3倍)となった新松江市が誕生し、市域も約176km2→約469km2(約2.7倍)と大幅に広がった。
 また一方で、市内の地域によっては、人口減少や高齢化、公共交通機関減少等の課題を抱えている。私たちは、20万人の市民が市内のどの地域で暮らしていても、公平で良質な公共サービスが受けられるよう、地域の拠点である公民館や支所をどのように活用していくのか考える必要がある。
 そこで私たちは、以下に示す3点の問題意識を持って、「行政サービスの公平な提供に向けて」と、「地域コミュニティーの今後のあり方」について考えてみた。
① 二度の合併により市域が大きく広がった松江市で、行政サービスの提供を「本庁舎」に集約することは好ましくないのではないか。したがって、良質な行政サービスを最小の経費で提供するために支所と公民館をどのように活用すべきか、行政としては、様々な角度から検証・検討する必要があるのではないか。
② 政府が「地域主権」体制への移行を進めようとしている中で、「都市内分権」という考え方を取り入れる地方自治体も現れており、松江市にとっても検討に値する課題だと考え、その際に市民感覚や行政需要に即した「地域コミュニティー」のあり方を考えることが原点ではないかと問題意識を持つことが大切ではないか。
③ 国民格差の拡大や経済の停滞など、社会の様々な負の要素が絡み合って「地域コミュニティー」は弱体化している。しかし東日本大震災以来「日本人の人と人との絆の大切さ」が見直されはじめた。行政サービスの提供方法や体系を考える上でも、地域コミュニティーのあり方は重要な要素である。住民同士の相互扶助体制の充実と行政サービスの適切で円滑な提供という二つの視点から考えてみる。


1. 現状と経緯

 2011年8月1日に松江市は八束郡東出雲町を編入合併し、市域は支所・公民館を起点として2005年の合併前の旧松江市内を21地区(公民館区)、旧八束郡内を8地区(旧町村区)の29の地域に区分されている。
 松江市と八束郡の変遷を、戦後の1947(昭和22)年から時系列で示すと、
① 1市3町28村(計32団体)1947(昭和22)年度当初
 1947年12月28日恵曇村が町制施行
       ↓
② 1市4町27村(計32団体)1947(昭和22)年度末
 1948(昭和23)年10月10日松江市に法吉村が編入合併
       ↓
③ 1市4町26村(計31団体)1948(昭和23)年度末
 1950(昭和25)年9月21日松江市に竹矢村と乃木村が編入合併
       ↓
④ 1市4町24村(計29団体)1950(昭和25)年度末
 1951(昭和26)年4月1日松江市に忌部村と大庭村の大字平原地区以外が編入合併
 同日岩坂村、熊野村、大庭村の大字平原地区が合併し八雲村が誕生
       ↓
⑤ 1市4町21村(計26団体)1951(昭和26)年度末
 1953(昭和28)年4月1日松江市に生馬村と持田村が編入合併
       ↓
⑥ 1市4町19村(計24団体)1953(昭和28)年度末
 1954(昭和29)年4月1日揖屋町、意東村、出雲郷村が合併し、東出雲町が誕生
 1955(昭和30)年3月10日松江市に古江村、本庄村が合併
       ↓
⑦ 1市4町15村(計20団体)1954(昭和29)年度末
 1955(昭和30)年4月3日宍道町、来待村が合併し、宍道町が誕生
 1955(昭和30)年4月13日美保関町、片江村、森山村、千酌村が合併し、美保関町が誕生
 1956(昭和31)年1月10日大芦村、加賀村、野波村が合併し、島根村が誕生
 1956(昭和31)年3月3日恵曇町、佐太村、講武村、御津村が合併し鹿島町が誕生
       ↓
⑧ 1市4町6村(計11団体)1955(昭和30)年度末
 1959(昭和34)年1月1日玉湯村が町制施行
       ↓
⑨ 1市5町5村(計11団体)1958(昭和33)年度末
 1960(昭和35)年8月1日松江市に秋鹿村、大野村が編入合併(旧松江市、旧八束郡域確定)
       ↓
⑩ 1市5町3村(計9団体)1960(昭和35)年度末
 1969(昭和44)年4月1日島根村が町制施行
 1970(昭和45)年4月1日八束村が町制施行
       ↓
⑪ 1市7町1村(計9団体)1970(昭和45)年度末
 2005(平成17)年3月31日松江市、鹿島町、島根町、美保関町、八束町、宍道町、玉湯町、八雲村が新設合併し、新松江市が誕生
       ↓
⑫ 1市1町(計2団体)2004(平成16)年度末
 2011(平成23)年8月1日松江市に東出雲町が編入合併、現在に至る
となる。
 2014年度末時点での地域別人口(総数204,785人)を見ると、
 最少 大野地区  1,379人
 最多 乃木地区 16,115人
 人口規模の差 約12倍
となっており、支所別人口とではなく、旧松江市域において大きな開きが生じていることは注目すべき点である。
 なお支所別人口では、
 最少 島根支所地域   3,635人
 最多 東出雲支所地域 15,507人
 人口規模の差 約4倍
となっている。
 同時点での松江市全体の高齢化率(65歳以上人口の割合)は27.4%(65歳以上人口56,009人)で、地域別の割合をみると、
 最高 美保関支所地域 41.1%
 最低 川津地区    19.4%
 高齢化率 約2倍
となっている。また、行政サービスの提供体制・システムを検討するうえでは、高齢化率だけではなく、高齢者人口にも着目すべきで、最多であったのは古志原地区で3,816人(高齢化率27.8%)となっている。
 今後松江市の人口は減少し、高齢化率は上昇すると予測されており、高齢者ほど「地域コミュニティー」に頼らざるを得ない現実を鑑みると、早い段階から地域コミュニティーの復活・充実を考えておく必要がある。
 支所・公民館から本庁舎まで一番遠い距離に位置するのは宍道支所(約20km)だが、移動時間で計ると道路事情もあり、美保関支所で所要時間は約40分である。
 次に、地域コミュニティーの基礎となる町内会・自治会連合会への加入状況(2014年4月30日時点)で、加入率が高い地域は
 美保関支所地域 83.9%
 宍道支所地域  82.1%
となっている。逆に加入率が低い地域は
 川津地区    44.8%
 津田地区    49.7%
となっている。
 加入率が高い地域は、旧八束郡が多く、持ち家の割合が高く、住民の異動が少ない地区が該当するものと思われる。逆に加入率が低い地域は、アパート・マンションが多く、住民の異動が多い地区が該当するものと思われる。


2. 現状から見えてくる課題

 前述した現状と経緯を踏まえ、そこから見えてくる課題について、
① 公平な行政サービスが提供できているか
② 地域のつながりは強いか
という視点で整理した。
 まずは「今後の支所のあり方」という課題。
 支所には周辺住民の方が多く来所されるが、本庁舎でないと対応できない業務もあり、その際は、住民の方にとっては移動手段が限られ、かつ移動時間がかかるなど、不便な状況が続いている。このような状況をどのように改善していくのか、今後の検討が必要な課題である。
 次に「支所・公民館から本庁舎までの移動距離や交通手段について」の課題。
 前述したとおり、1947(昭和22)年から2011年までの約65年間を経た、松江市と八束郡の合併により、市域はかなり拡大した。そのため、支所・公民館から本庁舎へ移動するとなると、その労力に地域によって大きな格差があることは明白で、全ての住民の方に対し、「公平な行政サービスの提供」を標榜するのであれば、避けては通れない課題である。
 実際に、最も移動時間が必要となる、美保関支所から本庁舎まで往復した場合を想定(2014年8月時点の時刻表を調査)し、検証した。
 また検証の前提条件としては
① 美保関地区の美保神社周辺に在住の高齢者で自家用車は所有していない
② 移動には公共交通機関を利用
③ 相談時間は支所・本庁舎ともに約15分
④ 支所の業務開始時刻の8時30分に来所
⑤ 美保関支所に相談に行ったが、本庁舎でないと対応できない案件だった
とした。その結果
① 美保関(美保神社前)         8:05発(コミュニティーバス乗車)
② 美保関支所(相談)     8:30着・9:26発(コミュニティーバス乗車)
③ 美保関ターミナル(万原)  9:29着・9:50発(一畑バス乗車)
④ 県民会館          10:26着・10:32発(松江市営バス乗車)
⑤ 松江市役所(相談)     10:35着・11:17発(松江市営バス乗車)
⑥ 県民会館          11:21着・11:59発(一畑バス乗車)
⑦ 美保関ターミナル(万原)  12:33着・12:40発(コミュニティーバス乗車)
⑧ 美保関(美保神社前)    13:09着
となり、結果としてわずか15分程度の相談を、支所・本庁舎で行うだけで約半日かかり、バス代も2,330円必要となった。
 このような事例を、「滅多にないこと」として処理してしまってよいものか。市役所(支所・本庁舎)への相談だけでなく、通院や買い物といった日常生活を考えてみれば、自家用車を移動手段としていない高齢者の方々にとっては、大きな課題と言える。こういった問題に対し、今まさに可能な限り負担を軽減し、利便性の向上を図る努力が求められているのではないか。
 次に「地域コミュニティーについて」の課題。
 自治会の構成において、自治会加入率が低く、かつ高齢者人口の多い地区の上位は
 川津地区 加入率44.8% 高齢者人口2,120人
 津田地区 加入率49.7% 高齢者人口2,197人
 城東地区 加入率50.7% 高齢者人口1,375人
 乃木地区 加入率55.9% 高齢者人口2,477人
となっている。このような地区では、将来的な人口減少と高齢化率の上昇を踏まえると、今後ますます地域福祉を支える地域住民の皆さんの負担が大きくなることが懸念される。
 続いて地域コミュニティーの拠点でもある、「公民館の役割と活用方法について」の課題。
 現在松江市内の公民館は35館配置されているが、所在地や所管する区域などについて、次のような課題が挙げられる。
① 旧八束郡地域(鹿島・東出雲を除く)では、合併時に旧町村に1館配置となった。その一方で、旧松江市内の公民館は、「昭和の大合併」前の旧市地区や旧村を基本に、概ね小学校単位で配置されているが、人口規模や区域面積に大きなばらつきがあり、一律な体制を含め、現状維持で良いかどうか検討する必要がある。
② 大規模地域では、公民館が遠い存在になっていないか。また地域コミュニティーの一体感は保たれているのか。低下傾向にある町内会等の加入率の上昇を目指すのであれば、地域コミュニティーの存在意義や加入利点を高めるという視点での再編成をすることも必要ではないか。併せて島根半島部といった過疎地域について、将来展望や過疎対策はどうなっているのか考える必要がある。
③ 旧市・旧町村を問わず、人口や面積で合理的・事務的に公民館地区を再編した場合に、従来からの地域コミュニティーとどのように折り合いをつけるのか。
④ 人口規模が最大で12倍の開きがある状況で、旧市内公民館の人員配置は、各館とも一律となっているが、どの公民館も公平な運営ができるのか。
 上記のとおり、人口・面積に大きな開きがあり、過疎、超高齢化社会の到来や人口減少といった社会環境を鑑みれば、公民館の配置、体制や役割については、現状をよしとせず、引き続き検討を続けていく課題と考える。
 本章であげた課題をまとめると、以下の2点に集約される。
① 市域が広がった今、市内の隅々まで公平に行政サービスが提供できるのか。
② 自治会等の加入率が約60%で高齢化が進む中、地域コミュニティーは維持できるのか。
 この課題を踏まえ、次章では「今後考えていかなければならないこと」について検討する。


3. 今後考えていかなければならないこと

(1) 行政サービスの公平な提供に向けて
 まず、支所のあり方・考え方であるが、これまでの支所は「旧八束郡での合併時の混乱を避けるための機関」であった意味合いが強い。しかし、これからは、その地域だけのために存在する支所ではなく、全市的な視点に立って、「親切・丁寧・公平」に行政サービスを提供するための「サービスセンター」に移行していくべきではないかと考える。
 また支所の配置については、単に旧八束郡地域だけでなく、旧松江市内でも地区人口や面積で開きがある現状を鑑み、全市的に役割や配置・箇所数を長期的な視点で計画的に検討していくべきと考える。
 そこで参考例①として、社会福祉協議会の包括支援センター(6圏域)があるが、担当区域面積の視点のみで考えると、担当地区が広大な区域もあり、地区割りが妥当であるかという別の課題もある。
 次に参考例②として、公共交通機関を軸とした公共サービスの提供体制がある。
 松江市では、現状のバス路線を有効に活用し、誰もが移動しやすい街の形を模索していくことが現実的であるが、将来的には、路面電車なども含め、新しい交通網の導入が課題となる。

(2) 地域コミュニティーの維持に向けて
 これまで述べてきたように、松江市は、今後総人口の減少と共に高齢者人口が増加する時代を迎える。この状況は地域コミュニティーの役割が更に高まっていく時代とも言える。地域の中で誰かを助ける立場でも、誰かに助けてもらう立場でも、いずれの立場になっても地域内での連携が必要な時代となるが、現状の自治会等加入率が60%程度であることは危惧されるべき事態である。
 しかしながら、現状の地域コミュニティーの機能を低下させることなく、維持し、更に強固なものにするためには、以下の3点が必要ではないかと考える。
① 自治会等加入率の向上
 目標達成のためには、加入の意義や利点を広報していく必要があり、行政の具体的な支援が必須となる。
② 担い手の確保
 市内でも、自主防災体制の整備や高齢者宅の訪問といった自主的な取り組みで、地域コミュニティーの維持に成果を上げている地区が多くある。しかし、現在中心となって活動している方々の高齢化に加え、将来的な担い手不足に悩む声が聞こえている。市民と行政の協働により、人材育成プログラムを作成・実践するなどの対応が求められる。
③ 行政の支援体制の強化
 上記2点を実現するためにも、支所・公民館の配置と人員体制について、人口規模に合わせた対応が必要と考える。
 上記の3点を基に、地域コミュニティーの維持に向けた具体的な検討を進めていく必要がある。


4. 最後に

 今後の行政運営の基本となるのは、「公平な行政サービスの提供体制の構築」、「持続可能な地域コミュニティーの再形成」、「公共交通機関を軸とした拠点連携のまちづくり」の3点であり、これを踏まえた支所と公民館のあり方の検討が必要となると考える。
 どこでも同じ行政サービスを提供できる体制と、人がそこに安心して住める街づくりを推進していかなければならない。
 本レポートを機に「行政サービスと地域コミュニティー」について、今後ますます議論が深まれば幸いである。