【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 東日本大震災以降、我が国では防災に対する意識が非常に高まっている。また、近年では異常気象による集中豪雨や突風などによる被害も全国的に増加している。そのような中、町の防災拠点である川本町庁舎は、耐震性能を満たしておらず、建築後50年を経過し老朽化が激しく、防災拠点として機能しない状況であるため、この度庁舎移転を行うこととなった。しかし、この庁舎移転によって日頃利用される住民の方へのサービス低下が起きてはならない。本レポートでは、もっと身近なところへ目を向け、誰もが利用しやすい庁舎をめざす川本町庁舎移転に伴う庁舎改修基本構想を基に、住民サービスへの影響を検討し、問題点、改善案について提言します。



川本町庁舎移転に伴う住民サービスへの影響
~基本構想から読み取る~

島根県本部/川本町職員組合

1. はじめに

(1) 川本町庁舎移転の経緯
 川本町役場庁舎は、島根県で初めての合同庁舎として、1964(昭和39)年に建築され、その後、川本町が島根県から取得し、改修を行い庁舎として使用している。
 しかし、現在の庁舎は、防災拠点施設としての機能を維持するために必要な耐震性能を満たしていない。また、建築後50年を経過し、老朽化が激しく、修繕に多額の経費が見込まれる状況である。
 こうした中、町としては、住民に最も身近な行政機関として、住民ニーズに的確に応え、行政の効率化を図りつつ、各種行政サービスを一層充実していく必要がある。
 以上のことから、この度、耐震性に劣り老朽化の著しい現庁舎の問題等を踏まえ、これからの時代を見据え、住民の安心・安全な暮らしを支え、住民の皆様からも親しまれ、災害にも強く、行政サービスの向上と行政の効率化をめざした新しい庁舎の整備に向け「川本町庁舎移転に伴う庁舎改修基本構想」が策定されている。


2. 川本町庁舎移転に伴う庁舎改修基本構想の概要

(1) 庁舎の現状と庁舎整備の必要性
 現庁舎の現状や課題について、上記1.はじめにでも記述したところであり、東日本大震災、また近年急増している異常な集中豪雨による被害により、災害への対応が社会的に強く求められている。こうした中で、現庁舎は耐震、老朽化の問題を抱え、危機的状況下で防災拠点として果たして機能するかが問われている。
 以上のことを踏まえ、現庁舎の改修を行うのではなく、島根県川本合同庁舎旧保健所等を購入し、役場機能を移転することで、防災拠点施設としての機能を維持、強化していく。

(2) 庁舎移転整備の考え方
 本基本構想は、役場庁舎を移転することに伴い、移転先の既存庁舎改修の指針となる基本的な考え方や方向性を示したものであり、基本理念として下記の3つの整備目標が掲げられている。
① 役場庁舎の改修計画は、防災・災害復興拠点施設として、耐震性・安全性と機能性を高め、安心して暮らせる町の中枢施設であること。
② 現庁舎が抱える多様な課題・問題点の解消や、広く求められるニーズに対応し、誰もが利用しやすく、住民サービスの向上を図ること。
③ 職員にとっても働きやすい環境であること。
 この3つの基本理念をベースとし、移転先となる川本合同庁舎別館の改修整備を行い、災害時の防災拠点としての機能、多様化する町民ニーズに応えるべき機能、高度情報化に対応した機能を備えた「人にやさしく誰もが安心して利用できる庁舎」を整備することを目標としている。

<現庁舎と新庁舎の位置図>

現庁舎の写真

3. 整備目標について考える

 ここでは基本構想での整備目標「人にやさしく誰もが安心して利用できる庁舎」に着目して課題について考えてみる。
 前述からもあるように、庁舎移転の最大のきっかけとなっているのは防災拠点としての機能である。確かに今回の庁舎移転によって耐震性能も確保され防災拠点としての機能は強化されるであろう。
 しかし、基本構想に掲げた整備目標「人にやさしく誰もが安心して利用できる庁舎」の本質はそこにあるのか疑問に感じる。防災拠点は非常に重要なことではあると思うが、災害は毎日起こるわけではない。万一に備えるものである。そうではなく、毎日起こるもっと身近な所を考えていくことが整備目標達成には必要なことではないか。
 さらに基本構想の中では、基本的な方向性の一つとして『だれもが利用しやすい庁舎』について以下の7項目が掲げられており、基本構想において誰もが利用しやすい庁舎となっているかについて考えてみた。その中で、疑義が生じるものが2点浮かび上がった。

<基本的な方向性>
だれもが利用しやすい庁舎 来庁者の利便性の向上

 ① 全ての人に優しく利用しやすい庁舎(ユニバーサルデザイン)
 ② あたたかく親しみやすい開放的な庁舎
 ③ 効率的でわかりやすい窓口機能の充実(サービス向上)
 ④ 個人のプライバシーに配慮した相談コーナー(室)の設置
 ⑤ 来庁者の利用と安全性に配慮した、駐車場の配置と駐輪場の設置
 ⑥ 来庁者が利用しやすい配置と案内板や案内標識等の設置
 ⑦ みんなに親しまれる、町のシンボルとしての庁舎

4. 2つの疑問点

(1) 個人情報、プライバシーが守られる環境の整備
 4項では、個人のプライバシーに配慮した相談コーナーの設置と挙げられているが、実際の設計図面には会議室のみであり相談室は設けられていない。
 庁舎移転により、各課が2フロアから1フロアに収まりコンパクトになることで、各課を跨いでの連携が図りやすく、ワンストップサービスという意味でも住民サービスの向上には繋がると考える。また、本町は小さい自治体であり、住民同士や住民対行政職員が顔のみえる関係を維持している。ただ一方で、庁舎がコンパクトになることによって、来庁者は人の目を気にせざるをえない環境におかれ、聞かれたくない相談などをしにくい空間となることが危惧される。基本構想では、新庁舎において待合所と課のカウンターには一定の距離を確保すると計画されているが、果たして移転後そのような距離がきちんと保たれているのか、その環境で個人情報の保護を約束できるのか疑問を感じる。

(2) 公共交通機関利用者の利便性の低下
 本庁は高齢化率43.9%の超高齢社会であり、車での移動ができず公共交通機関を利用して川本の町中まで外出し、役場などの公共施設やスーパーなどに買い物に出かけている人も多い。
 新庁舎は現在の役場より高い方にあるため、車のない方は現在の役場前のバス停留所から坂道を約100mほど上らなければならず、このことからも、庁舎を移転した場合、バス停留所も移動させる必要があると考えられる。しかし、考え方の5項に挙げられている来庁者の利用と安全性については車や自転車による来庁者への配慮のみであり、基本構想ではこの問題点について見落とされているのではないか。

新庁舎までの坂道の写真

5. だれもが利用しやすい庁舎をつくるには
 ~課題の改善にむけて~

(1) 個人情報が守られる環境整備
 各課の窓口ではどこで誰に聞かれているかという住民の不安を解消するために、きちんとした相談室を設け個室での相談対応ができる環境が必要である。新庁舎の会議室は1階に2室、2階に1室であるが、各課は1階にあるため、1階の会議室を相談室に利用する場合が多いと考える。しかし、会議室の数が限られているため、相談者が来庁された場合に会議室が使用されており、プライバシーが守られた状況で相談することができない可能性が考えられる。このため、例えば会議室の使用方法を作成し職員に周知することで、会議室の1室は相談室として常に開けておくよう環境整備を行い、個人情報やプライバシーの保護に配慮する。

(2) 公共交通機関利用者の利便性の向上
 公共交通機関を利用する方が、現在と変わらず役場に来庁しやすくするためには、バスを降りてから新庁舎までの距離が問題であると考える。このことから、現在役場の前にある停留所を新庁舎前に移動し、町営バスのルートを変更することで、利便性低下を解消する。