【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 農村における地域コミュニティの希薄により、水田の維持・保全が難しくなってきている。
 農村部での高齢化と担い手不足だけが原因だろうか?
 昔は互いに助け合いながら農業を続けてきた。農業の機械化により地域コミュニティが欠落し『限界集落』の言葉さえ出てきた。今こそ農村コミュニティを復活させる手段として農事組合法人化を進めよう。



農村のコミュニティの再構築をめざして
―― 昔は隣組(結)、今は法人化でコミュニティを ――

佐賀県本部/佐賀県関係職員連合労働組合・杵藤支部・藤津農業改良普及センター分会 上瀧 孝幸

1. はじめに

(1) 農業の今昔
① 今の農業の課題は
 農業の近代化は、昭和40年代の機械化と相乗する。高度経済成長期には、人々の暮らしは右肩上がりに向上し、昨日よりも今日、今日よりも明日と生活の豊かさを実感しながら、小さな農家もやり繰りして、高価な機械を導入し、自分の都合の良い時期に作業を実施する。自己完結型の農業が続いてきた。しかし、昭和60年代をピークに米価は下落し始め、農業が3Kと言われるようになり、全国での新規就農者の数がトヨタ自動車一社の新規採用者より少ない状況で、担い手の減少は深刻化し、農家の年齢も毎年上昇し、高齢化と担い手不足による農業の維持さえ難しくなってきている。その様な中、昨年10月5日にはTPP(環太平洋パートナーシップ)の大筋合意がなされ、どうなるかの不安が増幅されている。
 農業を継続できるのか? 農村の維持は可能か? など、大きな課題となってきている。
② 昔は、どう対応してたのか?
 規模拡大も、機械化も行われていなかった昭和40年代前半までは、家族全員で苗取りや田植えをしたり、稲刈り後は、稲束を田んぼで乾かすため束をひっくり返したり、稲小積み(四方小積み)等して家族みんなが働いていた。
 家族で不足する農繁期は、シーズンが異なる山間部や海岸部の農家から「お田植えさん」が泊まりがけで来られていた。働き手が病気やケガで作業が滞っている農家には、近所の農家が手伝いに駆けつけたりして、「困った時はお互い様、自分が困った時には助けてもらうだろうからと」と相互扶助の精神、助け合いの精神で、農村が成り立っていた。『結(ゆい)』『絆(きずな)』である。
 昔(昭和30~40年代)は、助け合わないと農業は成り立たない産業であった。(自助・共助・公助)


2. 農業・農村の「いま」

(1) 農家には息子は居ても、農業の後継者は居ない現実。
① 農繁期は、家族総出でのお手伝いは昔の話 → 家の中でのコミュニティ?
 水稲の「籾蒔き」や「田植え」は農家にとっては一大イベントであり、多くの補助者が必要であった。この様な農繁期には、老若男女一家総出で、親戚からの応援も加わり、朝から作業に汗を流したものだ。しかし、機械化に伴い、2~3人の補助者で済むようになった農作業は、一大イベントでは無くなり、いつの間にか農作業を軸とした家族のコミュニティが崩壊していった。

② 就職優先の中、長兄であっても同居せず、出稼ぎお手伝いが定着。 → 老老介護へ
 五月晴れの農村には、鯉のぼりが良く似合う。男の子の名前が掲げられた幟が、家の安泰を示している。のだが?
 実際は、同居している農家は少なく、内孫の名前だけが、風になびいている。
 個々の農家のコミュニティが希薄化する中で、農村からは子ども達の遊び声が消え、青年団が無くなり、村の祭りや神社の掃除などは、老人会や敬老会が担わざるをえない現実が其処にある。 
  → 農村のコミュニティは?
③ コミュニティの接着剤である『水田(米づくり)』が、危ない
 爺ちゃん婆ちゃんの田んぼ(米づくり)が、引き継がれれば、家族や集落内での何らかの関わりを維持し、コミュニティは継続されるのであるが、米づくりをリタイアした時点で、手伝いや会話が遠のき、田舎(祖父母)と都会(子ども・孫)の行き来が無くなり、農村社会のコミュニティの崩壊が懸念されている。


3. 数字で見る、農業・農村は……

(1) 10年前に纏めたデータで恐縮ですが → 集落と農地の問題
① 農業集落の崩壊   ② 耕作放棄地の推移
 
 10年毎に出される世界農村業センサス数値で農家集落の数は調査毎に減少しており、農家集落での構成を見ると農家の割合が減少し非農家が増加するなど、農村コミュニティが縮小する実態が窺い知れる。また連動して、耕作放棄地の増加も明確で、農家の高齢化や担い手不足がマスコミに取り上げられるが、その先には、農村コミュニティの崩壊が見え隠れする。

(2) 10年前に纏めたデータで恐縮ですが → 高齢化の問題
 次のグラフを見て頂くと解るように、農村部での年齢別担い手は70歳以上が50%前後と大半を占め、60歳代が25%前後、農村部での若手扱いされる50代でも12%である。2005年のセンサス値で、当時70歳以上の農業就業人口の年齢階層別割合(販売農家)も2015年センサス値で確認する必要がある。(多忙で未チェック)
 

(3) 過疎地等における集落の状況に関する現状把握調査
  ◯集落で発生している課題(複数回答)
  ◯集落の機能が低下又は維持困難と答えた集落の割合


 総務省と国土交通省が2011年に纏めた集落で発生していく課題を見ると、①働き口の減少②耕作放棄地の増大③空き家の増加④獣害・病虫害の発生⑤商店・スーパー等の閉鎖がベスト5である。
 
 それ以外で特に注目したいのは、伝統的祭事の衰退・冠婚葬祭等の機能低下・伝統芸能の衰退・農道等の維持困難など、地域コミュニティが徐々に弱まっている証拠である。





 地域性も山間農業地帯が顕著であり、平坦部は問題が少ないデータになったが、私が仕事で係わる中では、平坦部であっても地域コミュニティが弱まってきている。


4. 新たなコミュニティとしての『農事組合法人』の育成

(1) 現状打開はどこにあるのか?
 水田を継続できないと、息子達は『家』離れていく、その結果、農村は衰退する。→ 地域コミュニティの崩壊
 悪循環(負のスパイラル)を断ち切るためには、農家の息子さんが何らかの形で水田経営(米づくり)に携われる仕組みや農業維持のために稼いだ金(農外収入)を農業に注ぎ込まずに済むようなシステムが必要である。
 一戸の農家では解決できない諸問題でも、集落や組織全員で協力できれば、問題の解決は可能であろう。そのためにも「集落」や「地域」でのコミュニティの再構築を行える組織育成が必要である。
 現在、集落営農組合の機能アップさせる活動が行われているが、そこをコミュニティの再構築の場として、働き掛けの事例を紹介します。
 次のグラフは、集落の実態を『見える化』するために実施した調査の事例である。
 同じ集落の同じ農家を対象とした調査で、平成24年11月は自由回答された結果表を左側に記載(ビフォー)。12ヶ月後の平成25年11月は、記入の注意事項を吹き出しで朱書きした別資料をセットで配布し、経営主だけでなく奥さんや息子さんとも話しながら記載して頂くように全員研修会で説明を徹底し、記入漏れ箇所は差戻しして、再度記入をお願いするなどしたものが右側のグラフ(アフター)である。
   【希望的観測で、危機感が無いグラフ】    【実態と課題が反映され、危機感が解るグラフ】

 調査モノを行う場合、本当の実態が出て来ないで、意図的資料にならずに利活用できない場合も多い。しかし、実態が的確に反映されたモノは、集落や組織・地域の方向性を決めるべき羅針盤になり得る。
 この様な、課題を「掘り起こし」「見える化」する事で、問題を整理し、進むべき方向として何かを提案する事ができる。グラフの「ビフォー」「アフター」を見ると、大きな違いが見えてくる。
 ◎構成員の数が5年後には8人減の58%、10年後には11人減の42%となり6割がリタイアとなる。
 ◎不耕作地も5年後には6.7ha、10年後には11.5haに拡大し、集落水田の54%が不耕作地になる。

 何もしなければ、調査は現実になりますよ? 60~70歳代が元気な今こそ、新たな集落コミュニティを構築するために、集落営農組合を機能アップさせた「農事組合法人」の立ち上げを皆で検討しようと提案する。

(2) 具体的なアクション事例
 私は、様々な職場(佐賀北部普及センター(山間)→ 三神農業改良普及センター(都市近郊)→ 藤津農業改良普及センター(混在地))で、機械利用組合の立ち上げや集落営農組合の設立、そして法人化への誘導などを行ってきた。
 近々の事例について紹介する。現在の藤津農業改良普及センターは、2015年4月からの勤務である。
 その取り組みについて紹介する。
 管内には鹿島市・嬉野市・太良町で、36の集落営農組合が活動している。
 干拓地域から山麓部まで、様々な立地条件やみかん・茶・施設野菜・露地野菜など水田と複合している品目も様々である。4月当初に普及センター内に集落営農プロジェクトチームを立ち上げ、3年間のプロジェクト計画を一週間で練り上げ、関係機関を巻き込んだ活動のスタートを切った。
 普及センターの活動バイブルである普及計画書のフロー図を記載する。
 モデル地域として、嬉野市を指定し、重点的に「嬉野市集落営農連絡協議会」への働き掛けとモデル法人とし 「農事組合法人アグリ三新」に対して国の事業(農林水産業ロボット技術導入実証事業)等を手段として効率的な農業の実証を行い、他地区への集落営農組合の法人化を少しずつ着実に普及・波及を図っている。
 地道な働きかけによって、藤津農業改良普及センター管内では、6つの農事組合法人が設立されました。
 ① 農事組合法人 ファーム北志田(嬉野市塩田町)
 ② 農事組合法人 アグリ三新(嬉野市塩田町)
 ③ 農事組合法人 福富ドリームファーム(嬉野市塩田町)
 ④ 農事組合法人 真崎(嬉野市塩田町)
 ⑤ 下童 農事組合法人(嬉野市塩田町)
 ⑥ 農事組合法人 馬場下(嬉野市塩田町)


5. 少しずつ現れ始めたコミュニティの再構築

(1) 福富ドリームファームの事例
 嬉野市塩田町にある農事組合法人「福富ドリームファーム」は、昨年の5月25日の創立総会によって立ち上がった法人である。
 田植えや稲刈りでの人手不足がいよいよ深刻となり、活路を探る中で法人化の検討を始めた。
 去年まで農業に触れた事もなかった20代から50代の地元に残った若者に加え、ふるさとを離れて働く子ども世代やその娘婿達が、SNSで自発的に連絡を取り合い、田植えの日にはほぼ全員が集まった。
 埼玉県から家族でやってきた"助っ人"は、「自分が農業をやる事を全く想像していなかったが、案外できるもので楽しい。帰ってくるいい理由にもなる」と笑って見せた。

 法人化は、こう言ったコミュニティの再構築に一役も二役もかっている。後継者に「いきなり農業を継げ といっても実際には難しい」集まってくれた若者が、先ずは農業に興味を持ってくれたら。と法人の代表理事が語り、気長に待つだけ。と言う。

 福富ドリームファームの事例のように、ふるさとの農地を守る事は、帰るべき故郷を守る事。「夢」のある地域づくりに世代を超えて連帯する事が、新たなコミュニティの構築に繋がるモノと信じて、普及活動を続けていきたい。途中報告ですが、次回、進展を紹介する機会を信じて……。


6. まとめ

 今回は、高齢化と過疎化によって農村のコミュニティが希薄化してきている現実を、一人一人がそして、みんなで受け止め、現状の暮らしの中で、どう再構築していくかについて述べさせて頂きました。
 農村には水田が広がり、田んぼの中にはオタマジャクシやカエルやゲンゴロウ・ミズスマシ・ヤゴ・とんぼなど、多くの昆虫や小動物が生活しています。また、土竜叩きや火付け・盆踊り・秋祭りなど昔からの伝統芸能が残っています。隣の住人や集落の人たちと係わりが続いています。
 子ども達を育てるためには恵まれた環境が有ります。しかし、農村には若者の仕事、働く場がありません。
 仕事は都市部に通勤しても、農村で生活できるような環境を整える一つとして、私たちは今、集落営農組合の法人化を進めています。
 この取り組みが、農村コミュニティの再構築の一考になればと思い、自主レポートを提出させていただきました。