2. 休・廃校施設に対する国・県の取り組み動向
(1) 文部科学省の取り組み
文部科学省では、「~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト」というサイトを立ち上げ、自治体が活用方法や利用者を募集している1,081校ある未活用の廃校施設等の情報について、「活用用途募集廃校施設等一覧」として集約・公表し、積極的に利活用を促そうとしている。
ところで、活用が決まっていない1,081校について調べたところ、活用が決まらない理由として「地域からの要望がない」が512校(47%)と最も多く、次に施設の老朽化が続いている。その背景には「財源が確保できない」という理由が大きく影響していると考えられる。
一方で、利用に関して住民から意見をヒアリングしたところは少なく「実施していない」が848校(56%)と過半数を占めている。
このように地域住民からの意向聴取を実施しない自治体が多い中、「地域からの要望がない」と判断した自治体が少なからずあると思われ、回答内容の整合性に首を傾げたくなる。
一般的に廃校に至るまでのプロセスは、教育委員会から統廃合の提案があって初めて具体的なものとして住民に認知される。その後、議会や地域で議論されて廃校が決定される訳で、「突然に」廃校が一方的に決まるものではない。通常2・3年、場合によっては10年近くかかっている場合も珍しくない。そのようなプロセスを経て、決定されるにもかかわらず、廃校になった後の施設をどう利用するかという議論が、余りなされていない。
斎尾直子東京工業大学准教授は、「公立小中学校の統廃合プロセスと廃校者利活用に関する研究」(2008年)において、茨城県内の過去30年間の事例を調査し、分析・考察している。
論文では「『廃校舎利活用プロセス』を早い段階で『統廃合プロセス』と同時並行的に進めた事例の場合、閉校直後、あるいは数年の準備期間や改築・増築期間を経て新しい施設として転用されている」としている。非常に興味深い分析である。
(2) 香川県内の取り組み
香川県内の自治体の学校再編に対する考え方は、小中学校の適正規模は、40人学級を想定し、小学校は1学年2~4学級、中学校は1学年4~8学級とし、小中学校とも12~24学級と定めている。また、この中で学校の適正規模を踏まえ、通学距離(小学校4km以内、中学校6km以内)と設定するなど、概ね文部科学省の基準に従った内容となっている。
香川県は2002年3月に5市38町あった自治体数が、わずか4年後の2006年3月末に8市9町に減少している。その中でも7町と多くの町が合併して誕生した三豊市が、再編にどう取り組んでいるかを取り上げることにする。
① 三豊市における学校統廃合のプロセスについて
香川県三豊市は、香川県西部に位置する人口6万8千人、面積222km2の自治体で、2006年に旧三豊郡7町が対等合併して誕生した。合併直後の学校数は、小学校26校、中学校8校あった。合併直後は合併支援策として「合併特例債」、「地方交付税の合併算定替え」など地方行財政上の様々な優遇策を受けることができていた。しかし、10年間の特例期間が終了すると地方交付税一本算定により、大幅に歳入が減少することになる。それに対応するため、三豊市では「三豊市公共施設再配置計画」を策定し、計画的に公共施設の統廃合を進めることとした。
三豊市立学校適正規模・適正配置検討委員会では、大学の教授、自治会代表、保育所・幼稚園・小学校・中学校(校長及びPTA代表)、公民館長、公募委員で構成されている。同委員会では学校の適正規模や適正配置の基本的な考え方を取りまとめ、具体的な統合に向けた取り組みについて審議した。
その後策定した「三豊市立学校再編整備基本方針及び今後の進め方」を、保護者及び地域住民に向けて、説明会を開催した。
② 学校再編整備地域協議会について
地域住民や保護者の同意が得られたことから、学校の統合は統合新設校の位置や開校の時期、通学距離が遠くなるためのスクールバス等による通学支援策などの具体的な内容について、議論が移ることになる。その協議をするために設置されたのが「学校再編整備地域協議会」である。その内容について、財田地区を見てみることにする。
ア 財田地区について
財田地区の協議会のメンバーは各小学校の保護者の代表11人、地域の代表5人の16人で、議員や学識経験者、公募委員が含まれていない。完全に地域マターという認識で選定している。このことは協議会の冒頭で教育長が「協議会で話をしていただいたことを、教育委員会ほか、市長、議会へも説明していきたい」という議事録からも理解できる。
「基本方針」が2011年5月に決定され、最初の協議会は翌年(2012年)3月に開催されている。財田地区では新設統合のため新しく学校予定地を取得する必要があるにもかかわらず、その予定地の位置図まで協議会に示されている。非常にスピード感を持って作業が進められたのが窺われる。
また、統合小学校の位置決定において、既存の小学校のうちの一つに統合することではなく、「新設」を選択した。旧財田地区では2校を1校に統合すれば廃校は1校に留まる。しかし、新設統合では既存の2校ともに廃校になってしまう。配布資料によると、その理由を「財田町の地理的条件・児童分布を勘案し、両校から均等な距離にある所を新設校の候補地としたいと考えています」と簡単に触れられているだけである。既存の小学校を統合校に選択しなかった理由については、協議会でも質問が出ており「この前の保護者説明会では、現在ある財田上、もしくは財田中小学校に子どもをまとめるという案も出ていました。しかし、今日の説明では総合運動公園内か支所付近ということですが、前回の保護者説明会の後、周りの保護者の声を聞いていると、新しい校舎を建てるのはもったいないのではないかという声が多くありました」という保護者からの質問に対して、教育委員会からは①旧小学校の敷地には借地が多くあること、②いずれの校舎も耐用年数の期限が2013年と2015年で、建替えの必要があること、③建替える場合、用地買収には周辺がすべて宅地であり、県道や河川が隣接して拡張が難しいことを説明して理解を求めている。
三豊市では、この協議会に限らず、様々な審議会の議事録をホームページで公開しており、非常にオープンな形で、意思決定を進めていることが多い。新設校を新しく設置するような地域の利害が相反する場合にも、情報公開に努めている姿勢は評価できる。
なお、三豊市では詫間町の旧箱浦小学校が、植物工場として利活用されている。 |