【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第7分科会 若者力は無限大∞ ~若者と創り出すまちづくり~

若年無業者に対する伴走型就労支援の取り組み報告
―― 青少年活動センターでの受け入れ実践から見えたこと ――

京都府本部/公益財団法人京都市ユースサービス協会職員組合 大熊  晋

1. はじめに

 現在、日本の総人口が減少し、生産人口も減少する中、無業状態の若者の割合が増加している。このことは、産業構造・雇用情勢の変化により労働環境が変化したことと関係している。若年無業者(15~34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者)の数は、2002年に大きく増加した後、おおむね横ばいで推移し、2012年には全国で63万人となっているが、15~34歳人口に占める割合は緩やかに上昇しており、2012年は2.3%となっている(注1)
 厚生労働省の施策として地域若者サポートステーション事業がある。これは「働くことに悩みを抱えている15歳~39歳までの若者に対し、キャリア・コンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への職場体験などにより、就労に向けた支援を行うもので、厚生労働省が認定した全国の若者支援の実績やノウハウのあるNPO法人、株式会社などが実施しており、2016年度は全国160か所に設置されている(注2)。京都市域においては京都若者サポートステーション(以下、京都サポステ)が2006年10月に設置され、公益財団法人京都市ユースサービス協会(以下、KYS協会)が運営している。
 本稿では、京都サポステおよび京都市北青少年活動センター(以下、北センター)を運営するKYS協会が行う就労支援の取り組みのひとつ「伴走型就労体験事業」について、実践を通して見えてきた成果と課題を報告する。

2. 公益財団法人京都市ユースサービス協会とは

(1) 公益財団法人京都市ユースサービス協会概要
① 1988年(昭和63年)3月に、青少年の自主的な活動の振興を図ることにより、京都市の青少年の健全な育成に寄与することを目的に設立された。
② 青少年が社会の担い手として成長するために、社会参加と自主的な活動の機会を提供し、必要な支援を行っていくことが「ユースサービスの理念」。
③ KYS協会は、その理念に基づきながら、京都市など関係行政機関、青少年団体、青少年の育成に関わる人たち、そして何より青少年自身と協力しあいながら、活動を展開している。
④ 現在では、(ア)京都市青少年活動センター(7か所)の受託運営(指定管理者)、(イ)京都サポステの受託運営(厚生労働省及び京都市からの受託)、(ウ)子ども・若者育成支援地域協議会「指定支援機関」業務(京都市からの委託)、(エ)青少年の自主的な活動促進のための事業の実施、(オ)青少年育成・支援のための調査研究などを行っている。
⑤ 青少年に寄り添いながら、その成長を手助けする専門職=ユースワーカーを養成している。(イギリスを始めとするヨーロッパ各国で養成が取り組まれ、国家資格となっている国もある)
⑥ 2006年から大学院レベルでの養成プログラムを始めたほか、ボランティアや関連する仕事の中でユースワークを担う人材を育てる、独自のユースワーカー資格取得のプログラム(ユースワーカー養成講習会)も始めている。

(2) 青少年活動センター概要
① 勤労青少年の福祉の増進並びに青少年の健全育成及びその自主的な活動の促進を目的(注3)に、京都市が市内に7か所(北・中京・東山・山科・下京・南・伏見)設置する青少年施設で、前身は勤労青少年ホーム。1997年よりKYS協会が運営を行い、1998年から各施設が特色ある事業(個性化事業)を展開、北センターのテーマは「環境活動」(注4)
② 利用対象は、(ア)市内に在住、通勤又は通学する青少年(13歳(中学生)~30歳)、(イ)市内で活動する青少年団体、(ウ)青少年育成関係者(注5)
③ 青少年活動センターには若者支援の専門職(ユースワーカー)を配置し、(ア)勤労青少年の教養の向上及び青少年の社会参加の促進のための講座、研修等の開催、(イ)青少年活動のための施設の提供、(ウ)青少年活動の指導者の養成、(エ)青少年活動に関する情報の収集及び提供、(オ)青少年活動に関する相談、を行っている。

(3) 京都若者サポートステーション概要
① 京都市域においては京都サポステが2006年10月に設置された。
② 学校を卒業・中退後、あるいは仕事を辞めた後、一定期間無業の状態にある15歳~39歳未満の方が対象。
③ 支援プログラムとして、(ア)相談事業(こころの相談、キャリアの相談、保護者相談)、(イ)就活基礎力講座(コミュニケーション、自己理解)、(ウ)就活実践力講座(チームワーク、面接対策)、(エ)青少年活動センターと連携した就労体験事業(喫茶体験、事務所体験、農作業体験など)、(オ)チャレンジ体験(コンビニなどでの3~4週間の就労体験)、(カ)保護者向け事業、(キ)出前相談(ハローワークや大学での相談会)、(ク)職業適性検査などを行っている。
④ 京都サポステの利用者の60%は大学・専門学校を卒業、中退者を入れると75%と高学歴で、就労経験のある人は8割以上となっている。
⑤ 就労体験があっても前職で傷ついた経験をしていたり、人づきあいが苦手、不安が多くてなかなか動き出せない人が多い。

3. 伴走型就労体験事業について

(1) 概 要
① 2015年度、北センターと京都サポステとが連携して行った新たな就労体験プログラム。
② 2012年度からは中間的就労体験事業(農業体験)を実施しているが、これは"就労(に近い状態)を体験するためのプログラム"として、"ある程度守られた環境"での体験であるのに対し、伴走型就労体験事業では"現実の職場の中に身を置き、業務ベースの仕事を体験するプログラム"として、"現実の就労環境"での体験であることが違いである。


受け入れ先

農作物の加工組合

京都市北青少年活動センター

期 間

2015年
11月下旬~12月中旬

2016年
1月下旬~3月中旬

実習日

週2日(火・金/10:00~15:30)×4週間
実動:約5.5時間

<当初の予定>
週3日(火・木・土/9:30~10:30)×2週間
<追加>
1週間経った時点で、本人より「日数と時間を延長したい」との申し出があり、段階的に増やし、最終的には週6日(9:30~13:00)に。

参加人数

2人(両名とも20代)

1人(30代)

業務内容

果樹の加工作業
(皮むき、絞り、運搬、梱包など)

<当初の予定>
軽作業
 ・
玄関周り、各部屋のチェック
 ・
湯沸し
 ・ロビー周りの整頓
<追加の仕事>
利用者対応(鍵の受け渡し)
近隣駐車場マップの制作
ごみ箱、化粧棚の制作

サポート体制

毎回、1人以上のワーカーが同行し、受け入れ先と参加者との間に立ち、クッション的な役割を果たした。

早出のワーカーが対応。本人の意思を確認しながら、徐々に仕事を増やす(できることを増やす)と同時に、他の職員へのつなぎ役を果たした。

実施の流れ

受け入れ先と担当ワーカーとで打ち合わせ①(仕事内容の調整、確認)
  ↓
サポステ登録者への打診(「この人なら」という人に個別に声掛け)
  ↓
参加者の確定
受け入れ先と担当ワーカーとで打ち合わせ②
(参加者の特性の確認、必要な情報の共有、受け入れ先の不安の解消)
  ↓
体験開始
  ↓
受け入れ先と担当ワーカーとで打ち合わせ③(ふりかえり)

参加者の変化

・年上の方々と接する中で、徐々に会話の量が増えた。
・自分から話をふったり、冗談を言うようにもなった。
・作業がスピードアップする工夫を考え、提案した。

・当初は、声も小さく自信なさげな様子(マスク姿+うつむきがち+ぼそぼそ話す)から、しっかり声も出して、前を向いて歩く姿に。
・「アルバイトに応募してみます」と決意。

本人の感想

「早くできたことをほめられたことが自信につながった」
「いろいろ心配することより、まず行動することがいいと分かった」

「短時間ながらも休まず出勤できたことで、毎日仕事をするということに自信がついた」

受け入れ先の感想

・「どんな人なのか」、「コミュニケーションが取れるか」と心配していたが、普通に会話もしていたし、思ったよりも素直で、仕事を頑張っていた。
まじめに取り組み、作業が早く進むよう自分なりに工夫を凝らしたりしてくれたので、アルバイトの学生さんよりも効率良く作業が進んだ。
(就職してなかったら)来年も続けて来てもらいたい(笑)。

・ひとつひとつ、丁寧にこなそうとする姿に好感が持てた。
「もっと来てもいいですか」、「他にもすることはありますか」、「やってみます」などの発言があり、受け入れ側としても「もっと任せてみようかな」という気持ちになった。
見た目の変化(視線が上にあがる、表情が豊かになるなど)もあり、ひとつひとつ自信をつけていっていることが実感できた。
就職が決まったことを聞き、事務所の職員みんなで喜べた。自分達の職場でステップアップしてくれたことが我らの喜びとなった。

その後の進路

Aさん
→別の就労体験プログラムに参加し、更に経験を積む。

Bさん
→他のプログラムにも参加し、ボランティアとの交流も。自分で就職活動を行い、2016年5月から農業法人に就職。

Cさん
→3月末のイベントにボランティアとして終日参加。自分で就職活動を行い、2016年4月からフルタイムのアルバイトとして就職。

4. 成果と課題

(1) 成 果
① ワーカーが職場に同行すること(伴走型支援)で、対人関係に不安を抱えている参加者が安心して体験に向かうことができ、途中でドロップアウトすることなく最後までやり通すことができた。同時に受け入れる側にとっても、ワーカーがいることで、困ったときには相談できるという安心感を持ってもらうことができた。
② 参加者が"現実の職場"に身を置き、"そこで働いている人"たちの姿を見ることで、他者がどのように振る舞っているか、働くとはどういうことかについて、よりリアルに感じることができた。
③ 参加者の感想にある通り、相談員やワーカーではなく、"そこで働いている人"から評価されることで、「自分はこれくらいできるんだ」ということを客観的に感じ、自信をつけることができた。自信をつけることで、次へのチャレンジの意欲がわき、全員が新たな一歩を踏み出せた。(3人中、2人は就労へつながった)

(2) 課 題
① ワーカーが同行するため、限られた人的資源の中では複数メンバーに対して同時に対応することができない。
② 受け入れ先が現時点では農業分野にとどまり、センターの立地や地域での関係性を活かしきれていない。

(3) 今後に向けて
① 職場への橋渡し体制の充実
 ・職場に同行し、職場との橋渡しをしてくれる「サポーター」を開拓したい。
  参考)NPO法人就労支援ネットワーク静岡による「静岡方式」(注6)
② 受け入れ先の拡充
 ・農業分野に限らず、受け入れていただける職場・職種を増やすことで、多様なニーズ(可能性)に対応したい。
③ 体験から就労につながる仕組みの構築
 ・体験させていただいた職場で、そのまま継続して就労につながるような仕組みを作れないだろうか。
 ・あるいは、働き手を求めているものの、なかなか見つからない職場(例えば、モノヅクリや伝統産業の職人など)へのマッチングは可能か。
 ・外部の団体とネットワークを構築しつつ、取り組みたい。




(注1) 内閣府、『平成25年度子ども若者白書』、p37、2013
(注2) 地域若者サポートステーションって何?、厚生労働省、http://www.mhlw.go.jp/bunya/nouryoku/ys-station/(最終アクセス2016年7月1日)
(注3) 青少年活動センター、京都市、http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000002392.html、(最終アクセス2016年7月1日)
(注4) 京都市、『京都市青少年活動センター指定管理者募集要項』、p17、2010年8月
(注5) 青少年活動センター、京都市、http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000002392.html、(最終アクセス2016年7月1日)
(注6) 津富宏、『若者就労支援「静岡方式」で行こう』、クリエイツかもがわ、2011