【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第7分科会 若者力は無限大∞ ~若者と創り出すまちづくり~

ユースサービスとしての演劇教育


京都府本部/京都市伏見青少年活動センター・所長 西田 尚浩

はじめに

 このレポートでは、青少年の育成施設である、中京及び東山青少年活動センターで実施した演劇事業、演劇ビギナーズユニットの参加者に実施した2種類の質問紙から得られたデータを統計的に分析した結果について述べています。それは、実施した事業の効果測定と、それらをもとにした事業評価について考えていただく機会としたいからです。

1. 調査対象や方法など

 アンケート調査を実施したのは、1999年と2002年、2004年から2006年、及び2010年から2013年の演劇ビギナーズユニットに参加した13歳から30歳までの青少年、154人(のべ9年)。調査に使用した質問紙は自己充足感尺度(5点尺度、20項目)と自己肯定感尺度(5点尺度、10項目)の2種類で、参加前と参加後に同じ質問紙を用いて調査した。

2. 分析の結果

 自己充足感尺度に回答した154人と、自己肯定感尺度に回答した131人(1999年の受講生には実施していない)のデータを分析対象とし、事業参加前と参加後の両尺度の得点について、それぞれの平均値と標準偏差を算出したものが、表1表2である。

表1 自己充足感の平均値(n=154)
 参加前参加後
平均値3.323.46
標準偏差0.510.51
 
表2 自己肯定感の平均値(n=131)
 参加前参加後
平均値3.133.14
標準偏差0.320.35

 分析にはSPSS(統計解析ツール)を用いた。まず、自己充足感の得点について検定を行った結果、参加前後の平均値に有意差が見られた(=3.61,df=153,<.01)。同様に、自己肯定感についても検定を行ったところ、参加前後の平均値に有意差は見られなかった(=0.18,df=130,n.s.)。つまり、参加前に比べ参加後に、自己充足感では増加が見られた(図1)が、自己肯定感については微増にとどまった(図2)。

図1 自己充足感得点の比較
 
図2 自己肯定感得点の比較

 そこで、2つの尺度について、質問項目ごとに検定を行ったところ、自己充足感尺度では、20項目中9項目で参加前後の平均値に統計的有意差が見られ(参加後に得点が増加)、唯一、Q15「いざとなると、どうしても人を頼ってしまう」(=3.43,df=153,<.01)という質問項目のみ、参加後に得点が減少したことがわかった。一方、自己肯定感尺度で参加前後の平均値に有意差が見られたのは、Q1「少なくとも人並みには、価値のある人間である」=2.29,df=130,<.05)、Q2「色々なよい素質をもっている」=3.00,df=131,<.01)、Q3「敗北者だと思うことがよくある」(=2.55,df=131,<.05)、Q5「自分には、自慢できるところがあまりない」(=3.59,df=131,<.01)、Q6「自分に対して肯定的である」=4.31,df=131,<.01)、Q7「だいたいにおいて、自分に満足している」=3.08,df=131,<.01)、Q9「自分は全くだめな人間だと思うことがある」(=1.99,df=131,<.05)、Q10「何かにつけて、自分は役に立たない人間だと思う」(=3.30,df=131,<.01)の8項目で、Q1、Q2、Q6、Q7の4項目は、参加前に比べ参加後に自己肯定感が増加したが、Q3、Q5、Q9、Q10の4項目は参加後に自己肯定感が減少した。
 次に、自己充足感尺度と自己肯定感尺度の、事業参加前と参加後の値の平均値について相関分析を行ったが、2つの尺度間の相関は見出せなかった(表3)。

表3 相関関係
 自己充足感自己肯定感
参加前参加後参加前参加後
自己充足感参加前1.568**-.130-.030
参加後 1-.047.066
自己肯定感参加前  1.459**
参加後   1
**<.01

 さらに、2つの尺度の参加前と参加後の差についてそれぞれの平均値を算出し、参加者間要因3水準(中高生年齢グループ、大学生年齢グループ、社会人グループ)×参加者間要因2水準(男性、女性)の2要因の分散分析を行ったところ、自己充足感尺度では、性別の主効果が有意傾向で((1,147)=3.59,<.1)、男性が女性より事業参加後の得点の増加が大きく(表4図3)、自己肯定感尺度においては、性別の主効果((1,124)=1.93,n.s.)に有意な効果は見られなかったが、女性が男性より事業参加後の得点の増加が大きいことがわかった(表5図4)。

表4 自己充足感得点の参加前後差(n=153)
  男 性 女 性
中高生大学生社会人中高生大学生社会人
平均値0.210.160.26-0.090.100.15
標準偏差0.620.500.320.560.490.39

表5 自己肯定感得点の参加前後差(n=130)
  男 性 女 性
中高生大学生社会人中高生大学生社会人
平均値0.00-0.04-0.110.010.040.11
標準偏差0.410.360.330.270.350.34

図3 自己充足感の参加前後の得点差
 
図4 自己肯定感の参加前後の得点差

3. 考 察

 自己充足感得点が事業参加後に増加したという結果は、先行調査(「なぜ、創造表現活動なのか? #2 ―― アンケート調査の結果から見えてくるもの ―― 」、2000年)の結果とも合致し、さらにそれを強化するものとして、また、参加者の様子や参加者が自らの体験を言語化した内容とも一致するものと考えられる。
 一方、自己肯定感尺度の結果については、熟考を要するものとなった。先行の同調査において、演劇の集団創作は結果的には大きな喜びや達成感・充実感が得られる体験ではあるが、そのプロセスにおいては内面を大きく揺さぶられる体験でもあると書いた。それは、「よい素質をもっている」、「自分に肯定的」、「価値のある人間」、「自分に満足」といった自己を肯定的に捉えられるような場面だけでなく、まったく逆の、「敗北者」、「自慢できない」、「だめな人間」、「役に立たない人間」といったことを感じさせられるような場面とも向き合わないといけないことを示唆しているように思える。
 また、初めて出会う者同士が、共同作業を行う中でお互いの意思疎通を図りながら共通の目標を見出し、1つのグループとなることの難しさが表現されているとも考えられる。もちろん、落ち込み体験や失敗体験に対するストレス耐性や受け止める力には個人差があるけれども、自己概念について両極の評価に振れやすい、たいへんデリケートな体験であることが読み取れる。
 次に重要なことは、落ち込み体験や失敗体験をどう受け止め、それをどう乗り越えるかということが重要になってくるが、その際、身近にいて助けてくれる人がいるかどうかが大きなポイントになるように思える。そういう意味で、自己充足感尺度の、Q15「いざとなると、どうしても人を頼ってしまう」の結果に関して、充足感得点としては下がっているけれども、誰かが誰かを支えていたということの証しでもある、ということを示唆しているようであり、たいへん興味深い結果である。自己充足感尺度で、中高生グループのみ参加後得点が減少したのは、個人差はあると思われるが、社会的経験が他のグループより低いと想像され、大きな期待感をもって臨んだものの、創作過程で様々な現実に直面し、大学生や社会人ほどうまくふるまえなかったことが影響したのかもしれない。
 また、自己肯定感尺度の参加前後の得点差における性差に関しては、詳しく述べる紙枚がないが、性役割についての社会的・文化的要請と関係があるのではないかと感じている。