2. 組合として取り組む
(1) 情報収集から職場学習会へ
① 11月12日議員協議会直後の情報収集
厚沢部町職から檜山地方本部へ保育所民営化の第1報がもたらされたのは11月26日のことだった。議員協議会資料を目にした組合員から「保育所の民営化の話が協議されたようだ」との情報が地方本部へ提供されたことから厚沢部町職、檜山地方本部が民営化対策に乗り出すこととなった。当局の警戒心が薄い段階で行動を起こしたことから、12月2日の大谷学園との打合せや12月9日の議員協議会なども事前に把握し、提出資料や協議内容についても入手することができた。
また、直ちに北海道本部へも状況を報告し、以後の収集情報は全て北海道本部へ提供するとともに、組合としての取り組みは道本部の指示のもと行うこととした。
② 2016年1月13日学習会「保育所民営化ってどういうことですか?」
2016年1月13日に保育士や役場職員を対象にした学習会を開催した。道本部自治体政策部長の瀬戸典仁氏と道本部衛生医療評議会議長種谷文秀氏を招き、公立保育所の果たす役割や函館市などの保育所民営化の実態、今後の取り組み方針について学習会を開催した。
保育所からは所長や臨時保育士も含めて20人近い職員が参加し、「なぜ民営化をしなければならないのかわからない」、「現場にはまったく説明や相談もなく、全然関係ないところで議論が進められている」という不満が述べられた。
③ 1月28日議会報告会で保育所民営化について質問
厚沢部町では議会による町政の説明会が毎年1回開催されている。筆者は厚沢部町職員組合として報告会に出席し、保育所民営化議論の進捗状況を確認した。高田一弥議員は次のように回答した。
(保育所民営化については)たしかに、議員協議会の中で出てきた内容ではございます。ただ、実のところ、まだ具体的に進むというところまで行っておりません。こういう方法もあるよ、ああいう方法もあるよ、という提案の中の一つに民間委託もありだね、と。で、委託するとすればこういうやりかた、こういう方法がありますよ、ということが現実としてですね、お話としてはありました。ただし、今のまま、公設公営、町が運営するという方法もあります。それも両方含めて、やるとすればこういうぐらいの費用がかかって、こういう具合で進んでいきますよという提案があって、今後どうしたらいいでしょうか、というところで話は終わっているというところであります。民営にするよということではありません。
以上の回答からは、保健福祉課長が保育士に対して述べた「民営化はもう決まっている」という発言が実際に議員協議会などの議論とかけ離れたものであることが明らかになった。
(2) 要求書の提出
① 1月18日要求書提出
こうした情報収集により当局の目的や進め方などを把握し、2016年1月18日に以下の内容で要求書を提出した。
ア 厚沢部・鶉・保育所の統合・新設及び民営化方針にかかる経過並びに考え方について、当労働組合および保育所職員に対して説明をすること
イ 上記の説明に際しては、これまでの議員協議会提出資料及び大谷学園との協議資料を提出すること
ウ 住民説明会及び保護者説明会の開催期日、回数を明らかにすること
エ 保育所職員の身分、処遇、賃金及び労働条件の一切に関して、職員組合との事前協議及び合意のないまま一方的に変更しないこと
② 1月29日回答書提出
議会報告会翌日、先に提出していた要求書に対する以下の回答書が当局から提出された。
ア (民営化に係る経過及び考え方)12月15日に3保育所の所長に、認定こども園について状況を話し、12月22日には保育所長と各保育所の正保育士に状況を説明した。
イ (議員協議会等への提出資料) 議員協議会資料2点、大谷学園が素案として提案してきた協定書案の提出があった。
ウ (住民説明会等)できるだけ早い時期に保護者等へ説明会を行う。
エ (職員組合への協議)職員組合への説明は行う。
(3) 交渉へ
① 北海道本部を最大限に利用
1月29日の回答書提出を待って直ちに交渉準備に入りました。厚沢部町職作成の交渉台本素案をもとに道本部の修正案を最終的な交渉台本としました。また、交渉当日は道本部から2人の役員を派遣いただき、交渉直前の最終確認と交渉会場外での待機をお願いした。
② 労使協定違反を指摘
交渉の冒頭に厚沢部町職佐藤執行委員長から、11月の議員協議会以降、職員組合に対して一切事前協議のないまま議員協議会へ提案したことや大谷学園との協議を進めたこと、保育士への意向調査を行ったことは、2012年に締結した労使協定の違反であり、一連の経緯は極めて残念なものであることを申し渡した。
③ なぜ民営化が必要なのか
佐藤執行委員長は、1月29日付回答書では民営化にかかる当局の方針や考えかたが示されていないことを指摘し、「昨年3月に策定された子ども子育て支援事業計画を踏まえて、今後の環境整備や子育て支援の考え方について説明をお願いしたい」と、当局の考え方を確認した。
当局からは、民営化は決定事項ではないこと、今後、人口減少が進むことから保育所を公立で維持することは難しいことなどが説明されたが、組合側は「十分な根拠も提示せず、公立で維持することが難しいという見解に説得力はない」と反論した。
最終的には佐藤委員長が「厚沢部町常設保育所のあり方等については、保護者・地域住民の意見を聞き、議論する期間を保証し、拙速な判断はしないものとする、ということでよろしいか」との確認し、当局もこれを了承した。
④ 事前協議の徹底を求める
佐藤執行委員長は「民営化ありきで話が進み、保育士に対して『民営化は決まっている』などと保健福祉課長が述べたことなどを問題視し、組合への事前協議も行わずになぜこのような進め方をしたのか」と問いただした。
当局からは「民営化が決まっていると言うつもりではなかった」、「大谷学園と協議するために待遇の確認が必要だった」などと回答があった。
交渉に同席した保育士は「保健福祉課長からは何を聞いても民営化の話しか出てこない。公立でやる話は一切出てこない」、「自分たちも色々意見はある。聞きたいことがたくさんがあるが、保健福祉課長は『僕にはわからない』と言うばかりで意見を受け付ける状態ではない。自分たち保育士は、なぜ公立ではやれない方向で進んでいるのかわからない。しかし、そのことを問いただしても、課長は『ここでする話ではないから』ということで説明に応じようとしない。」などと、当局の不誠実な態度を批判した。
佐藤委員長の「保育所の統廃合や経営形態の変更、施設の更新については、管理運営事項ではなく、職員の労働条件の変更に係る課題であることから、職員組合との事前協議事項であり、一方的な決定を行わないものとする、ということを改めて確認したいがこの点は、よろしいか。」との問いかけに対して、副町長は「合意できるかどうかはわからないが、協議はする」と回答した。 |