【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第8分科会 地域の子育て力が豊かな地域社会をつくる ~未来へつなぐ、子育て~

 私たちは困難な状況を抱える子どもや保護者へのサポートとして「せんだいこども食堂」を開催しています。管理栄養士など食の専門職をはじめ女性支援・福祉・労働・教育・広報など広範な資格、見識、経験をもつなかまが一個人として集まり、「食を通していのちを守る・はぐくむこと」を目的として月に2回、仙台市内3か所で展開しています。発足のきっかけや活動の経緯、現時点での成果、今後の展望について報告します。



心もおなかもいっぱいに
~いっしょにおいしいごはんをたべよう
―― せんだいこども食堂の取り組み ――

宮城県本部/仙台市職員労働組合・特別執行委員・組織内仙台市議会議員 樋口 典子

1. はじめに

 東日本大震災から5年。私たちはとりわけ被災地で困難をかかえる、子どもへの支援、食事の提供と食事を楽しむ環境の提供をしたいと、2016年1月、3人のなかまで仙台でもこども食堂をはじめようと思い立ち、企画書を作成しました。ほどなく趣旨に賛同をする15人ほどが集まり、「せんだいこども食堂」発足のための準備会を立ち上げました。その後、各種会議を重ね、Facebookページなどでの広報を行い、多くの方のお力添えも受け、同年4月3日(日)仙台で初めての「せんだいこども食堂(代表:門間尚子)」がスタートしました。
 2016年7月19日現在、仙台市青葉区、宮城野区、若林区の3か所で(おおむね月2回)の開催をしています。


2. 「せんだいこども食堂」事業内容

(1) 活動方針
 困難を抱えた家庭の子どもへの支援。食事の提供と食事を楽しむ環境の提供。子どもへの支援を行うことで、保護者(親)への支援も行うことを目的とします。温かく栄養バランスのとれた食事をいただくことと、大人数で食卓を囲む楽しさ・豊かさをひとりでも多くの子どもたちに経験して欲しいと考えました。
 また、子どもを抱えながら困難に窮しているひとり親などの世帯の保護者も一緒に食卓を囲み、ひとりで抱え込んでいる不安の緩和につなげることも想定しています。メンバーには、女性支援団体の代表や子育て支援団体メンバー、栄養士職域団体の代表者(筆者も管理栄養士)などが複数おり、メンバーの持つ専門性を活かしながら、食を通じて親子の支援をめざします。今後仙台圏域で「食堂」の設立を考えている団体・個人のサポートなどを行うことも目的としています。対象は、未就学児~高校生とその保護者など。

(2) 活動内容
① 開催までの経緯(発足準備会から第1回開催前まで)
 こども食堂をはじめたい と思いはあっても、仙台で初めての試みであり、どのように進めてよいのかわからないことだらけでした。そのような中、2012年に発足した東京都豊島区の「要町こども食堂」を開設した栗林知絵子さんとお話をする機会を得、開設や運営などについて、具体的なアドバイスを受けることができました。さらに2016年1月から東京都港区ではじまっている「みなと子ども食堂」の視察を行い、こども食堂のイメージを作ることができました。
 上記の取り組みと並行して、役員体制および規約、事業の内容やスケジュールを決定し、組織体制を確立しました。
 メンバーそれぞれの思いをブレーンストーミングすることからはじめました。みんなで「いただきます」「ごちそうさま」を言って食事をとる。顔の見える範囲で子どもとの信頼関係を構築し、一つひとつ丁寧に進めていく。毎回20人分、温かく、新鮮な食材でバランスの取れた食事を提供する。季節の旬や、だしを取ることなども伝えたい。ターゲット層については、基本的には誰でも気軽に来ることができるようにしたいなど、論議を重ねました。
 会場内のレイアウトやロゴや看板、ユニフォームなどコンセプト・イメージの共有を図りました。広報配布物などは地元のイラストレーターからの全面的なバックアップにより、チラシやランチョンマットなどのデザインをしていただきました。さらにメンバーそれぞれの得意分野を活かしての作成や、専門の方にお願いをいたしました。
 献立作成、栄養計算、食材の手配(調達)、調理などはキッチンチーム、フロアなどの環境整備、受付、消耗品の手配などの対応についてはフロアチーム、その他、日にちによっては子ども向けのワークショップを行う方々など大枠の役割分担もいたしました。
 せんだいこども食堂で食事をした大人からは一食300円、子どもは無料とするとともに、経費については、民間助成金およびFacebookで呼びかける寄付金で充当することとし、口座を開設しました。毎月お振込をしてくださる方もいらっしゃり心強い限りです。いただいた寄付金については一部を4月17日から7月17日まで熊本地震で被災したこども食堂への支援金とし、送金をしました。
 2月18日に「せんだいこども食堂」Facebookページを作成しました。
 2月の仙台市議会で、こども食堂の開設について市民団体が仙台での開設をめざしているとの発言もあり、報道機関から反響があり、新聞で報道されるなど事前のアナウンスにつながりました。
 開催日程については毎月第一と第三日曜日の17時から19時を基本とし、開催場所については、毎月第一日曜日は仙台市青葉区五橋のあしなが育英会レインボーハウス(震災で肉親を亡くした子どもたちの心のケアを行う施設)、奇数月の第三日曜日は宮城野区のみやぎ生協幸町店メンバー集会室、偶数月の第三日曜日は若林区の河北仙販荒井支店会議室を使用させていただくこととなりました。
 なお、話し合いなど活動の拠点および器具機材などの保管についてはメンバーの事務所を使用しています。献立作成、栄養価計算についてはメンバーの管理栄養士が作成した独自のソフトを使用し、2015年12月に改定された最新の日本食品標準成分表2015年版(第7訂)に基づいて行い、幼児から中学生にふさわしい量とし、当日の配布資料に掲載することとしました。
 調理器具や食具、消耗品などについては、メンバーからの寄贈や助成金を充てています。
 食事を提供するにあたり、衛生管理や開催形態など仙台市の行政担当に説明をしました。複数の担当セクション(子供未来局および健康福祉局)は他都市の状況についても問い合わせ、理解をいただき、スムーズな形で進めることができました。
 開催までの話し合いは9回を重ね、その他、各団体などの打ち合わせやマスコミ対応、各種作業なども行われました。
② 第1回開催から現在まで
 Facebookページなどでの発信力は、想像を超えるものでした。7月19日現在、登録者数は1,700を超えており、現在も増え続けています。食材などの提供やボランティアの申し出、さらに見学・視察、取材などの問い合わせが相次ぎました。その後も断続的に新聞、ラジオ、行政などからの取材の申し込みがあり、代表を中心に対応をしています。
 食材の提供については、多くの皆様から頂いておりますが、使用に際してはお申し出いただいた方と具体的な打ち合わせを行い、開催時に持参いただくか、事前の送付による受け入れなどを行っております。
 こども食堂開催時間帯の見学や視察、取材については、基本的に受けないこととしております。写真などの撮影についても内部資料として、こども食堂に関わっているメンバーのみが行っています。
③ メディア掲載など
 3月23日(水):河北新報朝刊(夕食無料 心も満たして)
 4月6日(水) :J-WAVE JAM(東京FM)
 4月11日(月):HOPE for MIYAGI(Date FM)
 4月21日(木):NHK仙台ラジオ「ゴジだっちゃ
 5月23日(月):読売新聞(こども食堂広がる輪)
 6月10日(金):朝日新聞(心も満たす「子ども食堂」 県内でも広まり)
 6月25日(土):河北新報夕刊(楽しい時 多くの子に)
 2016年6月号 :はぴるぷみやぎ(宮城県保健福祉部子育て支援課発行)
 以下、開催内容についてFacebookページより引用
 ◎第1回 4月3日(日)於:あしなが育英会レインボーハウス
 宮城県内の農家の方たちから届いた、新鮮な食材での調理。
 本日のメニューは、ごはん、みそ汁、スペインオムレツ、キャベツの梅ガツオ和え、大豆のあまから揚げ、干し柿とバナナのデザートの6品。
 干し柿はおばあちゃんが大好きなの、と教えてくれたお子さん。
 大豆を初めて見たというお子さんや、干し柿を初めて食べたというお子さんもありました。
 お母さんたちは、メンバーを交えて子育て談義やお料理の情報交換に花が咲き。こちらもまた、時間を忘れて話し込みました。
 ◎第2回 5月1日(日)於:あしなが育英会レインボーハウス
 今回のメニューは、ごはん、とうふハンバーグトマトソース、味噌おでん、わかめの酢のもの、フルーツ、カステラ、お茶。
 宮城県内の農家と農園、企業の方々のおかげで、おいしいお夕食を準備することができました。
 「初めて(酢のもの)食べたー」「なーんだ、ウマイじゃん」……大人の心配をよそに、お子さんたちはパクパク食べ続け、おかわりをしたお子さんも。そんなお子さんたちの様子に、酢のものの作り方をキッチンチームに尋ねる保護者の方もいらっしゃいました。
 毎回せんだいこども食堂には、美里町の農園から朝採り野菜が届けられます。今回、その野菜にカタツムリがくっついてきました。「わたし、カタツムリ初めて見たー」「さわっていいの?」「お塩かけてみていい?」「何? コレ? ツノ? カタツムリって鬼なの?」と、大はしゃぎ(笑)みんな順番に、カタツムリをなでたり、さわったりしました。
 ◎第3回 5月15日(日)於:みやぎ生協幸町店・メンバー集会室
 この日のメニューは、いり豆ごはん、みそ汁、餃子、たまごサラダ、スナップえんどう、りんご。
 塩釜市の蜂屋食品さんから届いた餃子は、水餃子と焼餃子の2バージョンで登場 子どもたちのおかわりの声が響きました。
 大崎市の中嶋農園さんからいただいた美しい大豆は、お米とともにいり豆ごはんに変身です。
 メンバー集会室の窓からは、新幹線が見えます。
 今回、絵本コーナーを設けたところ、食後にひとり読書に集中しているお子さんの姿がありました。また、スタッフによる読み聞かせに夢中になるお子さんも多く、目を輝かせ前のめりになって聞き入る姿が印象的でした。
 ◎第4回 6月5日(日)於:あしなが育英会レインボーハウス
 今日のメニューはフェイジョアーダ、ふわふわたまごのほうれん草ソテーにフレッシュサラダ、フルーツ。
 フェイジョアーダとは、豆と豚肉を煮込んだブラジルの家庭料理で、リオオリンピックにちなみました。
 メニューについて管理栄養士のスタッフが説明すると、「ブラジルってねー、この前読んだ絵本に出てきた鳥が住んでた国なんだよー」「みんなね、サッカーするのー。ずーっとしてるんだからー」と、子どもたちがブラジルについて次々と説明してくれます。
 フェイジョアーダに使ったフェジョン豆を子どもたちに見せた途端、箸で豆をつまんではお皿に入れる……という遊びが始まりました。
 子どもたちのパワーと明るさ、尽きないアイデアに、毎回、私たちが力をもらっているような気がして仕方がありません。
 ◎第5回 6月19日(日)於:河北仙販荒井支店会議室(この回は16:30から18:00)
 会場準備をしていたところ、雨合羽を着たお子さんとお母さん。「早く行きたい、行きたいって朝からうるさくて(笑)」はにかむような笑顔で立っていらっしゃいました。
 みんなそろって元気に「いっただっきまーす」。
 メニューは、ロコモコプレート(ハンバーグと目玉焼きのロコモコライス、野菜サラダ、かぶの浅漬け)、呉汁、さくらんぼ。
 呉汁とは、大豆をすったものにだし汁を合わせたもの。ふんわりとした食感がおいしい汁です。
 ロコモコを口いっぱいにほおばりながら、おしゃべりしようとがんばるお子さん。その愛らしい様子に、みんなの笑顔がこぼれます。
 ◎第6回 7月3日(日)於:あしなが育英会レインボーハウス
 今回のメニューは、ハンバーグシチュー、野菜サラダ、ご飯とみそ汁、フルーツ、フローズンヨーグルトです。
 「普段はあまり食べないけど、ここでは食べられた
 「くだものだーいすき
 食材の話し、作り方、感想など何気なくする会話にホッとするひとときも。
 ◎第7回 7月17日(日)於:みやぎ生協幸町店・メンバー集会室
 今回のメニューは、ごはん、鮭の香草パン粉焼き、なすとポテトのチーズグラタン、野菜サラダ、青菜と麩のみそ汁。「ランチョンマットに書いているお魚と同じだね」などおしゃべりにも花が咲きます。
 お汁椀は右に置こうね。青菜には鉄分が入っているんだよ。などちょっとした食育談義も。
 食後には、絵本を読んだり、鏡の前でバレーのまねっこもしたり、心がホンワカになる時間を過ごしました。


3. これまでの想定される効果

① 月2回、日曜夜に食事を提供することで、空腹を多少でも緩和することの一助となり、大勢の人たちと食卓を囲む経験は、孤独感や寂しさの緩和につながったものと考えられます。食育の推進だけでなく、こども食堂でのひとときの経験が、子どもたちやおとなの豊かな未来に寄与するものと予想されます。
② 東日本大震災を機に、ボランティアに参加したいという方が増加しています。スタッフとして参加した一人ひとりが、自分の力や存在の意義を肯定的にとらえることができ、今後の活動や生活をさらに活き活きしたものにしていただけるのではないかと思います。
③ こども食堂をこれから開始したいという方の、先行モデルになることで、より多くのこども食堂の誕生に寄与することになります。
④ こども食堂を利用した親子の抱える課題について相談対応・専門機関へのリファーを行い、課題解決への道筋を示すことができました。


4. これからの展望

① こども食堂は多くの場で言われている「子どもの貧困対策」だけでなく、様々な形の困難を抱える子どもや保護者にとって、必要な場であることを実感しています。「子ども連れで外食をすることがなかったので、こども食堂があってよかった」「おとな同士で話す場を求めていた」「子どもが生き生きとする顔を見られてとても嬉しい」などの声が寄せられています。メンバーには、相談員やカウンセラーがいるので、抱える課題について支援を行うことが可能。また、子育て支援団体をはじめとする複数の団体と医師や弁護士などの専門家とのネットワークの活用が期待されます。
② いろいろな立場のメンバーが事業を担っていますが、全員が自身の仕事とこども食堂の「二足のわらじ」状態であり、問い合わせなどに対してリアルタイムに対応することやFacebookの更新など、仕事が山積している状態です。さらに今後予定される助成金などの申請業務などを担わなければなりません。取り組みの広がりに伴い、事務局などの体制の充実も必要となってきました。
③ 自治体が行う、子どもの貧困調査に関するヒアリングへの協力を行う中で、効果的な連携を模索することも重要であり、市民の立場から子どもの貧困が少しでもなくなることに向けて、積極的に取り組みます。
④ 多様な子どもたちが集まる場として、専門職による適切なアドバイスや他こども食堂との情報共有など連携の必要性も感じてきました。これまで子ども支援を行っているチャンスフォーチルドレンの学生をはじめ、乳幼児の福祉や教育を学んでいる学生のボランティアの参画も実現しつつあり、多様な視野を持った支援への広がりが期待されます。
⑤ 今回の事業のノウハウを今後仙台をはじめ広域で「こども食堂」を始める団体・個人へ提供することも必須です。将来的には、学区や町内毎に「こども食堂」が開設されることも、視野に入れています。
 その試みの一つとして、8月には「こども食堂をはじめたい」という方向けに、こども食堂の立ち上げやチーム運営などを先駆者の方からお伝えしていただきながら、自分たちの「こども食堂」を一緒に考えていく「せんだい・みやぎのこども食堂のつくり方講座」を開催することとし、鋭意準備をしているところです。
⑥ 全国的には様々な形態のこども食堂が展開されています。経済的な困難に関わらず、身近な場所にこども食堂があることにより、多くの方にとってホッとできるような場の提供を進め、同じ志を持つ仲間や行政などとともに広範な連携やノウハウを共有していき、誰にとっても楽しい食事が享受できるような、一人にしない、されない社会の構築をし、提言していきます。




せんだいこども食堂Facebookページ
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みんなで一緒に考える+つくる せんだい・みやぎのこども食堂のつくり方講座Facebookページ
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