【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第8分科会 地域の子育て力が豊かな地域社会をつくる ~未来へつなぐ、子育て~

 福島市では、障がい児対応のために、「保育所障がい児ネットワーク会議」を立ち上げました。公立保育所の強みを活かし、保健機関や教育機関、療育期間と連携し、専門的なアドバイスを受けられる体制づくりをめざしています。具体的には、関係機関とのケース会議によって、発達障がい児一人一人に合った保育を考え、行うことで、保育の質の向上を図っています。今回はその取り組み内容と概要を報告します。



福島市の公立保育所のあり方を求めた取り組みと課題
~「保育所障がい児ネットワーク会議」の活動を通して~

福島県本部/福島市役所職員労働組合 渡邉 由紀

1. はじめに

(1) 福島市の状況
① 人 口        283,258人(2016年2月)
② 認可保育所        43か所(公立保育所 13か所、民間保育所 30か所)
③ 認定こども園       7か所
④ 地域型保育        4か所
⑤ 地域保育所        25か所
⑥ 2016年度4月の待機児童数 493人

(2) 震災後5年目の現状
 2011年3月の福島第一原子力発電所の事故に起因する放射能災害により、福島市は避難区域にはなりませんでしたが、多くの子どもと子育て家庭の市外への自主避難の実態を招くことになりました。5年が経過し、表向きは通常の生活を取り戻しつつありますが、現在も福島に戻れない家庭、戻ってはきたがまだ放射能への不安が拭えずにいる保護者など、精神的ストレスを抱えている家庭も少なくありません。
 保育所においては、除染や遊具の取り換えなどの対策が行われ、子どもたちは戸外で遊べるようになってきましたが、除染をしても線量の高い地区においては、散歩ができずに、どんぐりなどの自然物を使った遊びを制限しているところが未だにあります。われわれ保育士も、放射線や放射能について、「正しく知ること」「今、自分たちがしなければならないこと」を考え、定期的に活動場所の空間の放射線値を測定して、給食の放射能検査(食材モニタリング)を毎日行うことで、安全性を確認しながら、子どもたちの活動の幅を増やしています。
 震災対応も続く中、昨年度より「子ども子育て新制度」が施行され、福島市も待機児童問題や保育士不足の問題がさらに深刻化してきています。特に、公立保育所においては、非正規保育士が7割近くを占める中、雇い止めや空白期間のある非正規雇用では保育士がさらに集まらず、短時間のパート保育士をつないで保育をせざるを得ない異常な事態も広がってきています。


2. 福島市の取り組み

(1) 全般的な取り組み
 福島市では、公立保育所のあり方を考えていく中で、統一した高い保育の質をめざし、13カ所の保育所の保育士が、「幼保小連携」「発達支援」「未満児保育」「保育環境」をテーマに年6回の時間内研修を行ってきました。
 2010年度から、近年増加傾向にある発達障がい児の対応のために、各関係機関のネットワークを構築し、質の高い障がい児保育の取り組みが必要と考え、「福島市保育所障がい児保育ネットワーク会議」を立ち上げました。
 はじめは、公立保育所としての取り組みでしたが、現在は民間保育所にも参加を呼びかけ、福島市の障がい児保育のネットワークの輪を広げているところです。「あいあい保育向上プログラム」という、気になる子の対応に特化した保育プログラムの習得のための自主研修も行っています。
 さらに保育の中で、就学前の教育の充実と幼保連携を図ることを目的として、公立幼稚園との交流研修を行ってきました。
 震災後はそれに加えて、子どもの体力低下を防ぐための運動遊び講習会を開催し、こども育成課や子育て支援課の事業として取り組んでいます。公立保育所が、地域の指導的基幹保育所としての保育士の質の向上をめざし、研修を重ねているところです。
 今回は「福島市保育所障がい児保育ネットワーク会議」について紹介します。

(2) 「福島市保育所障がい児保育ネットワーク会議」
① 目 的
 ・発達障がい児の早期発見と早期対応、保護者支援のため、保育所、療育、相談機関からなるネットワーク体制を整備し、成長に応じた支援を行う。
 ・公立保育所13か所から保育士が各1人ずつ委員となり、保育所内における助言や適切な対応をしていくための資質向上をめざし、通所している障がい児に対して関係機関へのコーディネートのできる人材をつくること。
 ・民間保育所へ周知を行い、ネットワーク会議参加者とともに様々な専門機関のアドバイザーとケース検討を行い、福島市全体の障がい児保育の質の向上をはかること。
② 構成メンバー
 福島大学早期支援研究所 県北教育事務所 児童相談所 療育施設臨床心理士
 市立養護学校 児童相談所 学校教育課 健康推進課 障がい福祉課 子育て支援課 子ども育成課
 公立保育所保育士各1人
 私立保育所14か所より各1人(2014年度より)
③ ネットワーク会議内容
 ・年2回の全体会:発達障害の理解、専門機関の事業紹介、保護者対応等の講演会
 Ⅰ  講演会の内容
   「発達障がい児を持つ保護者の支援について」
   「保育所における保護者支援のあり方とコーディネーターの役割について」
   「子どもの育ちを考える」
   「支援機関に関する情報交換・サポートシートについて」
   「早期からの気づきと家庭や関係機関との連携した支援」
   「よりよい連携に基づく個別支援・クラス運営のあり方」
 Ⅱ  ケース検討のあり方研修会の内容
  (目的)子どもの見方のポイントを学ぶ。
   「困った行動」の原因についての考え方を学ぶ。
   それぞれの専門の立場からみた視点の違いを学ぶ。
   子どもの特性に応じた関わり方を学ぶ。
 ・年6回のケース会議:5グループに分かれて、各保育所のケース検討を行う。

④ 保育所における気づきと支援のフロー図

⑤ ネットワーク委員の役割図
⑥ まとめ
 ネットワーク委員である保育士が、それぞれの保育所のケースを持ち寄り、専門機関の助言をいただきながら、ケース検討を行うことで、様々なケースを学び、保育士の発達障害に対する理解や、資質向上が図られてきました。保育所内でもケース検討を行い、保育所内の対応を統一し、各関係機関と連携しながら、情報共有することで、丁寧に個別の対応ができるようになってきました。年々繋がる関係機関も増え、一昨年からは、民間保育所の参加も始まり、参加者からは、専門機関へ繋ぎやすくなった、子どもの理解、困り感への寄り添い方など、わかりやすく学ぶことができたなどの意見をいただいています。ネットワークが広がることで、支援の幅も広がり、多くの保育士が質の高い保育をめざして、障がい児保育に取り組み、ひいては通常の保育にも大変役立っているようです。

3. おわりに

 「子ども・子育て支援新制度」への移行に際し、当局と、「公立保育所あり方検討委員会」を開催し、組合側で要求した、「子ども子育て会議」への労働者代表のメンバー入りをはたしました。その後も定期的に「あり方検討会」を開催し、新制度移行に伴う課題を話し合ってきました。
 また、女性部としても保育問題の学習会を開催し、「新制度について」の学習や、保育所を取り巻く情勢や諸課題を共有し、さらに保育問題への認識を持ってもらうために組織内議員と保育士による意見交換会の開催なども行ってきました。
 ここ数年は、発達障がい児の増加、保育の中で個別の支援の必要な子ども、さらには精神疾患や虐待など支援の必要な保護者も多くなり、保育所における保育も保護者支援も高い専門性が必要になってきています。
 ところが、公立保育所においては、保育士の70%近くが、非正規であり、さらにはその非正規保育士さえも、求人を出しても見つからない状態にあって、短時間のパート保育士を繋ぎ合わせて保育を行うという異常な事態になってくるほど、保育士不足は深刻な問題です。保育士不足のために定員以下の受け入れとなってしまう施設も出てきて、待機児童解消も進みません。保育士は疲弊し、保育士の労働環境は悪くなる一方です。それでも、未来ある子どもと保護者のために、今後も公立保育所におけるセーフティネットと保育の重要性、質の高い保育を訴えていかなければならないと考えます。意識を高く持ち、様々なネットワークを通じながら、問題解決に取り組んでいきたいと思います。