1. 寿地区について
(1) 寿地区の概要
① 寿地区の場所
横浜市中区のJR石川町駅から、徒歩で約500メートルの位置にある。線路をはさんで海側には、元町・中華街・山下公園・港の見える丘公園などの観光地があり、線路をはさんでちょうど逆の位置である。中華街に行こうとして寿地区に迷いこむ人も間々見受けられる。寿地区という場合、横浜市中区にある寿町・松影町・長者町・三吉町の中の一部の中にある簡易宿泊所街を指す。主だった地区は約300メートル四方内にある。
② 寿地区の歴史
敗戦後進駐軍に接収されていたが、1955年に接収が解除された。1956年と57年に、横浜市中区桜木町にあった横浜公共職業安定所と横浜労働出張所が、寿町に移転したことなどにより、日雇労働者の寄せ場も移転となった。
高度経済成長に入った1965年には約80軒の簡易宿泊所が営業するようになり、現在の寿地区が形づくられた。
③ 労働者の街から福祉ニーズの高い街へ
最盛時は8,000人以上いたといわれる労働者でにぎわった寿地区も、港湾関係の仕事が、コンテナ輸送や機械化の進行のため、土木建築労働へ移行してきた。オイルショックや不況により、就労人口が減ったことや、高齢化が進んだことにより、生活保護受給者が増加している。かつては港湾労働をはじめとした「労働者の街」といわれていたが、現在は「福祉ニーズの高い街」と変わっている。
(2) 寿地区の現状
① 寿地区住民の高齢化
1990年は65歳以上の高齢化率は7.7%だった。横浜市の高齢化率8.6%・全国の高齢化率12.0%よりも低かったが、5年後の95年には17.6%になり、横浜市・全国の高齢化率を超えた。2013年には50%を超え、2015年は54.0%となった。なお、男女別では、約95%以上が男性である。
② 寿地区内にある簡易宿泊所
旅館業法における「簡易宿所」のことをいう。寿地区の場合は、個室で鉄筋コンクリート構造が多い。高齢化が進んだこともあり、新築の場合はエレベーター付きとなり、階段だけのところもエレベーターを付けるところが増えている。部屋は3畳~4畳が多い。2015年は124軒が営業している。
③ 寿地区の福祉施設・医療機関・行政機関
ア 横浜市生活自立支援施設「はまかぜ」
生活困窮者自立支援法に基づく、横浜市の一時生活支援施設として設置されている。
イ 保育園・保育所
寿福祉センター保育所・ことぶき保育園の2か所。
ウ 医療機関
地区内には、寿町勤労者福祉協会診療所とことぶき共同診療所の2つがあり、周辺にもクリニックや病院が多くある。精神科・内科を中心に、多くの医師や看護師が関わっている。また地区内の訪問看護は、「訪問看護ステーションコスモス寿」が1か所ある。山谷のステーションが母体ではじめた老舗である。寿地区外からも訪問看護師が訪問している。
エ 横浜市の行政機関
横浜市の行政機関として、寿地区対策担当(寿福祉プラザ相談室)がある。地域の関係機関・団体と行政による幅広いネットワーク整備と、協働による地域の課題解決に取り組んでいる。行政機関であるが、柔軟な業務展開を行い、寿地区でなくてはならない中心的な機関である。寿福祉プラザ内には、また、寿地区から約1キロのところに中区役所があり、生活支援課・高齢障害支援課・福祉保健課をはじめ、多くの職員が積極的に関わっている。
(3) 寿地区にかかわる人達
① 寿地区の住民と管理人さん
寿地区に住む人の多くは、簡易宿泊所でひとりで暮らしている。そのため、同じ簡易宿泊所内や同フロアの知り合いにいろいろなことを頼むことが多い。部屋の中にいる場合も多いが、日中外で過ごす人も多い。そのため、顔見知りになる場合も多い。また、一番に相談に乗る場合が多いのが、簡易宿泊所の管理人さんである。生活全般の相談をまずしてもらうことが多い。その後どこに相談に行くかという振り分けをしてもらう場合もある。
② 寿地区でのさまざまな活動
寿地区内には、様々な団体が活動している。日雇労働者支援の寿日労、野宿者などの支援をしている寿炊き出しの会や寿医療班がある。また、日本基督教団寿地区センターなど、数十年前から活動している団体も多くある。また、簡易宿泊所をホステルとして、外国人観光旅行者に宿泊させる団体もある。
③ 多くの障害福祉団体・介護事業所
寿地区がまだ「労働者の街」だったころから、身体障害者の「ことぶき福祉作業所」がある。また、アルコール依存症者の回復施設「寿アルク」や精神障害者の地域作業所「ろばの家」も地区内にある。
2000年の介護保険導入後の数年は参入が少なかったが、2005年ごろからの急激な高齢化に伴い、介護保険事業所の参入が増えてきた。特に高齢者向けのデイサービスは、地区内に8か所ある。また訪問介護事業所や居宅介護支援事業所も地区内やその周辺に20か所以上ある。
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