【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 道立羽幌病院は、羽幌町を中心とした留萌北・中部の中核医療機関として、地域に根差した医療を提供してきた。地域センター病院として120床を有し、その使命を担ってきたが、近年、常勤医の欠員や医療スタッフの不足により、現在は運用病床も45床まで減少している。本レポートでは、これまでの羽幌病院の機能・役割を踏まえながらも、留萌二次医療圏の現状を鑑み、担うべき役割や維持すべき機能について考察する。



留萌中北部における羽幌病院の役割と展望


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・羽幌病院支部 植野 秀章

1. はじめに

 道立羽幌病院は、1953年に町から移管されて以来、羽幌町を中心とした留萌北・中部の中核医療機関として、地域に根差した医療を提供しています。2005年に現病院へと移転した際には、内科・外科・小児科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科・整形外科・皮膚科・泌尿器科・精神科・リハビリテーション科と11もの診療科を有し、120の病床と10台の人工透析装置を有する地域センター病院の名に相応しい体制でスタートしました。しかし、現在は常勤の診療科が内科・外科・小児科の3科目のみとなり、運用病床も45床まで減少しています。
 そこで本レポートでは、北海道として提示する「羽幌病院」の機能・役割を踏まえながらも、留萌二次医療圏の現状を鑑み、担うべき役割や維持すべき機能についての考察を行いたいと考えています。

2. 『病院改革プラン』における羽幌病院の評価と今後の方針

 羽幌病院は『病院改革プラン』において、

 羽幌病院は、留萌第二次保健医療福祉圏における地域センター病院として、地域の医療機関や他の地域センター病院等との連携を図りながら、診療体制や救急医療の確保に努めるとともに、人工透析医療を実施しています。

という記載の通り、留萌二次保険医療福祉圏における役割が示されています。
 しかし、移転から10年が経過した現在の状況は、常勤医師は内科に4人、整形外科と兼務で外科に1人、小児科に1人と定数の10人を割り込む状況が慢性化しており、目標とする2次救急医療が実現できないことは勿論のことですが、1次救急医療の提供すらおぼつかない状態にあります。現状の改善を図る方策として道は、

○留萌第二次保健医療福祉圏における中核医療機関として、地域の国保病院等や他の中核医療機関との役割分担や連携を図りながら、救急医療をはじめ地域の医療需要に対応し得る医療機能の確保に努めます。
○地域に必要な医療を安定的、効率的に提供するため医師確保に取り組むとともに診療体制の見直しと地域の支援について地元自治体との協議を進めます。
○離島診療所への支援体制の整備に努めます。

としていますが、実際には上記のとおり医師の確保は進まず、地域の医療需要へ対応するために留萌や旭川などの都市病院へ患者を紹介する、地域病院としての機能を果たすのが手一杯の状況にあります。また、離島診療所への支援はおろか、自ら設置した種標榜科のほとんどは派遣の医師により賄われており(表1)、「支援する」病院では無く「支援される」病院から脱却することができずにあります。

表1:2016年度 標準診療体制

診療科 










 
一般内科   
消化器内科          
呼吸器内科         出張医
循環器内科         第4水曜日のみ(出張)
外 科      
整形外科      
専門整形外科         第2・4火曜日(出張)
小児科    毎週月曜日は出張医
婦人科        出張医
眼 科         出張医
皮膚科         出張医
耳鼻咽喉科         第1・3・5水曜日(出張)
泌尿器科         出張医
精神科           月1回のみ(出張)

 今後の展望として『新・病院改革プラン』が現在検討されています。その内容としては

○地域包括ケア病床を整備し、回復期患者の受入体制の充実を図るとともに、入退院支援の地域連携を進めるため、保健医療連携室が中心となって町村及び関係施設を訪問し、医療・介護の情報交換や羽幌病院の診療機能の周知を行う。
○(現在凍結中の)4階の有効活用方策について検討を進める。

とされています。

3. 情勢と羽幌病院が考える「あるべき姿」

 現在日本では驚異的なスピードで高齢化が進んでおり、現在国民の約4人に1人は65歳以上となっています。この傾向はこれからも続き2025年には団塊の世代が一気に75歳を超え、医療や介護のニーズが爆発的に増加することが見込まれています。一方で医療従事者の数には限界が有り、これまでと同様に「治るまで病院で治療する」ということが困難になると予想されています。そこで現在、国では「在宅・施設での療養」を基本として「自分の住み慣れた街で長く生活」できるよう「悪くならないように療養する」医療と介護が一体となった体制の構築と「それぞれの医療機関の連携」による過剰な医療機能の削減、効率化を図っています。(地域包括ケアシステム)
 羽幌病院は留萌第二次保健医療福祉圏における病院の一つです。この圏域の人口は図1に示す通り著しい減少が予想されており、これに伴い医療・介護需要は図2の通り予想されています。(出典:地域医療情報システム(日本医師会))

図1:将来推計人口

図2:医療介護需要予測指数

 また、この傾向を反映するように羽幌病院の受診患者数も年々減少傾向にあります。(図3

図3:患者推移
 

 この様に圏域内での医療需要の低下に加え、羽幌病院自身の機能の低下により患者数の減少が続いている現状にあります。医師や看護師等の医療スタッフ総体が減少している状況下において「地域センター病院」としての機能回復は極めて困難であると共に、今後も見込まれる患者数の減少を踏まえると非合理的であると考えられます。羽幌町は勿論のこと留萌中北部の生活を支える社会資本として恒久的な医療機関となる為に、その「あるべき姿」即ち、地域医療構想の策定で進められる分業の中で提供すべき、また、提供できる医療を改めて検討しモデルチェンジをめざす必要があると考えます。
 まず、入院体制についてです。現状に於いて濃厚な治療は基本的に提供できずにおり、重症患者や高度な処置を必要とする患者は他院への転送という形をとっています。現在の留萌第二次保健医療福祉圏における病院機能や病床割合(図4)を考慮すると急性期病床は過剰であると考えられます。また、回復期の病床数は他の区分に対しても圧倒的に少ないアンバランスな状況にあり、また、そのニーズは今後増えてくるものと考えられます。

図4:留萌二次医療圏における機能別病床割合

 回復期病床は、急性期の治療により峠を越えた患者が改めて自分の家・街での生活に戻る為に病状の安定や療養、リハビリを目的として入院する施設です。高齢化が進み、濃厚な医療よりも維持・療養・介護のウエイトが大きい羽幌に於いてはこの機能を有する施設は不可欠です。また、留萌中北部圏にこの機能を有する医療機関が無いことから、競合すること無く地域に必要な医療を提供できる可能性が残っています。このことから急性期病床の大幅な削減と回復期病床への転換が最善策であると考えます。
 次に、外来の診療体制についてです。現在、標榜する10の診療科目のうち6つの科は出張医による診療となっており、常時診療を受けられる訳ではありません。また、実際に診療が行われても軽度な処置しかできず、急性の重症例ではやはり他院への紹介での対応となってしまいます。このような不十分な体制を無理して続けていくことにはもはや限界であり、また「診て貰えない」・「必要無い」という地域からの不信任の温床となる可能性を孕んでいると考えられます。この改善策として、専門医主体の現診療体制から総合診療医による診療体制へと転換することが羽幌病院にとって最善の選択であると考えます。そもそも、現在出張医で対応している状況で提供している医療は初期・軽度な処置とトリアージ、維持療養が主であり専門医での対応であり続ける必要性が低くなっています。この状況を踏まえると、総合診療医による診療で殆ど問題は無いと考えられ、さらに常勤とすることで曜日に依らずに受診することができるようになる、より患者にメリットのある体制になるハズです。

4. 終わりに

 本レポートにて提起した「回復期病院へのシフトチェンジ」は、これまでの道立病院の運営方針から大きく外れるものです。また、この方針転換には町や住民など地域の理解・協力が必須となります。「治すため」に専門医の治療が受けられる病院からその人に必要な治療方針・施設を選別する病院へと、また、治るまで病院にいられる町から家や施設で生活を続ける町への変化を住民に理解してもらう必要があります。また現在、羽幌町では特別養護老人ホーム(118人)、グループホーム(18人)、老人ホーム(30人)と各種揃っていますが、高齢化が進む僻地に於いては更なる社会資源の強化が必要であると考えられ、町と連携した拡充を図っていかなければなりません。
 この様な変化を至急で進めなければならないのも、これまで医療制度の変遷に遅れをとり、また道として志ある「道民を守る医療政策」を行ってこなかったことのツケが回ってきた結果であるとも考えられます。同じ過ちを犯さないためにも、また、道としての責任を果たすためにも明快なヴィジョンを持ち、地域ケアシステムを牽引できるようなモデル病院となることを望むと共に、今度こそ保健行政を司る部門の積極的な責任ある仕事を望みます。