【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 道立の保健所職場における有資格者の慢性的な不足実態と欠員による業務実態への影響および問題点と今後の対策について検証し、有資格者でなければならない問題点を明らかにさせ、より働きやすい職場にするための改善方策について検討を行ったので報告する。



保健所職場における資格職の課題について


北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・空知総支部 細海 伸明

1. 道における有資格者がいなければ事業展開が出来ない職場実態について

(1) はじめに
 保健所職場における有資格者の慢性的な不足実態と欠員による業務実態への影響および問題点と今後の対策について検証した。

(2) 北海道の有資格者不足の現状
 現在、北海道は慢性的な有資格者不足で医師を始め、獣医師・薬剤師・保健師等多くの職種で欠員を抱えながら職員は各職場で働いている。
 現状は、①医師では6保健所の所長が欠員(兼務)、②獣医師も保健所生活衛生課・食肉衛生検査所等で33人の欠員、③薬剤師も5人の欠員があり、④保健師も20人の欠員、⑤栄養士も2人の欠員(企画総務課企画係配属分)、⑥臨床検査技師・診療放射線技師も各1人の欠員がある。(2016年6月1日現在)

(3) 空知管内の現状
 空知管内には、3カ所の保健所(岩見沢、滝川、深川)が設置され日々保健衛生行政の中核として道民の暮らしを守っている。
 しかし、空知管内においても次のとおり欠員が生じており、各保健所の業務の遂行に支障が出始めている。
① 医  師 欠員1人(滝川保健所)「岩見沢保健所長が兼務で対応」
② 歯科医師 岩見沢保健所に配属されているが「本庁と兼務発令」
③ 獣 医 師 空知管内 欠員5.5人(岩見沢△3.5人、滝川△2人)
④ 薬 剤 師 空知管内欠員1人(滝川保健所)「担当主査欠、担当者が育児休業、(薬剤師資格を持つ企画主幹及び事務職で対応)」
⑤ 保 健 師 空知管内 欠員2人(岩見沢1人、由仁支所1人)
⑥ 栄 養 士 空知管内 欠員1人(滝川保健所)

(4) 欠員が発生した理由
① 10数年に及ぶ賃金の独自削減と職員数適正化計画により、退職した有資格者の後補充がなく有資格者の数が減少し、その結果欠員が増えて、保健所における有資格者の確保が出来なくなってきた。
 さらに、採用試験を毎年実施しても受験者が減少する中、道の採用試験に合格しても国家試験に不合格になったり、辞退する者も多くあらわれた。
② また、受験者の多くは、インターネット等の普及により「自分の能力を高く評価してくれる職場」や「同じ仕事内容で、より多くの収入が得られる職場」を探すことが出来るようになり、一昔前のように「公務員」が花形職種である時代ではなくなった。
 道職員の薬剤師については「初任給調整手当」も支給されておらず、民間との賃金格差は「初任給」で約10万円近くあり、年収では100万円以上の差があるため、道として薬剤師採用試験を実施しても受験希望者が来ないのは当然の結果である。
③ なお、2006年度から退職金さえも減額され、勤続25年以上の薬剤師を含む多くの有資格者は、みすみす400万円も退職金の金額が減額される前に道の職場を去っていった。

(5) 道としての対応
 1970年代までは各保健所に「食品衛生監視員」として管理栄養士が配置されていたが、その後、健康増進法に基づく栄養指導が業務の中心となり、80年代には管理栄養士の食品衛生監視員はいなくなった。
 また、1984年から獣医師が6年制となり88年と89年に新卒の獣医師が採用できない時に、薬剤師が食品衛生監視員として多く採用された。
 道としては、獣医師にしか出来ない業務①狂犬病予防員、②食肉検査員、③食鳥検査員など、獣医師にこだわって採用してきたが、2009年度にふたたび食品衛生監視員として5人の管理栄養士が採用されて以降、表2のとおり管理栄養士が採用され、2015年度現在13人の薬剤師と35人の管理栄養士が食品衛生監視員として業務に携わっている。
 しかし、獣医師でなければ出来ない業務があるので、道は獣医師の採用を優先し、2016年度は管理栄養士の採用は行われていない。
 また、薬剤師に関しては採用試験を随時実施に変更しても募集者が少なく、2016年度は道として10人を超える薬剤師を募集したのに対して4人の新規採用にとどまっており、薬剤師不足は深刻な状況となっている。


2. 有資格者でなければならない問題点

① 獣医師資格を要する業務
 ア 狂犬病予防員
 イ 食肉検査員
 ウ 食鳥検査員
② 薬剤師資格を要する業務
 ア 薬事監視指導員(初年度)
 この業務は、薬事法施行令第68条に規定があり、薬剤師なら直ぐに発令できるが、それ以外の者は1年以上薬事に関する行政事務に従事し、十分な薬事監視指導の知識を有する者でなければ発令できない。
 獣医師でなければ出来ない業務は、獣医師を担当者として保健所等に配属するしかないが、食品衛生監視員は管理栄養士でも可能であるように、薬剤師でなくても薬事監視員の資格を取得する方法がある以上、薬剤師が採用されるまでの間の対応を具体的に考える必要がある。


3. より働きやすい職場にするための改善方策

(1) 欠員の解消
 2016年5月1日現在の欠員状況は別紙(表3)のとおりであるが、薬剤師は医療職(二)表を使用している企画主幹を含んでいないので、実際の欠員は11人となる。
 また、獣医師にしか出来ない業務(食肉検査員、食鳥検査員等)がある以上、全ての食品衛生監視員を管理栄養士にする事はできない。
 道は各職種に採用枠を決めており(表3参照)、獣医師採用枠の中で食品衛生監視員として獣医師以外の職種の設定数は57人であるが、その内48人は薬剤師・管理栄養士が既に採用されており、33人の欠員については全て獣医師を採用する必要がある。

(2) 処遇の改善
 獣医師は2010年から「初任給調整手当」が措置されたが、薬剤師については認められておらず、民間との賃金格差が大きいことが採用時の足かせになっている。
 薬剤師は私立大学の場合、6年間勉強し1,100万以上の授業料を払ったうえ、6割強の合格率の国家試験に合格して、晴れて薬剤師となることが出来る。
 初任給で10万円近く、年収で100万円以上賃金の差がある道の採用試験を受験するとは考えにくい。
 道として、獣医師・薬剤師の給料を民間の賃金に近づける等、抜本的な改善が必要であり、薬剤師については「初任給調整手当」の措置が急務と考える。
 また、獣医師・薬剤師などの「採用困難職種」は、道として具体的な採用計画を立てて実行していかなければならない。

(3) 男女が共に働きやすい職場
 例えば、滝川保健所では現在、地域医療薬務主査が欠員であり担当者の女性薬剤師が結婚・妊娠・出産による育児休業に入り、管理職の課長と薬剤師資格を持つ企画主幹及び再任用(ハーフ)の事務職員で薬事業務を担当している。
 このような事例は、今後全ての保健所職場で発生する可能性があり、薬剤師だけでなく、獣医師、保健師、管理栄養士など、多くの女性職員が採用されてきていることから、全ての職員が育児休業が取れる職場環境の整備や、業務軽減の対策が必要であり、「男女共同参画社会」の観点からも、男性職員も積極的に育児休業を取得するなど、女性のみに負担を負わせない対応が必要である。

(4) その他の改善策
 今後「獣医師」「薬剤師」「保健師」等の有資格者については、「有資格者登録制度」を考えていく必要がある。
 具体的には、各振興局で有資格退職者の名簿を作成し、有資格者が育児休業等で休職する場合、非常勤職員として勤務可能かを考える。
 特に、薬剤師の場合は、退職後直ぐに民間に勤務する場合が多いので、フルタイムで2年間の「再任用」が可能な退職者も多いと考える。
 また、獣医師については各食肉検査事務所で非常勤として必要な時が多いので、名簿作成が特に有効と考える。

(5) 各大学におけるアンケートの実施
 なぜ、道が採用試験を実施しても受験する学生が少ないのかを分析するために、道は各大学の学生に対してアンケートを実施して「公務員」が職業選択の一つであることを周知することが必要である。
 また、アンケート内容に改善すべき内容を盛り込み(給与・処遇など)、より良い職場づくりの根拠とすべきである。


4. 結 論

 全道庁空知総支部としては、具体的な改善に向け、次のとおりたたかいを構築していく必要があると考える。

(1) 欠員の完全補充のたたかい
 業務量が減っていないのに人員が減り、各職場で欠員がある以上、欠員の完全補充のたたかいが最優先と考える。

(2) 処遇の改善のたたかい
 現在の医療職(二)表の抜本的改善が急務である。
 特に初任給調整手当が措置されていない薬剤師については、民間給与と年収で100万円以上ある賃金格差を解消しなければ欠員解消にはならない。

(3) 離職防止のたたかい
 若年層や中堅の有資格者は、今後自分たちの資格をより高く評価してくれる職場を求める可能性があり、道に対して具体的な離職防止対策を求めていく。

(4) 民間からの転職が可能なたたかい
 道として各有資格者の民間給与の実態を把握し、道職員への転職が可能な状況をつくり、道のホームページなどで周知徹底を図る。

(5) 退職者リストの作成
 道として、有資格者で定年退職や専業主婦等により就業していない者のリストを作成させ、産休代替の非常勤職員として採用できる制度運用を求める。

表1 獣医師以外の監視員職種の推移
職  種1980年2016年
薬剤師33人13人
農芸化学 2人 0人
水産学部 3人 0人
獣医師以外計38人13人

表2 管理栄養士採用の推移
年 度採用数備 考
2009年 5人退職1人
2011年 9人退職2人
2012年11人
2013年 8人
2014年 2人
2015年 3人
現在職員数35人

表3 2016年5月1日現在の各職種別欠員数(医師・歯科医師を除く)
職   種採用枠欠員数備       考
獣医師357人33人
薬剤師48人11人企画主幹で医(二)適用者も含む
保健師264人20人
栄養士43人 2人
臨床検査技師73人 1人
診療放射線技師22人 1人
作業療法士 7人 0人
理学療法士 7人 0人

表4 保健所の監視員資格等(対物部門)
○食品衛生監視員……資格要件がある
 ①厚生労働大臣の指定した食品衛生監視員の養成施設で所定の課程を修了したもの
 ②医師、歯科医師、薬剤師又は獣医師
 ③大学で、医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、又は農芸化学の課程を収めたもの
 ④栄養士で2年以上食品衛生行政に関する事務に従事した経験を有するもの
 ・環境衛生監視員……資格要件がある  獣医師
 ・食肉検査員、食鳥検査員……資格要件がある  獣医師

表5 獣医師と薬剤師の欠員の状況の推移
年 度獣医師薬剤師備       考
2006.05.01(H18)254
2007.03.01(H19)284
2008.05.01(H20)234
2009.06.01(H21)394
2010.09.01(H22)364
2011.09.01(H23)398
2012.09.01(H24)408
2013.05.01(H25)2312
2014.10.01(H26)2810
2015.06.01(H27)328
2016.04.01(H28)326企画主幹(薬剤師)数に含む

表6
薬事法施行令68条(薬事監視員の資格)
第68条 次の各号のいずれかに該当する者でなければ、薬事監視員となることが出来ない。
一 薬剤師、医師、歯科医師又は獣医師
二 旧制大学、旧専門学校、大学又学校教育法に基づく高等専門学校において、薬学、医学、歯学、獣医学、理学又は工学に関する専門の課程を修了した者であって、薬事監視について十分の知識経験を有するもの
三 1年以上薬事に関する行政事務に従事した者であって、薬事監視について十分の知識経験を有するもの