【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 病院で発生したボヤで、出火病棟に入院中の患者全員を無事搬送した地元消防団への感謝をきっかけに、これまで参加していなかった町の総合防災訓練に、新たなメニューとして傷病者トリアージ訓練で参加するようになりました。当初、傷病者役を病院分会組合員(動員)で担っていたところを地域住民が担うことになり、病院労組の取り組みから地域住民の参加に発展した事例について報告します。



山形県立河北病院の河北町総合防災訓練参加
―― 地元消防団への感謝の気持ちから ――

山形県本部/自治労山形県職員連合労働組合 土屋  肇

1. はじめに

 山形県立の総合病院は、山形市(中央病院)、河北町(河北病院)、新庄市(新庄病院)にあり、労働組合は県病労・県職連合として各分会があります。県病労・県職連合としては、他に酒田市にある独立行政法人山形県・酒田市病院機構日本海総合病院と鶴岡市にある精神科単科こころの医療センターを組織しています。
 県内の市立や町立の病院は、それぞれ設置されている自治体の総合防災訓練に参加しています。
 しかし、県立病院は、市町主催の総合防災訓練に主体的に参加するものではなく、日本赤十字社山形支部や県・市町村から各病院が要請を受けて、各地区の医療救護班やDMATが参加するかたちになっています。
 県の中部「西村山地区」に位置する河北病院の医療救護班が、県北部の最上地域の新庄市の総合防災訓練に参加することもあり、設置されている自治体に直接参加することが約束されているものではありませんでした。
 このような中、河北病院で発生したボヤをきっかけに、町の総合防災訓練に河北病院が直接参加することになりましたので、その経過とその後の動向について報告します。

赤十字医療救護班について
 日本赤十字社山形県支部では、救護班の編成及び災害時の出動を内容とした覚書を医療機関と取り交わして災害救護体制の整備を図っています。
地区市町村医療機関
村山山形市山形県立中央病院
山形市立病院済生館
東根市北村山公立病院
河北町山形県立河北病院
最上新庄市山形県立新庄病院
置賜米沢市米沢市立病院
川西町公立置賜総合病院
庄内鶴岡市鶴岡市立荘内病院
酒田市地方独立行政法人日本海総合病院
日本赤十字社山形県支部ホームページより
 
県内の災害拠点病院・大学病院
2013年3月31日現在
災害拠点病院・大学病院DMAT
チーム数
備考
県立中央病院3基幹災害医療センター
公立置賜総合病院3地域災害医療センター
日本海総合病院2
済生会山形済生病院2
県立新庄病院1
山形市立病院済生館1
鶴岡市立荘内病院1
山形大学医学部付属病院3
計8病院16
※ 2016年4月現在計8病院21チームに増えている
資料:県地域医療対策課調べ

2. 河北町と河北病院の紹介

 河北町は、県の中部に位置し人口約19,000人、約6,100世帯、「雛とべに花の里」をPRしており、ひなまつりは月遅れ4月2日、3日に開催されています。紅花の歴史がわかる「紅花資料館」、ソウルフードとして、「つめたい肉そば」「ソースかつ丼」があります。
 河北病院は、町のほぼ中央に位置しています。総合病院の看板は掲げていますが、医師確保が課題となっており、外来診療のみの科(神経内科、小児科、脳神経外科、皮膚科、産科、眼科、耳鼻咽喉科)が多く、現在の診療報酬制度の中では運営が困難な病院規模です。2025年を視野に地域に信頼される病院であり続けるため、2015年4月から病棟再編を行い、一般病床120床、地域包括ケア40床、緩和ケア20床、感染症6床となりました。

山形県立河北病院の紹介
診療科
内科
(消化器、循環器、内分泌)
神経内科
疼痛緩和内科
小児科
外科
整形外科
脳神経外科
皮膚科
泌尿器科
産婦人科


眼科
耳鼻咽喉科
放射線科
麻酔科
入院、内視鏡検査・治療、心臓カテーテル検査、ペースメーカー植え込み術など
水(午前)、木(午後)外来のみ
入院、外来、往診
外来のみ
入院、手術、乳腺外来、肛門外来
入院、手術、リハビリ
火、木、金、午前外来のみ
木、外来のみ
入院、手術(経尿道的切除術)
入院(婦人科)、産科は外来のみ(不妊治療、産後1カ月おっぱい外来)出産なし
月、火、木、午前外来のみ
月、水、金、午後外来のみ
320列CT、MR、核医学検査
全身麻酔、経気管支肺生検
病床(2015年4月~)
一般病床
地域包括ケア
緩和ケア
感染症
 
120床(3階病棟、4階病棟)
40床 (5階病棟)
20床 (緩和ケア病棟)
6床 (緩和ケア病棟併設)
計 186床

3. 河北病院でボヤ

 2009年10月19日午前2時30分頃、河北病院5階の病室から出火、すぐにスプリンクラーが作動したことにより延焼はありませんでした。原因は、入院患者が持参した電気毛布のショートによるもので、カーテンとベッドの一部が焦げた程度でした。5階の病棟に入院中の患者は、1階まで無事避難し、死傷者はありませんでした。
 火災発生時、消防隊はもとより、町内の各消防団・団員に招集がかかり、真夜中にも関わらず、5階の入院患者53人を1階まで全員無事に搬送・避難誘導した後、スプリンクラーの構造上タンクが空になるまで水が出続け、足首まで溜まった水の後始末をしてくれたのが地元消防団の皆さんでした。
 私たち、病院職員だけでは、到底対応できるものではありませんでした。

2009年10月19日知事記者会見の内容

 本日10月19日午前2時30分頃、県立河北病院で火災が発生いたしました。
 火災の発生場所は5階の5病棟502号室で、発生当時502号室の5人を含む53人の患者さんが5病棟に入院されておりましたが、1病棟、3病棟、7病棟、急患室等に避難誘導を行いまして、この火災で怪我等をされた方はいらっしゃいませんでした。
 火災の状況ですけれども、502号室のカーテン及びベッドの一部が燃えました。ですが、午前3時15分には鎮火が確認されております。現在患者さんの一部は5病棟の病室に戻っておられますけれども、502号室とスプリンクラーの散水により水漏れが発生した4階の一部病室の患者さんが別病室に避難しておられます。原因については、現在、警察が調査中ということであります。なお、本日の外来の患者さんについては、平常通りの診療と言うことで行われます。
 今回は、不幸中の幸いと申しましょうか、怪我等をされた方は確認されておりませんけれども、入院中の患者さん及び関係の皆様に大変ご迷惑、ご心配をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

4. "地域との連携"による"恩返し"

(1) 消防団への感謝の表し方
 私は、当時河北病院に勤務しており、山形県職員連合労働組合西村山支部河北病院分会の書記長で、居住しているところに消防団がないため消防団員ではない河北町民です。
 出火した時に、他の地区の消防団員の友人・知人の多くが病院に駆けつけ、患者搬送と水の後始末にあたっていただきました。後日、友人数人にそれぞれ感謝を申し上げると、その全員が「当たり前のことをしただけだ」と話すのでした。
 病院として、町内の消防団への感謝の気持ちとして、「恩返しとして何かできるものはないか」という思いはありましたが、具体的な行動をどうするかが課題でした。

(2) 町と病院へ相談
 私は、河北町の防災担当者に会い、率直に河北病院分会(労働組合)として何かできることはないものかと相談をしました。その結果、町の総合防災訓練に、(2009年度は終了していたため)2010年度参加できないかとのことでした。そこで、河北病院の交渉窓口である事務局次長兼総務課長に町の担当者と話した内容を伝え、河北病院の赤十字医療救護班として参加する方向となりました。

(3) 赤十字医療救護班の活動
 河北病院の場合、普段は、県内各地域で行われる防災訓練への参加要請を受けて、消防署員や他病院の医療救護班、DMATとともに、看護学校の学生や地域住民などが傷病者役となり参加している中で、救護所における2次トリアージ、応急処置、後方搬送などの訓練に参加しています。
 災害発生時には、被災地に赴き任務に就くことになります。

トリアージタッグ
 
START法によるトリアージ

(4) トリアージ訓練とは
 赤十字医療救護班が普段行っている訓練で、町の総合防災訓練で行われていないのが傷病者のトリアージ訓練でした。
 トリアージは、救助者に対し傷病者の数が特に多い場合に、判定基準をできるだけ客観的かつ簡素化したものをSTART法といい、ABCDEアプローチに基づき、自分で歩けない場合、
 A:呼吸をしているか?
 B:呼吸数はどうか?
 C:循環状態(CRT)はどうか?
 D:意識レベルはどうか?
で判定し、その結果をトリアージタッグ
 黒:カテゴリー0(死亡群)
 赤:カテゴリーⅠ(最優先治療群)
 黄:カテゴリーⅡ(準救急治療群)
 緑:カテゴリーⅢ(保留群)
で表示していくものです。
 ちなみに、搬送や救命措置の優先順位はⅠ→Ⅱ→Ⅲ→0となります。

(5) 新たなメニューとして追加
 町と病院当局との調整、分会役員等との議論の結果、病院に医療救護班(医師1人、看護師2人、事務1人)を派遣してもらい、分会組合員から選出した傷病者役(5人)で、救護所を設置、傷病者トリアージ訓練のデモンストレーションを行う内容になり、総合防災訓練の新たなメニューとして追加することになりました。
 この訓練を行うことで、次のようなことが期待されました。
 ① 災害発生時における傷病者トリアージの方法や「トリアージタッグ」の存在があまり知られておらず、見たことも聞いたこともない町民が多いのではないか。
 ② 災害時に傷病者になった時、どのようなことが行われるのか地域住民の方々に知ってもらえるのではないか。
 ③ 町の消防団が毎年参加している訓練に一緒に参加することによって、少しではあるものの恩返しになるのではないか。
 ④ 河北病院として訓練に参加することで、河北病院の職員も災害に対して準備していることを知ってもらうことができるのではないか。
 ⑤ 地域に根差した病院との認識をもってもらえるのではないか。

5. 河北病院として総合防災訓練へ

(1) 河北町総合防災訓練の内容
 町の総合防災訓練は、毎年10月に町内の小学校学区持ち回りで小学校のグランドを主な会場として行われています。訓練の内容は、「町の西側に存在する活断層を震源とした大地震が発生した」との想定で行われ、町長を統括として、町役場職員をはじめ、開催小学校学区の住民と町内の消防団、消防署員(消防隊、救急隊、消防防災ヘリコプター隊員)などの参加を得て、避難訓練、消火訓練(消火器、放水、バケツリレー)、炊き出し訓練などが行われています。
 そこに、新たなメニューとして傷病者トリアージ訓練が加わります。


 
▲2010年10月24日訓練の様子
症状に合わせ応急処置をする医師。
仰向けになっているのが組合員。
救急隊員とも連携。
 
▲2012年10月14日訓練の様子
消防団員との連携。
医師が傷病者の状態を判断・解説している。

(2) 初の実演
 2010年10月24日(日)、河北病院の医師、看護師、主事(事務)が、赤十字医療救護班のユニフォームを着用し、労働組合(河北病院分会)で声かけした組合員5人が傷病者役となり、トリアージのやり方についてデモンストレーションを行いました。
 あらかじめ症状を記入し用意しておいたシールをはり、その症状にあわせて、トリアージタッグ(黒:カテゴリー0(死亡群)、赤:カテゴリーⅠ(最優先治療群)、黄:カテゴリーⅡ(待機的治療群)、緑:カテゴリーⅢ(保留群))に記入、救護所を設置し応急処置の方法を実演、救急隊の協力も得られたことから救急車に乗せての後方搬送と、解説を交えながら実演しました。
 その後、毎年同じ内容で訓練に参加してきました。

(3) 地域住民の防災訓練参加意識の高さ
 これまでの訓練の中で、家屋倒壊等により怪我をした住民を想定し、実際に担架に人を乗せて避難したり、肩を貸して歩行したりして、避難訓練を行っており、その避難してきた延長で傷病者役を住民が担うものだという地域住民の防災訓練への参加意識の高さがうかがえ、独自に傷病者役を地域で選定していましたが、開始当初は河北病院としてデモンストレーションで準備していたことで、対応できませんでした。

(4) 地域住民参加のトリアージに発展
 2014年10月26日(日)に行われた総合防災訓練では、地域住民の防災訓練への参加意識の高さから、地域住民約20人が傷病者役として参加することになりました。
 事前に人数分の症状を記したカードを準備し、救護所設置・応急処置だけではなく、1次トリアージを行うトリアージセンターを設けることにしました。地域住民自ら傷病者役となることにしましたので、河北病院分会組合員からの傷病者役の選出は行わないことにしました。
 当日は、トリアージセンターに見立てた長テーブルに傷病者役の住民に並んでいただき、1次トリアージを行いました。トリアージセンターでトリアージタッグを付けてもらったあとに、救護所に向かい、歩行できない役の人は、消防団が持つ担架で運びました。救護所では、優先度に応じた応急処置を行います。
 その中に高齢の女性一人が孫と思われる3歳位の子どもの手を引きながら参加され、トリアージセンターにきました。症状は妊婦で足を怪我したとの想定です。症状を聞き取っている内容を、マイクを使って会場に流していたため、「妊娠されているんですか」との声かけに、「はい」と答えられ、『そんなわけないよね』との会場にいた参加者の思いが笑いとなり、和やかな雰囲気になりました。
 ちなみに、妊婦の場合は、救護所に余裕があれば、黄:カテゴリーⅡ(準救急治療群)として観察していくことになります。

(5) 組合員が担ってきた傷病者役を地域住民へ引継ぐ
 傷病者役を組合員で担っていたものが、地域住民が傷病者役として参加するように変わり、町民参加でより本格的になったことから、河北病院分会としての取り組みは地域住民参加と言う形で引き継がれることになりました。

6. まとめ

 病院で発生したボヤをきっかけにして、直接参加していなかった河北町の総合防災訓練に、河北病院として傷病者トリアージ訓練で継続的に参加できるようになりました。
 この取り組みで、
① 災害発生時に怪我した場合や持病が悪化した時、救護所や病院で行われるトリアージを地域住民の皆さんに体験してもらう場面を作れたこと。
② 町内の消防団のみなさんに間接的に少しではありますが、恩返しができたこと。
③ 地域と連携することで、地域から信頼される病院になっていくための一端を病院労組の組合員で担うことができたこと。
④ 訓練への地域住民参加を促進することになり、小さなことですが住民自治につながったこと。
が成果であると考えています。
 今後とも、地域に信頼される病院としての役割を果たしていくために、地域に出ていく取り組みを模索していきます。