【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~ |
近年、医療資源の不足や偏在が報じられている。「地域包括ケアシステム」の構築が進められ、住民と医療機関とのつながりは一層重要性を増している。しかし、少子高齢化と人口減少や公的財政の悪化を背景に、福島県内でも医療格差が拡大している状況にあると考えられる。本レポートでは、自治体の地域医療に果たす役割はますます重要になっており、行政における保健・医療・福祉部門のこれからの事業構築について提言します。 |
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1. はじめに
住み慣れた地域で最期まで生活をすることを望む人が増え、ケアの現場は病院から在宅へ移行されつつある。福島県内においても、高齢化率が全国平均よりも高い中、「地域包括ケアシステム」の構築が進められ、障がい者総合支援法の施行により地域移行・地域定着支援の体制は重要視されている。住民と医療機関とのつながりは一層重要性を増している。しかしながら、国民皆保険制度の下で医療アクセスを保障してきた日本の医療制度をめぐって、病院や医師などの医療資源の不足と偏在、診療科の偏りは医療を受ける機会を損なっていると議論されている。この課題は福島県内でも同様であり、特に会津地域の山間部においては、医療機関が少ない上に遠距離にあるケースが多く、住民が容易に受診することが難しい地域が存在する。さらに豪雪地帯の冬期における受診や高齢者のみ世帯が受診するには、一度の受診行動で心身が疲労してしまう状況に置かれているといっても過言ではない。 |
2. 統計データの分析
福島県内の医療施設に従事する医師数は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、震災前と比較してマイナスの状況が続いていたが、プラスに転じた。ただし、相双地区をはじめ回復が見られない地区もある。しかし、人口10万対医師数の全国平均は233人(2014年)であり、県北地区以外は全国平均を大きく下回っている。資料は、厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」より作成。
県北・県中・いわきは比較的病院数も多い。しかし、医療機関への物理的アクセスの観点から人口密度を加えて比較してみると、多くの地区では、人口10万対医師数に対し人口密度が上回る傾向にある。一方、会津・南会津地区では、人口密度が大幅に下回っており、医療機関から遠距離にある人が多いことが推測される。資料は、福島県HP2015年「県内病院一覧」及び2010年国勢調査より作成。
高齢者の割合を市町村別にみると、最も高いのは金山町で59.5%、以下、昭和村(55.0%)、三島町(51.3%)、只見町(44.3%)、西会津町(43.7%)と続いており、上位5町村はいずれも会津・南会津地区の町村となっている。資料は、福島県HP「福島県の高齢者の数(65歳以上人口)2015年8月1日現在」。
相双地区と南会津地区で相対的に高い値となっている。さらに地区内の市町村別に詳細に見てみると、柳津町・三島町・金山町・昭和村・南会津町・下郷町・桧枝岐村など会津地域でも山間部に位置する町村で特に高い値となっている。資料は、福島県国民健康保険団体連合会「国保診療費諸率」より作成。
(5) 統計データからの考察 |
3. 医療格差アンケートの結果
(1) 目的と概要
(2) アンケート結果 |
4. 自治体に対する実態調査
(1) 調査対象の選定理由
(2) 西会津町
・調査日時 2016年3月25日(金) ② 調査結果 国保医療費の状況は、2012年度までは、医療費は右肩上がりとなっていたが、2013・2014年度以降減少し、そのまま推移している状況。医療費の大部分は入院費と手術費である。年間数人出るだけで、被保険者2,000人程度の規模の町では飲み込みきれないのが現状という。 2014年の国保の受診率が低く、調剤費が高い状況については、外来が多かったのではないかと考えられる。精神保健事業に取り組んでいるが、精神患者が入院をせずとも(外来で管理ができている)疾患の管理ができるよう関わっている成果とも考えられる。医療費の疾患別内訳は循環器疾患、精神疾患が大部分を占める。現在、2013・2014年度よりは悪性新生物は少なくなったという。健診受診料は無料となっており、受診率の向上がみられるとのこと。 精神保健福祉事業では、西会津町には、精神医療機関がなく、専門医療機関を受診するには会津若松市まで車で約1時間(35km)を要する。精神疾患患者が自ら運転していくには遠い距離であり、内服薬を服用しての自動車運転は危険が伴う。鉄道は1~2時間に1本である。精神疾患は一度入院すると長期にわたるケースが多い。入退院の繰り返しや孤立した生活を防ぐためにも保健所と連携しながら、障がい者自立支援医療の利用者や精神科の通院治療を受けている人、引きこもりがちな生活を送っている人を対象者として自立した生活を送ることができるように支援する事業、地域移行に適応した事業を行っている。町主体事業「あつまっ会」では、月2回のデイケアを主体に行っている。精神障がい者は生活習慣を管理することが難しいケースが多い。肥満や服薬管理を怠ってしまう人が多く、保健師による保健指導の場としても機能している。中学生から60歳代くらいまでの人が利用しており、引きこもり子どもの利用も可能である。ボランティア主体の事業「トライアングルの会」は、月1回のレクリエーションを中心とした事業。ボランティアの高齢化が進んでいるのが課題。町が委託して実施する「にこにこ相談所」は2011年に旧中学校を利用して開所。多くの利用者はデマンドバスによる送迎を活用している。専門的な知識をもった相談員2人が常駐して家族を含め相談、対応にあたっている。フォローが必要な人は、相談員が電話をして様子をみたり、保健師による直接訪問を行っている。にこにこ相談所は精神科を退院された方の地域移行の場でもある。病院から直接連絡を受け、利用相談を受けることもある。すでに退院後の居場所として選択肢の一つとなっている。在宅生活での疾患再燃の予防・重症化の予防に繋がっている。精神保健事業の中においても、事業で把握されたバイタルサインをみて、気になる所見がある場合は、データ化して病院に情報提供を行っている。医療相談員との連携も密になされている。保健師から何度も病院に連絡を入れるなどのやり取りを経て、病院としても西会津町の精神保健事業への理解が深まり、保健師と病院との連携が行いやすくなったという成果も出ている。 ③ 調査結果の考察 精神保健事業は、当事者だけでなく、家族にとっても相談の場である。プログラムへの家族の参加が望ましいが、なかなか参加しないケースもあるという。また、日中活動の場となる精神保健事業は、高齢になった親のレスパイトケアでもある。「にこにこ相談所」のような施設設置について地域住民の理解を得ることは苦労したというが、次第にイベントの手伝いなどに協力してくれるようになったという。 西会津町では、6人という比較的充実した保健師体制で、病院や社会福祉協議会、ボランティア団体などと連携し、きめ細やかなサービスを行っている。西会津町の規模は地域も町も互いに顔が見える距離にあるという面があるものの、保健師の住民サービス充実への地道な努力がこのような事業を構築してきたのだと思われる。
(3) 金山町
・調査日時 2016年4月13日(水) ② 調査結果 金山町は県内でも高齢化率が最も高く(59%)世帯の約半数が高齢者の核家族世帯。若年層世代は、進学や就職を機に金山町を離れる人が多く、高齢者を支える生産年齢人口が減少している。最も近い精神科外来までは約60キロ離れ、車で1時間20分を要する。町内には診療所1カ所と出張診療所(週1~2日)が2カ所あるが、一般的な内科の診療が専門であり、認知症専門の医療機関ではない。そのため、治療に繋がっていない認知症高齢者が多くいる現状である。認知症高齢者が増加していることに伴い、在宅での内服薬管理も地域課題の一つとして挙がっている。定期に開催する地域ケア会議においても、在宅高齢者の内服薬管理は課題であるが、医師による往診や薬剤師による訪問指導などを可能にする資源はなく、居宅や包括の担当者が個別に対応している状況。 これら高齢者への対応として介護予防事業に重点的に取り組んでいる。認知症施策では、認知症サポーター養成講座、認知症カフェなどを実施。認知症サポーター養成講座では、年によって年齢別、職種別を対象に実施するなど工夫している。「元気でまっせ体操」は、住民主導の介護予防教室で行われている。保健師が主導するのではなく、住民が企画運営を行う体制(自助グループのようなもの)で、保健師はあくまでグループ支援という形で介入している。県保健師とともにモデル的に実施したのが始まりで、現在は3地区で取り組まれている。 国保医療費が高い大きな理由の一つは、病気の重症化が挙げられる。検診受診率は県内でも高い方であるが、そこから病院受診に繋がることが少ないようである。そのため、検診受診者と非受診者との医療費にほとんど差が出ていない状況である(本来は受診者の医療費が低く出る)。結果として、心疾患、腎疾患、脳血管疾患等、手術を要するまで重症化する場合が多く見られる。今後は、健診結果やレセプト分析を行い、重症化予防の取り組みを重点的に行っていきたいとのこと。 重症化に至るまでの要因はいくつか考えられる。まず、医療機関までの距離が遠く病院に繋げることが難しいこと。専門的治療が可能な総合病院までは、1時間20分ほどの時間を要する。高齢者世帯がほとんどであり、町外までの公共交通機関に乏しく、受診をするにも心身負担が大きい。そのため一般的な病院に通院することで安心し、総合病院を受診しない例がある。また、塩分を多く含んだ保存食を食べる習慣があること。付近には食品店が少ないため、つけものなどの保存食を食べることが多い。塩分過多による高血圧等生活習慣病が要因となる食習慣が根付いていると思われる。さらには、「知っている人がいるから病院に行きたくない」など限られた病院だからこそ、そこに町民が集中してしまうことにプライバシーの問題から受診を控えている人もいるようである。 詳細な分析によるものではないので断定はできないが、主に以上のことに起因するものと考えられる。 国保医療費において1位 悪性新生物、2位 精神疾患、3位 筋骨格系疾患の順で医療費が高い。特に精神疾患患者の長期入院による医療費が多い。若年層の引きこもりもみられ、家族は外に出すというよりその子どもを囲ってしまう傾向もあり、引きこもりの長期化を生むこともある。このような精神領域においてフォローが必要なケースは、訪問して初めて発覚することが多いので、保健師等による早め早めの介入を心がけている。精神保健事業としては、近隣町村と持ち回りで月1回「YYサークル」という名称で調理実習や作業療法等のテーマを決めて取り組んでいる。医師による講話やSSTなども実施。毎回各町村から3~4人程度の参加者で行っている。次に、空き家を改修した施設で「みんなの茶の間」という町単独事業を月1回(4月~12月)実施。地域の精神・知的障がい者の外出機会の創出のために実施している。 自殺予防事業については、2011年の新潟・福島豪雨災害時、「こころのサポート事業」により実施したものである。人的被害こそなかったものの、只見川沿いの鉄道・道路・住宅・田畑等は甚大な被害を受けた。町民の中にも抑うつ状態を呈している人が多く見られていたため、心の健康調査や精神疾患ハイリスク者への家庭訪問を行った。2014年以降は、事業の延長として継続訪問が必要と判断された方々への訪問活動を継続したほか、若年層の引きこもりや知的障がい者を対象に交流を持ってもらうことを目的とした事業を拡充して実施しており、現在は、災害時の自殺予防事業の色は薄くなっている。 ③ 調査結果の考察 金山町は豪雪地帯であり、冬になると2m以上の積雪になる。周辺に娯楽施設はなく、冬期間中は自宅にこもりがちになる。特に高齢者であればなおさらである。よって、運動不足に関連した身体機能低下により、特に春先介護認定の申請数は高くなる傾向にあるという。また、産業面からみれば、川と急峻な山に囲まれた土地で農林業は発展しなかった。当時盛んだった製造業は時代とともに徐々に撤退し、今ではほとんどなくなり、大きな就業先といえば建設業のほか、近隣施設の福祉職や町役場というように第3次産業が主体である。 金山町は点在する集落で形成されているがゆえ、集落の結束が強く、集落単位で町おこしをしているところもあるという。昔ながらの集落の中で自然と隣近所を見守る風土がつくられてきた。町民同士の見守りは「自然な機能」であり、現在もその精神が強く息づいているのが強みである。しかし、若い世代が少なくなった現在では、県内一の高齢化率となり、町民同士による見守り機能も必然的に低下し始めている。 これらの事象に対応するように、町の施策はデマンド型乗合タクシーの実施や介護予防など高齢者対策やコミュニティ機能の維持が中心とならざるをえない。保健師の方々は、「課題解決に結びつく、まだ見えていない資源を見出したい。会津若松にある専門的な施設との連携などできることがあるのではないか」と今後の展望を話してくださった。これら困難な課題を前にして、限られた人員で住民の健康福祉の向上に奮闘している方々によって地域医療が守られていることがあらためて実感させられた。 |
5. おわりに
この第三専門部会では、医療格差の現状を把握し、地域医療を守る自治体の取り組みを研究することで、その成果を自治体の保健事業等に活用してもらうことを目的とした。 |