1. はじめに
(1) そもそも医療崩壊とは
高い平均寿命、低い新生児・妊産婦の死亡率など世界的に見てもトップレベルの医療が受けられる日本。しかしながら、地方を中心に医師不足が喫緊の課題となり、医療崩壊が叫ばれて久しい。
医療崩壊とは①住民が必要とするときに適切な医療を受けられる状況が失われること、②救急患者のたらい回し、地方の自治体立病院の閉院・閉院危機、あるいは特定の診療科の休診 ―― などを指す。医療費抑制による病院の疲弊と医師不足を原因とする医師の疲弊が原因となっている。医療崩壊は「医療費抑制」「病院経営の悪化」「医療の変化」「医師不足」が関連している。
まずは国の医療費抑制政策が挙げられる。企業などの保険者と医師会、財務省、厚生労働省は、医療費の抑制とバランスの維持を重点に置いている。医療費の伸びは平均5%となっているが、一律に定める診療報酬費でコントロールしている。実態は報酬点数と大きな乖離もある。そこに医師養成数抑制が拍車をかけ、医師不足の要因となっている。
医師・看護師不足(2007医療供給体制の各国比較)
国 名 |
1,000人当たり 病床数 |
100床当たり
医師数 |
1,000人当たり
医師数 | 100床当たり
看護職員数 |
1,000人当たり
看護職員数 | 平均在院
日 数 |
日 本 | 13.9 | 14.9 | 2.1 | 66.8 | 9.3 | 34.1 |
ドイツ | 8.2 | 42.5 | 3.5 | 120.7 | 9.9 | 10.1 |
フランス | 7.1 | 47.2 | 3.4 | 108.2 | 7.7 | 13.2 |
イギリス | 3.4 | 72.7 | 2.5 | 294.2 | 10.0 | 8.1 |
アメリカ | 3.1 | 77.5 | 2.4 | 337.2 | 10.6 | 6.3 |
(2) わが国の医療
・病院と医療者の自己犠牲の上で成り立っている。
・医療者の献身的努力で、現状の医療体制がかろうじて支えられ、医療崩壊への進行を食い止めている。
・医療崩壊は、いつ、どこで起きてもおかしくない状況である。
医療崩壊は東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、双葉地方に一気に起きてしまった。
2. 震災前後の双葉地方の医療・介護の提供体制の変化
(1) 震災と原発事故に伴う医療体制の変化
病院の稼働状況(相双地域の病院数)
(2015年7月) |
| 震災前 (2011年3月) |
現 在
(2015年7月) |
相馬地方 | 10 | 9 |
双葉地方 | 6 | 1 |
|
|
| 震災前 |
現 在 |
相馬地方 |
80 |
69 |
双葉地方 |
48 |
8 |
|
双葉地方の病院稼働率16.7%(休止中5)。診療所稼働率17.4%(休止中38)となっている。相馬地方は現在、ほぼ回復している。相馬・双葉地方から他の地域への入院患者(県内)は推計約800人。
相双地方(特に双葉地方)の医療施設の約8割が休止中であるため、浜通りを中心とした広域的な支援を行っているのが現状。そもそも、他地域に頼っていた救急搬送の状況が、震災と原発事故によってさらに加速した格好となっている。
ちなみに……
・いわき地方への救急搬送 178人 44.9%(2014年)←339人 13.8%(2010年)
・双葉地方内への救急搬送 91人 23.0%(2014年)←1,545人 63.0%(2010年)
・郡山・田村地区への救急搬送 102人 25.8%(2014年)←102人 4.2%(2010年)
となっている。(双葉地方広域市町村圏組合調べ)
(2) 医療介護の提供体制の状況
医療人材 相双地域(特に双葉エリア)の医療人材不足が続いている。
人口対10万人のエリア別の医師と看護職員数が顕著となっている。震災前の2010年時は、双葉地方の人口対10万人における医師数は103だったのに対し、震災後の2012年は7.4までに激減。看護職員数も1,031.3から126.2となった。避難指示区域が中心となっており、避難が解除されていたのは、広野町と川内村となっており、特に原発事故があっても診療を続けていた高野病院(広野町)の存在が非常に大きい。その高野病院事務長の高野己保さんは、2016年1月19日付MRIC by医療ガバナンス学会発行のメールマガジンに寄稿。救急搬送の増加と死体検案が震災前に増えていると指摘している。
エリア別医療施設医師数 (人口対10万人) |
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エリア別看護職員数 (人口対10万人) |
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2013年を基準とすると、救急搬送は2014年がその6倍、2015年は11倍。このなかで夜間、休日、時間外の診療受け入れは2倍に。その半数が、復興関係者。原発事故の影響で……、
高野病院から一番近い入院機能を持つ病院は、南のいわき市に17キロ、北の南相馬市に60キロ。高度な治療が必要な場合は、北は南相馬市立総合病院、南はいわき共立病院となる。
それでも対応できない場合2時間以上かけて福島県立医大まで行く必要。
背景として、いわき市には双葉郡からの避難住民が2万4千人、除染作業員が3万4千人いるほか、震災の年には33万5千人弱だった人口が35万7千人に増加。医療機関はスタッフ不足もあり疲弊しており、救急医療もパンク状態。いわき市で受け入れられないと言われた救急車が、高野病院まで受け入れを要請される状態が続いているという。
(3) 避難区域の介護福祉施設の運営状況
双葉地方を中心に震災当時の避難指示区域内の施設の約4割が休止中であるため、浜通りを中心とした広域的な支援を行っている。
避難区域内の主な福祉施設の運営状況(カ所)
| 救護施設 | 特養、老健など | 認知症
グループホーム | 入所・通所
障がい者施設 | 障がい者
グループホーム | 保育所 |
2011・3 | 1 | 20 | 9 | 20 | 5 | 21 |
2015・8 | 1 | 11 | 7 | 12 | 2 | 13 |
避難指示区域内(震災当時)の主な福祉施設の再開状況(2015年8月現在) |
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