【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~ |
福島第一原子力発電所の事故により、多くの地域が避難を余儀なくされている、福島県浜通り地方。その最南端に位置するいわき市では、原発事故以降、多くの避難者を受け入れている。そのいわき市における地域医療の中核を担っているのが、現在改築工事が進められている市立総合磐城共立病院である。この共立病院を含めた、いわき市における地域医療の現状と課題について報告する。 |
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1. はじめに
いわき市は、福島県の太平洋側「浜通り地方」の最南端に位置している。
1998年:中核市に指定 2011年:東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故
特に、いわき市立総合磐城共立病院は、地域医療支援病院の承認を受け、福島県災害拠点病院としても位置付けられており、院内にある救命救急センターで救急医療も担い、地域周産期母子医療センターの指定も受けているなど、「地域医療の拠点」となっている。 |
2. いわき市の地域医療について
(1) 市内の現状
図1のとおり、いわき市における「人口10万人あたりの医師数」は、県内平均を下回っている。図2と図3ではその内訳を示しており、「診療所」勤務医の数は、県・全国平均を上回っている反面、「病院」勤務医の数が圧倒的に不足している現状である。
原因として、さまざまな要因が考えられるが、特徴的なものを2点ほどあげる。それは、「新臨床研修制度の開始による医師の引き上げ」と、「救急患者やコンビニ受診の増加」である。それぞれの項目ごとに詳細を述べたい。 ① 新医師臨床研修制度による医師不足 本制度は、2004年4月から導入された。導入前までは、国家試験に合格した医師は、出身大学の医局に所属し、大学病院や医局が派遣する関連病院で診療しながら、専門家の医師としてスキルを磨いていくというのが一般的だった。しかし新制度の特徴である、「マッチング」という制度により、2年間、研修勤務が義務付けられ、研修を受ける医師が「自分の意思で研究を受けたい病院を選ぶことができる」ようになった結果、相当数の医師が、「症例数が多く、最新の医療設備が整い、著名な指導医が籍を置く」大都市の病院を希望し、研修終了後もそのまま勤務するケースが増えたため、大学病院における人材不足が顕著となった。 そして、人員に余裕がなくなった大学病院が、地方病院から人員を引き上げざるを得なくなり、派遣に頼れなくなった地方病院は、慢性的な人材不足に陥っている。 以上が「新医師臨床研修制度」の概要と問題点であるが、例外に漏れず、いわき市でも、医師不足の大きな一因となっている。 ② 救急患者・コンビニ受診の増加
図4は「救急出場件数、搬送人員」である。5年間の平均で、約13,000件出場しており、年間365日で割ると、1日35回以上出場していることになる。また、「コンビニ受診」も問題となっている。コンビニ受診には「3つの問題点」が存在する。1つ目は「症状」である。
図5の「傷病程度別搬送人員」を見ると、4割が「軽傷」での搬送である。具体例をあげると、「手に血マメができた」、「子どもが転んで擦り剥いた」、「指を打撲した」などの理由で救急搬送されている。 2つ目は「時間」である。
といった事例もあるが、先述の「4割が、軽症でも救急搬送されている」実態でもわかるように、緊急性が低いにもかかわらず平日の日中だけではなく、夜間・休日も搬送されている。 3つ目は、「自己都合な理由」である。 ・診療時間外であるにもかかわらず、「勤務時間以外の早朝や夜間に診てほしい」
上記3つは具体例であるが、多くの場合「何故ダメなんだ!」といったような、「高圧的」「クレーマー的」な言動を取るため、医療従事者のストレスとなっている。以上のようなケースが多発した結果、病院及び救急救命センター本来の業務に支障をきたし、診療業務の負担が増加した結果、勤務が病院を離れてしまう現状である。また、コンビニ受診は、「医師不足」とは違った弊害も及ぼしている。
図6は救急車が現場に到着してから、患者を病院へ収容するまでの「平均所要時間」である。 これを見ると、3年間の平均で約34分もかかっている。これはあくまで「平均」であるため、もっと長い時間、受け入れ先が決まらず現場にとどまらざるを得ない患者も存在する。 次では、そのいわき市の地域医療の中核を担うべき、市立総合磐城共立病院の現状について記載する。
(2) いわき市立総合磐城共立病院について
② 救急医療の現状 先述のとおり、共立病院は二次及び三次救急を担っている性質上、救急患者の「最後の受け皿」でもあり、軽症でも断ることができず、最後の最後には受けざるを得ない現状である。また、休日・夜間は共立病院のような「大病院」に集中するうえ、先述した通り、「軽症患者」が全体の4割を占めるため、実質一次救急も担っている現状である。また、いわき独自の特殊な事情もある。 ③ 原発事故による受診者(居住者)などの増加 冒頭記述した通り、福島第一原子力発電所の事故により、2万人近い住民がいわき市で避難生活を余儀なくされているが、いわき市に住んでいる人数が増えた分、患者数も増加した反面、医師・病院数の増加はなく、医療従事者に大きな負担となっている。また、避難者を対象とする「医療費免除」や、福島第一原子力発電所事故による「汚染地区の除染業務」や「廃炉作業」などに従事する作業員の増加などが、患者数の増加に拍車をかけている。 ④ 医師不足 医師の全体数も不足しているが、特に産婦人科医が不足している。理由は、市内医師の高齢化もあるが、過去に起こった「医療事故」により患者から訴訟を起こされたことが、産婦人科医が福島県内で勤務することを敬遠してしまっているという一因もある。 ○ 医療事故の概要 2004年12月に双葉郡大熊町の福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことに対し、手術を執刀した同院産婦人科の医師1人が業務上過失致死と医師法違反の容疑で2006年2月18日に逮捕、翌月に起訴された。 2008年8月、福島地方裁判所は、被告人の医師を無罪とする判決を言い渡し、検察側が控訴を断念したため確定した。医師は休職中であったが同病院に復職した。 他にも、皮膚科、眼科、耳鼻科、麻酔科の医師も慢性的に不足のため、これらの分野の医師確保も急務である。 ⑤ 医療現場で働く労働者の実態 「人員不足」に加え、「民間病院より低い賃金水準」、「年次休暇などの権利も取得しにくい」、「超過勤務手当も全額支給されない」など、様々な問題が職場で起こっており、このような実態から、早期退職者も出ている現状である。また、新規採用について、募集定員に満たないため、毎年年度途中(3ヶ月に一度)の採用試験を行っているが、これも募集定員を満たしていない。 現在、2019年の開院をめざして、建設工事が進められている。施設の老朽化が建設の主な理由であり、経営自体は黒字である。 本病院の基本理念は、「慈心妙手(慈しみ思いやる心で患者に接し、優れた医療技術で診察・治療を行う)」であり、新病院においても、「市民の健康と生命を守るため、安全で安心な医療を提供し、地域から信頼され、進歩し続ける病院を目指す」としている。一方、新病院が完成すれば、更なる患者数の増加も見込まれるため、先述の「救急搬送」や「職場実態」、「医師・職員不足」が改善されなければ、かえって医療サービスの質の低下を招くことも懸念される。 |
3. いわき市としての取り組み
このような現状に対し、行政側でも取り組みを進めている。
(1) いわき地域医療セミナー
(2) 募集広告
(3) 寄附講座
(4) 地域医療協議会 |
4. 地域医療を充実させていくために
(1) かかりつけ医を持つ
(2) コンビニ受診をやめる
(3) 職場の勤務労働条件の改善
(4) 政治・議会 |
5. 最後に
「人口減少」、「少子高齢化」、「介護職員の不足」などは全国的な課題である。加えていわき市独自の課題として「避難者の受け入れと今後の帰還」もあるが、これらはすべて、すぐに解決できるものではない。 |