【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 野々市市では、2020年頃から超高齢社会になると推計されている。高齢者の増加にともない、医療・介護ニーズが増大されるとともに、複雑で多様化した高齢者の生活課題が出てくる。
 そのため、重度な要介護状態となっても普通に楽しく暮らし続けることが出来るよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される野々市版地域包括ケアシステムの構築について提言する。



いつまでも普通に楽しい暮らし
―― 野々市版地域包括ケアシステム構築に向けて ――

石川県本部/野々市市職員労働組合 池上 森彦

1. はじめに

 野々市市は、石川県のほぼ中央に位置し、肥沃な土地と良質な地下水に恵まれた手取川扇状地の北東部にあり、面積は13.56km2とコンパクトながら多くの商業施設が立ち並び、充実した交通網にも恵まれ大変生活しやすいまちである。
 また、金沢工業大学と石川県立大学があることから20歳前後の人口が突出して多い。そのため、高齢者化率も約18%と県内で最も低く「若者のまち野々市」の印象を強くしている。
 しかし、1947年から1949年に生まれた団塊の世代が75歳以上となる2025年問題は人ごとではない。2015年度に策定した人口と産業構造をめぐる諸問題を分析・推測・考察する「ののいち創生長期ビジョン」では、当市の人口は、2040年にピークを迎え、その後、緩やかに減少するものと推計している。年少人口、生産年齢人口は大きく減少するとともに、老年人口が増加し、2020年頃から超高齢社会になると推計される。

出所:野々市市の人口推計「野々市創生長期ビジョン」

2. 超高齢社会と向き合う

 2009年度では高齢者単身世帯と高齢者夫婦世帯の合計が2,166世帯であるのが、2012年度では2,795世帯、2014年度では3,365世帯となっており、明らかに高齢者は増加している。このような状況を受け、今後ますます医療・介護ニーズが増大されるとともに、介護保険サービスや市福祉サービスだけでは対応できない複雑で多様化した課題が出てくると考えられる。
 そこで、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい人生を最後まで続けることが出来るよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される野々市版地域包括ケアシステム構築に向けて取り組んでいる。
 野々市版地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みを進めていくうえでの基本的な考え方は、地域の実情に即して、みんなが当事者意識を持ち、地域力を高めることである。地域にある課題を地域の人たち自身が発見し、それを自分たちの手で解決していけるよう支援することである。
 そして、来るべき様々な医療・介護ニーズに備えて人材を確保するため、役割の移行にも取り組む必要がある。当市では要支援1・2の認定者がヘルパーを利用する理由として、掃除・買い物・入浴介助が多い傾向にあり、介護の専門職でなくても対応できるサービスも多くある。
 そのため、介護の専門職でなくても対応できるサービスは地域と連携を図りながら対応していき、専門職でなければ対応が難しいサービスは介護・医療の専門職で対応するといった役割分担をしていきたいと考えている。

出所:ロールシフト(役割の移行)「三菱UFJリサーチ&コンサルティング 岩名礼介氏資料」

3. 地域支え合いマップの取り組み

 その手段の1つとして住民流福祉総合研究所の木原孝久所長が考案した「地域支え合いマップ」を参考とした。
 地域支え合いマップは、住民のふれあいや助け合いの実態を、地元の人から聞き取り、住宅地図に記入する。そして、高齢者の生活課題を明らかにして、これからどんなふうに取り組んだらいいのかを町内会単位で考えていくものである。
 具体的には、①説明会を開催する②地図に高齢者情報を落とし込む③高齢者の生活課題を明らかにする④中間報告会を開催し、高齢者の生活課題を周知する⑤高齢者の生活課題に対する解決策を検討する⑥報告会を開催し、高齢者の生活課題と解決策を報告・実施するという流れである。
 期間としては、1つの町内会あたり半年から1年かけて①から⑥までを取り組む。また、⑤の検討には圏域を意識している。まずは班単位でできることを検討する。次に町内会単位でできることを検討し、班や町内会単位でできないことは地区単位で検討する。地区単位でできないことは市全体で検討していく。
 時間はかかるが、地域支え合いマップは、住民参加で検討していくプロセスが重要と考えている。これは、地域包括ケアシステム構築そのものが、地域住民の主体的な参加が大前提となるものであり、すべての住民が地域包括ケアシステムに関心を持ち、主体的に参加することをめざしているためである。
 地域支え合いマップから抽出した1人暮らし高齢者のごみ出しに関する困りごとを受けて、ごみ出し支援を検討していったケースがあった。検討前、向いの高齢者夫婦にごみ出しをお願いしていたが、高齢者夫婦が体調不良となりごみ出しが出来なくなった。そのため、民生委員が引き継ぐこととなったが、このままごみ出しを続けていくことで、民生委員への負担が大きくなり、民生委員のなり手がいなくなるかもしれないとの心配が出てきた。
 そこで、町内会でできること、市全域でできることを考えていき、町内会・社会福祉協議会・地域包括支援センターからそれぞれ市シルバー人材センターにごみ出しのニーズが高いことを伝え、一般ごみ出しを1回100円で実施するワンコインサービスを導入することとなった。
 また、ごみ出しについてだけでなく、他の困りごとも解決できる仕組みも必要ではないかとの意見が出された。それを受け、地域支え合いマップづくりで見えてきた住民の特技などを登録し、高齢者の困りごととマッチングするような仕組みも検討した。
 さらに、困りごとを解決する仕組みを通じて、高齢者が活躍できるコミュニティビジネスとして成り立たないかを検討している町内会も出てきた。
 各町内会で地域の実情は様々だが、地域支え合いマップづくりを重ねる中で共通する課題があることもわかった。
 その1つとして、地域との関わりが希薄な高齢者の課題がある。
 一概に地域との関わりが希薄と言っても原因は、地域とのつながりや関わりを拒絶している高齢者、身体的な能力低下により希薄になった高齢者、定年退職や失業により希薄になった高齢者など様々である。これらの高齢者一人ひとりの状況を踏まえ、対策を検討していく必要がある。 
 ある町内会では、町内会との関わりを拒絶する1人暮らし高齢者に対して、町内会とのつながりを深めるきっかけづくりとして「無事ですタオル大作戦」と題した防災訓練を実施している。
 この訓練は、災害が発生した際に、自分が無事であることを玄関先にタオルを掲げて知らせるものである。この取り組みは、自宅前にタオルを掲げるだけなので町内会行事に参加する抵抗感が少ない。そして、訓練後にはアンケートへの協力を口実に、高齢者宅を訪れ顔見知りとなり、何か困ったことがあれば相談できる関係づくりを構築している。
 その他、近くに交流する場所がないため地域との関わりが希薄になっていることもわかった。その対策として高齢者が集える場所が必要という声が多く聞かれた。

出所:地域支え合いマップ「住民流福祉総合研究所 木原孝久所長資料」

4. コミュニティカフェの取り組み

 そのような動きの中で、地域住民が気軽に立ち寄り、住民同士で新しいつながりを生み出せるような居心地の良い場所を作ろうという動きが急速に高まっていった。
 こうして生まれたのが、コミュニティカフェである。コミュニティカフェとは、地域住民が集い、ゆるやかにつながれる居場所のこと。高齢者間の出会いの助け、子育てママの交流、障害者の協働など、コミュニティカフェは色々な思いで始められている。
 現在、市内には市と協働するコミュニティカフェが合計11カ所ある。コミュニティカフェの特徴や活動内容は、場所や日にちによってさまざまである。コーヒーとお菓子を片手に憩い、町内の出来事について話し合う日もあれば、絵手紙や折り紙作品を制作したり、読み聞かせを習ったり、足腰を鍛える運動をする日もあったりと、思い思いの楽しみ方を見つけている。
 市内で最初にコミュニティカフェを開設した町内会では、高齢者が活躍できるコミュニティカフェをテーマに町内会の集会所で運営している。自分ができることや得意分野を活かし、絵画教室、パソコン教室、編み物教室、書道教室など各種教室を自主的に運営している。その結果、これまで町内会の行事に参加していなかった高齢者が、公民館に足を運ぶようになり新しいつながりが生まれ出した。

コミュニティカフェの様子

コミュニティカフェ(ギター教室)

 さらに、高齢者だけでなく子育て世代や学校帰りの小学生が集うようになり、幅広い年代の方が交流している。「高齢者が小学生の宿題を教える」「子育て世代の悩みを高齢者がアドバイスする」など、当初の予想を上回る効果も生まれた。
 そして、この町内会の取り組みがモデルとなり、コミュニティカフェを運営したいという町内会が増えてきた。しかし、立上げや運営ノウハウがないため実施が難しい場合もあった。そこで、コミュニティカフェの開設を後押しするため「コミュニティカフェ開設支援講座~地域の縁側をつくろう~」を全5回の日程で開催したところ、町内会や福祉事業所の関係者ら40代から80代までの方42人が受講した。講座内容は、地域に居場所が必要とされる社会的背景を理解するとともに、仲間づくりや運営のノウハウを学んだ。

コミュニティカフェ開設支援講座チラシ

コミュニティカフェ開設支援講座

 その結果、高齢者の集う場として運営形態は様々だが、少しずつコミュニティカフェが市内に立ち上がってきた。例えば、あるお寺では、お寺を利用して茶話会のほかにヨガ講座を開設している。子どもから高齢者まで幅広い年代の人にも利用してもらいたいという想いで、本堂を子どもたちが遊べる場所としても提供している。
 また、高齢者が住民の約3割を占める非常に高齢化が進んだ町内会では、「金沢工業大学Toiroプロジェクト」と「独立型社会福祉士事務所」と協働し、「空き家を利用した、社会福祉士が常駐して福祉相談もできるコミュニティカフェ」という、市内初の取り組みが誕生した。今後は、3団体が多世代を巻き込み地域活性化事業に取り組んでいく予定である。


5. 一人ひとりの人生から考える

 厚生労働省の社会保障審議会介護給付分科会の資料として公開しているNPO法人高齢社会をよくする女性の会が、2014年9月に実施した調査では、「地域包括ケアシステム」について、「よく知っており、理解している」と回答したのは、全体の2割にも満たない数(17%)という結果であった。
 超高齢社会を支えるための「地域包括ケアシステム」だが、その認知度は低いのが現状である。地域包括ケアシステムを構築するために大切なのは、地域の特性を活かしながら市民協働で高齢者を支える社会を作りあげることである。
 そのためにも、地域包括ケアシステムに関する認知度を向上することが求められている。
 そこで、2015年度を「野々市版地域包括ケアシステムの基盤整備」と位置づけ、市民一人ひとりの人生から地域包括ケアシステムを考える機会として「楽しく、美しい人生をデザインする ―― 長寿社会を賢く生きたい市民のための講座 ―― 」を実施した。
 この講座では、全5回にわたり講義とワークショップを実施し、予防医療や介護、看取り、地域コミュニティなどの側面から、第一線で活躍されている方を講師に迎え、自分らしく暮らせる野々市市とは、どうあったらいいのかを参加者一人ひとりの人生から考えた。
 各回の講座は、「いま、自分たちが直面している問題は何か」を明確にし、社会の流れを理解しながら、「理想の90年人生」および「理想の24時間の過ごし方」を描き、「野々市市」に限定して社会資源を出し合い、「自分たちにとって将来必要になるであろうものはなにか」「あったら良いと思うものはなにか」に対しての意識を深めた。各回のワークショップは、単に知識を身に付けるだけではなく、それぞれの興味と関心ごとにチームを結成し、「社会実験」として冊子づくり(デジタルブック)を通じて「野々市市内の社会資源とはなにか」「自助・互助・共助として必要なことは何か」を深く考えることができた。
 これらによって得た知識、複数回の話し合いによって新たな仲間ができ、市民が主体となって情報発信する準備ができた。
 (1) 食・カフェチーム……食の質や内容、集える場所に関心
 (2) 運動・役割チーム……高齢者の外出機会や健康維持に関心
 (3) 役割・仕事チーム……リタイア後も持ち続けられる生きがいに関心
 (4) 住居・建設チーム……生活を支える環境としての住まいや住まい方に関心
 (5) 介護・リハビリチーム……介護予防のほか介護保険制度などに関心
 (6) 医療・看護チーム……在宅医療などに関心
 この冊子(デジタルブック)づくりは、ラーニングピラミッドにおける「最も効果的な学習」を意識している。学識経験者の講義を聞くだけではなく、それを踏まえて「自らの人生に必要な社会資源」を考えることは、より学習の経験値を深められた。さらに「発信」することを前提として冊子にまとめたことは、情報を客観的に掴むことにつながり、より効果的に自分の中に取り入れることが可能となった。

ののいち日和表紙(デジタルブック)

ののいち日和本編(デジタルブック)

6. 今後に向けて

 以上のように、野々市版地域包括ケアシステムを構築するにあたり、市民や関係機関の当事者意識の醸成を図ることが必要不可欠である。しかし、まだまだ地域包括ケアシステムの認知度は低いのが現状である。地域包括ケアシステムという言葉を理解していなくても、既に関連する活動に取り組んでいる場合がある。
 そのため、地域包括ケアシステムという言葉を全面に出さず、一人ひとりの人生から超高齢社会を考え、高齢者の生活にとって必要なものを見つけられるよう働きかけ、機会を提供していくことで市民や関係機関の当事者意識の醸成を図っていければと考えている。そうすることで、地域包括ケアシステムという言葉だけが1人歩きするのではなく、実態にあった形で、高齢者がいつまでも普通に楽しく暮らせる野々市市が構築されると考える。今後も、一部の専門職や市民だけで取り組むのではなく、幅広い市民とと共にゆるやかに、しかし確実に取り組んでいきたい。