【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 孤独死、老々介護、介護負担、介護不安、高齢者虐待、介護士不足、ヤングケアラーなど介護に関連する問題が各地で明らかになっています。それらを少しでも緩和するためには、公立施設の介護職員の存在が不可欠なのです。その職員が業務から得た技術や知識を地域住民に伝えることで、より必要とされる公の職員となるための活動を報告します。



はじめまして、かいごつたえ隊です。
~公立施設介護員による市民向け活動の報告~

愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・民生支部・厚生院分会 蟹江 光哉

1. 活動を始めたきっかけ

 公立福祉施設の民営化が進む中、業務から得た知識や技術を地域住民に還元する活動を、神戸市従業員労働組合の介護職員が「介護予防教室」として活動を始めました。有志職員によるその活動が、のちに公務と認められました。それにならって名古屋市で活動を始めたのが「かいごつたえ隊」です。
 かいごつたえ隊は、2014年3月に自治労名古屋民生支部厚生院分会と植田寮分会の有志で結成されました。業務から得られた介護についての技術や知識を、名古屋市民の皆様に還元できるように、「介護教室」や「かいごカフェ」などを企画しています。これらのイベントで市民の皆様に、介護のイメージを変えてもらい安心して名古屋市で暮らして頂きたいと思っています。かいごつたえ隊は、これらの活動が社会的信頼を得られ、ずっと継続していけるように、NPO(特定非営利活動)法人の登録をめざして準備中です。


2. 私たちの専門性

 介護職員の仕事は利用者様の日常生活のお手伝いである、トイレ、ご飯、お風呂のお手伝いが中心ですが、それだけではありません。利用者様が今まで地域で送っていた生活が続き、希望する生活が実現するように、お手伝いをしています。その人はその人らしく、毎日を送ってもらいたい、というのが私たち介護員の願いです。
 また、利用者様からの生活相談を聴くことも、仕事の多くを占めます。困り事、グチ、自慢話、世間話を否定せずにしっかりと聴き、受け止め、感情に寄り添うことができます。そして、利用者様、その人の人生をかけがえのないものとして捉えます。このような、「心のケア」も私たちの大切な仕事なのです。
 私たちの職場は離職率が低く、介護職歴10年以上のベテランの職員がほとんどです。上記の専門性をしっかり体得しているので、かいごつたえ隊はそれらを生かした活動を市民の皆様に向けて行っています。


3. 活動内容

活動名称 かいご教室 かいごカフェ「優風(ゆう)」
頻  度 3ヶ月に一回 毎月一回
場  所 市内各所コミュニティセンター 梅森坂コミュニティセンター
時  間 10時から11時30分 13時30分から15時
サービス お茶 コーヒー、お茶、お菓子
内  容 講義(1時間15分)、コミュニケーション(15分)、資料展示、アンケート 脳トレ、お茶タイム、講義(30分)、資料展示、読み物
活動開始 2014年3月 2015年4月
(参加費、飲み物などすべて無料)


4. 活動目的 ~和楽明介~

① 意外と知られていない厚生院や植田寮の存在を市民の皆様に知ってもらうことが第一の目的です。低料金でベテランの介護が受けられる、身寄りがいなくても、お金が無くても介護が受けられる、そんな名古屋市のセーフティネットとしての厚生院や植田寮を知ってもらいたいのです。
② どんな人にも介護を受ける可能性があります。私たちが勤務で体験したことを市民に伝えることで、認知症や障がい者について理解してもらい、すべての人に当たり前の生活が実現するよう、ノーマライゼーションを推進します。
③ 介護というとどんなイメージでしょうか。暗い、汚い、きつい……。そんなことはありません 私たちが勤務する施設はとても明るく、利用者様と職員の笑顔が絶えません。そんな話を通じて、介護のイメージを少しでも変えてもらい、介護を少しでも身近に感じてもらい、介護を受ける・介護をする際のヒントにして頂き、介護不安の軽減をしたいと思います。
④ 私たちは長年の介護体験から、介護を受ける方にも介護をする方にも優しい介護技術を習得しています。それを市民に伝え、皆様の介護負担を減らします。また、介護予防に関する知識も豊富に持っています。レクリエーションを一緒にしながら、市民の皆様の介護予防と健康維持のお役に立てたらと思います。
⑤ 地域では介護職員の低賃金や介護職員不足、介護職離れが問題になっています。介護職員は身体介護のみを仕事としているのではありません。利用者様がいつまでも生活の主役で自分らしく暮らしてもらえるように、お手伝いしています。その仕事を市民の皆様に伝えることで、すべての介護職員の地位向上をめざします。
⑥ 日本各地で上記のように、介護職員不足の問題があり介護の質の低下が顕在化しています。介護の質の維持には、公務員である介護職員が不可欠なのです。名古屋市には自治体職員の介護員がいることを市民の皆様に知って頂きたいと思っています。
⑦ 東日本大震災の時には、介護のニーズが非常に高かった、自治体職員の数が足りなくて困った、と報道されていました。大災害時には私たちは市民の皆様に必ず役に立てると思います。そのことを知って頂き、名古屋市に安心して暮らして頂きたいと思います。(2010年の名古屋市水害時には緊急受け入れの実績があります。)
⑧ 介護をする、介護を受ける。どちらも実は楽しいのです それを体験談として私達が話すことで、介護職をめざす人を増やして、介護職離れや介護職不足を少しでも緩和したいと思います。
⑨ 介護の中には日本に昔から伝わる「心」が生きています。介護現場ではその心が命脈として受け継がれています。それらを陽(あきら)かにし哲学的証明をして継承していく、これこそ公の介護員の使命だと思っています。


5. 活動実績(2015年6月30日現在)

かいご教室 かいごカフェ
日、場所、参加者数  2014年 3月 南区  14人
    6月 緑区  13人
    12月 名東区 10人
2015年 3月 西区  15人
    6月 天白区 6人
    9月 守山区 1人(大雨)
    12月 名東区 14人
合計 73人
2015年
  4月23人 5月5人 6月8人
  7月1人 8月4人 9月3人
  10月3人 11月8人 12月6人
2016年
  1月8人 2月5人 3月6人
  4月6人
合計 86人
平均参加者数10.4人6.6人


6. その他の活動

① 2014年10月厚生院介護フェア(施設見学会)に講話ブースで参加
② 2015年5月厚生院介護フェアになんでも相談ブースで参加


7. 告知方法

① かいごつたえ隊、介護員のつてを使い知らせる。
② ポスティングを自分たちで行う。
③ 新聞の折り込みを依頼する。


8. 講義内容の概要 タイトル「どちらもいいお顔」

 大勢の利用者さんが、厚生院を自分の家として生活しています。厚生院は利用料が安く、正職員が多く介護福祉士の資格率が高く、離職率も低くずっと同じ介護職員が生活のお手伝いをします。身寄りのいない市民でも、家族のように生活できます。さらに、災害時に介護や復興の役に立てます。
 今日する話で介護のイメージを変えてもらいたいと思います。介護は3K(臭い、汚い、暗い)といわれますが、そんなことはありません。どんな場面でも、利用者さんが決めていけるように介護しています。また、その人らしく生活してもらえるように介護しています。ポックリ逝けなかった時のために、「介護を受ける時のためのシート」を書いて欲しいです。
 介護現場はとても明るく、利用者さんと職員の笑顔が絶えません。しかし、在宅で介護している人は無理しないで、社会資源を活用して欲しいと思います。相談窓口はたくさんあります。介護計画書(ケアプラン)はできることを生活に生かす視点で作られています。介護職員は、上手に利用者さんに声掛けし、利用者さんの声を引き出し、観察眼も鋭いです。
 介護は日常生活のあたりまえのことの大切さを教えてくれます。福祉は「ノーマライゼーション」を理念にしています。名古屋市の「ノーマライゼーション」を共に進めたいのです。生活の主役は利用者さんです。介護職員は利用者さんのことが大好きです。
 最後まで立派に生きた利用者さんのことを忘れないようにしたいと願っています。
 安心して名古屋市で日々を暮らして下さい。


9. かいごカフェ年間予定(2015年度)

タイトル内  容
4月 はじめまして、かいごつたえ隊です。私たちが勤務している施設を紹介します。
5月 困ったときは!?相談窓口と福祉の情報です。
6月 かいゴリラのいろはちゃん旅にでる。介護について一から説明します。
7月 神様、ムセませんように。健口体操をしましょう。
8月 どちらもいいお顔。介護をすること、介護を受けること。
9月 お迎えに参りましたぁ~。ターミナルケアのお話。
10月 ポックリ逝けなかった時のために。介護を受ける時のためのシートを書きましょう。
11月 積極的に忘れていこうゼ認知症のお話。
12月 介護に生きる日本の心。かけがえのない日常生活のお話。
1月 笑う門には福祉きたる。ユーモアの効能のお話。
2月 体感、かいご。介護を体験しましょう。
3月 わかりにくい介護保険。介護保険のお話。


10. カフェ読み物の例(2015年5月「もうすぐ夏ですねっ」)

 春のことですが、私が介護員として勤務している厚生院では、中庭にも裏山にも、たくさんの桜が美しい花を一斉に咲かせました。特に裏山の竹林に混じって咲く桜は美しく、施設の最上階でもしっかりとその姿が拝見できます。
 「外の桜がつぼみをつけましたよ。」「花が一つ、二つ咲き出しましたよ」「八分咲きかな? 雨が強くて花が落ちないか心配。」「満開ですよ。それにいい天気」「散り始めましたねー。」「葉桜になってきましたよー。」と介護員は利用者様に声掛けをします。そして「見ましょうか。」と言って車椅子に乗った利用者様をベランダにお連れして、その様子を見てもらっています。ベッド上の生活が中心の利用者様に、このように外の様子を伝えて、季節を感じて頂くのも、私たち介護士の専門性だと思っております。
 花開の万木百草、これ古仏の道得なり
 昔の人々も、美しく咲いた花々をみて、季節の移ろいをしみじみ感じていたようです。「日本で暮らしてきて、本当に良かった」と思って頂けるように、利用者様の日々のお手伝いをしていきたいと思っています。


11. 参加者(南区、緑区、名東区、西区のアンケートより)

性別 女性 80%、男性 20%
参加者年齢分布
年代20代30代40代50代60代70代80代
106020

アンケート結果
良かったまあまあ悪かった
91


12. アンケートより

・介護を受けないための予防の話をもっと聞きたい。
・死が恐くない説明というかそんなたぐいの講座が聞いてみたい。年をとると、とても死がせまっているようで恐い。
・介護をすることになったら、まず家族はどうするか。
・介護をすることになったら、どのように過ごしていけばよいか。
・認知症にならないための介護予防教室。
・介護保険制度が変更され、利用者にどのような影響があるのか。  
・年に一、二度話を聞かせて欲しい。
・介護について知っていきたい。
・介護教室をもっと開いて欲しい。


13. 今後の課題

・相談事のフォローをするには、同じ場所で定期的に介護教室か介護カフェを開催する必要があります。市民の安心を考えるならば、どちらも頻度を高くする必要があります。
・講義内容をもっと市民のニーズに応えられるようにしなければならないと考えています。そのためには、私たち「かいごつたえ隊」の知識や技術をさらに高め、社会資源に関する情報を収集しなければならないと思っています。
・市民の様々な訴えを傾聴するには、聴く技術をさらに高めていかなければいけないでしょう。カウンセリングの手法を、かいごつたえ隊皆が習得する必要があります。