【自主レポート】 |
第36回宮城自治研集会 第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~ |
誰もが住み慣れた地域で安心して暮すことが出来る地域医療を確立していくことが大切であり、その地域・その地域の実情にあった医療体制づくりが重要であると考え、今回は救急医療の入り口である救急要請と搬送業務にスポットをあて、県内の救急医療現状と119番通報から現場到着・搬送・病院到着・入院・退院・退院後と架空の人物「いせしま子」さんの救急医療の事例から見えてくる課題と解決策を整理しながら、「県民の誰もが安心して暮らせる三重県」に近づくきっかけとしたい。 |
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1. はじめに
わが国における救急出動件数は年々増加しており、超高齢社会等の背景を考慮すると、今後も救急出動件数は増加していくことが想定されます。しかし、そのような救急需要がある一方で、現状としてそれが正しく利用されていないこともあり、本当に救急を要する人たちが必要な場合に緊急搬送等が受けられないことも、大きな課題のひとつとなっているのではないでしょうか。
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2. 救急医療の課題と解決策
実際に起こりうる救急医療の事例を時系列に並べ、シナリオを作成し、具体性を持たせた課題と解決策を整理しました。
救急車要請件数は、年々増加傾向にあります。中には軽い症状でも救急車を呼び、タクシー代わりに利用している人もいるような状況です。かかりつけ医を持っていない人もあり、何かあったら救急車を呼ぶといった方や、夜間・休日にどこの医療機関に行けばいいか分からないから救急車を利用するという人もいます。軽症等で救急車利用が増加すると重症発生時に直近の救急車が別事案で出動しており、現場から離れた救急車で対応ということになり、救急車が来るまでに時間を要してしまうという問題があります。 救急車の正しい利用方法(注1)や医療ネットみえ(注2)・救急医療情報システム(注3)・みえ子ども医療ダイヤル(注4)等の有効活用等をいかに普及啓発していくかという課題があります。かかりつけ医を持ち普段から疾病に対しての対処法等の知識を持つことも大切です。119番システムの整備(コールトリアージ(注5))等も必要であると考えます。 ② 現場到着~病院到着
救急医療機関(注6)の問題は、三重県内で地域格差がある状況です。地域によっては受入可能医療機関が少なく、受入可能医療機関が見つかるまで救急車の現場滞在時間が長くなっている現状です。都市部でも軽症の救急車利用や、自力で受診する患者への対応のため重症患者が受入できないといったケースも見られています。救急患者の増加により医療機関が、疲弊しきっている状況です。医療機関だけでなく、救急車利用者の増加により消防機関の負担も大きくなっている状況です。 現在の救急指定病院や救急出動状況の実情調査をした結果、救急医療機関(1次・2次・3次)の整備、救急当番病院体制の整備、消防機関の消防力(救急車の台数・救急救命士の人数)の整備等の課題があげられます。公立病院の設置やドクターカーの整備、MIE-NET(注7)の充実・普及、各医療機関間でカルテ情報の共有を行うことで、かかりつけ医以外での対応の幅を広げる等の対策も必要となってくるでしょう。 ③ 病院到着~入院
三重県では医師不足が大変深刻な問題となっており、県としても医師確保に力を入れているものの、とくに病院勤務医師数は全国平均を大幅に下回っています。このような状況の中、二次救急病院の救急外来では本来なら診療対象とすべきではない一次救急相当の軽症患者があふれ、医師をかなり疲弊させています。悪質なケースとしては、仕事で昼間受診できない等、自己都合だけで夜間救急を利用する、いわゆるコンビニ受診の患者、救急車で行けば軽症でも待たずに優先的に診てもらえると姑息な考えを持つ患者、歩行可能にもかかわらず無料のタクシー代わりに救急車を利用する患者などがおり、結果として本来診療をうけるべき重症患者への対応が遅れ、生命の危機にさらされています。
また、人材的要因だけではなく、救急外来が設置されていなかったり、ICU(集中治療室)が満床であったり、そもそも病院の規模が小さく病床数が少ないなど、医療機関の施設的な問題によって患者を受け入れられない場合もあります。とくに津市では小規模の民間病院が大半の二次救急を担っており、安定的な受け入れ態勢が整っておらず、三次救急であるはずの大学病院にも負担をかけています。 医師・看護師をはじめとする医療従事者の確保が全国的に大きな問題となっており、医師の負担軽減・潜在看護師の掘り起しなどを含む環境整備が必要であると考えます。 ④ 入院~退院
病院の経営に直結する診療報酬の中でとりわけ入院基本料は大きな収入源となっており、救急医療機関を含む一般病棟入院基本料には看護師の配置基準(7対1、10対1、13対1、15対1)があり、診療報酬と連動し収入が大きく左右されます。 看護師の配置が多いほど手厚い看護を提供でき入院基本料は高くなりますが、患者が入院することができる日数(以後「平均在院日数」という。)は短くなります。
平均在院日数の制限もあり、救急医療機関へ搬送され間もない期間で転院に向けた選択(病院・施設の選定)を余儀なくされるケースがあり、患者・家族にとって精神的、肉体的な負担は計り知れません。 「救急医療機関」に搬送され急性期の治療が終了した時点で、継続した治療行為が必要な場合は「一般病棟」へ転院、その後、自宅生活が可能なまで回復の場合は「在宅」へ退院、自宅生活が困難で継続した治療行為が必要ない場合は「介護施設」へ入所、継続した治療行為がまだ必要な場合は「療養病棟」へ転院となります。(下図参照) 入院から急性期病院 ⇒ 回復期病院 ⇒ 維持期病院 を経て介護施設や在宅などへ転院・退院をしていきますが、転院先のベッドが満床であり受け入れが不可能な場合や長期的に継続した治療が必要な場合の受け入れ病院の確保、入退院調整を実施するMSW(メディカルソーシャルワーカー)の不在、在宅医療を実施している医療機関の不足など様々な課題問題点が山積しているのが現状であります。 入退院を要する患者の希望や状況も考慮しながら、入退院調整(ベッドコントロール)を行うMSW(注8)(医療ソーシャルワーカー)の配置が、必要不可欠になってきます。 MSWはもとより、専任の看護師や理学療法士などの多職種による入退院支援を適切に行える体制整備が急務であります。(病床利用率の向上、安定した診療報酬の確保) 公立病院の役割としては、地域の住民・患者はまず地域の公立病院を外来受診。手術や検査などが必要な場合は、急性期(救急)病院へ手術や検査・入院。そして、急性期病院を退院後、継続的な治療が必要な患者や、自宅での生活が困難な患者を受け入れ、治療を行い、自宅での生活が可能になれば在宅への退院を支援する。急変時には再度その公立病院が受け入れ、状況に応じて急性期病院へ搬送していくと言った、連携の体制作りが必要であると考えます。そして、患者だけに目がいきがちですが、毎日、在宅でお世話しているのは、家族や親族です。その身体的・精神的な負担は経験した方でないとわかりません。その家族や支援者の計り知れない心身の負担を少しでも解消するために、患者を一時的に受け入れて、家族や支援者の方に休息してもらうレスパイトケアや、地域のかかりつけ医や開業医との連携が必要だと言えます。 ⑤ 退院後
救急医療のあり方を考える際、救急時の対応や医療体制だけではなく、日常の在宅生活の中から医療のあり方を考える必要があります。 病院を退院後、在宅での生活に復帰した場合、多くの者は体調の急変等の対応に不安を抱えていると考えられます。この不安を払拭するためには、検診の受診や予防管理など日頃から健康に対する自己管理を行い、早めの受診を心がけること、更には普段から自分が急病になったらどこに連絡したらよいか、どうしたらよいかのシミュレーションを行うことも大切です。そこで「かかりつけ医」が重要な役割を担うことになります。しかしながら、多くの住民がかかりつけ医を持つ意識が低いことが一つの大きな課題でもあります。 次に、在宅生活での体調の急変から即入院ではなく、在宅医療を推進する必要があります。しかしながら現在、在宅医療については、地域によっては温度差があり、住民が安心して在宅医療を受けることができる体制が整っていません。 在宅医療を推進するためには、訪問診療所、24時間対応可能な訪問看護ステーション、急変時の後方支援を担う在宅療養支援病院の確保や、家族の負担を一時的に軽減させるレスパイト(注9)入院施設の充実を図り、安心できる在宅医療を住民へ普及啓発することが重要であるとともに、行政、公立病院、医師会が連携し、住民一人ひとりが「かかりつけ医」を持つことの大切さを認識する必要があります。 救急医療のあり方については、行政、公立病院、医師会、が連携を図り、更には住民とも共通認識を持ち、「かかりつけ医」、「在宅医療」を中心に、地域包括ケアシステム(注10)を構築することにより、救急医療の充実に繋がるものと考えます。
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3. まとめ
前段の「119番通報」から「在宅」へ帰るまでのストーリーを作成していく中で横断的な様々な課題・問題点が浮かび上がってきました。
上記の課題・問題点の解決策として、「医療資源の確保」「周知啓発」「医療の連携」の3つのキーワードに絞り整理をしました。 (1) 医療資源の確保 (2) 周知啓発 (3) 医療の連携 |
4. 提 言
多くの地域では救急医療は崩壊寸前のところで運営されており、その矛盾は現場職員や利用者の負担となっています。この事の放置は、そう遠くない将来に救急医療の空白地帯の出現を意味します。同じ税を払いながら助かる人と助からない人が存在することになります。 |
5. おわり
ワーキングを通して救急搬送までの議論だけではなく、退院した後の日 常生活も安心して過ごしていくためには、どのようなことをしていけば良いのかを話し合い、誰もが抱いているであろう不安を少しでも解消してもらうためのきっかけになればとの思いの中で、ひとつのストーリーを作り上げ、よりイメージし易い形としてまとめることができたと思っています。 |
【用語説明】 |