1. はじめに
地域包括ケアシステムの構築の法的根拠となる医療・介護総合確保推進法が2014年6月に成立し、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、在宅医療、介護連携などの地域支援事業(介護保険財源で市町村が取り組む事業)の充実を図り、地域の包括的な支援・サービス提供体制を構築していくことが明確になりました。
庄原市においても、地域包括ケアシステムの構築を第6期高齢者福祉計画・介護保険事業計画で重点的な取り組みに位置づけ、日常生活圏域単位で構築できるよう、取り組みを推進しています。庄原市は本庁と6つの支所をそれぞれ日常生活圏域とし地域包括支援センター支所として保健師を配置していますが、その中の一つ東城地域で、地域包括ケアシステムの5本柱【①医療介護連携、②認知症施策の推進、③地域ケア会議の機能強化、④生活支援の充実、⑤介護予防事業の推進】を地域の社会資源をつないでいくことで進めていくという、保健師活動として取り組んだ2016年3月までの活動を振り返ってみます。
2. 東城地域の概況
広島県の北東端で、岡山県と鳥取県に境界を接し、庄原市役所本庁まで36km、面積は、約305km2と、庄原市の1/4を占めます。この広大な面積が事業推進上で支障となることが多くあります。人口は、8,250人、高齢化率は43.5%(2016年3月31日現在)、今後、高齢者人口はほとんど増えませんが、高齢者以外の人口「若い人」が減っているため、高齢化率がますます高くなると予測されます。
3. システム構築の推進に関わる現状と課題
支所内の推進体制は、地域包括支援センター(以下「包括」)が直営で、専任が主任介護支援専門員でもある保健師1人、嘱託員の介護支援専門員1人、保健事業との兼務が保健師実働3人ですが、専任でも育児相談や、乳幼児健診の手伝いもあり、兼務は、母子、成人、精神保健福祉、障害、児童、介護予防と、広く保健福祉に関わっています。 地域内の体制は、中心となるのが東城地域ケアネット会議で、メンバーは、老人介護支援センター(以下「老介」)兼居宅介護支援事業所(以下「居宅」)3か所、グループホーム1か所、小規模多機能事業所2か所、医療機関1か所、内容により通所事業所2か所、訪問介護事業所3か所、障害相談支援事業所1か所と、社会福祉協議会東城地域センター(以下「社協」)です。住民組織としては自治振興区7か所、女性会や健康づくり推進員など住民団体、医療機関(すべて民間で、病院2か所、診療所4か所)があります。 推進に関わる課題は、あまりにも進んだ少子高齢化と生産年齢人口の減少、一部の前期高齢者に負担が集中していることや、広大な面積に民家が点在しているため、こまめな送迎がないと拠点に集まることができない、介護サービス不足で、通所リハ、通所介護、訪問介護等タイムリーな利用が困難、訪問看護はやっと昨年8月に隣の圏域からのサテライトがスタートしました。また核となる公的医療機関が圏域内にない、医療連携の窓口がはっきりしない、総合事業への移行もどうなるのか、認知症問題では、初期集中チームもなく先手が打てず、専門医療機関もなく、虐待・困難事例へ直結していく、人的余裕のなさ、業務量の増加等々、様々あります。 課題満載の中、強みは何かというと、それは「つながり」です。住民性として基本隣近所は顔見知りで、声掛け合う仲です。包括と民生委員、一人暮らし高齢者等巡回相談員、老介と居宅が同じ、介護事業所、社協ともよく連携が取れています。また個々の医療機関ともケース連絡はできています。
4. システム構築への実践
(1) 住民向け「地域包括ケア」研修会
① 住民対象3回シリーズ
住民団体から出た「地域包括ケアについて知りたい!」という要望に答えるために、東城地域の研修会を開催しました。要望があった住民団体以外にも、自治振興区、自治会、他の団体にも呼びかけました。研修会終了後はアンケートで参加者の理解と思いを知り、ファシリテータである包括、老介、社協でのまとめ反省会、参加した住民団体のリーダー会議で振り返りを行い、次回の内容を決めるという手順を繰り返すことでお互いの思いを確認していきました。これには、広島県地域包括ケア推進センターの支援を受けました。
② 民生委員対象2回シリーズ
③ 一人暮らし高齢者等巡回相談員対象2回シリーズ
④ 地域の住民団体へ随時開催
(2) 医療介護連携
① 介護から見た医療連携の難しさを地域ケアネット会議メンバーから聞き取り
「言葉が分からない」「ヘルパーが受診に同行しても『あなたは誰?』から始まり、情報を伝えにくい」など様々意見が出ました。医療側からも「この会議に出始めた頃は介護の言葉が分からなかった」と意見があり、意思疎通に課題があることが分かりました。
② 医療と介護の共通課題「認知症」をテーマにした、医療職と介護職で意見交換
認知症サポーター養成講座を医科・歯科医療施設で実施しました。
③ 地対協の支援を受け、多職種連携研修会(東城会場)の開催
講演とグループワークの2部構成で、2014年度は備北地域保健対策協議会(北部保健師が事務局)主導で実施、2015年度は地域ケア会議強化を念頭にグループワーク部分を支所で担当しました。講演会講師は北部保健所の配慮で、東城地域でのシステム構築を見守り継続して来てもらえる先生を依頼してもらうことができました。また、事例検討は居宅から事前に事例を提出してもらい、日本看護協会方式の事例検討とし、ファシリテータ、事例提供者、板書係(3居宅と包括で、3役×6グループ)にはこの方式を理解してもらうため事前打合せをしました。目的としていた、【事例検討を通じて多職種でのアセスメントの視点や支援方法の違いを学び、包括ケアシステム構築を目的とした多職種連携協働を促進する】について、講演と、事例検討による地域ケア会議の疑似体験から関係者の共通認識ができたと思います。
なお、日本看護協会方式の事例検討は次のアドレスとなります。
*(https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/hokenshido/2014/25-hokensido-01.pdf)
(3) 認知症施策の推進
① 認知症サポーター養成講座の開催
庄原市は全国的にも開催回数は多く、東城地域でも、小学校中学校、放課後児童クラブ、職域、地域で開催し、正しい理解が広まるよう啓発活動を続けています。講師であるキャラバンメイトは、包括と老介、社協で分担しています。
② 認知症カフェの立ち上げ
2016年度立ち上げのための準備会を包括で呼びかけ、家族会、老介、社協で協議を重ね、家族会から出た意見「今まで地域の人の無理解で、いろいろ傷ついてきた。もっと認知症のことを理解してもらいたい。」から、認知症カフェの目的を「地域への認知症理解の促進」としました。実施主体は家族会で、事務局は特別養護老人ホームを持つ社会福祉法人ですが、包括のほか、老介や社協、グループホームが引き続き支援し、「出前カフェ」も考えながら、地域に支援団体を増やしていく予定です。
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