【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 2014年6月の地域包括ケアシステムの構築の法的根拠となる医療・介護総合確保推進法成立に伴い、在宅医療、介護連携などの地域支援事業の充実を図り、地域の包括的な支援・サービス提供体制を構築していくことが明確になり、庄原市での地域包括ケアシステムの構築を第6期高齢者福祉計画・介護保険事業計画で重点的な取り組みに位置づけ、日常生活圏域単位で構築できるよう、保健師として活動を取り組んできた活動の経過報告。



自治体保健師として
地域包括システムの構築をめざす取り組み
―― 庄原市地域包括支援センター東城支所での
  保健師活動を振り返る ――

広島県本部/自治労庄原市職員労働組合 清水めぐみ

1. はじめに

 地域包括ケアシステムの構築の法的根拠となる医療・介護総合確保推進法が2014年6月に成立し、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、在宅医療、介護連携などの地域支援事業(介護保険財源で市町村が取り組む事業)の充実を図り、地域の包括的な支援・サービス提供体制を構築していくことが明確になりました。
 庄原市においても、地域包括ケアシステムの構築を第6期高齢者福祉計画・介護保険事業計画で重点的な取り組みに位置づけ、日常生活圏域単位で構築できるよう、取り組みを推進しています。庄原市は本庁と6つの支所をそれぞれ日常生活圏域とし地域包括支援センター支所として保健師を配置していますが、その中の一つ東城地域で、地域包括ケアシステムの5本柱【①医療介護連携、②認知症施策の推進、③地域ケア会議の機能強化、④生活支援の充実、⑤介護予防事業の推進】を地域の社会資源をつないでいくことで進めていくという、保健師活動として取り組んだ2016年3月までの活動を振り返ってみます。

2. 東城地域の概況

 広島県の北東端で、岡山県と鳥取県に境界を接し、庄原市役所本庁まで36km、面積は、約305km2と、庄原市の1/4を占めます。この広大な面積が事業推進上で支障となることが多くあります。人口は、8,250人、高齢化率は43.5%(2016年3月31日現在)、今後、高齢者人口はほとんど増えませんが、高齢者以外の人口「若い人」が減っているため、高齢化率がますます高くなると予測されます。

3. システム構築の推進に関わる現状と課題

 支所内の推進体制は、地域包括支援センター(以下「包括」)が直営で、専任が主任介護支援専門員でもある保健師1人、嘱託員の介護支援専門員1人、保健事業との兼務が保健師実働3人ですが、専任でも育児相談や、乳幼児健診の手伝いもあり、兼務は、母子、成人、精神保健福祉、障害、児童、介護予防と、広く保健福祉に関わっています。
 地域内の体制は、中心となるのが東城地域ケアネット会議で、メンバーは、老人介護支援センター(以下「老介」)兼居宅介護支援事業所(以下「居宅」)3か所、グループホーム1か所、小規模多機能事業所2か所、医療機関1か所、内容により通所事業所2か所、訪問介護事業所3か所、障害相談支援事業所1か所と、社会福祉協議会東城地域センター(以下「社協」)です。住民組織としては自治振興区7か所、女性会や健康づくり推進員など住民団体、医療機関(すべて民間で、病院2か所、診療所4か所)があります。
 推進に関わる課題は、あまりにも進んだ少子高齢化と生産年齢人口の減少、一部の前期高齢者に負担が集中していることや、広大な面積に民家が点在しているため、こまめな送迎がないと拠点に集まることができない、介護サービス不足で、通所リハ、通所介護、訪問介護等タイムリーな利用が困難、訪問看護はやっと昨年8月に隣の圏域からのサテライトがスタートしました。また核となる公的医療機関が圏域内にない、医療連携の窓口がはっきりしない、総合事業への移行もどうなるのか、認知症問題では、初期集中チームもなく先手が打てず、専門医療機関もなく、虐待・困難事例へ直結していく、人的余裕のなさ、業務量の増加等々、様々あります。
 課題満載の中、強みは何かというと、それは「つながり」です。住民性として基本隣近所は顔見知りで、声掛け合う仲です。包括と民生委員、一人暮らし高齢者等巡回相談員、老介と居宅が同じ、介護事業所、社協ともよく連携が取れています。また個々の医療機関ともケース連絡はできています。

4. システム構築への実践

(1) 住民向け「地域包括ケア」研修会
① 住民対象3回シリーズ
 住民団体から出た「地域包括ケアについて知りたい」という要望に答えるために、東城地域の研修会を開催しました。要望があった住民団体以外にも、自治振興区、自治会、他の団体にも呼びかけました。研修会終了後はアンケートで参加者の理解と思いを知り、ファシリテータである包括、老介、社協でのまとめ反省会、参加した住民団体のリーダー会議で振り返りを行い、次回の内容を決めるという手順を繰り返すことでお互いの思いを確認していきました。これには、広島県地域包括ケア推進センターの支援を受けました。
② 民生委員対象2回シリーズ
③ 一人暮らし高齢者等巡回相談員対象2回シリーズ
④ 地域の住民団体へ随時開催
 
(2) 医療介護連携
① 介護から見た医療連携の難しさを地域ケアネット会議メンバーから聞き取り
 「言葉が分からない」「ヘルパーが受診に同行しても『あなたは誰?』から始まり、情報を伝えにくい」など様々意見が出ました。医療側からも「この会議に出始めた頃は介護の言葉が分からなかった」と意見があり、意思疎通に課題があることが分かりました。
② 医療と介護の共通課題「認知症」をテーマにした、医療職と介護職で意見交換
 認知症サポーター養成講座を医科・歯科医療施設で実施しました。
③ 地対協の支援を受け、多職種連携研修会(東城会場)の開催
 講演とグループワークの2部構成で、2014年度は備北地域保健対策協議会(北部保健師が事務局)主導で実施、2015年度は地域ケア会議強化を念頭にグループワーク部分を支所で担当しました。講演会講師は北部保健所の配慮で、東城地域でのシステム構築を見守り継続して来てもらえる先生を依頼してもらうことができました。また、事例検討は居宅から事前に事例を提出してもらい、日本看護協会方式の事例検討とし、ファシリテータ、事例提供者、板書係(3居宅と包括で、3役×6グループ)にはこの方式を理解してもらうため事前打合せをしました。目的としていた、【事例検討を通じて多職種でのアセスメントの視点や支援方法の違いを学び、包括ケアシステム構築を目的とした多職種連携協働を促進する】について、講演と、事例検討による地域ケア会議の疑似体験から関係者の共通認識ができたと思います。 
 なお、日本看護協会方式の事例検討は次のアドレスとなります。
 *(https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/hokenshido/2014/25-hokensido-01.pdf

(3) 認知症施策の推進
① 認知症サポーター養成講座の開催
 庄原市は全国的にも開催回数は多く、東城地域でも、小学校中学校、放課後児童クラブ、職域、地域で開催し、正しい理解が広まるよう啓発活動を続けています。講師であるキャラバンメイトは、包括と老介、社協で分担しています。
② 認知症カフェの立ち上げ
 2016年度立ち上げのための準備会を包括で呼びかけ、家族会、老介、社協で協議を重ね、家族会から出た意見「今まで地域の人の無理解で、いろいろ傷ついてきた。もっと認知症のことを理解してもらいたい。」から、認知症カフェの目的を「地域への認知症理解の促進」としました。実施主体は家族会で、事務局は特別養護老人ホームを持つ社会福祉法人ですが、包括のほか、老介や社協、グループホームが引き続き支援し、「出前カフェ」も考えながら、地域に支援団体を増やしていく予定です。

(4) 地域ケア会議の機能強化
 地域ケア会議には5つの役割【個別課題解決機能、ネットワーク機能、地域課題発見機能、資源開発機能、政策形成機能】があり、どの会議にどの役割をもたせるか、会議をデザインし、会議同士をつないでいく必要があります。
 現在は、個別課題解決機能とネットワーク機能を持つ「個別地域ケア会議」から出てきた課題を集約しているところです。そして、ネットワーク機能と地域課題発見機能を持つ「日常圏域での地域ケア会議」を開催し、そこにある程度の地域づくり資源開発機能を持たせ、解決できないものや他の圏域との共通課題を「庄原市地域ケア推進会議」に集約していく、そして市の計画(政策形成)に提言するという、一連の流れを作ることが目標です。現在の課題は、医療側、特に医師の地域ケア会議への参加をどのような形で作っていくかということです。前述の多職種連携研修会で、医師側から「医療の敷居は高くない。いつでも相談に来て下さい」と発言があり勇気づけられましたが、老介や社協と協議しながら、医療や自治振興区を巻き込んだ流れを作る必要があります。

(5) 生活支援の充実
 高齢者福祉課と今年度からは新設の地域包括支援課を中心に支所保健師とともに生活支援のための総合事業について検討しています。庄原市は最終年である2017年4月に新しい総合事業に移行するので、今年度は具体的実施について、通所介護や訪問介護事業者、地域の住民団体である自治振興区、そして社協との協働が必要で、支所ごとの日常生活圏域でそれぞれの社会資源に合う方法を考えていかなければなりません。

(6) 介護予防事業の推進
 要支援・要介護認定のうち、軽度の認定(要支援1・2と要介護1)の原因疾患の多くは、脳血管疾患、認知症、骨折・転倒、筋骨格系疾患です。庄原市では、茨城県や尾道市で実践されている「シルバーリハビリ体操」を取り入れ、3年間で160人の2級指導士を養成してこの体操を広め、原因疾患の重症化予防だけでなく、人とのつながりを通じて住民主体の集いの場が継続・拡大するような地域づくりの推進をめざしています。
 2015年度は、1期と2期で38人の指導士が地域で活動し始め、2016年度はさらに3期と4期で62人の指導士が誕生する予定で、今後は、体操の受け皿となる地域住民の活動支援や、指導士会の立ち上げ、2級指導士を養成できる1級指導士の養成などの課題に、支所としても取り組みます。

5. 考 察

 地域包括ケアシステム構築は地域づくりと言われ、多くの機関・組織を巻き込んで展開し推進する必要があるため、土台として必要なのが、考え方の共有をする「規範的統合」です。『地域包括ケアシステムの構築に向けては、市町村は具体的な基本方針を明示し、関係者に働きかけて共有していく「規範的統合」が必要になる。市町村が示す基本方針の背景についての十分な理解がないままに、システムのみ統合を図っても、その効果は発揮できないため、「規範的統合」は重要な意味を持つ』(地域包括ケア研修会(2014.3)「持続可能な介護保険制度及び地域包括ケアシステムの在り方に関する調査研究事業報告書」三菱UFJリサーチ&コンサルティング)とあります。
 何をするにしても「市は何をしているのか、考えを先に示せ、これは市の責任だ、今度は何をさせるのか、そんな話は聴いてない、それは無理、できない」など言われることがないよう、関係機関としっかり協議をしていかなければなりません。
 今回のシステム構築への実践は全て、関係機関との協議を何度も繰り返し行ってきたものです。東城圏域においても第6期庄原市高齢者福祉計画に基づき事業を推進していきますが、方針やその背景を理解の上での関係機関との協議を大切にしていきたいと考えます。

6. まとめ

 2013年に「地域における保健師の保健活動指針(保健師活動指針)」が10年ぶりに改定されました。10項目あるのですが、その中に、「地域特性に応じた健康なまちづくりの推進」と「地域のケアシステム構築」があります。
 「保健師は、ライフサイクルを通じた健康づくりを支援するため、ソーシャルキャピタルを醸成し、学校や企業等の関係機関との幅広い連携を図りつつ、社会環境の改善に取り組むなど、地域特性に応じた健康なまちづくりを推進すること」そして、「保健師は健康問題を有する住民が、その地域で生活を継続できるよう、保健、医療、福祉、介護等の各種サービスの総合的な調整を行い、また、不足しているサービスの開発を行うなど、地域ケアシステムの構築に努めること」です。
 東城支所においても地域包括ケアシステムを構築する要になっているのは保健師ですが、この保健師の職能を活かしながら、関係機関とのネットワークを大切に、多くの仲間とともに取り組んでいきたいと思います。