【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第9分科会 QOD(Quality of Death)を迎えるために ~地域でできること~

 吉賀町は中山間地域に位置し条件的に不利な地域となります。限られたサービスの中で住み慣れた地域で最後まで生活していくための地域包括ケアシステムの構築について検討します。



地域包括ケアシステムの構築について
―― 住み慣れた地域で暮らし続けるには ――

島根県本部/吉賀町職員労働組合 長井 友輝

1. はじめに

(1) 吉賀町の概要について
① 自然・地理的概況
 吉賀町は島根県の南西部であり、西中国山地の中山間地域に位置しており、総面積は336.29km2です。町面積の構成は、92.2%が山林となっています。周辺部には安蔵寺山や鈴ノ大谷山等の1,000m級の山々が連ねており、町内をほぼ南北に一級河川の高津川が流れており、水と緑に囲まれた農山村地域です。気象は、典型的な山陰型気候であり冬期の積雪も多くなっています。
② 人口の現状と将来推計
 本町の人口は年々減少を続け、2015年3月31日現在では6,509人となり、65歳以上の高齢者は2,706人であり、高齢化率は41.57%となっています。本町が合併によって誕生した2005年は総人口が7,362人であり、高齢者は2,812人であり、高齢化率は38.2%となっています。本町合併後10年が経過しましたが、大幅に減少しております。コーホート法による人口推計を行ったところ、2025年には、総人口5,325人となり、高齢者が2,497人となり、高齢化率は47%になると予想され、超高齢化が加速すると予想されます。

人口の推移
区分2012年度2013年度2014年度2015年度2016年度2017年度2020年度2025年度
人口総数6,8256,7166,6036,5806,4426,3045,9095,325
*住民基本台帳の数値をもとにしたコーホート法による人口推計データ

③ 介護保険の要支援・要介護認定者の状況
 2015年3月31日現在の認定者数は572人で、1号被保険者は2,668人であり、認定率は21.4%となっています。合併後の2006年3月31日時点の認定者は603人であり、1号被保険者は2,695人であり、認定率は22.3%となっています。認定者数及び認定率については減少しています。

認定区分2012年度2013年度2014年度2015年度2016年度2017年度2020年度2025年度
要支援11311171018778727060
要支援28995969693929086
要介護113213112612011310610090
要介護2637487101112121130118
要介護35860596367737973
要介護46765656872757571
要介護56358514540404039
合 計603600585579576577585538

(2) 地域包括ケアシステムについて
① 地域包括ケアシステムとは何か
 我が国は、2025年には団塊の世代が75歳以上となり、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上と予測されています。このような中で、2025年を目途に、地域の実情に応じて、その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、また重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供されるよう構築が必要となるのが、地域包括ケアシステムとなります。

② 地域ケア会議の活用
 本町では2014年度に吉賀町地域ケア会議を設置しています。まずは個別に抱えている個人の問題解決に至るよう取り組むのに合わせ、ケアマネージャーの自立支援に資するケアマネジメント能力の実践力を高めます。そこから高齢者の実態把握及び課題解決に至る地域支援に共通するネットワークの構築を行います。そこで個別ケースの課題分析から地域に共通する課題の発見につながり、地域の在宅医療・在宅介護に関する地域課題の解決につなげます。この会議には、社会福祉関係者、介護保険サービス事業関係者、医療及び保健関係者、高齢者福祉関係者、行政関係者等が構成するため、医療・介護課題を総合的に検討することができます。

③ 在宅医療・介護連携に向けた取り組み
 医療・介護の連携については、介護保険法の改正により、2015年4月から地域支援事業として制度化されました。全市町村において2018年4月には取り組むことになります。吉賀町においては検討を重ねるため2018年4月から具体的に取り組むことを予定しています。今取り組みを想定しているのは、地域の医療・介護サービスの資源把握や在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応協議、在宅医療・介護連携の運営等、在宅医療・介護サービス等の情報共有支援、在宅医療・介護関係者の研修、地域住民への普及啓発等があります。現在でも地域ケア会議で検討を始めています。
④ 認知症施策の推進
 全国の認知症高齢者数については、要介護認定等を受けている65歳以上の者のうち、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者は2010年で約280万人、2025年では約470万人に達すると見込まれています。一方、上記の認知症高齢者数を含め、2010年の認知症有病者数は約439万人と推計され、また、MCI(正常と認知症の中間状態の者)の有病者も約380万人と推計されています。吉賀町においても2015年3月31日現在で、589人が認知症病者とされます。
 「認知症になっても本人の意志が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指すため、国において、認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)を策定し、介護保険の地域支援事業においても、初期の段階で医療と介護との連携の下に認知症の人や家族に対して個別の訪問を行い適切な支援を行う「認知症初期集中支援チーム」、医療機関・介護サービス事業所や地域の支援機関をつなぐ連携支援や認知症の人やその家族を支援する相談業務等を行う「認知症地域支援推進員」の設置を2018年には実施します。
 吉賀町では以下の内容について取り組んでいます。
 認知症予防教室を年12回程度開催しています。内容は、グループ活動や講演会等を通じて、認知症予防への意識の向上や、生活習慣の改善等に取り組むことで、認知症予防に取り組みます。また認知症に対する正しい知識の普及・啓発等を目的とした認知症予防講演会と兼ねて実施もします。2015年3月末時点で、延べ参加人数705人となります。
 認知症予防講演会を年6回程度開催しています。
 ファイブ・コグという高齢者集団認知機能検査を年1回開催しています。認知症に対する関心を高め、予防に対する意欲を高めます。
 キャラバンメイト活動を行っています。認知症サポーター研修を行い、2014年度は新規で132人が受講しています。2015年3月末日現在では、825人が養成講座を受講しています。また普及啓発活動では3月22日に認知症当事者の会の方の講演会を開催しています。そして、認知症サポーター養成講座の講師役となるキャラバンメイトも新規で3人が受講しています。2015年3月末日時点では、59人がキャラバンメイトとして登録されています。
 認知症の人と家族の会である陽だまりの会を開催しています。認知症の方を介護されている方がともに集い、介護方法の悩みや認知症の方と関わっていく中で、よりよい介護をめざす会となります。毎月第2木曜日に活動しています。
⑤ 生活支援・介護予防サービスの充実と高齢者の社会参加
 高齢者が住み慣れた地域でいきいきと安心して生活するための地域包括ケアシステム構築にあたっては、医療・保健・福祉といった専門分野のみではなく、地域に暮らす人たちの様々な生活ニーズに対応した生活支援サービスの提供を行う、新しい支え合いの仕組みづくりが必要になります。独居や高齢者のみの世帯が増加していることから、身体介護のみならず、調理・買い物・洗濯・掃除等の生活ニーズが今後さらに拡大すると予想されます。
 しかし、介護の専門職であるホームヘルパー等の確保も難しい状況もあります。そのような中で、高齢者の介護予防が求められていますが、社会参加・社会的役割を持つことが生きがいや介護予防につながります。できる限り多くの高齢者が地域で支援を必要とする高齢者の支え手となっていくことで、より良い地域づくりにつながります。
 また高齢者の社会参加のニーズも高まっています。社会参加の内容については、安否確認の声かけ、話し相手や相談相手、ちょっとした買い物やごみだしなどの支援を実施したいという声もあり、地域における支え合いの力は可能性を秘めていることとなります。ただ、地域貢献はしたいが何をどのようにしてよいかわからないとの声もあり、これらを地域の力として生かしていくことができるよう取り組むことが必要になります。
⑥ 高齢者の居住安定に係る施策との連携
 2010年より毎年継続している日常生活圏域ニーズ調査において、高齢者の暮らしと福祉のニーズ調査において、大半の高齢者は現在の自宅での生活を希望されています。現時点では住み替えや住宅の整備についてのニーズは低いと判断されます。しかしながら、身体的・経済的等の理由による在宅生活の継続が困難な高齢者も増加している現状もあるため、2015年度において養護老人ホームが10床増床となり、虐待等の理由の緊急的なケースにおいても迅速な対応がとれることになります。その他は、既存の特別養護老人ホーム等も老朽化してきており、今後は改修修繕等を行い、サービスの向上につなげます。

(3) まとめ
① 2025年にむけて
 吉賀町は2025年には総人口5,325人になると予測されています。そのうち高齢者が2,497人となり、高齢者1人を現役1.1人で支える時代が近づいています。施設介護から在宅介護へシフトされるなかでサービスのあり方を検討する必要があります。特に介護保険では2015年から2017年の3か年の第6期介護保険計画中に、これまで要介護認定支援者の介護予防事業である地域支援事業においては全国一律の単価や基準で定型的なサービスを提供していましたが、今後は各市町村が創意工夫したサービスを提供することとなります。本町においても2017年4月には独自サービスである訪問型サービス、通所型サービス、生活支援サービスを実施します。展開する事業内容について2年間かけて今後検討となります。
 続いて要介護認定者へのサービスについては全国一律のサービスとなりますので、町の裁量でサービス内容は決定できませんが、いろいろ住民からの要望が出るなかでなるべく要望に添える形で提供ができればと考えています。実際これまで2015年の4月から各デイサービスが定休日を少なくしたという事例があります。2015年4月から特別養護老人ホームへの入所者は基本的には要介護3以上に限られることになります。特例入所であれば要介護1、2の方でも入所することができることにはなりますが、基本的には要介護1、2の方は在宅でのサービス利用が前提となってはきます。このことにより、今後は在宅介護サービスの需要が高まることとなり、各デイサービスの休日を減らしたことで、通所日数も増やすことが可能となり、利用者はもちろんのこと、その方を支える家族も安心して預けることができ、介護のため仕事を休まないといけない、または辞めないといけないといったことも少なくなると思われます。また、上記で述べた認知症高齢者が増加しており、デイサービスでの認知症者の介護者に対するサポートを組み合わせることも今後は必要になると思われます。
 また2015年から介護報酬も減額になり、財務省は2020年度に向けた社会保障関係費の抑制策を財務審議会に提出したとされています。このことにより介護報酬が減額となれば、ますます介護職に従事する人が減少するのではないかと思われ、必要な介護サービスの提供ができなくなる恐れもあります。2015年4月より地域包括ケアシステムの実現に向け、介護を必要とする高齢者の増加に伴い、在宅サービス、施設サービス等の増加に必要な経費確保のため介護報酬が改定されました。改定率は-2.27%となっていますが、介護職員の確保のため、介護職員処遇改善加算とサービス提供体制強化加算の上乗せがあり、処遇改善として+1.65%の加算となっています。このことについては組合としても地域職場で働くものとして、処遇改善につながるよう今後も労働組合として声をあげていくことが必要となります。行政としても今後も増大する介護ニーズへの対応や質の高い介護サービスを確保する観点から、介護職員の安定的な確保を図り、さらなる資質向上のための取り組みを行います。また持続可能性を高め、より効果的効率的なサービスにつなげるためにも保険者職員の資質の向上を行い、サービス評価の適正化につなげます。
 最後に、地域住民が主体となり支え合う仕組みづくりの構築を、吉賀町の特性に応じて作り上げていくことが行政に課せられた役目となります。このことについては現在主体として活動している住民がキーパーソンとなるため、生活支援サービスの協議会に参画していただき、生活支援コーディネータとして活動していただけるよう、行政としてサポート体制を構築することが必要であり、地域の理解につなげられるよう広く呼びかけていくことが大切になります。